43年の歴史に幕を降ろした空冷単気筒のSR400、そして現行唯一の空冷直列4気筒であるCB1100――いま続々と空冷エンジンのバイクが姿を消しています。
小排気量の空冷単気筒はまだ存在しますが、排気量が大きい空冷バイクはラインナップが減っており、嘆き悲しむ声が多く聞かれます。
この機会に「空冷の魅力」とはいったい何か? 考察していきましょう。SR、空冷

走行風でクールダウン、空冷は実にシンプル

まず空冷というメカニズムについて解説しましょう(知っている人は次の見出しへゴー!)。
混合気が爆発してエネルギーを取り出すエンジンは、膨大な熱を発生します。冷却しない限り、エンジンはダメージを受けてしまい、長時間稼動することはできません。
冷却の手法はいくつかあり、現在は冷却水を循環させてエンジンを冷やす「水冷」が全盛。一方、「空冷」は走行風を利用して冷却するもので、古くからある手法でした。

水冷

↑水冷エンジンの透視図。ウォータージャケットやウォーターラインを設けて冷却水(クーラント)を循環させて、エンジンを冷やします。冷却水の熱はラジエターから空気中に放出します。

 

CB1100 空冷

↑バイクを走らせることで、風をエンジンのフィンに直接当ててクールダウンするのが空冷。実にシンプルで明快な冷却方法なのです。図はCB1100で、走行風を内部に取り込み、シリンダーヘッドまで導入する複雑な構造としています。

空冷が絶版になっているのはナゼ?

クルマの世界では、ポルシェが空冷をラインナップし続けたものの、1990年代に生産を終了。2000年代に新車の空冷は絶滅したと言われています。バイクでは引き続き採用されてきましたが、ついに消滅の危機が近づいてきたのが現状です。

その理由は、度重なる排ガス規制の強化。空冷は排ガスのクリーン化が難しいのです。
排ガスをなるべくキレイにするには、エンジンの熱を緻密にコントロールし、部位ごとに温度を一定に保つ必要があります。水冷は、圧倒的に冷えやすいという特徴を持ちながら、さらにサーモスタット(温度で開閉する調整弁)によって適切にエンジン温度を管理できます。

CBRサーモスタット

↑水冷エンジンでは、サーモスタットが冷却水の流路を制御することで、エンジンが冷えすぎたり、熱くなりすぎたりせず、適正な温度を維持します。


しかし、空冷では走行風で大まかにエンジンを冷やすことしかできず、部位ごとの緻密な熱管理はできません。となると、燃焼室の温度を一定に保てず、キレイに混合気が燃焼しないため、HC(炭化水素)やNOx(窒素酸化物)といった排ガス規制の対象となっている有害物質が多く出てしまうのです。
また燃焼室内の温度の幅が大きいと、熱膨張を考慮してクリアランスを多く取る必要があるため、潤滑に使うエンジンオイルが燃えて有害物質を出してしまいがちです。

もちろんバイクメーカーの技術力をもってすれば、空冷であっても規制クリアは可能と思われますが、コストが膨大にかかってしまいます。

そのため空冷エンジンが消えつつあるのです。

CB1100油冷

↑CB1100は空冷ですが、実は油冷システムも導入。エンジンオイルを高温になる燃焼室まわりに循環させ、オイルクーラーで冷却しています。現代の空冷エンジンの多くが同様のシステムを採用し、性能安定性や環境性能を向上させています。

 

GB350、W800

↑'21年10月時点で今後も存続する空冷の国産モデルは、GB350(写真左)、モンキー125やグロム、ST125などのホンダ縦型エンジンシリーズと、W800シリーズ(写真右)、KLX230。400cc以上の空冷はW800シリーズのみです。

 

ドゥカティ、ハーレー空冷

↑外国車の空冷モデルは、ハーレーダビッドソン・スポーツスターおよびソフテイルファミリー(写真左)のほか、ドゥカティ・スクランブラーシリーズ(写真右)、ロイヤルエンフィールド・INT650、メトロ350など。

美しく、味がある。感性に訴えて離さない

前置きが長くなりました。では、消えゆく「空冷」の何が魅力なのでしょうか?

①カッコイイ! 冷却フィンの機能美

まず何と言っても……カッコイイ! シリンダー外壁に整然と並んだ空冷フィンは機能美の極致。メカ好きの心をくすぐり、見ているだけでワクワクします(しませんか笑)。
水冷エンジンはフラットなシリンダーでいかにもクール&高性能な印象なのに対し、空冷のフィンはいかにもクラシック。昔ながらの『バイクらしいバイク』のシンボルと言えるでしょう。このエンジンを見せるために、空冷にはエンジンを強調したデザインのモデルが多いです。

↑たたずんでいるだけで見とれてしまう存在感と美しさのCB1100。これが空冷エンジンの大きな魅力。

 

水冷エンジン

↑こちらは同じCBでも水冷のCB1000R。空冷とは対照的にクールかつ現代的な印象で、もちろん水冷なりの魅力があります。

②味わい深い! 鼓動感+サウンド

空冷は、走りに「味がある」とよく言われます。これは時代によって若干ニュアンスが異なる気がします。'69年デビューのCB750フォアや、'73年のZ1(900スーパーフォア)はいずれも空冷4気筒ですが、こうした旧車の味わい深さは、「空冷だから」というより、排ガスや騒音規制が大らかで、いい意味で洗練されていなかった「昔のバイクだから」と言えると思います。
2007年にFI化された空冷直4のXJR1300などが代表的ですが、近代の高性能な空冷ユニットは、水冷と遜色ないパワーフィールを持ち、(ありえないですが)目隠しして乗ったら、空冷とは思えないほどです。

また、先日生産終了が発表されたCB1100は同じく空冷直4を採用しますが、意図的に開け始めのレスポンスを穏やかにして、昔のバイク風の乗り味としています。“開発当初、水冷と同様のスムーズな乗り味になってしまい、設計を変更した”という開発者の談話もあるとおり、水冷並みの走りも可能。しかしながら現代の技術で空冷=昔ながらのバイクの味わいを演出しているのです。

一方で「サウンド」や「鼓動」では、やはり空冷のメリットがあります。
水冷は外壁が冷却水などで囲まれているため、シリンダーで発生した振動や内部のノイズを吸収します。一方、空冷は構造がシンプルなため、走行中に振動と機械音がダイレクトに外部へ出やすいのです。
そして極めつけは、走行後エンジンが冷えた際に聞こえる「キン、キン、キン」という音! これは熱で膨張した金属が収縮した時に発する音で、まるで生き物が休んでいるかのよう。空冷の大きな魅力の一つになっています。
個人的にはこうした“音”が空冷で最も惹かれる部分です。

空冷サウンド


③軽い! 車重がライトウェイトになる

シンプルな構造なので、軽いのがメリットです。水冷のようにラジエターやウォータージャケットなどの機構が要らないため、その分軽量化が可能。エンジンはバイクで最も重い部品なので、ここが軽くできるとフレームも軽くすることができます。
特に軽さの恩恵が得られやすい小排気量車で有利に働きます。ただしパワーでは水冷が上回る場合がほとんどです。

KLX230

↑例えば空冷のKLX230(写真)は車重134kg、ファイナルを迎えたセロー250は133kg。対して水冷のCRF250Lは140kgになります(2020年型では144kg)。ただしパワーではCRF=24ps、KLX=19ps、セロー=20psとCRFに軍配が上がります。


④トラブル発見やメンテナンスがラク!

上記とも関係しますが、構造がシンプルなため、トラブルの際に故障した箇所を発見しやすく、修理もしやすい場合が多いです。
加えてメンテナンスも簡単。水冷のように冷却水の劣化や交換が要らず、冷却水を通すゴムホースなどの経年劣化もありません。

<まとめ>アナクロな存在はバイクそのものに通じる!?

カーボンフリーが叫ばれる今、昔ながらのテクノロジーである空冷は「時代遅れ」なのかもしれません。でも、それは個人的には「バイクそのもの」とよく似ている気がします。クルマより安全性が低く、暑さ寒さの影響をモロに受けながら生身で走るバイクは、現代に残された数少ない「時代遅れ」な存在であると思います。
中でも空冷のバイクは、その時代遅れ感を凝縮している――。だからこそ生産終了を惜しみ、惹かれてしまうのかもしれません。

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