バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなバイク関連のキーワードをわかりやすく解説.していくこのコーナー。今回は、バイクの『オートマチック変速機構』の第4回目。二輪用MTエンジンをオートマチック化する『AMT(Automated Manual Transmission)』を見ていこう。
そもそも『AMT』とは?

『AMT』は、発進から停止までシフトチェンジもクラッチ操作も自動で行われるためクラッチレバーがない。このためAT限定自動二輪免許で運転することが可能だ。写真はBMWのR1300GSアドベンチャーASAの左ハンドル。
最近、ヤマハやBMWをはじめとした二輪メーカーのほか、メガサプライヤーのボッシュなどが力を入れている『AMT(オートメイテッド・マニュアル・トランスミッション/以下:AMT)』。簡単に説明すれば、この『AMT』は、“ギヤボックスを持つ二輪用MT(Manual Transmission)エンジンを“自動化する(Automated)”技術だ。名称に関しては……
●ヤマハでは『Y-AMT(ヤマハ・オートメイテッド・マニュアル・トランスミッション)』
●BMWでは『ASA(オートメイテッド・シフト・アシスタント)』
●ボッシュでは『AMT(オートメイテッド・マニュアル・トランスミッション)』
……なんて呼称が付けられているが、まぁ“二輪用MTエンジンをオートマチック化する”という意味では効能や仕組みは“だいたい”一緒。この場では『AMT』としてまとめて扱わせていただこう。
システムの構成としては、どのメーカーの『AMT』も、オートマチック化に関わる機構は“電子制御クラッチ(クラッチアクチュエーター)”と“電子制御シフト(シフトアクチュエーター)”の2つに分けられ、『AMT』が搭載できる条件としては概ね“電子制御スロットルを備えた車両”となるようだ。

ヤマハの『AMT』は、MT-09系、MT-07系にしてもエンジンの外側に“シフトアクチュエーター”と“クラッチアクチュエーター”を搭載。このため『AMT』化にあたってエンジンのカバーを作り直さなくていいことがポイント。エンジニアの話では技術的には必ずしも電子制御スロットルは必要ではないとのことだが、“違和感のないシフトスケジュール”や“滑らかなシフトフィーリング”を実現するためにはやはり電子制御スロットルが必要になるとのこと。シフトスケジュールに関しては、“流して走りたいのか?”、“スポーティに走りたいのか?”の意思を電子制御スロットル開度から判断。車輪速やエンジン回転数からの加減速を加味してシフトスケジュールを変更している。ただ、ヤマハの『AMT』の制御には6軸IMUが必要ない。

BMWのR1300GSアドベンチャーASAに搭載された『AMT』はエンジン内蔵型ではあるが、 “クラッチアクチュエーター”と“シフトアクチュエーター” に大別できる。やはり制御のために電子制御スロットルは必須のようだが、ヤマハとは違い6軸IMUのデータを制御に使用しており、走り方によってシフトアップやダウンのシフトスケジュールが変わるのはヤマハの『AMT』と一緒。さらにコーナリング中と直線時でもシフトスケジュールが異なる。
『AMT(オートメイテッド・マニュアル・トランスミッション)』のなにがすごいの?
ATなのに乗り味がCVTよりスポーティで、しかもAT化のためのユニットがDCTより軽い!
……ということだ。これまで何回かに分けて解説してきたとおり、バイクのオートマ化の技術にはスクーターでよく見かけるCVT、ホンダが得意とするDCTなどがある。それぞれに特徴があり、長所も短所もある。
●CVTはベルトとプーリーで変速を行うため快適である一方、ダイレクト感に欠けスポーティなキャラクターが作りにくい。
●DCTは2つのクラッチユニットで二輪用MTエンジンをAT化するため、ダイレクトなスポーツ感が味わえ、シフトショックがほぼないと言っていいほどシームレスな変速を行う。ただ車両車重は約10kgも重くなってしまう。
●e-クラッチは電子制御クラッチが必要なく小排気量車にも搭載可能だが完全なオートマチック変速ではない。
……という感じ。そこで登場するのが『AMT』だ。ヤマハのY-AMTを例に挙げれば、DCTと同様に二輪用MTエンジンらしいスポーティなフィーリングが味わえる一方で、ノーマルエンジン比で2.8kgほどしか重くならず二輪車らしいスポーツ性を損なわない。つまりDCTと比べて“はるかに軽い”というところが最大の長所というわけだ。また価格面では、クラッチユニットが2組必要になるDCTがノーマル比で11万円の価格増となるのに対しY-AMTはプラス8万8000円。e-クラッチのプラス5万5000円の安さには及ばないがそれでもDCTよりもリーズナブルなことに変わりはない。

BMW(上)とヤマハ(下)、どちらの『AMT』もバイク任せのオートマチック変速だけでなく、任意のタイミングでのシフトアップ&シフトダウンができる(回転数によって操作できないタイミングもある)ようになっている。BMWが一般的なバイクと同じようなシフトペダルで操作するのに対し、ヤマハは左スイッチボックスのパドルスイッチを操作する。
実際の乗り味に関しては、インプレッション記事を参照していただきたいが、どのメーカーの『AMT』も電子制御スロットルありきの技術となっているので搭載車に関してはハイエンドな大型車両であることが多い。またDCTはシフトショックがほぼないと言っていいのに対し、『AMT』は電子制御スロットルによるコントロールで極力トルクの変動を消しているとはいえ、やはり若干のシフトショックが出るのは致し方なしといったところのようだ。
とはいえ“二輪用MTエンジンのスポーツ性をスポイルすることなく、少ない重量増でオートマチック化が可能”という特徴を持つ『AMT』が今後の二輪用オートマチック技術で大きな潮流となるのは間違いない。
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