ホンダのニューミッドコンセプトシリーズの人気モデル、クロスオーバーカテゴリーの「NC750X」が3代目に進化。スチール製のダイヤモンドフレームは新設計となり、エンジンはピストンや吸排気系の変更に加えて電子制御スロットルも導入された。今回は売れ筋のDCTモデルがどれだけ進化したのか、元NC750Sオーナーだったテスター・大屋雄一氏が一刀両断する。
●文:ヤングマシン編集部(大屋雄一) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:ホンダhttps://www.honda.co.jp/NC750X/
【テスター:大屋雄一】NC750S(MT)を手に入れて丸7年、NCの酸いも甘いも噛み分けるヤングマシンテスター。キャンプツーリング時の給油のわずらわしさを理由に、今年乗り換えたばかりだ。 |
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ついにフレームが新型に。曲がる楽しみが加わった
今から9年前、65万円を切る驚きの低価格で鮮烈なデビューを飾ったNC700X。’14年には排気量をアップしてNC750Xとなり、’16年のフルモデルチェンジでヘッドライトとテールランプがLEDに。同時にフロントフォークにはショーワ製のデュアルベンディングバルブが組み込まれた。そして2年後の’18年には、シート高が30mm低い方のタイプLDに一本化されている。
こうして振り返ってみると、低価格で話題をさらった当初のインパクトこそ薄らいではいるが、ユーザーの声を真摯に汲み取りつつ地道に進化してきたことが分かる。270度位相クランク採用の745cc水冷並列2気筒エンジンは、パワーや刺激こそ少ないものの圧倒的な燃費性能を誇る。そして、このエンジンを62度のシリンダー前傾角で搭載したことで生まれたメットインスペースは、日常の使い勝手を重視するライダーの心を鷲掴みにした。
激戦区のミドルクラスはコストを下げやすい2気筒モデルが多く、その中でもNC750Xはライバルより20kg以上も重いことが以前から指摘されていた。それを受けてか、今回の’21年モデルでは、初めて軽量化をテーマとした大刷新が行われた。新設計のダイヤモンドフレームは約1.6kg、4psパワーアップしたエンジンは1.4kg軽くなっており、トータルでは7kgの軽量化を達成。ライバル勢との開きはまだ大きいものの、現行モデルのオーナーにとってはうらやましいはずだ。
(左)’21 NC750X DCT ●色:赤 白 黒 ●価格:99万円 (右)’20 NC750X DCT
【ライディングポジション&足着き性は新旧共通】’18年にシート高800mmのタイプLDに一本化され、これが標準仕様に。’21年モデルもそれを継続する。足着き性はクロスオーバーモデルとしては優秀で、ハンドルはスタンディングしやすい高さに設定される。新型はニーグリップエリアがややスリムになった印象も。[身長175cm/体重62kg]
新旧NC750Xの違いは走り出してすぐに分かった。特に進化が著しいのはハンドリングだ。プラットフォームを共有するこのニューミッドコンセプトシリーズは、どんなスタイルでも安全に成立させるためか、これまではどこか安定性を重視したきらいがあった。入力に対して素直に反応するし、またどんな操作でも曲がれるので扱いやすいとも言えるが、そこに操縦するというバイクならではの楽しみは希薄だった。
ところが、新型はフレームのステアリングヘッド付近が明らかにしなやかになり、直立状態からわずかにバンクする過程での、向きを変えようする力が増している。そこに7kgの軽量化も加わり、ハンドリングが軽快になっている。ホイールベースはライバル勢の1400mm台前半に対して1500mmを優に超えるし、またキャスター角も27度と寝ているので絶対的な旋回力は高くはない。だが、倒し込み初期からの向きを変えようとする力が高まったのは明白。ゆえに操る楽しさも増した。
一番の違いはハンドリングで、新型はライン1本分内側を通れるのと、旋回中も自由度が高く、フルバンクに至るまでスムーズだ。
このフレームに合わせてセッティングが変更されたサスペンションは、路面の大きなうねりに対しての追従性が高まった印象で、これは新フレームのしなやかさとの相乗効果もありそうだ。ただし、荒れた路面での、特にフロントからの突き上げ感は旧型と同等で、99万円(DCT車)もするバイクであれば、もうワンランク上の品質を期待したい。
エンジンは、4psのパワーアップに加えて電子制御スロットルの新採用が大きなトピックだ。これによって待望のライディングモードが追加され、スポーツ/スタンダード/レインモードのそれぞれでパワー/トラクションコントロール/エンジンブレーキが連動して切り替わり、さらにDCTモデルであればそこにATのシフトスケジュールも加わる。そして、各項目を任意に選べるユーザーモードも用意されている。パワー/トラクションコントロール/エンジンブレーキはそれぞれハイ〜ローの3段階、ATはコンフォート〜スポーツの4段階となっており、単純計算で108通り(!)もの組み合わせが可能。そして、モードの切り替え操作が簡単なのも美点と言えるだろう。
力量感が増したエンジン。DCTの変速はスムーズだ
レッドゾーンの入口が6400rpmから7000rpmへと引き上げられたエンジンは、はたして電スロによる演出なのか、それとも総減速比の見直し(DCT車は1〜4速がローギアード化)によるものなのか判断は難しいが、全体的に元気が増しているという印象だ。270度位相クランクならではのフワッと心地良く回転が上昇するフィーリングは、NC700Xの時代から相変わらず希薄だが、どこからでも必要な力が取り出せるという実用性では他を大きくリードしている。
さて、DCTについて。シフトダウン時のブリッピングを含むスムーズな変速フィールは、もはや旧型でも文句のないレベルにあり、通常走行において何ら不足はない。ただし峠道でのシフトスケジュールは、新型のスポーツモードで走ると、エンジンのレスポンスはこれまでのNCのイメージを変えるほどキビキビとしているのに、コーナーの進入や切り返しで意図せぬシフトアップまたはダウンが発生し、興を削がれることが何度もあった。こういうシーンで思い通りに走りたいのであれば、MTモードにするか、もしくはアシストスリッパークラッチが採用されたMT仕様を選ぶのが最善だろう。
とはいえ、元NC750Sオーナーとしては、この進化はうらやましいというのが本音。新型はオススメだ!
高速道路での防風効果はさすがクロスオーバーらしく上々。シングルディスクのフロントブレーキは、峠道でペースを上げるともう少し制動力を高めたいと感じる。
コスパで語れる価格ではなくなって久しいが、圧倒的な燃費性能と収納力では今も唯一無二の存在。実用性一辺倒に楽しさが加わったのはうれしい。
エンジン:ユーロ5に対応しつつ+4psを達成
745ccの排気量はそのままに、軽量ピストンの採用や吸排気系の見直しなどを実施。エンジン単体重量は1.4kg軽くなり、最高出力は54→58psへ。最大トルクも6.9→7.0kg-mへと微増した。6段ミッションの変速比はMTとDCTで統一され、2次減速比の変更と合わせてDCTの総減速比は1〜4速でローギアード化された。
シャーシ:軽量化された新フレームに洗練されたフォルムをまとう
スチール製ダイヤモンドフレームは、フロント側のパイプ構成や各部の肉厚を見直すことで約1.6kgの軽量化を達成。これに合わせて、φ41mm正立式SDBVフォークと7段階のプリロード調整可能なリンク式のリヤショックはセッティングを変更している。標準装着タイヤはダンロップが継続で、ブリヂストンはメッツラーにバトンタッチ。一新された外装は新たにレイヤー構造を採用して軽快感を演出。純正アクセサリーの新型パニアケースは、必要なステーなどを含む装着価格が旧型用の12万5400円から22万7480円へと大幅にアップしている。
新LCDメーター&電子制御スロットルで操作系統を一新
新採用のセグメントLCDメーターは、日本仕様のみETCのインジケーターを持つ。バッテリー電圧や平均車速、トリップ時間、減算トリップ、さらに右上のマルチカラーラインが色別に各種情報を伝える新機能を追加。左右スイッチボックスもスロットルバイワイヤーの採用により一新された。なお、クルーズコントロールは非採用。
ライディングモードについては、プリセットされているスポーツ/スタンダード/レインのほか、各項目(DCT車はシフトスケジュールも)を任意に選んで記憶するユーザーモードを用意。操作はハンドル左のモードスイッチと上下スイッチで行う。
ヘッドライト&テールライト
LEDヘッドライトは下方にハイビームを独立させた新デザインに。左右のシグネチャーランプと合わせて個性的なフロントフェイスを演出する。LEDテールランプは’15年以前のデザインを彷彿させるスマートなデザインに。また、前後のウインカーとライセンスプレートライトもLEDに変更。
シート表皮変更で質感アップ
上面と側面でテクスチャーの異なるシート表皮を採用。タンデムシートは中央を盛り上げた形状となり、右側面には車名ロゴも型押しで追加された。
ラゲッジボックス:荷室は容量1L拡大
バッテリーの搭載位置をラゲッジボックスの前方から後方に移動するなどして、収納容量を22→23Lへ。
ただし、底面にあったポケット(ここにETC車載器がぴったりと収まる)やU字ロック収納、ラゲッジボックスリッド上面の積載用フック(最大積載量2kg)などの便利な装備が省略されている。
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