バリオス……いや、250クラスの並列4気筒スポーツネイキッド一番の魅力は何かと問われたら、筆者は「吸排気音!」と0.00043秒もかからず即答します。マフラーエンドから吐き出される音はもちろんなのですが、股ぐらにあるキャブの鼓動やカウルという遮音壁を持たないがためダイレクトに体へ伝わるエンジンの武者震いが独特な響きを奏でたのです!!
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バブル崩壊すれど実感はまだ薄かったあの頃……
湾岸戦争が勃発し、ソビエト連邦が崩壊した1991年。
モーターサイクリスト編集部で脳天気なフリーター生活を満喫していた筆者は春のある日、発売されたばかりのカワサキ バリオス広報車を走らせて衝撃を受けました。
「ちょ、待てよ。このエンジンってZXR250よりパワフルじゃね?」と思わず木村拓哉さんのモノマネをしてしまうくらい、元気いっぱいなパワーユニットだったからです。
249㏄並列4気筒エンジンを搭載する4ストレーサーレプリカの最後発モデルとして1989年に登場した「ZXR250」。
カワサキ入魂の処女作、原動機型式“ZX250AE”は最高出力45馬力を1万5000回転で、最大トルク2.6㎏mを1万1500回転で発揮するハイパフォーマンスを有していました。
終焉へ向かうレーサーレプリカの強心臓を得た神馬
移り変わりのまだ激しかった1990年前半。
デビューから2年後の1991年に外装部品イメージまで一新するフルモデルチェンジを受けたZXR250のエンジンは“ZX250CE”へとアップデートされてさらなる高回転型となり、45馬力を1万6000回転で発生(最大トルクは2.5㎏m化)するに至りました。
同年登場したバリオスはそちらのエンジンをベースに(原動機の型式名はZX250CEでZXR250と同一なのです)中速域を重視して吸気側カムシャフトを仕様変更するなどしており、最高出力が45馬力のまま(1万5000回転で発生)、最大トルクはZXR用の“CE”より0.1㎏m多い2.6㎏mへ増量に成功しておりました(最大トルクの発生回転は“AE”、“CE”のZXR用、バリオス用すべて1万1500回転)。
取材前の大切な広報車で勝手にインプレッション
近所にあるガソリンスタンドへの満タン給油ショートトリップへ出掛けた私は、心優しき大御所編集部員の「少し遠回りしてもいいから~」という言葉をありがたく拡大解釈して迷わず湾岸方向へと舵をとりました。
さすがにアイドリング+αでは薄めな低速トルクですが、一度コツをつかんでしまえば毎回エンストに陥るようなことはありません。
逆にスルスルと動き出せたなら4つある気筒のどこかで爆発(燃焼)が行われている並列4気筒エンジンらしい粘りを見せてくれ、ギヤを非常識なくらいパカスカ上げていってもガコガコガコッ!と苦しそうになることなく“ヒュホホホホホ~”と当然のように前へ進んでいくのです。
やるなぁ、と感じつつ極低速域のチェックはそのくらいにして右手をジワリとひねってみますと、6速ホールドのままでも2000~3000回転という低い回転数レベルから確かな加速力を見せてくれました。
まだ何もない埋め立て地に響き渡る高周波排気音
では、低いギヤでフルスロットルをカマしたらどうなるのか?
まだレインボーブリッジも絶賛工事中で広々とした空き地が広がっていた湾岸地帯。
後続車も対向車もいない開けた交差点で停止したついでに、なんちゃって信号GPを試してみると……
「シュギャーーーーーン……ーンパァァァァァァァッ!!」
つい先日乗った1991年型ZXR250よりちょっと低速トルクが厚いかなぁ……なんて考えているヒマもなく回転計の針はモーレツに増速し、6000回転以上になるとさらにドトウの吹け上がりを見せてくれます。
排気音も明らかに甲高さがマシマシとなり往年のF1を彷彿とさせる快音へと変化して、なおかつ1万回転を超えてもまだ先に+1万回転分の目盛りが残っているではあ~りませんか!
パワフルな力感を伴いつつ最高出力を発生する1万5000回転までは一気呵成で、そちらを乗り越えてもエンジンはビンビンに回ろうとしている……。
さすがにレッドゾーン直前の1万9000回転にもなれば「回っているだけ」の様相も呈していましたけれど(汗)。
いやもう、理屈抜きで面白い。
信号発進のたびに1速のまま引っ張るだけ引っ張って川崎重工業謹製な精密機械の動きを堪能してしまいました。
体の前方で発生している吸気音もバカにできない
なお、燃料タンクのニーグリップをする部分には大容量のエアクリーナーとダウンドラフト式キャブレターが位置しており、高回転域ともなるとエンジンが吸い込もうとする大気(混合気)の流れは半端ない量となりますので、かくいう場所で発生するえも言われぬ脈動も乗り手を高揚させてくれます。
さらには水冷なのに空冷を装うために追加されたフィンの共鳴音もバリオス独自のサウンド構築に一役買っていたことは間違いありません。
さんざん遠回りして楽しんできたあと満タン給油をして編集部へ戻り「帰ってきましたぁ!」とデスクで報告すると、大御所編集部員がニヤリと笑って「バリオスの市街地走行におけるインプレ囲み原稿、200から300文字で書いてもらうからな、準備しとけよ」とピシャリ。
大きな手のひらの上で転がされている感をしっかり味わったのでした(笑)。
まさか?の2本サス化。そしてスズキとの大胆コラボも!
さて、そんな高性能250並列4気筒エンジンを包む込むバリオスの車体には、フレームもスイングアームもサスペンションもブレーキもタイヤチョイスも、すべてオーソドックスかつ見栄えも機能もちょっとイイものが奢られており、大きな減点ポイントが皆無という仕上がりっぷり。
当然のごとくジャンルをけん引していくトップセラーモデルとして君臨し、1993年モデルから40馬力規制が適応されても人気は不変のまま。
1997年に「バリオス-Ⅱ」へフルモデルチェンジされるまで細かな改良のみで責務をまっとうした、数多くのライダーにとって忘れ得ぬ名車となっていきました。
次回はその「バリオス-Ⅱ」について深くフォーカスしてまいりましょう。
あ、というわけでバリオスは精緻なメカニズムで構成された「回してナンボ」な特性を持つパワーユニットが大きなウリ。全国300店舗超の直営ネットワークを持つレッドバロンで程度のいい中古車を購入したなら、オイルリザーブシステムをフル活用して常に“エンジンの血液”を新鮮なものにしていきたいですね。その詳細や車両検索についての質問はお近くの店舗へレッツゴー!