「ジェイドの仇はホーネットで討つ!」とホンダ開発陣が思ったかどうかは不明ですが、想定ほどの支持を得られなかった従来モデルの反省点を生かし、車名も一新された新世代の250㏄並列4気筒ネイキッドは、登場するなり引く手あまたな存在となります。いざ走らせてみても非常に個性的かつ安心感のあるハンドリングは“さすが”の仕上がりっぷりでした!
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「250㏄はこんなもの」という常識を超越
「……しっかし、太ってぇリヤタイヤだなぁ!」
魅力的なモデルが出たとき必ず実施されていたバイク雑誌“お約束”のライバル比較試乗インプレッション。
1996年の春、デビューしたばかりのホーネット広報車をホンダ青山本社から借り出してきた私が編集部まで戻ってくるなり、甲高い排気音を聞きつけた企画担当の先輩編集部員が玄関まで降りてきて車両をグルグル眺めたあと冒頭のひと言を発しました。
カタログや雑誌広告でバックシャンぶりを強調した写真を事前に何度も目にしていたとはいえ、極太リアタイヤを履く実車を生で見たときのインパクトは本当に強烈なものがあったのです。
リヤタイヤをのぞき込むだけでウットリできた!?
前回も述べましたが、250クラスの同ジャンルライバル車……いや、それらはもちろんのこと400㏄、750㏄のネイキッドスポーツ車でもタイヤ幅が140~150㎜くらい、しかもバイアスタイヤが主流だった時代です。
そこへCBR900RRファイアーブレードやCBR1100XXスーパーブラックバードなどと同じ180㎜の幅広タイヤが250㏄ネイキッドのホーネットに組み込まれたのですから、十二分に衝撃的なアピアランス!
かつラジアル構造のタイヤ採用により扁平率も55%だったため(ライバルが履くバイアスタイヤの扁平率は70%が大多数)網膜に映り込む黒いゴム製品のワイド感は超マシマシですヨ。
「リヤがこんなに太い250なんてマトモに走るのかねぇ?」と再び先輩。
その答えは翌日、インプレ取りのとき明らかとなりました。
ライバル群は代替わりしたり撤退したり……
爽快な景色とともにコーナリング撮影を行う場所にも困らない、いつもの山岳道路へ向かった取材班に車両移動用の人足として私も同行。
行きの高速道路では前年(1995年)2月に2代目となったスズキ バンディットのVCエンジン仕様「バンディット250V」を担当し、バルブリフトとバルブタイミングを可変させるという精緻なメカニズムの切り替わりっぷりを何度となく(意味も無く!?)堪能。
評価の高かったバンディットのデザインはさらに洗練されており、造形と塗装の美しさにも深く感動した記憶が残っております。
しかし……、ワインディングでホーネットを駆った瞬間に、意識はすべてそちらへと持っていかれました。
1980年代から進化した技術で前輪16インチ復活!
ホーネット開発陣がワインディングにおける味付けのテーマに掲げた、『250㏄の軽快な取り回しに、ビッグバイクの確かな手応え』が見事に具現化されているではありませんか!
リヤに配された極太ラジアルタイヤは、そのグリップ力の高さによってコーナリング時に絶大なる安心感をライダーへと与えてくれます。
しかし、扁平率の低いリヤタイヤは基本的に車体を立たせよう、立たせようとする作用も強いため、ことバンキング……倒し込みを行うときにおいてはダルな印象を与えかねません。
捲土重来をはかる新型車が250直4ネイキッドの中で群を抜く個性を獲得するため、リヤに180/55ZR17というタイヤを採用することは大前提。
ゆえに生じかねないネガティブな面をホンダは当時の知見を総動員して解消するべく努力していったのです。
初代CBR900RRと前後とも同じタイヤサイズに
具体的には、①フロント16インチタイヤをチョイス ②モノバックボーンフレームの導入 ③別体式ピボットブラケット構造を採用 ④リヤホイール慣性マスの向上……と、かなり、いや相当に大掛かりな対策の数々が実施されました。
①……ワイドなリヤタイヤと呼応させるためにフロントもワイドにしたい
大部分のライバルが110/70-17というサイズのバイアスタイヤを履くところ、ホーネットは130/70ZR16を選択。このサイズはまさにリヤタイヤ同様、初代CBR900RRファイアーブレードと同一というものでした。
1980年代初頭、初代のVT250FやRG250Γ、RZV500R、GPZ900Rなど多数のスポーツ車が採用して一世を風靡したフロント16インチタイヤ。
特に空気圧が低下していると低速時にフロントが内側へ切れ込んで不安定になるというネガな面なども取り沙汰され、1990年代を待たずに次々と採用車が姿を消していった技術的なアイコンが、ラジアルタイヤ採用と進化したシャシー構造との相乗効果でホーネットにて復活したのです。
太いラジアルタイヤを生かし切るシャシーを構築
②……フロントの分担荷重を軽減させるため、ヘッドパイプの位置を前進、かつロール方向の力を出すためエンジン搭載位置を高くする。それらの要件を満たすべく新設計のモノバックボーンフレームが導入されました
③……極太リヤタイヤから剛性の高いスイングアームを介して車体側へ伝わるさまざまな力をボルトオン別体式のアルミ製ピボットブラケットがフレームと足周りとのバランスを取りつつ受け止めるよう綿密に設計
④……増大した後輪の慣性質量を逆手に取ってリヤ周りの存在感をライダーへよりアピールできる減衰力セッティングを施したリヤショックユニットを採用(フレームとの締結はリンクレス構造)
これらを融合させた効果によって、従来のバイクでは味わえないライディングフィールを目指したのです。
いざ走らせてみると……最初の最初はアレレのレ!?
正直、峠道でバンディット250Vからポンっと乗り換えると、1発目のコーナーで「ぬぉあ!」と明らかに異なる操縦安定性に面食らったのは事実です。
狙ったバンク角までワンテンポ……いやツーテンポ遅れる、つまり思うとおりに曲がってくれません!
こわごわ走っていると記事執筆担当のバイクジャーナリスト氏から“止まれ”のサイン。
「オガワぁ、ここみたいにタイトなコーナーでは体重移動を大きめにして意図的にハンドルを操作するんだよ。そしたら全く違う世界が見えるぞ」
再スタート後、ありがたいアドバイスを意識しながらエイヤッと倒し込んでみれば、うまく狙ったバンク角へ到達しました。
そしてそこからの安心感はさすが前後極太ラジアル! タイヤが路面をガッツリつかんでいる感覚がリアルに感じられます。
感動しつつコーナーをクリアしてスロットルをパッと開ければグイッと車体が起き上がり、エイヤッとまた次のコーナーへと侵攻……。
一度コツをつかんでしまえば確かにエキサイティングではありませんか!
全方位でフレキシブルな好性能を発揮する
もちろん個性的で特別な操安性とは言ってもそこはホンダ製品(笑)、ビギナーがのんべんだらりと走らせることも許容するフトコロの深さを持ち合わせておりました。
でなければ、以降10年以上続く高人気モデルには成り得ません……。
次回、【後編】では今まであえて触れなかった(?)エンジンの魅力、そして現在へ至るブランドの発展ぶりについてもお届けいたしましょう!
あ、というわけで一大ヒット作となったホーネットは、販売されていたいずれの年式でも程度の良い車両が数多く生き残っております。レッドバロンなら全国300店舗超の直営店が所有する豊富な優良在庫が瞬時に検索でき、購入したあとのアフターサービスも万全(補修用のパーツ類も膨大にストック中!)ですので、ぜひお近くの店舗へ足をお運びください!