「ジェイドの仇はホーネットで討つ!」とホンダ開発陣が思ったかどうかは不明ですが、想定ほどの支持を得られなかった従来モデルの反省点を生かし、車名も一新された新世代の250㏄並列4気筒ネイキッドは、登場するなり引く手あまたな存在となります。いざ走らせてみても非常に個性的かつ安心感のあるハンドリングは“さすが”の仕上がりっぷりでした!

ホーネットというバックシャン【前編】はコチラ

ホーネット シルバー

●ホーネットのスタイリングコンセプトは“足まわりコンシャスなニューバランスデザイン”。前後ワイドタイヤの採用ありきでグラマラスなボディが作り上げられていったのです。さらに書けばHORNET(ホーネット)という車名はスズメバチに象徴される抑揚の効いたボディラインと併せ、クラスレスな走りの力強さをイメージしたネーミングとのこと。真上から眺めた車両の形状はなるほど「ボン・キュッ・ボン!」です(笑)

「250㏄はこんなもの」という常識を超越

「……しっかし、太ってぇリヤタイヤだなぁ!」

魅力的なモデルが出たとき必ず実施されていたバイク雑誌“お約束”のライバル比較試乗インプレッション。

1996年の春、デビューしたばかりのホーネット広報車をホンダ青山本社から借り出してきた私が編集部まで戻ってくるなり甲高い排気音を聞きつけた企画担当の先輩編集部員が玄関まで降りてきて車両をグルグル眺めたあと冒頭のひと言を発しました。

ホーネット2007

●ホンダ ホーネット2007年型カタログより抜粋。このアングルから愛車を眺めて悦に入った人は、のべ10万人以上存在しているはず!? スイングアームからステップまわり、ピボットブラケットへ鈍い輝きを放ちながら続くアルミパーツの連続っぷりが引き締まった印象を見る者に与えてくれます

 

カタログや雑誌広告でバックシャンぶりを強調した写真を事前に何度も目にしていたとはいえ、極太リアタイヤを履く実車を生で見たときのインパクトは本当に強烈なものがあったのです。

リヤタイヤをのぞき込むだけでウットリできた!?

前回も述べましたが、250クラスの同ジャンルライバル車……いや、それらはもちろんのこと400㏄、750㏄のネイキッドスポーツ車でもタイヤ幅が140~150㎜くらい、しかもバイアスタイヤが主流だった時代です。

YAMAHA XJ900Sディバージョン

●ん? 筆者の愛車であるスズキGSF1200S?? と思ったらヤマハXJ900Sディバージョン(1996年型:輸出車)でありました〜。なんで突然? はい、当時の大排気量車でバイアスタイヤを採用しているモデルはないかな、と探していたらたまたま見つかりまして(汗)。フロント120/70-17、リヤ150/70-17のスポーツバイアスタイヤを履き、軽快なハンドリングを実現していた……そうです。寝起きのガチャピンに見えるヘッドまわりがとてもステキです

 

そこへCBR900RRファイアーブレードやCBR1100XXスーパーブラックバードなどと同じ180㎜の幅広タイヤが250㏄ネイキッドのホーネットに組み込まれたのですから、十二分に衝撃的なアピアランス! 

CBR900RR

●1992年に衝撃的なデビューをはたしたホンダCBR900RR FireBlade(ファイアーブレード)。スーパースポーツの始祖とも言われている歴史的モデル。フロント130/70ZR16、リヤ180/55ZR17はホーネットと同一で、CBR開発で培った知見はホーネットの設計にも大いに生かされたはず! それはともかく、刷毛でザザザザ〜ッと塗りたくったようなデザインが今見るととても新鮮ですね〜。昨年発売されたファイアーブレード30周年記念車両でもリスペクト使用されていました

 

かつラジアル構造のタイヤ採用により扁平率も55%だったため(ライバルが履くバイアスタイヤの扁平率は70%が大多数)網膜に映り込む黒いゴム製品のワイド感は超マシマシですヨ。

「リヤがこんなに太い250なんてマトモに走るのかねぇ?」と再び先輩。

その答えは翌日、インプレ取りのとき明らかとなりました。

ライバル群は代替わりしたり撤退したり……

爽快な景色とともにコーナリング撮影を行う場所にも困らない、いつもの山岳道路へ向かった取材班に車両移動用の人足として私も同行。

行きの高速道路では前年(1995年)2月に2代目となったスズキ バンディットのVCエンジン仕様「バンディット250V」を担当し、バルブリフトとバルブタイミングを可変させるという精緻なメカニズムの切り替わりっぷりを何度となく(意味も無く!?)堪能

バンディット250V

●【当時のライバル その1】初代のスタイリッシュなフォルムを熟成させ、ラジアルタイヤ(フロント110/70R17、リヤ150/60R17)やアルミ製スイングアームなどを新採用。世界で唯一400ccモデルのみに採用していた“VC”を250ccモデルでも展開した車両として話題になったスズキ「バンディット250V」。VCエンジンの証でもある赤ヘッドが泣かせます。当時の価格は53万8000円。STDは49万9000円でした。個人(スズキ好き)的には「こりゃまた大ヒット間違いなし!」と思ったものですが、販売台数はイマイチ奮わないという結果に……ナゼだろうナゼかしら?

バリオス1996年

●【当時のライバル その2】カワサキの「バリオス」は1991年の登場以降、1993年型で40馬力へパワーダウンするものの、毎年のように細かく仕様が変更され(ハザードランプや燃料計の追加ほか)秀逸なデザインと相まって人気を維持。1996年には写真の赤白ツートーンカラーが1000台限定(当時価格51万円)で発売されるなど話題に事欠かなかったものの、翌1997年には後継モデルとなる「バリオスⅡ」が登場することになります(←詳細は近日中にアップ予定)

ヤマハTW200

●【当時のライバル!? その3】1991年に登場したヤマハ期待の250㏄並列4気筒エンジン搭載スポーツネイキッド「ジール」がイメージキャラクター加勢大周さんの事務所独立騒動のアオリを受けた……わけではないでしょうが不人気車の烙印を押されて早々に撤退しました。ライバルたちが闊歩するなかヤマハの再挑戦はあるのか……と思いきや梨のつぶて状態の1990年中盤。それもそのはず、1987年に登場していた「TW200(写真)」がカスタムのベース車両として大ブレイクを果たしておりウハウハ(?)状態に。さらに2000年には木村拓哉さん主演のテレビドラマによってTWブームに超絶ブーストがかかるわけですから、バイク(人)生何が起こるか分かりません……

 

評価の高かったバンディットのデザインはさらに洗練されており、造形と塗装の美しさにも深く感動した記憶が残っております。

しかし……、ワインディングでホーネットを駆った瞬間に、意識はすべてそちらへと持っていかれました

1980年代から進化した技術で前輪16インチ復活!

ホーネット開発陣がワインディングにおける味付けのテーマに掲げた、『250㏄の軽快な取り回しに、ビッグバイクの確かな手応え』が見事に具現化されているではありませんか! 

リヤに配された極太ラジアルタイヤは、そのグリップ力の高さによってコーナリング時に絶大なる安心感をライダーへと与えてくれます。

ホーネット リヤタイヤ

●しつこいようですが、ホーネットは“始めに極太リヤタイヤありき”から開発が始まったバイク。開発陣が追い求めた快感運動性能を維持&再現するためにも適切な交換サイクルで前後タイヤを新品にしてまいりましょう。もちろん走り出す前の空気圧チェックは忘れずに。特にフロントタイヤの空気圧が抜けていると、アノ“切れ込み現象”が出やすくなるよと後日取材したオーナーが語っていました

 

しかし、扁平率の低いリヤタイヤは基本的に車体を立たせよう、立たせようとする作用も強いため、ことバンキング……倒し込みを行うときにおいてはダルな印象を与えかねません。

捲土重来をはかる新型車が250直4ネイキッドの中で群を抜く個性を獲得するため、リヤに180/55ZR17というタイヤを採用することは大前提

ゆえに生じかねないネガティブな面をホンダは当時の知見を総動員して解消するべく努力していったのです。

初代CBR900RRと前後とも同じタイヤサイズに

具体的には、①フロント16インチタイヤをチョイス ②モノバックボーンフレームの導入 ③別体式ピボットブラケット構造を採用 ④リヤホイール慣性マスの向上……と、かなり、いや相当に大掛かりな対策の数々が実施されました。

①……ワイドなリヤタイヤと呼応させるためにフロントもワイドにしたい

大部分のライバルが110/70-17というサイズのバイアスタイヤを履くところ、ホーネットは130/70ZR16を選択。このサイズはまさにリヤタイヤ同様、初代CBR900RRファイアーブレードと同一というものでした。

ホーネット フロントタイヤ

●ワイドなラジアルタイヤは高いグリップ力と相まって接地感の高さをライダーへ伝えてくれるもの。そのメリットを押し出しつつ反面するデメリットをいかに解消していくべきか。開発陣は徹底的なテストを繰り返していったそうです

 

1980年代初頭、初代のVT250FやRG250Γ、RZV500R、GPZ900Rなど多数のスポーツ車が採用して一世を風靡したフロント16インチタイヤ

特に空気圧が低下していると低速時にフロントが内側へ切れ込んで不安定になるというネガな面なども取り沙汰され、1990年代を待たずに次々と採用車が姿を消していった技術的なアイコンが、ラジアルタイヤ採用と進化したシャシー構造との相乗効果でホーネットにて復活したのです。

太いラジアルタイヤを生かし切るシャシーを構築

②……フロントの分担荷重を軽減させるため、ヘッドパイプの位置を前進、かつロール方向の力を出すためエンジン搭載位置を高くする。それらの要件を満たすべく新設計のモノバックボーンフレームが導入されました 

ディメンション図

●1㎜単位、0.1度単位で練り込まれていった車体ディメンション。操縦安定性を形作るのはキャスター&トレールだけの問題ではなく、エンジンの搭載位置や車体前後にある重量物(テールカウルやマフラー)なども関わってくるセンシティブなものなのです

 

③……極太リヤタイヤから剛性の高いスイングアームを介して車体側へ伝わるさまざまな力をボルトオン別体式のアルミ製ピボットブラケットがフレームと足周りとのバランスを取りつつ受け止めるよう綿密に設計

フレーム

●重要な図版なので前回に引き続き紹介。ある意味、ガチガチに固めすぎないシャシーを採用することで適度な“しなり”を作り、高荷重時の旋回性を担保していたのかもしれません。いやぁ、バイクって本当に奥が深い……

 

④……増大した後輪の慣性質量を逆手に取ってリヤ周りの存在感をライダーへよりアピールできる減衰力セッティングを施したリヤショックユニットを採用(フレームとの締結はリンクレス構造)

これらを融合させた効果によって、従来のバイクでは味わえないライディングフィールを目指したのです。

いざ走らせてみると……最初の最初はアレレのレ!?

正直、峠道でバンディット250Vからポンっと乗り換えると、1発目のコーナーで「ぬぉあ!」と明らかに異なる操縦安定性に面食らったのは事実です。

狙ったバンク角までワンテンポ……いやツーテンポ遅れる、つまり思うとおりに曲がってくれません! 

ワインディング

●峠道でバンディットがみせた走りはスッキリしょうゆ味。細身の前後ラジアルタイヤとそれを前提とした車体構成がクセのない爽快感を与えてくれました。ただ、コーナリングの途中でパシューン!とVCエンジンが切り替わるときは、ちょっとビビりましたが(笑)

 

こわごわ走っていると記事執筆担当のバイクジャーナリスト氏から“止まれ”のサイン。

「オガワぁ、ここみたいにタイトなコーナーでは体重移動を大きめにして意図的にハンドルを操作するんだよ。そしたら全く違う世界が見えるぞ」

再スタート後、ありがたいアドバイスを意識しながらエイヤッと倒し込んでみれば、うまく狙ったバンク角へ到達しました。

そしてそこからの安心感はさすが前後極太ラジアル! タイヤが路面をガッツリつかんでいる感覚がリアルに感じられます。

メーター

●なんてったって常用可能回転域が1万6000回転まであるのですから、ガンガンに回して甲高いエキゾーストノートに酔いしれながらコーナリングするもよし。数段上のギヤをあえて選んでのんびりコーナーをクリアしていくもよし。その場の気分によってどんな走り方も選べる多様性もまたホーネットの魅力でした

 

感動しつつコーナーをクリアしてスロットルをパッと開ければグイッと車体が起き上がり、エイヤッとまた次のコーナーへと侵攻……。

一度コツをつかんでしまえば確かにエキサイティングではありませんか! 

全方位でフレキシブルな好性能を発揮する

もちろん個性的で特別な操安性とは言ってもそこはホンダ製品(笑)、ビギナーがのんべんだらりと走らせることも許容するフトコロの深さを持ち合わせておりました。

でなければ、以降10年以上続く高人気モデルには成り得ません……。

ホーネットDX

●登場から10年以上経過した2006年モデルの「ホーネット・デラックス」。ここまでに各部の質感を高める細やかな仕様変更が多々施されつつも、基本的な車体構成は不変。まさしくスズメバチっぽい写真のパールフラッシュイエロー×ブラックがこの年だけの設定だったのは不思議と言えば不思議……。当時価格は58万2750円でした

 

次回、【後編】では今まであえて触れなかった(?)エンジンの魅力、そして現在へ至るブランドの発展ぶりについてもお届けいたしましょう!

あ、というわけで一大ヒット作となったホーネットは、販売されていたいずれの年式でも程度の良い車両が数多く生き残っております。レッドバロンなら全国300店舗超の直営店が所有する豊富な優良在庫が瞬時に検索でき、購入したあとのアフターサービスも万全(補修用のパーツ類も膨大にストック中!)ですので、ぜひお近くの店舗へ足をお運びください!

ホーネットというバックシャン【後編】はコチラ!

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