そこに宝の山があれば、ゴールドラッシュの始まりは必然。ニンジャ250Rが(再)発見し、ニンジャ250によって深く広く採掘されていった“250フルカウルスポーツ”という金脈。世界を見据えた大量生産のコツをつかんだ競合メーカーは、矢継ぎ早に改良新型車を繰り出して日本市場を活発化させていきます。そして沈黙を守っていたあの会社が禁断の一手を!

ニンジャ250という巨魁【前編】はコチラ

2015年のニンジャ250カタログ

●2016年型のカタログより。キャンディバーントオレンジの単色は激シブですね……。なおタイ王国で造られていたニンジャ250は2015年モデルから日本での生産となりました。第2次安倍内閣が掲げる経済政策「アベノミクス」の影響で円安基調となり、輸入コストが高くなってしまう懸念が出てきたためですが、カワサキの世界戦略が見事に当たってタイ王国にある工場の生産能力が限界に近づいた……という側面もあったようです

 

忍者の衣を脱ぎ捨てた、裸の兄弟“絶斗”も登場!

2013年2月1日から日本で正式に発売が開始された「ニンジャ250/スペシャルエディション」(ABS スペシャルエディションは2月15日~)。いわずもがなの大人気となり、生産しているタイ王国から同年日本へ輸入される予定の枠数、約6000台が速攻でハケてしまいました……ということは、これまでのコラムで何度も述べてきたとおり。

ニンジャ250

●税込み53万8000円のプライスタグを引っさげて登場した2013年型ニンジャ250(STD)。このカッコいいフルカウルデザインが下のネイキッドモデルへと変貌するのですからたいしたもの。もちろん、設計初期の段階からこのような展開を見越していたからこその仕上がりです。なお、サイドカウルの平坦な部分が大きいこの車両は、“痛単車”のベースとしても大人気。可愛らしいキャラクターのカッティングシートが貼られた仕様を見かけた方も多いのでは?

 

そしてカワサキはまたしてもライバルメーカーを歯噛みさせる戦略を同時に行ってきます。

なんと250のネイキッド(ストリートファイター)モデルとして「Z250」も同日、市場へ投入したのです! 

Z250

●一説によるとニンジャ250が速攻で売り切れてしまったため、本来なら時間をずらして発売する予定だったZ250を急きょ前倒しして日本へ導入したとか。真偽の程は不明ですが選択肢が広がったことは素直に歓迎されました。

 

もちろんベースはニンジャ250なのですけれど、フルフェアリングを大胆に取り去って個性的な面構えのヘッドライト&メーターバイザーを採用。

Z250ヘッドライト

●前年となる2012年に海外向けモデルとして発表された「Z800」に寄せまくったデザインが精悍でした。ヘッドライトも個性的! この顔、筆者はどうしても仮面ライダーウィザードを想起してしまうのですけれど……(汗)

 

新たにおこされたラジエター周りを包み込むシュラウドやエキパイ前方を囲うアンダーカウルのデザインも秀逸で、タンクから後半、サイドカバーからテールランプに至るまでの構成がニンジャ250と同一であるにも関わらず、取って付けた感……いやカウルを外してムリヤリ裸にした感はまったくなく、誰がどう見ても素直に「最新のZだ」と認めてしまうスタイリッシュ仕上がりぶりでした。

よくよく比較してみればバーハンドルがパイプハンドルに変更され、ライディングポジションはよりアップライトなものへとモディファイ済み。

Z250ハンドル

●フルカウル版はセパレートのバーハンドル、ネイキッドにしたらアップライトなパイプハンドルに……。この流れはのちのCB250F、MT-25などでも採用されていきます。スズキは……フルカウル化してもパイプハンドル!

 

インストルメントパネルの配色もニンジャよりポップな感覚になっており、パッと見でも受ける印象が大きく異なります。

Z250メーター

ニンジャ250のインストルメントパネルと見比べていただくと違いは歴然。タコメーターの配色も液晶表示部のバックライトも変更(ホワイト→オレンジ)してくるという芸の細やかさ。何と言っても「Z」のロゴが効いてます

 

さらにサスペンションのセッティングはネイキッドモデルらしく街乗りを重視した軟らかめの設定へ……などなど数々の仕様変更が加えられつつ、お値段はニンジャ250のSTDモデルより5万円お安い、税込み48万8000円(ABS車は設定なし)と、しっかり50万円切りを実現!

時代がフルカウルを求めていたうねりの真っ只中であったため、2013年の販売台数は1728台で250㏄クラスとしては7位に留まりましたが、翌2014年は2054台で5位(※ともに二輪車新聞様のデータより)となり、以降もすっかり定着

心臓と骨格を流用しバリエーションを増やすことが普通に

他メーカーも相次いで追従し、フルカウルモデルから極力共用部分を残しつつネイキッド版を仕立てるという黄金のバイクブーム時代=1980年代後半に流行した手法完成度を高めて復活し、定番化していきます(同一エンジン〈骨格〉で、ネオレトロやオン・オフ、アドベンチャーにまで発展するケースも!)。

なお、ネイキッドモデルからスタートしたスズキのGSR250(2012年7月発売)は逆のパターンで、2014年1月にハーフカウルの「GSR250S」が、同年9月にはフルカウルの「GSR250F」が相次いで登場してきました。

GSR250S

●ど〜ですか、この「GSR250S」のおっ立ったスクリーンとハンドルは! ネイキッド版GSR250より48㎜アップして、なおかつ66㎜もライダー側へ近づけられたハンドルは見事に「くるしゅうない」殿様乗りを実現。スクリーンが立ち上がる角度もフルカウルの「F」より強く、高速巡航時の大敵である向かい風をヘルメットの上へと跳ね上げます。いや実際、クルージングはめちゃくちゃ楽でした

 

……正直なところ、お世辞にもファッショナブルとは言えないクセが強めな外観ながら(汗)、「ライダーを強い走行風から防護してあげたい」という開発陣の願いは見事に結実しており、ハンドル変更でグリップ位置を大きく高め前傾姿勢を緩くしたライディングポジションと相まって、250スポーツとは思えないほどのロングツーリング能力を発揮する“距離ガバ勢”御用達マシンとしてもジワジワ愛されていきました。

GSR250F

●ど〜ですか、GSR250をフルカウル仕様とした「GSR250F」は。上にある「S」と見比べていただければ分かるようにウインドスクリーンは形状が変わって精悍に(S比で49㎜低く、10度後傾)。ハンドルのバーエンドもSより24㎜も低められ、フルカウルスポーツを名乗るのに相応しい姿となりました。生産されている中国で白バイ用途で使われることも見越した頑丈な車体は、仮にキャンプアイテムをフルフル積載しても音を上げません。この美点はV-ストローム250に引き継がれましたね〜

 

ホンダは2眼式ヘッドライトで巻き返しを図る……が!?

ホンダだって負けていられません

2011年3月の登場から丸3年が経過した2014年の4月、超強力なテコ入れを実施! 

外装部品を一新し、ツリ目も凜々しい二眼式ヘッドライトを採用したことを筆頭にフロントフェンダー、フェアリング、タンク、サイドカバー、テールカウルなど、あらゆるパーツが形状の変更を受けたのです。

CBR250R

●ど〜ですか、お客さん! もう「VFR1200みたい」なんて間違っても言わせません。2014年の4月から発売開始された「CBR250R(型式名はMC41のまま)」はガチガチのCBRルックとカラーリングを身にまとって最前線へ投入されました。歴史にニラレバ……いや、たらればはありませんが、最初からこのスタイリングでデビューしていれば勢力図は変わっていたのかもしれません。いろいろと大変だったこの単気筒CBRで得た知見が、後日吹っ切れまくりの2気筒スーパースポーツ開発に生かされました

 

エンジンも吸排気系を中心に大きな改良が施され、なんと最高出力は従来型比2馬力アップの29馬力となり、単気筒ながら2気筒のニンジャ250(31馬力)に肉薄

その上で燃費性能まで向上させ、49.2㎞/ℓだった60㎞/h定地走行テスト値は50.1㎞/ℓへ! 

気合の入りまくったマイナーチェンジを受けて、ここから人気も大爆発……かと思いきや、意外なほどの低空飛行となってしまいます。

CB250F

●大きく張り出したシュラウドと小ぶりなアンダーカウル、そして印象的な表情のヘッドライトを得て2014年8月から発売が開始された「CB250F」。フルカウルからネイキッドへのモディファイを担当した可愛らしい女性デザイナーさんをドキドキしながら取材したっけなぁ。現在は単気筒エンジンのまま丸目ヘッドライトも印象的な「CB250R」へ代替わりしましたね

 

なぜか? 今回はヤマハの動向に大きな影響を受けたため……と断言してもあながち間違いではありますまい

実のところ2014年の250スーパースポーツ界は、なかなか姿を現さないラスボス、“アールニーゴー”に振り回された感があります。

レーサー仕様から姿を現したヤマハのニンジャ250対抗馬!

いやぁ、R25を待ちました待ちました……ブチ(←山口弁で「とても」の意)待たされたっちゃのう! 

経緯を軽くお話すると、もはや9年前ですか……と思わず遠い目になってしまう「第43回 東京モーターショー」2013年11月22日~12月1日の期間、東京ビッグサイトで開催)。

そのプレスデーだった11月20日に、とんでもない衝撃が走ったのです! 

一応バイク誌編集部員だった筆者も早朝から受付に並び、開場されるや小太り……いや小走りでヤマハブースへGO。

小太りが小走り

●「ヤマハがスゴイのを出すらしい」。そんなウワサを聞きつけて、小太り(?)小川が小走りでショー会場を駆け抜けます

 

目立つところに設けられた壇上には、白い布で包まれた1台の車両がすっくと立っておりました。

事前に配布された広報資料には入っていなかった謎の存在です。

横に張り付いていよいよ始まったブリーフィング時に、まさしくワールドプレミアの“サプライズモデル”として派手なアンベールを受けたのが、その名も「R25」という新開発された249㏄パラレルツインエンジンを搭載しているという触れ込みのレーサーでした。

R25プロトタイプ

●いやもうツッコミどころすら皆無の美しき250スーパースポーツレーサー「R25」。私を含めバイク雑誌の編集部員たちはヤマハ関係者を片っ端からつかまえてR25の詳細を聞き出そうとしますが、例外なく「いやいや、まだ詳細は何も決まっていないんですよ〜」とお茶を濁されます

R25マフラー側

●しかし、これまた例外なく「エンジンパワーですか? う〜ん……新規に開発までしてライバルに負けるようなことなんてあるわけないですよね?」と笑顔で切り返されるので、『うわぁお! こりゃぁニンジャ250の31馬力を上回る最高出力で登場することは確実だぞ』と色めき立ったことを強く記憶しております

 

そりゃぁもう、カッコいいのカッコよくないのって……。

ヤマハのモトGPマシンYZR-M1を彷彿させる“笑う口”のようなラムエア導入孔から始まり、シュッとしたテールカウルに至るまで、ため息をつくしかない完璧なプロポーション

R25ラムエアダクト

●いやもう、この笑う口ダクトの左右にヘッドライトが設定されるのだとばかり……。そのアイデアは令和の現行モデルに採用されましたね

 

R25テール

●跳ね上がったテールカウルの仕上がりも美しく、思わず取材を忘れてずぅ〜っと長時間眺めていたものです

 

そして「こちらのベースとなった完全新設計の250スーパースポーツを近いうち日本でも発売いたします」とぶち上げたのですから期待値は一気に沸騰しましたよ。

「印刷所の輪転機を速攻で止めて! カラーの大部分をR25の特集に差し替えるから製本&配本スケジュールも変更でヨロシク!!」と関係各位に連絡して……(※すみません誇張しました。20日ならここまで三文TVドラマのような切迫感は出ません)。

ともあれ12月1日以降に発売されたバイク雑誌にはショー会場で撮影した写真をベースにヘッドライトほか灯火類やバックミラー、それっぽいマフラー、ナンバープレートステーなどをCGで追加して「これがYZF-R25(仮称)の市販版予想図だ!」とした記事があふれかえったことを記憶しております。

“R25”前フリはバッチリ。手に入らない焦燥感が人気に拍車!?

読者からのアンケートハガキを見ても「欲しい!」、「出たらすぐに買う!」という熱いメッセージだらけ。

ロッシとR25

●苦難のドゥカティ時代を経て、2013年シーズンから再びヤマハでモトGPを戦うことになったスーパースター、バレンティーノ・ロッシ選手。「R25」のプロモーションはもちろん、市販版「YZF-R25」の宣伝でも大車輪の活躍を見せてくれました。このことが全世界的な大ヒットの一助になったことは間違いありません

 

ところが……待てど暮らせど市販版が出てきません

「2013年末に発表したのだから、2014年のだよね」

「あれ? が来ちゃった? まだ出ない……」

「もうだぞ。さすがに……オイ!」と購入希望者はひたすら待ちぼうけを食らうかたちに。

待ちぼうけ

●インドネシア工場で新たに生産される世界戦略車……。煮詰めに時間がかかったのは当然でしょう。現地で先行発売された車両でのテスト企画も大きな注目を集めたものです

 

それでもメーカーには特にこだわりなく「最新で最強が欲しい!」という浮動層はヤマハ謹製の真打ちモデルを待ち続け、その分CBR250Rが少なからず割を食うカタチとなったことは否めません。

2014_ニンジャ250 ABSスペシャルエディション

●2014年のニンジャ250はスペシャルエディションの“サイバー”なグラフィックも絶好調(写真はABS SE)。カワサキファンはメーカーを裏切らない固定層が多いので(!?)、ヤマハの動向に関係なく着実に売り上げを伸ばしていった印象です

 

ファンが待っただけのことはありました

2014年12月15日(ABS仕様は2015年4月20日〜)、ついに「YZF-R25」が日本にて発売開始されます。

YZF-R25

●「R25」で印象的だった“笑う口”ダクトは姿を消し、大きな横長の二眼ヘッドライトがにらみをきかせる市販版の「YZF-R25」。ナニハトモアレとにかくカッコいいのでヨシ!ということで落ち着きました(何が?)。価格は税込み55万6200円。ABS仕様は60万円台になってしまうのかな〜と思っていたら、59万9400円としてギリギリギリのギリ50万円台(笑)。

 

なんと最高出力は36馬力とニンジャ250の31馬力より、5馬力も上乗せしてきたのです。

そして何と言ってもスタイリングの美しさよ……

YZF-R25横

●軽量化と剛性バランスを兼ね備えた新設計のスチール製ダイヤモンド型フレームを採用し、車体の強度部材としてエンジンケースを機能させることで軽量化も実現。左右非対称のリアアームは長さ573㎜とロングで、コーナーや加減速時において効率よく駆動力がリアタイヤに伝わる設計とか。シート高は780㎜で、34度のハンドル切れ角と166kgの軽量ボディと相まって取りまわしもしやすい……と日常的な使い勝手にも最大限の配慮!

 

東京モーターショーで公開されたレーサー「R25」とは顔を始めとしていろんな部分が異なっていたため「思っていたのと違う!」という声はよく聞きましたが「カッコ悪くなった」という意見は筆者の知る限り皆無。さすがデザインのヤマハです。

「毎日乗れるスーパーバイク」というキャッチコピーとレース界のスーパースター、バレンティーノ・ロッシ選手を起用した広告戦略も見事なくらいツボに入り、ご存じのとおりYZF-R25は大ヒット

YZF-R25メーター

●多彩な情報を見やすく表示するマルチファンクションメーター。これまたカッコいい……。上部には任意のエンジン回転数でランプを点灯させたり消灯させたりできるシフトタイミングインジケーターランプも装備しています

 

2015年の250㏄クラスで堂々のベストセラーモデルとなり、販売された台数は7680台を記録!

ニンジャ250は2位につけますが販売台数は3503台と大きく差を付けられます。ちなみに4位はGSR250三兄弟で2536台、CBR250Rは1459台で7位に……(※販売台数データは二輪車新聞様の集計による)。

さて、一時代を画した“ニーゴーニンジャ”は、このまま地味な“その他大勢”的な存在になってしまうのか? 

YZF-R25が着火させたパワーアップ競争は他メーカーを巻き込んでしまうのか??

走り

●排ガス&騒音……厳しい環境諸規制をクリアしたのなら馬力に縛りは課されないというのが、現代ニッポンにおけるルールです。“R”付きから無印に代替わりしても31馬力を守っていたニンジャ250の反撃は? 一度やられたら倍返ししてくるホンダの動向は? 我が道をいくスズキの明日はどっちだ? 次回「疾風怒濤、今再びのパワー競争復活」編、乞うご期待!

 

そのあたりは次回、お届けいたしましょう。

あ、というわけで2013年からの3年間だけでも1万5000台以上を売り上げたニンジャ250は程度がよく、かつ価格もこなれた“掘り出し物”が数多く出回っております。国内直営300店舗オーバーのレッドバロンの良質な中古車なら、アフターサービスの心配もご無用ですよ。ぜひお近くの店舗で検索してみてくださいませ~!

(つづく)

ニンジャ250という巨魁【後編】はコチラ!

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