バリオス……いや、250クラスの並列4気筒スポーツネイキッド一番の魅力は何かと問われたら、筆者は「吸排気音!」と0.00043秒もかからず即答します。マフラーエンドから吐き出される音はもちろんなのですが、股ぐらにあるキャブの鼓動やカウルという遮音壁を持たないがためダイレクトに体へ伝わるエンジンの武者震いが独特な響きを奏でたのです!!

1995年型バリオスカタログ

●1995年型バリオスのカタログより。前年モデルでハザードランプが追加され、この年には砲弾型メーターの中央部に燃料計が導入されるなど細かい改良が施されつつ、外装デザインやシャシー、足周りほかの根幹部分はずっと不変。まさに初代ゼファー(400)をなぞるかのような硬派っぷりを見せつけました

 

バリオスという永遠のジャジャ馬【前編】はコチラ!

バブル崩壊すれど実感はまだ薄かったあの頃……

湾岸戦争が勃発し、ソビエト連邦が崩壊した1991年

バブル崩壊

●バブル崩壊とは「1991年3月から1993年10月までにかけて起きた株価や地価の急落に端を発する景気後退期」のこと。ブ厚くなるばかりだったアルバイト情報誌がペラッペラになった1994年ころから、ようやく一般市民は底なしの不景気を痛感しはじめたものです

 

モーターサイクリスト編集部で脳天気なフリーター生活を満喫していた筆者は春のある日、発売されたばかりのカワサキ バリオス広報車を走らせて衝撃を受けました

ちょ、待てよ。このエンジンってZXR250よりパワフルじゃね?」と思わず木村拓哉さんのモノマネをしてしまうくらい、元気いっぱいなパワーユニットだったからです。

バリオスエンジン

●水冷ながら意外なほど彫りの深いフィンを与えられた珠玉のインライン4エンジン。純正マフラーのステンレス製エキゾーストパイプは凝った取りまわしを見せていました。なお、市販マフラーに交換すればガラリと音質が変化するため、いろいろなメーカーのものを試すユーザーも多数おりマーケットも活発化。モーターサイクリストの人気企画「マフラーテスト」でもバリオスの回は反響が一段と大きかったことを覚えております

 

249㏄並列4気筒エンジンを搭載する4ストレーサーレプリカの最後発モデルとして1989年に登場した「ZXR250」。

ZXR250

●最後発だけに先行する他メーカーのモデルを徹底研究しつつ、フロント倒立フォークやラムエアシステムなど新機軸の導入でライバルを引き離しにかかった初代カワサキ「ZXR250」。いやぁ、今見ても惚れ惚れするスタイリングやカラーリングですなぁ〜

 

カワサキ入魂の処女作、原動機型式“ZX250AE”は最高出力45馬力を1万5000回転で、最大トルク2.6㎏mを1万1500回転で発揮するハイパフォーマンスを有していました。

終焉へ向かうレーサーレプリカの強心臓を得た神馬

移り変わりのまだ激しかった1990年前半

デビューから2年後の1991年に外装部品イメージまで一新するフルモデルチェンジを受けたZXR250のエンジンは“ZX250CE”へとアップデートされてさらなる高回転型となり、45馬力を1万6000回転で発生(最大トルクは2.5㎏m化)するに至りました。

ZXR250外観

●1991年型「ZXR250」。エンジンは初代のボア48㎜×ストローク34.5㎜からボア49㎜×ストローク33.1㎜となり、さらなるビッグボア&ショートストローク化を推し進めてサーキットでも他を圧倒する高性能を実現……したのですが、肝心のレースシーンが一気に冷え込んで進化は終了。1993年には40馬力化されて存在意義がさらに薄くなったものの、1999年型まで作り続けたところにカワサキの意地を感じます(例えばホンダの旧CBR250RRは1994年型が最終モデル)

 

同年登場したバリオスはそちらのエンジンをベースに(原動機の型式名はZX250CEでZXR250と同一なのです)中速域を重視して吸気側カムシャフトを仕様変更するなどしており、最高出力が45馬力のまま(1万5000回転で発生)、最大トルクはZXR用の“CE”より0.1㎏m多い2.6㎏mへ増量に成功しておりました(最大トルクの発生回転は“AE”、“CE”のZXR用、バリオス用すべて1万1500回転)。

バリオスカタログ

●こちらも1995年型バリオスのカタログより。最初期モデルからホイールは前後とも17インチが採用されクセのないハンドリングは美点。フロント110/70-17、リヤ140/70-17の高性能扁平バイアスタイヤを履くことでエンジンパフォーマンスに負けないグリップ力も実現していました。クラッチレバーは5段階に、ブレーキレバーは4段階に調整ができるダイヤル式機構をいち早く導入したこともトピックのひとつ

 

取材前の大切な広報車で勝手にインプレッション

近所にあるガソリンスタンドへの満タン給油ショートトリップへ出掛けた私は、心優しき大御所編集部員の「少し遠回りしてもいいから~」という言葉をありがたく拡大解釈して迷わず湾岸方向へと舵をとりました。

ガソリンスタンド

●ぶっちゃけ会社から300m先にあった編集部行きつけのガソリンスタンド。いつもなら10分もかからず満タン任務は終了するのですけれど、バリオスのときは1時間以上かけてしまう結果に……。時効ですよね

 

さすがにアイドリング+αでは薄めな低速トルクですが、一度コツをつかんでしまえば毎回エンストに陥るようなことはありません

逆にスルスルと動き出せたなら4つある気筒のどこかで爆発(燃焼)が行われている並列4気筒エンジンらしい粘りを見せてくれ、ギヤを非常識なくらいパカスカ上げていってもガコガコガコッ!と苦しそうになることなく“ヒュホホホホホ~”と当然のように前へ進んでいくのです。

やるなぁ、と感じつつ極低速域のチェックはそのくらいにして右手をジワリとひねってみますと、6速ホールドのままでも2000~3000回転という低い回転数レベルから確かな加速力を見せてくれました。

バリオス_シート

●バリオスの人気を支えた大きなポイントでもある745㎜という低いシート高。車両重量は163㎏あったものの足着き性が良好かつ重心も低いので、発進時にエンストしても容易に車体を支えることができました。この角度から眺めると広報写真では分かりづらい面の抑揚がハッキリと浮き出てきますね。肉感的であります〜

 

まだ何もない埋め立て地に響き渡る高周波排気音

では、低いギヤでフルスロットルをカマしたらどうなるのか?

まだレインボーブリッジも絶賛工事中で広々とした空き地が広がっていた湾岸地帯

レインボーブリッジ

●青島刑事が封鎖できなかったレインボーブリッジは東京都の港区芝浦地区と台場地区を結ぶ吊り橋で、着工が1987年で竣工は1993年でしたのでバリオス登場時は未完成。台場やら青海やら有明やらにナ〜ンもなかった時期でした

 

後続車も対向車もいない開けた交差点で停止したついでに、なんちゃって信号GPを試してみると……

「シュギャーーーーーン……ーンパァァァァァァァッ!!」

つい先日乗った1991年型ZXR250よりちょっと低速トルクが厚いかなぁ……なんて考えているヒマもなく回転計の針はモーレツに増速し、6000回転以上になるとさらにドトウの吹け上がりを見せてくれます。

バリオスのメーター

●写真はすでに40馬力化していた1995年モデルのメーターですが、パワー的な足かせがあったとしてもキッチリ1万9000回転からのレッドゾーンまで回してやるぜ!との気概は乗り手に伝わってきました。一般道の走行中だと、なかなかそこまではたどり着けないのですけれど(笑)

 

排気音も明らかに甲高さがマシマシとなり往年のF1を彷彿とさせる快音へと変化して、なおかつ1万回転を超えてもまだ先に+1万回転分の目盛りが残っているではあ~りませんか! 

パワフルな力感を伴いつつ最高出力を発生する1万5000回転までは一気呵成で、そちらを乗り越えてもエンジンはビンビンに回ろうとしている……。

バリオス マフラー

●低中速域の扱いやすいトルクと高回転域での圧倒的な吹け上がりを両立させたマフラーの多段膨張式サイレンサー部分。レッドゾーン付近の排気音は自然吸気V10時代のF1もかくやな快音だと個人的に思っております。見た目も性能も申し分ないため純正のままで乗り続けている人も多かったですね

 

さすがにレッドゾーン直前の1万9000回転にもなれば「回っているだけ」の様相も呈していましたけれど(汗)。

いやもう、理屈抜きで面白い

信号発進のたびに1速のまま引っ張るだけ引っ張って川崎重工業謹製な精密機械の動きを堪能してしまいました。

体の前方で発生している吸気音もバカにできない

なお、燃料タンクのニーグリップをする部分には大容量のエアクリーナーとダウンドラフト式キャブレターが位置しており、高回転域ともなるとエンジンが吸い込もうとする大気(混合気)の流れは半端ない量となりますので、かくいう場所で発生するえも言われぬ脈動も乗り手を高揚させてくれます。

エンジンアップ

●キャブレターのすぐ後方にあるバケツ状のスペースに大型の円形エアクリーナーが組み込まれているバリオス。ラムエア機構こそないものの、吸気抵抗を極力減らして超高回転時にエンジンが求める大量の混合気にも十分対応している

 

さらには水冷なのに空冷を装うために追加されたフィンの共鳴音もバリオス独自のサウンド構築に一役買っていたことは間違いありません。

さんざん遠回りして楽しんできたあと満タン給油をして編集部へ戻り「帰ってきましたぁ!」とデスクで報告すると、大御所編集部員がニヤリと笑って「バリオスの市街地走行におけるインプレ囲み原稿、200から300文字で書いてもらうからな、準備しとけよ」とピシャリ。

大きな手のひらの上で転がされている感をしっかり味わったのでした(笑)。

まさか?の2本サス化。そしてスズキとの大胆コラボも!

さて、そんな高性能250並列4気筒エンジンを包む込むバリオスの車体には、フレームもスイングアームもサスペンションもブレーキもタイヤチョイスも、すべてオーソドックスかつ見栄えも機能もちょっとイイものが奢られており、大きな減点ポイントが皆無という仕上がりっぷり。

当然のごとくジャンルをけん引していくトップセラーモデルとして君臨し、1993年モデルから40馬力規制が適応されても人気は不変のまま。

1997年に「バリオス-Ⅱ」へフルモデルチェンジされるまで細かな改良のみで責務をまっとうした、数多くのライダーにとって忘れ得ぬ名車となっていきました。

GSX250FX

●2001年から2007年まで続いたスズキとカワサキの業務提携時代(知らない人は調べてみてね!)。スクーターやモタード、モトクロッサーなどを互いに供給したり共同開発したりしていたのですが、バリオス-ⅡのOEM(相手先ブランド名製造)としてスズキから登場したのが写真の「GSX250FX」……。今でもたま〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜に見かけることがありますね。こちらについても次回にぜひ!

 

次回はその「バリオス-Ⅱ」について深くフォーカスしてまいりましょう。

あ、というわけでバリオスは精緻なメカニズムで構成された「回してナンボ」な特性を持つパワーユニットが大きなウリ。全国300店舗超の直営ネットワークを持つレッドバロンで程度のいい中古車を購入したなら、オイルリザーブシステムをフル活用して常に“エンジンの血液”を新鮮なものにしていきたいですね。その詳細や車両検索についての質問はお近くの店舗へレッツゴー!

バリオスという永遠のジャジャ馬【後編】はコチラ!

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事