ガソリンは、お好きですか?

……好きも嫌いもありませんね、我々が愛してやまないモーターサイクルを走らせるエネルギーは、夢の21世紀が始まってもう20年以上、令和の時代となっても“ほぼ100%”ガソリンを燃料とした内燃機関が生み出しています。

スズキカタナエンジン

●ガソリンは大気と適切な比率に混ぜ合わせることで、点火するや爆発的に燃え広がります。そのパワーを回転エネルギーに変換するシステムを持つ機械がエンジンというわけです。CGはスズキが誇る998cc水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブエンジン。2005年式GSX-R1000用に開発されたトルクフルな特性に磨きをかけて、現在はGSX-S1000シリーズやKATANAに採用中

 

最近はセルフ式のガソリンスタンドも増えましたのでタンクのフタを開け、自分自身の手でジョジョジョ~と少しオレンジ色をしたツンと鼻につく匂いのする液体を注ぎ込み「燃料注入完了ッ!」とセルフ悦に入るライダーの皆さんも多いことでしょう。

では、今アナタがタンクに入れた、本来は無色透明なのに軽油(淡黄色)、灯油(透明)との区別のため暖色系の色が付けられているガソリンとは、一体何モノなのでしょう?

ノズルとしずく

●日本におけるセルフ式ガソリンスタンドでは、赤いノズルからはレギュラーガソリン(オレンジ系の色)、黄色はハイオク(レギュラーと同じオレンジ系の色)、そして緑のものからは軽油(淡い黄色)が出ると決まっています。どれも本来は無色透明なのですが、着色することで入れ間違いによる事故を防ごうとしているのです。ガソリンはマイナス40℃でも気化&爆発する危険な液体でもあるので……

 

とても使い勝手のいい魔法の液体

非常に大ざっぱな定義付けをするのなら、「炭素と水素が結びついた炭化水素の混合物で、沸点が摂氏30℃から220℃の範囲にある石油製品」のこと。そうガソリンは石油(原油)を蒸留して作る“製品”なんですね。どこかの山奥にガソリンが湧き出る泉があり、そこから持ってきているワケではないのです。

皆さんが義務教育時代に教わったとおり、今からおよそ2億5000万年前から6500万年前の地球に生きていたプランクトンなど生物の死骸が、地下深くの熱や圧力、微生物の力で変化したものが原油だとされています。

ごくまれに地表で採取できることもありますが、ほとんどは地下数千メートルというとんでもない場所にある地層に存在しており、大掛かりな発掘装置を使うボーリングを行って取り出さなくてはなりません。

掘削リグのイメージ写真

●地下に眠る石油・天然ガスを掘り出すための装置を「掘削リグ」といい、ドリルパイプの先端にビットと呼ばれる非常に硬い歯の付いた“キリ”を回転させながら油層(原油を含有する地層)を目指します。仮に6000mを掘るとなるとパイプを継ぎ足し継ぎ足し、24時間体制でも1年以上かかる大仕事になるとか。そうして地球をとても深くくり抜いたとしても何も出てこない場合だってあるのです……

 

油田採掘はとんでもないギャンブル!?

一説によれば1本の石油井戸を掘るのに陸上で5~12億円、海上ともなれば30億~60億円がかかるとか。もちろん、掘れば必ず原油が噴き出してくるという保証はどこにもなく、100本掘削しても当たるのは数本程度……と聞けば、オイルビジネスの壮大さが想像できます。

なお、40年くらい前は「石油が40年後、いや30年後には枯渇する!」と大騒ぎしていた記憶があるのですが、いつしかそのような話は聞かなくなりました。なんでも油田を探したりする能力や掘削技術の向上により、利用可能な石油の埋蔵量は飛躍的に増加したとかで、今後100年はまず枯渇する心配はないそうです。良かったですね。

海上油田のイラスト

●地球の約7割を覆い尽くしている海。さまざまな技術が進化したことで、従来は手が届かなかった海底の下にある油層まで開発できるようになりました。化石燃料枯渇の恐れは減りましたが、だからといって無節操に使い続けると、今度は地球温暖化が加速してしまいます……

 

さて、庶民からすれば気の遠くなるような、原油を掘り出すための投資額ですが、全世界を巻き込む商取引の巨大さからすれば微々たるもの。

その価格を決める最大の要因は“需要と供給のバランス”となります。

売る側と欲しがる側の拮抗が……

バイクの世界に話を置き換えれば、近年1980~1990年代のネイキッドモデルやレーサーレプリカマシン群が軒並み発売当時価格の2~3倍を超える値付けとなっているのも、まさに“需要と供給”の結果。欲しがる人が殺到すれば価格は上昇し、誰も見向きしなくなると値段は下がるのです。

CBX400Fの写真

●1981年にデビューするやホンダ久々の400㏄マルチ(4気筒)車として人気が爆発したCBX400F(写真)。1983年10月には後継のCBR400Fに席を譲る形で生産終了となったが、市場からの要望により1984年10月から再生産が開始されたという希有なモデル。そちらのグラフィックパターンは若干モディファイが加えられている。いまだに高い人気を誇っている永遠のヒーローマシンですね

 

とはいえ、往年の名車たちは今後供給が増えることはありませんが、原油の採掘量は増やすことが可能です。ですがドップンドップン油田から汲み出せば供給が満たされて価格も下がり、万事オーケー……とはいかないのが複雑な現代社会。

近年の話にフォーカスすれば、コロナ禍の拡大により石油の需要は世界的に低下いたしました。そのあおりを受け、2020年の4月には原油の先物価格が史上初めてマイナスになったことがニュースでも大きく取り上げられたほど。

これは売り手側が買い手側に“お金を払って原油を引き取ってもらう”という異常事態で、八百屋へ寄ったら100円いただいた上にスイカをGETした……というくらい本来あり得ない状況でした。実際、2020年1月20日に151.6円(レギュラーガソリン1ℓあたり全国平均給油所小売価格/(一財)日本エネルギー経済研究所 石油情報センター調べ。以下同)だった価格は、同年5月11日には124.8円にまで落ち込みました。

コロナ禍のなかでも値上げ傾向は続く

そこから11月までは130円台前半をうろうろしていたのですけれど、年末から一気呵成の値上げモードに突入。2021年3月には150円台となり、8月2日には158.2円……。もう160円台も秒読みといった情勢です。1980年代後半には、東京近郊のガソリンスタンド激戦区でリッター80円を割る価格で販売されていた記憶もあるので、リアルに2倍ということになりますね(涙)。

ガソリン価格イメージ

●スタンドによってはすでに160円台のところも……。なお、2008年8月4日にはレギュラー1ℓの価格が196.0円へ到達。アメリカのサブプライムローン問題の表面化により、多額の投機マネーが原油先物市場に流れ込むという背景があった。このときは200円台到達を前に事態は沈静化したが、今回は……!?

 

自らの周囲を見渡してみればコロナ禍はますます深刻度を増し、仲間を含めて好きなツーリングも自粛中。それなのにガソリンだけ値上がっていくのは納得がいきませんけれども、原油の価格は個人……いや日本としても単独ではいかんともしがたい“国際情勢”で決まっていくものなのです。

2020年8月上旬現在、世界の原油生産量のうち、約4割を占める中東を中心とした輸出国(サウジアラビア、イラン、イラクなど)が構成する石油輸出国機構(OPEC)と、ロシアやメキシコなど非加盟の主要産油国で作る「OPECプラス」が協調した原油生産調整はうまくいっており、さらにワクチン接種が世界的に進んだ後の景気回復を見込んだ投機的な資金が原油先物市場に流れていることなどから、価格は高止まりで推移中。

石油タンカーイラスト

●2017年度のデータによると日本の原油輸入依存率は99.7%(0.3%は日本で出しているのか!という驚きもありますが)。そのうち、中東への依存率は約90%……。今この瞬間も、多数の超巨大タンカーが中東からの片道で約1万2000㎞・20日の旅を粛々と進んでいるのです

 

高値安定はしばらく続きそう……

自国に活用できる莫大な量のあるシェールオイル(泥岩の一種である頁岩[シェール]の微細な透き間に閉じ込められた原油や天然ガスを取り出したもの)を武器に、相場へ揺さぶりをかけられるはずのアメリカも静観を決め込んでいるため、今しばらくガソリンの劇的な値下がりはなさそうです。残念ながら……。

自分のバイクに、クルマにガソリンを入れるとき「最近高いなぁ」と文句を言いつつ(笑)、その価格の背景にある国際情勢に思いを馳せてみてください!

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