▲初心者対象のベーシックライディングレッスンには原付から大型バイクまで参加できる

 

9月6日(土)、埼玉県警察運転免許センターを会場に「ベーシックライディングレッスン埼玉 2025」が開催された。

ベーシックライディングレッスン(以降、BRL)は一般社団法人日本二輪車普及安全協会(以降、日本二普協)が主催する初心者向けの体験型安全運転講習会で、免許センターや自動車教習所などを会場に各地で開催されている。なお、ここでいう“初心者”とは、公道走行に不安を感じている、免許を取得して間もない、長い間バイクに乗っていなかった、運転に不安があるといったライダーを指している。

開催状況は日本二普協の公式サイトで地域ごとに掲載されており、自身の住居地の情報を確認してからインターネットで申し込む仕組み。BRLは、原付一種から大型バイクまでが参加でき、二輪車安全運転指導員や白バイ隊員からアドバイスがもらえる貴重な機会とあって人気も高い。定員制なので開催情報をこまめにチェックして、早めに申し込もう。

目標は「目線」と「ハンドルの握り方」

当日は「Basic」と「超初心者」の2つのクラスに分かれてレッスンが行われたが、筆者は超初心者クラスに同行した。主な内容を時系列で紹介していく。

●9:00~9:30 受付


誘導員の案内に従ってバイクをプラットフォームに並べたあと受付へ。受付ではレッスン料(保険料等、埼玉では400円)を支払う。万が一に備えて健康保険証(マイナ保険証)を持っておくとよい。なおレッスン料や講習時間・内容は地域によって異なるので、WEBページで確認を。

●9:30 開講式

 

▲「初心者ライダーが練習できる場所が中々ないということもあって年間5回開催しています。運転スキルだけでなく危険予測など安全運転につながることを持ち帰ってください」と埼玉県二輪車普及安全協会の福島事務局長

 

開講式では主催関係者からの挨拶があったほか、注意事項としてトイレの場所、荷物の置き場、喫煙所、昼食時の会場(昼食は各自持参)と外に食べに行く際の入退場などについて伝えられた。特に体調不良を感じた際には、課題の順番などは気にせずに、遠慮なく休憩を取ることが大切だと教わった。これは熱中症の危険が高まる夏場のレッスンでは特に重要な心がけだ。

●9:45 車両点検・乗車姿勢・装備確認


車両点検の内容は日常点検(乗車前点検)に沿ったもので、講義は交通機動隊の白バイ隊員が務めた。点検内容は、合言葉「ネンオシャチエブクトウバシメ(燃料・オイル・車輪・チェーン・ブレーキ・クラッチ・灯火類・バッテリー・締め付け)」の順番で各部の点検方法とそのコツが伝えられた。

乗車姿勢では、少し猫背気味でバランスボールを抱えるように肘を曲げる、ニーグリップでタンク又はシート(スクーターの場合)をホールドする、つま先は真っすぐ又は内側に向けるといったポイントを教わった。

装備の確認については、あごひもをしっかり締めることといったヘルメットの被り方に続いて、プロテクターの重要性が詳しく説明された。プロテクターにはジャケット内蔵タイプとエアバッグタイプがあることのほか、白バイ隊員が普段着用しているエアバッグベストの展開体験も行われた。

●10:00 準備体操


参加者同士の距離を取って広がり、白バイ隊員の掛け声に合わせて各部のストレッチを目的とした準備体操を行った。当日はとても暑かったので、参加者の熱中症予防を考慮して日陰のある場所で行われた。

●10:20 コース説明

 

▲指導員と一緒にコース上の課題をまわりながらお手本を見せてもらう参加者

 

いよいよ実技講習が始まったが、まずは「Basicクラス」と「超初心者クラス」に分かれてクラスごとに講習コースの説明を受けた。なお初めて参加するライダーはまずは超初心者クラスにというのが基本的な考え方。実力によっては講習の途中でクラスチェンジすることも可能だ。

▲超初心者クラスのコース。免許センターのコース内の一画を占有して練習できるので安心だ

 

10名が参加した超初心者クラスの場合は、全体コース内の一画にすべての課題が集められた複合コースが設定されていた。走行コースがBasicクラスと交わることがないので迷うこともなく安心だ。

▲指導員3名(うち1名は交通機動隊白バイ隊員)で超初心者クラスを担当した飯田指導員。

 

コース説明の後、飯田指導員は「しっかり行きたい方向を見る」「ハンドルグリップをぎゅっと握らない」というレッスンの2つの目標について参加者に伝えた。

●11:00~12:00 午前の実技講習

▲ブレーキング(目標制動)の講習風景。午前中は発進から停止までの距離が短く設定されているので、コース上に複数の参加者がいる


超初心者クラスで行う実技講習の課題は以下となっている。同じ場所でも午前中と午後で課題の内容が違っていたり走行ルールに違いが設けられているが、午前・午後ともに一筆書きで走れるので覚えやすい。なお午後はコース内の右左折・車線変更・一時停止などの法規走行も加えられた。

<実技講習の課題>
①午前:ブレーキング(パイロンへの目標制動)/午後:低速での左右の進路変更
②遅乗り(低速バランス)※午後はタイム計測も行う
③Uターン
④ワインディング(カーブ走行) ※午後は対面通行となる

さて、午前中の実技講習では①~④の課題を順番に繰り返し練習した。全体を通して指導されていたのは発進時の右後ろ確認。特に発進と停止を繰り返す「目標制動」ではついつい忘れがちになる。公道では後続車に追突される恐れもある危険な瞬間のため、発進時確認は体に染み込ませる必要がある。

▲遅乗りは白線の枠内でいかにゆっくりとスムーズに走れるかを練習する

 

決められた枠内でなるべく遅く、かつスムーズに走行する「遅乗り」と「Uターン」の練習では極低速域でのバイク操作を学んだ。バイクがガクガクしないように、またエンストさせないようにスロットルを操作しつつ、リヤブレーキで速度を調整する。

▲ワインディングを想定したカーブは、まずは自分なりにスムーズに走ることを心がけた

 

ワインディングを想定したカーブ区間では細かな走行ラインは設定されないが遠くを見てスムーズに走ることが求められた。

●12:00~12:55 昼食


昼食は各自が持参する。免許センターの外に出て食べてくることもできるが、時間の都合もあるため持参するのが良さそうだ。なお昼食後の集合時には記念写真も撮影した。

「速度を10km/h下げること」の重要性

昼休みの後は交通機動隊白バイ隊員による講義が行われた。また午後の実技講習は午前中の基礎練習からより実践的なものとなった。

●13:00~13:40 交通機動隊講義


参加者がトラックの運転席に座り、サイドミラーで後ろを見ても死角にいる原付バイクが見えないことを体験。また見えていても、サイドミラーの左と右ではバイクへの距離感が全く違って見えることを理解し、トラックに近づかないこと、死角に入らないことが安全運転上とても重要なことを学んだ。

▲トラックの運転席に座り、死角にいる原付バイク(オレンジ色の丸)がまったく見えないことを体験。トラックの死角に入らないように自車両の走行位置を意識、調整しなければならない

 

続いては、白バイによる急制動後の残存速度計測実験が行われた。まずは50km/hで急制動を行う。この時の停止位置とさらにその奥に、速度計を2つ設置する。次に60km/hからの急制動を行って50km/h走行時の停止位置での残存速度を計測した。

▲速度計を設置する白バイ隊員。奥の位置が50km/hで走ってきた時の停止位置

 

▲50km/hで止まれた位置でも、60km/hで走ってくると残存速度がまだ30km/hも残ってしまう。10km/h落として進入することの重要性を理解した

 

60km/hからの急制動だと50km/h走行時の停止位置での残存速度はまだ30km/hほど残っていた。30km/hを超えて衝突した場合、ライダーの死亡率は約3倍にはねあがることが知られている。

だから、ライダーの死亡事故で多い右直事故や出会い頭事故のことを考えると、交差点進入時やロードサイドに店舗がある場所を通る際にはアクセルを戻してブレーキをかけ、10km/hでも速度を落としておくことが大切なのだ。

●13:45~14:45 午後の実技講習

 

▲パイロンを3列並べて、端から中央のパイロンへ、中央から端のパイロンへというふうに進路を変更しながら進んで停止を繰り返す。慣れてきたら端から端のパイロンに向けて大きな進路変更を行う

 

午後はBasicクラスから1名が移動してきて11人での講習となった。午前中にブレーキング練習をしたコースを使って低速での左右進路変更を行った。低速の進路変更というのはコンビニに出入りする時などに多用する走り方で、初心者がふらつきやすく立ちゴケも増えるシーン。ぜひとも慣れておきたい課題だ。

▲午後のワインディング区間には対向車両として指導員(左)が走っていた

 

午後の講習はコース自体は午前中と変わらないが、内容がより実践的になっている。ワインディングを想定したカーブ区間は対面通行となり実際に指導員が対向車として走ってくるほか、見通しの悪い交差点にも指導員が進入してくるし横断歩道に歩行者(指導員)が歩いていたりするので気が抜けない。一時停止など法規走行も厳格に行われ、まさに公道走行やツーリング時の走行環境を再現した状況となった。

●14:45 閉講式

 

▲ブレーキレバーの遊びの位置でもブレーキランプは点灯する。それを利用して予告ブレーキを使うことを勧めた下坂指導員

 

閉講式では指導員からの講評のほか、安全運転のためのアドバイスが行われた。特にブレーキレバーの遊びの位置でブレーキランプを点灯させる予告ブレーキ(予告制動)を行ってほしいと伝えられた。これにより、後続車からの追突を防ぐと共にライダー自身も早めにブレーキをかける癖をつけることができるそうだ。

▲「指導員を募集しています。11月には審査があります。ぜひ指導員を目指していただけたら」と飯田指導員

15年間のブランクを経てリターン! 絶賛練習中!

●濱元さん(50歳・埼玉県北本市)/スズキ Hayabusa(レッドバロン鴻巣で購入)

19歳で免許を取ってNSR250でツーリングを楽しんでいた濱元さん。その後、15年間バイクを降りていたものの、ずっと乗りたかったハヤブサを6月に購入しリターン! それから数か月の間に那須モータースポーツランドで開催される各種ライディングスクールに立て続けに参加し、今回のBRL埼玉にも初参加した。

▲Basicクラスに参加していた濱元さん。課題「千鳥走行」の練習シーン

 

「小回りやバランス走行がもっと上手になりたいと思って参加しました。公道で走るのがまだ少し怖いんですよね。トラックとか他のクルマが予測しない動きをした時はドキッとしてしまって。15年も間が空いたので初心に戻ったつもりで勉強しています。今後もスクールには参加したいです」

夢は北海道一周ツーリングという濱元さん。憧れのハヤブサと共に練習を重ね、夢の実現へと邁進している。

まとめ(私感)

BRLは、その日1日でものすごくレベルアップしようというよりは、体験することで自身の苦手に気づいたり、指導員に知識を教えてもらったり、ちょっとしたコツをアドバイスしてもらうことで、日々の安全運転意識と操作技術を高めることを目標としている。

▲Basicクラスでの課題「道路外への左折」。少し段差があって転倒の要因にもなりうる歩道部分をまたぐ練習

 

周りの参加者も同じようなレベルのビギナーライダーなので、変に気を使うこともない。指導員や白バイ隊員も「できるようになれ!」なんてことは絶対に言わないのでご安心を。みんな優しくて、いろいろと教えてくれる。

なので、参加する際には質問を用意しておくのもいいかもしれない。速くなるため、ひたすらうまくなるためのライディングスクールのように特定の先生、指導員らの経験則による教え方ではなく、交通安全協会と警察による最も一般的な、誰にでも難しくない回答を返してくれる。読者の皆さんもぜひ一度参加してみてほしい。

▲鴻巣(こうのす)にある「埼玉県警察運転免許センター」の駐車場出口に面したレッドバロンの看板。すごく目立ってる!

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