ホンダのCRF250L、CRF250ラリーだけでなく、2024年末にはカワサキからKLX230、KLX230シェルパが登場。2025年には久々の400ccクラストレールとなるスズキ・DR-Z4SやKTM・390エンデューロRが登場し、ヤマハも2026年1月から久々のトレールモデルとなるWR125Rを発売!!
こんな感じで近年にわかに盛り上がりつつあるのがオフロードバイクというジャンルだ。ただこのオフロードバイク、いざ始めようとするとちょっとばかし特殊でエントリーユーザーにはわかりにくいことも多い。そこでオフロードバイク遊びをするためのハウツーや用語を毎回少しずつ紹介していく本企画。今回もオフロードバイクの種類、ジャンルのお話。2015年あたりから急にモデル数が増えた『スクランブラー』系のバイクをピックアップ!

ドゥカティの『スクランブラー』モデル、Scrambler Desert Sledでダート走行を行う筆者。『スクランブラー』はオフロード系のモデルのなかでは珍しく、こんなカジュアルなウエアも似合うのがいいところ。クラシックタイプのジェットヘルメットにゴーグル&バイザー、革やコットン生地の長丈のライディングジャケットを組み合わせるとレトロ感というか、ビンテージオフロード風の雰囲気が強められる。
『スクランブラー』の語源はオフロード黎明期のスクランブルレースにあり!
『スクランブラー』という言葉が登場したのは、まだ道路の舗装率が低く、バイクにオンロードやオフロードといったモデルの区別がなかったバイク黎明期。“緊急発進”という意味のスクランブルレースが流行った頃だ。このスクランブルレースは今でいうモトクロス(語源はモーターサイクルクロスカントリー)に該当する競技であったが、当時はオフロードバイクはおろか“オフロード”なんて言葉すら生まれていなかった。
このスクランブルレースは、フラットダートをメインとするも盛土のようなジャンプセクションもあったため、エンジン下回しのサイレンサーをサイド回しにしてアップタイプにするカスタムを施し、腹下を擦らないよう最低地上高をアップ。またヒットからエンジンを守るためにアンダーガードを取り付けていた。そんなスクランブルレース用にカスタマイズされたレーサー車両を『スクランブラー』と呼んだのだ。

1962年に登場したホンダのDREAM CL72 SCRAMBLERは、カスタマイズではなくバイクメーカーが市販車として作った日本初の『スクランブラー』モデル。250ccスーパースポーツの位置付けだったCL72を“サイレンサーサイド回しのアップタイプ”にするなどして『スクランブラー』化している。
そんなスクランブルレースの人気を踏まえて、バイクメーカーは市販モデルとしての『スクランブラー』を発売。日本で言えば1962年登場のホンダのDREAM CL72 SCRAMBLERがその元祖であり、その後は様々なメーカーから『スクランブラー』が登場。この流れが、約5年後には初のトレールバイク・ヤマハ DT-1(1968年)を登場させることになったのだ。

1968年発売のヤマハ DT-1。国産車で最長のストロークを持つフロントフォーク、大径19インチフロントホイール&ブロックタイヤ、エンジンガードなど。これまでの市販車にはない“オフロード走行に特化した装備”による圧倒的なパフォーマンスを引っ提げて登場。このDT-1の登場後、オンロードとオフロードのバイクジャンルがしっかりカテゴライズされることになる。
……ってな感じで『スクランブラー』の誕生からトレールバイクの生い立ちを書いてみたが、要約すれば“バイク黎明期、オンロードバイクとオフロードバイクの区別がなかった頃に、なんとか不整地走行性能をアップしようとして登場したのが『スクランブラー』”というわけ。その特徴は、①最低地上高を確保するためのエンジンサイド回しのマフラー、②ヒットからエンジンを守るアンダーガード、③車体を押さえ込みやすくするためのワイドなハンドル……といったところだ。
近代の『スクランブラー』にはダート走行を想定していないモデルも!?
でもね……、長々とバイク黎明期の『スクランブラー』の話を読ませておいてこんなことを言うのは大変心苦しいのだが、1960年代の元祖『スクランブラー』と、近代の『スクランブラー』って全く別物なんだよね。オフロードでの走行性能で語るなら競技向けのコンペティションモデルの方がよりレベルが高い走行が行えるのは言うに及ばず、トレールモデルやビッグオフといったナンバー付きの市販車に関しても、しっかり時間をかけてその性能を進化させてきたモデルと『スクランブラー』は根本的に別物。不整地での走行性能の高さにおいて『スクランブラー』が純然たるオフロードモデルに敵うことはない。そこで近代の『スクランブラー』は全く別のアプローチで独自の進化を遂げることになる。

英国・トライアンフの“モダンクラシック”シリーズには、2006年からビンテージオフロード風のスタイルのSCRAMBLERがラインナップ。写真は最新モデルのSCRAMBLER900。
レトロとか、モダンクラシックと呼ばれるトラディショナルなスタイリングのバイクを多く擁するトライアンフ。2006年にビンテージオフロードバイク風のスタイルを持ったSCRAMBLERが登場。このマシンは現行車のSCRAMBLER900へとつながるモデルであるが、登場当時、「車名はスクランブラーですがあくまで雰囲気を模したモデルで、オフロード走行を想定した開発はしておりません。ダート走行での評価、またオフロード走行性能を期待させるような撮影カットの使用はご遠慮ください」なんてお達しがトライアンフの広報部から出たりした。つまり、ビンテージオフロードモデル風のスタイリングを再現したロードモデルとして登場したのがトライアンフのSCRAMBLERだったわけだ。
また、『スクランブラー』というジャンルを語るうえで欠かすことができないのが、ドゥカティのScramblerシリーズだ。他のドゥカティのロードスポーツモデルが水冷化&高出力化、持ち前のしなやかなトラスフレームもどんどん形骸化していく中で、よりライトなユーザー層に向けた新規軸として登場。スリムな空冷Lツインをコンパクトで細身なトラスフレームに搭載しているのがその特徴だ。
2015年に国内販売が開始されたドゥカティのScrambler icon。登場と同時にヒットし、400ccクラスのScrambler sixty2(2016年/現在はカタログ落ち)や、Scrambler1100(2018年)といった排気量別のラインナップを構築。近代の『スクランブラー』ジャンルの基盤を作った。
ドゥカティのScrambler iconは『スクランブラー』という名前は冠しているが、見てのとおりその定義であるはずの「①最低地上高を確保するためのエンジンサイド回しのマフラー」も「②ヒットからエンジンを守るアンダーガード」もなく、かろうじて「③車体を押さえ込みやすくするためのワイドなハンドル」がある感じ。当然、トライアンフのSCRAMBLER同様オフロード性能は追求されておらず、実際にダートを走らせてみてもお世辞にもオフロードが走りやすいとは言えないキャラクターのバイクだった。
このドゥカティのScramblerシリーズは、2000年代の日本のストリートバイクやトラッカー系モデルに着想を得ている……なんて話も当時の広報さんから聞いた記憶がある。言われてみるとスズキのGrasstrackerシリーズや、カワサキの250TRに似ていなくもない!?
Scramblerシリーズのヒットで、“オフロード走行ができる性能を持っているか?”はますます重要ではなくなってしまった近代の『スクランブラー』。今ではすっかり“ビンテージオフロード風のレトロなスタイルのバイク”という定義が『スクランブラー』に定着してしまっている。つまり、“陸(おか)サーファー”ではないが『スクランブラー』モデルだからといってオフロード走行ができるとは限らないのだ。

2025年に登場したロイヤルエンフィールドのBear650。クラシックスタイルのロードモデル INT650をベースに『スクランブラー』化したモデルで、あくまで見た目重視の『スクランブラー』であり、オフロード走行性能に関してはほぼ考慮していないはず……なのだが意外とダート走行が楽しかった。
一周まわってオフロードをしっかり走れる“ガチ”な『スクランブラー』も登場!
オフロード走行ができそうな雰囲気はあるけど、スタイルだけで実際にオフロード走行は想定していない……そんな軟派な近代の『スクランブラー』というジャンルに新風を吹き込むことになったのも、やはりドゥカティのScramblerシリーズだった。2017年に登場したScrambler Desert Sled(現在はカタログ落ち)は、Scrambler iconをベースにオフロード性能をガッツリ底上げ。フロントホイールを18インチからサイズアップして19インチ化するだけでなく、フレームの補強を行い、倒立フロントフォークもさらに太くしてストロークを200㎜に伸張。

『スクランブラー』のジャンルに新風を吹き込んだ、ドゥカティのScrambler Desert Sledを走らせる筆者。補強されたフレーム、大きめの19インチフロントホイールなど、しっかりダートを楽しむための改変を実施。“もう、陸(おか)『スクランブラー』とは言わせない!”そんな気合いを感じる作り込み具合だった。
このドゥカティのScrambler Desert Sled、乗ってみるとそのオフロードにおける走行特性は、一般的なオフロードバイクとは全く違っていた。トレールバイクがしなやかな車体で路面を掴むようなキャラクターなのに対し、Scrambler Desert Sledは真逆。高剛性な車体でテールスライドを発生しやすくし、ズリズリと後輪を滑らしながらテールハッピーな走りを楽しむようなキャラクターになっていたのだ。

国内外、様々なメーカーから『スクランブラー』モデルが登場しているが、“オフロード走行を想定した『スクランブラー』”の代表はファンティックのCABALLERO Scramblerシリーズ。そのキャラクターはやはりテールハッピーで、後輪をズリズリとパワースライドするのが楽しいモデルになっている。写真はCABALLERO Scrambler 500(2023年モデル)に乗る筆者。
思わぬカタチでオフロード性能を得ることになった『スクランブラー』モデル達。現在のラインナップでは、ひとくくりで『スクランブラー』と言っても、“オフロード走行を想定した『スクランブラー』”と“スタイリング重視の『スクランブラー』”が混在することになったのだ。

しっかりオフロードを走れる『スクランブラー』として2019年に登場したSCRAMBLER 1200XE。よっぽど“トライアンフの『スクランブラー』はオフロードを走れない”というイメージを払拭したかったのだろう。フロント21インチスポークホイールに250mmというとんでもないロングストロークのフロントフォークが与えられ、そんじょそこらのビッグオフやアドベンチャーバイクよりもオフロード走行性能が高められた……が、870mmのシート高に約230kgの車重とかなり乗り手を選ぶキャラクターに。ただ、これによりトライアンフの『スクランブラー』ラインナップは、“オフロード走行を想定した『スクランブラー』”と“スタイリング重視の『スクランブラー』”の二枚看板の構図が成立。写真は2024年モデルのSCRAMBLER 1200XE。
……というわけで『スクランブラー』の歴史を振り返ると、そのオフロードキャラクターが二転三転していることがおわかりいただけただろう。しかも、現代の『スクランブラー』を愛車として選ぶ際に重要となるのは、そのモデルが“オフロード走行を想定した『スクランブラー』”なのか? それとも“スタイリング重視の『スクランブラー』”なのか? ということ。“『スクランブラー』ってレトロなスタイリングなのにオフロード走行も楽しめるんでしょ?”なんて軽い気持ちでいると、“なんだか思ってたのと違う!!”なんてことになりかねない。ということでオフロードバイク、中でも『スクランブラー』を選ぶ際にはForRをはじめとする二輪媒体のインプレッション記事やレッドバロンスタッフのアドバイスをもとにしっかり吟味してほしい。
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> ②「オフロード用ブーツって必要!?」
> ③「オフロードバイクのフロントタイヤはなぜ大きい!?」
> ④「膝のプロテクターは絶対必要!!」
> ⑤「ダート林道が見つけられない!?」
> ⑥「オフ車のハンドルはなぜ幅広なの!?」
> ⑦「オフ車のシートはなぜ高い!?」
> ⑧「オフ車のステップはなぜギザギザ!?」
> ⑨「オフ車のエアクリーナーフィルターに“湿式”が多いのはなぜ!?」
> ⑩「湿式エアクリーナーフィルターのメンテナンスはどうやるの!?」
> ⑪「オフロードではタイヤの空気圧を下げた方がいいの!?」
> ⑫「オフロード走行では何を着たらいいの!?」
> ⑬「オフロードグローブって消耗品なの!?」
> ⑭「オフロードバイクは高速道路が苦手!?」
> ⑮「ダート林道は一人で走っちゃいけないの!?」
> ⑯「トレールバイクっていったいナンなのさ!?」
> ⑰「最近流行りのアドベンチャーバイクってなに!?」
> ⑱「オンロードタイヤを履いたオフ車!? モタードモデルってどういうこと!?」
> ⑲「ビッグオフってなに!? アドベンチャーバイクと違うの!?」
> ⑳「レトロ系!? それともオフ車!? スクランブラーってナニモノなのさ!?」
