ハーレーとしては、何もかもが初めて尽くしのチャレンジである。新開発エンジン/独自の車体構造/世界初の電子式車高調整機能、そして何より”大型アドベンチャー”という未知のカテゴリーへの参入…。なのに、なんだこの、初めてと思えないほどの完成度の高さは!!
●文/写真:ヤングマシン編集部(青木タカオ) ●外部リンク:ハーレーダビッドソンジャパン
【テスター:青木タカオ】メジャー大衆誌を含め、様々なメディアに寄稿するバイクジャーナリストながら、ハーレー好きが高じて専門誌『ウィズハーレー』を創刊。新旧あらゆるモデルの試乗経験を持つ。 |
五感に訴えかける心地よいVツインは健在!
完成度という観点から見れば、スロースターターと言えなくもないハーレーダビッドソン。歴代Vツインやシャーシは登場から時間をかけて少しずつ熟成し、円熟期に至ると、変わらないことを信条に揺るぎない信頼を獲得していく。これが同社の流儀であり、その魅力は大陸横断ツアラーやスポーツスターなどに熱狂的ファンを持つことで十二分に証明されている。
しかし、アドベンチャーという新境地で、その昔ながらのやり方が通用しないことを開発陣は重々承知していた。「パンアメリカ」は、生まれながらにしてセグメントの一角を担うと明確に主張。最後発の参入ながら、最初のプロダクトだから仕方がないという言い訳はどこにも見当たらないのだ。
実車を目の当たりにして、まず感じるのがスタイルの武骨さ。何にも似ていない斬新なスタイルは、最初に写真で見たとき、正直なところカッコイイとは思えなかった。しかし、2眼のロードグライドなど歴代モデルたちも最初はそうだったことを我々ハーレーファンは忘れてはいない。見ているうちに引き込まれ、魅了される中毒性のあるスタイルであることに気付くまで多くの時間は要さないだろう。フレームマウントのカウルから水平方向へ力強く一直線にラインが伸び、ウィリスジープかフォードブロンコか、タフな4輪アメリカンオフローダーを思わせる。
走り出せば、高い位置から遠くまで見下ろすことができ、これが本当にハーレーから見える景色なのかと驚きを隠せない。前後190mmという長いストロークのサスペンションを備えるアドベンチャーモデルなのだから当然だが、サドルシートに深く腰を沈め、ローアングルから拳を突き上げ、視線を上げるようにして乗る従来のハーレーとはあまりにも趣が異なり、単なる新型車の試乗にとどまらず気持ちは昂ぶるばかり。ハーレーの新しい時代の幕開けを予感してならないのだ。
新時代を担うパワーユニットが、完全新作のレボリューションマックス。クランクピンを30度位相とした挟角60度のV型2気筒エンジンで、点火間隔は90度Vツインや270度クランクの並列2気筒に等しい。トラクション性能に優れる不等間隔爆発とし、クランクケース内でチェーン駆動する螺旋状の1次バランサーと、フロントシリンダーヘッドのカムシャフト間に備えた小型の2次バランサーで不快な微振動を抑えつつ、心地よいパルス感をライダーに伝えている。あぁ、気がつけばもう、頬が緩みっぱなしではないか。
ダートを含む長旅に出たい。そう感じさせる高い完成度
いつもは最高出力を公表しないハーレーだが、今回は152psと自信を持って明かしている。スペックを見るかぎり、ピックアップ鋭くガツンとくる手強さかと思いきや、全域にマイルドで扱いやすさが際立つ。
ライディングモードはスポーツ/ロード/レイン/オフロード/オフロードプラスの5つがデフォルトで設定され、もっとも元気なスポーツでもスロットルレスポンスは勇ましさを誇張せず、乗り手の意志通り過不足ないもの。アドベンチャーに求められる出力特性を徹底追求してきたことがわかる。
そんなエンジン特性とフロント19インチらしい穏やかなハンドリング、豊かなサスペンションストロークがバランスよく同調し、ワインディングも気分良く流せる。スペシャルのサスペンションは初期からよく動いて追従性に優れるが、スタンダードは比較的硬めに味付けされていることも付け加えておこう。
オフロードプラスでダートを走れば、ソフトなダンピングでトラクションコントロールがほどよく介入し、低重心で安定したまま落ち着いて走破できる。スペシャルにはカスタムモードがあり、トラクションコントロールの介入を弱めたり、トルクやレスポンスを鋭くすることができ、より積極的にコントロールすることも可能だ。
ハンドル切れ角が十分にあり、テールが流れても挙動が穏やかで弾き飛ばされる気配がないのは、フレームレス構造で車体剛性を最適化したことや、エンジン前後長の短縮でスイングアーム長がしっかり確保されたところにあり、持ち前のトラクション性能でグイグイ前に進んでいける。
エンジンは吸/排気に独立した可変バルブタイミング機構を備え、全域トルクバンドといった応答性の良さだが、過敏すぎないパワーフィールがロングライドへと誘い、これこそがハーレーの真骨頂。スタンダードにもクルーズコントロールを搭載している点でも、高速巡航に主眼を置いているのがわかる。ウインドプロテクション効果に優れ、今回は雨にもやられたが、クルージングでのコンフォート性には舌を巻く。
パンアメリカという車名は、北米から南米まで太平洋岸に沿って走る道路網の総称に由来する。大陸を縦断するような長旅に出たくなると思わせたのだから、アドベンチャーツーリングとしての出来栄えは◎。ここまで仕上げてくるとは、驚きの完成度の高さだ!
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