コスト面、排ガス浄化面、対振動騒音対策などで有利な面が多いパラレルツイン(並列2気筒)エンジンばかりがもてはやされる令和の世。そんななか、遠くからも聞こえるホーネットの甲高い排気音はとても印象に残ります。周囲を一瞬で平成へと引き戻す珠玉の250㏄並列4気筒エンジンいかにして生まれたのか……紐解いてまいりましょう!

ホーネットというバックシャン【中編】はコチラ

ホーネット2005

●この写真のさらに上、タイトル文字が載っかっている部分に使われている赤一色の車両を見て「ん? コレって250?」と思った人は鋭い! ハイ、そちらは1998年から発売された「ホーネット600(PC34)」なんですね。250と同じ基本構成を持つシャシーに1995年型CBR600Fの並列4気筒エンジンを搭載したという異色のモデル(詳細は記事後半)。「なんか違うぞ!?」と興味を持っていただくための仕掛けだったのです。で、すぐ上が正真正銘250の2006年型「ホーネット・デラックス」。なおデラックス(DXと表記することも)とはツートーンカラーと前後ホイール側面にストライプを採用する仕様でした

 

先行を許したバイク界の盟主が満を持して市場へ投入

1996年登場のホーネットが搭載していた249㏄水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブエンジンのルーツは1986年にデビューした「CBR250Four(MC14)までさかのぼれます

CBR250FOUR

●いや〜「清楚」という感想しか出てこない端正かつクリーンな「CBR250Four」のスタイリング。なぜかこの写真を見るたび名探偵ホームズのハドソン夫人を想起してしまうのは私の性癖がねじれているからでしょうか(当時価格は54万9000円)。黒光りしているインライン4エンジンは最高出力45馬力を1万4500回転で、最大トルク2.5kgmを1万500回転で発生しました。先行するヤマハのFZ250フェーザーを追撃すべく登場したら、相手はサクッと丸目2灯フルカウリングという“4ストレーサーレプリカ”の正装を身に付けたFZR250へと進化して、さらなる超絶大人気モデルへと上り詰めていってしまいます(涙)

 

時はまさに空前のバイクブーム真っ只中

日本国内だけで200万台以上の二輪車が販売(ピークは1982年の327万台! ちなみに2022年は38万台弱……)されていたのですから4メーカーはあらゆる排気量とカテゴリーで積極的な開発を行い、魅力的なモデルを大量に輩出しておりました。

その中で新たな戦いの場として生まれてきたのが250㏄並列4気筒エンジンを積むスポーツバイクというジャンルで、スズキがGS250FWで先行し、ヤマハがFZ250フェーザーで追随するとこちらが大ヒットモデルへと成長を遂げて市場を大きく広げます

ライバルメーカーにしてやられた状況を知った本田宗一郎氏が激昂し、開発陣にハッパをかけた……という話がまことしやかに語られ続けているのも、CBR250Fourがいつもよりさらに輪をかけたホンダ入魂のモデルだったからです。

4スト250モデルとしては初となるアルミツインチューブフレームにS字断面ホイール+前輪ダブルディスク+前後エアロフェンダーなど最先端装備をテンコ盛りで導入。

CBR250FOURスペシャル

●CBR250Fourは1986年4月25日にデビューしたと思ったら、初期受注が奮わなかったせいなのか同年7月11日に上写真の「CBR250Four スペシャル・エディション」が2000台の限定で発売されます(当時価格55万9000円)。専用の特別色とアルミ風サイレンサーカバーを新採用し、オプションだったアンダーカウルを標準装備するという内容でした。厚着しておめかししたハドソン夫人……!?

 

そして何と言っても完全新設計で45馬力を発生する“カムギヤトレーン”を採用した直4エンジンが、走りに燃えるユーザーたちの注目を集めました

ちなみにカムギヤトレーンとは4ストエンジンにおいて燃焼室の吸気弁&排気弁の動きを司るカムシャフトを回転させる動力の伝達に、通常のカムチェーンではなくギヤ(歯車)を利用する方式のこと。

通常のチェーン駆動に比べて高回転域においてもより正確なバルブタイミングを実現できるという触れ込みで1984年の「VF1000R」で市販車に初投入されて以降、CBRシリーズ(一部CB)やVFR&RVFシリーズへ積極的に導入されてきたホンダお得意のテクノロジーです。

カムギヤトレーン

●これぞカムギヤトレーンの心臓部。高級機械式腕時計ムーブメントのような趣きもございますね。最近はCBR1000RR-Rなどのモデルがカムシャフトの駆動にチェーンとギヤを組み合わせた“セミカムギヤトレーン”を導入することが増えているので、ホーネットのそれは“フルカムギヤトレーン”と呼称するべきなのかもしれません。この機構が“ならでは”な高周波サウンドを奏でるのです。しかしながらCB400SFはあえて前身となるCB-1のカムギヤトレーンを捨ててチェーン駆動を採用し、鷹揚なフィーリングを実現させて絶大なる支持を得ました。モデルごとに“正解”は異なるといういい例ですね

 

その構造上どうしても発生してしまう独特でハイトーンなギヤ鳴り音は、積極的なライディングを楽しみたいライダーにとってエンドルフィンドーパミンといった脳汁(?)をドパーンと放出させる魅惑のサウンドとして大歓迎されました。

250並列4気筒車が年に2万台以上売れた時代……

さて、鳴り物入りで登場したCBR250Fourでしたが、走行性能は申し分なかったもののハーフカウルというスタイリングとドラム式リヤブレーキというところがメイン購買層の不評を買ってしまい、わずか1年で大幅なテコ入れを敢行し、フルカウル&リヤブレーキのディスク化を果たした「CBR250R(MC17)」へと進化

CBR250R

●夜の街で輝く華となったハドソン夫人……(しつこい)。公式リリース的にはCBR250Fourに“タイプ追加”されたことになっている「CBR250R」。当時価格55万9000円は上で紹介しているスペシャル・エディションと同一なのですがフルカウル化、リヤディスク化のみならずエキパイのステンレス化、段付きシート化にキャブのボア系拡大化、トドメのエンジン内部吸排気バルブの細軸化(4.0→3.5㎜)、などでレッドゾーン開始が1万7000回転→1万8000回転化と“タイプ追加”という言葉を完全に履き違えている内容で超超超人気モデルへ〜

 

……するやいなや年間販売台数が2万台を超えるという伝説的な大ヒットを記録いたしました! 

今聞くと「ナンデヤネン」な状況ですけれど熱狂的バイクブームが生み出した“スペック至上主義”というモンスターは、パワーや装備でライバルから少し後れを取っただけで、該当したマシンへさっさと〈不人気車〉という烙印を押す力を持っていたのです。

ですがその逆もしかりでジャンルを牽引する存在となったCBRは、勢いそのままマタマタ1年後の1988年に同じ車名ながら精悍なデュアルヘッドライトを採用した「CBR250R(MC19)」へと化身いたします(つくづくスゴイ世相でしたね)。

CBR250R_1988

●はい、紛う事なきレーサーレプリカの姿を身にまとった「CBR250R」です(当時価格58万9000円)。平成の世にも同じ車名を持つモデル(MC41)が単気筒エンジンを搭載して登場してしまったのでジェネレーションギャップを克服するためにも型式名まで覚えざるを得なくなりました。さて、昭和版に話を戻しますとフロントブレーキのダブルディスク→シングルディスク化が再び“スペック至(以下略)”な方々の不評を買ってしまったようで、MC17ほどの勢いは感じられませんでした。ちなみにテールカウルに書かれている「Hurricane(ハリケーン)」は当時CBRシリーズに付けられたペットネームで「E電」のごとく広がらず

 

1990年には最終形態となるLCGフレーム採用の「CBR250RR(MC22)」へと生まれ変わり、昭和後期~平成初期というレーサーレプリカ最高潮期からブームの終焉までをカムギヤトレーンの高周波サウンドとともに駆け抜けていきました。

CBR250RR

●はい、俗称ニダボこと「CBR250RR」です(当時価格59万9000円)。平成の世にも同じ〜〜と上記モデル同様なことを書くのはやめましょう。現行のニダボ(MC51)は並列2気筒ですけれど。さて、MC22はフロントダブルディスクです、アルミ製LCG(LOW CENTER OF GRAVITY:低重心の意)ツインチューブフレームです、スイングアームはガルアームです、完璧。人気の出ないはずがない高い完成度を誇っていたのですけれど時代はすでにネイキッドタイフーンの暴風雨圏内となっており、公式リリース内にある年間販売計画は1990年型が2万2000台だったのに対し、カラーリングの変更をした1992年型だと4000台へトーンダウン。熟成の名のもとに40馬力化を行った1994年型では2500台までシュリンプいやシュリンク……。並列4気筒のニダボ、借金してでも買い占めておけばよかったなぁ(←遠吠え)

高コストな4発エンジン。なんとか活かす方法はないか!?

そんな並列4気筒エンジンを積むCBR250シリーズでしたけれど馬力規制強化のアオリを受け、1994年のマイナーチェンジで45→40馬力化されたあとは静かにフェードアウトしていきます。

改めて言うまでもなく、ブランニューエンジンの開発には多大なるコストがかかるもの。

ホーネット エンジン

●SPレースなどでのガチンコ勝負でも勝てる高負荷耐久性を備えつつ、ビギナーのおぼつかない操作でも極力エンストしないフレキシブルさも有し、ロングツーリングでも楽しめるレスポンスと好燃費さえ両立させていく……。4つのピストン、2本のカムシャフト、16本のバルブなどを精緻な“せらしギヤ”を組み合わせたカムギヤトレーンで同調させて、数十万㎞単位の使用にも耐えるロングライフまで実現させているわけですから冷静に考えるとアンビリーバブル! G-SHOCK並みにタフな機械式腕時計……みたいなものでしょうか(汗)

 

せっかく苦労して生み出した250のインライン4という希有なパワーユニットをレーサーレプリカブームとともに終わらせるのはもったいない……。かくいう思惑もあったのでしょう。

「レプリカがダメならネイキッドに使えばいいじゃない」by マリー・アントワネット!?)とばかり、バンディット、バリオス、ジェイド、ジールが出てきたことは前々回にご紹介したとおり。

マリー・アントワネット

●フランス革命の引き金になったとされる「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」。この言葉、実はマリー・アントワネット王妃が言ったものではないとか。興味が出てきた方は調べてみてください

 

そのような背景のもとに1996年ジェイドの後を受けて250並列4気筒ネイキッドジャンルへ降臨したのがホンダ・ホーネットというわけです。

レースで鎬を削ったノウハウを扱いやすさの方向へ転化

CBR250Fourのデビューから9年間で約11万台に搭載されてきた名エンジンMC14E型にはさらなる改良が施され、ジェイド向けの仕様より低中回転域トルクを向上させるとともに、走らせて楽しい“吹け上がり感”を演出するため、あえて幅の狭いトルクの谷を設定するという芸の細かさまで具現化されたのです。

ホーネット 2006

●平成18年排出ガス規制を適合させずに生産終了となる前、最後のマイナーチェンジを行った2007年型のホーネット・デラックス(当時価格は58万2750円)。なお、2000年から2006年まで税抜き1万円高で28タイプのカラーバリエーションを選べるホンダの十八番(おはこ)……“カラーオーダープラン”が設定されていたため、見慣れないカラフルな中古車が多数存在するのもホーネットの特徴と言えます

 

実際、エンジンを掛けて右手を少しひねっただけでタコメーターの針が生き物のように飛び跳ねるという回転上昇の軽やかさはライバルに勝っていた印象があり、極低速域から必要にして十分なトルクも湧き出ていました。

かつ変速機の1~5速がジェイド用よりローギヤード化されており、街中をミズスマシのごとく走らせることも可能だったのです。

ホーネットギヤ比

●6速はオーバードライブとして淡々とした高速巡航も楽しめるジェイド同様高めのギヤ比とされていたのです。

 

そしていざワインディングに到着し、性能をフルに解放させたときには天をつんざくエキゾーストノートとともに180/55ZR17極太リヤタイヤを介して力強い推進力を発揮!

パイプの長さ、曲率、連結&集合方法、サイレンサー内部構造、エンド部の形状に至るまで計算し尽くされた1本出しアップマフラーが“抜け”の良さでエンジン性能をサポートしているようでした。

ホーネットマフラー

●4本あるエキゾーストパイプ間を連結することで、開発陣が意図する回転数とトルクを実現。♯1-4連結は低回転域、♯2-3連結は中回転域のトルクアップを図ったものとか。そのエキパイ集合部をカラーで絞ることで最大限の脈動効果も発揮……。こだわりが詰まっているのです

 

音質もまた極上! 

より高音を強調するサウンドが好みだとバリオスに軍配が上がった記憶もありますけれど、“カムギヤ”とのハーモニーを望むならホーネット一択です(笑)。

前後ともワイドなラジアルタイヤを履いたシャシーが生む個性的なハンドリングを我が物としつつ、レッドゾーンが1万6000回転から始まる超高回転エンジンを存分に回しながら快音とともに駆け抜けるワインディングは、それはもう格別でしたよ〜!

“ホーネット魂”を昇華させた兄貴分もゾクゾク登場!

ホンダの執念(?)が実り、ホーネットが数多いライダーの支持を得る人気モデルへ成長したことを受けて、1998年に「ホーネット600(PC34)」が、2001年には「CB900ホーネット(SC48)」が相次いで国内正規販売車両として登場したことは覚えておきましょう。

ホーネット600

●1997年の東京モーターショーに参考出品され話題沸騰。翌年3月に発売開始された「ホーネット600」(当時価格62万9000円)。CBR600F譲りの599㏄水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジンは最高出力69馬力/1万1500回転、最大トルク5.3㎏m/7500回転というパフォーマンスを発揮。車両重量は195㎏、シート高は790㎜。ベースとなった250より倍以上の排気量であるため存在感を増したエンジンとマフラー、そしてダブルディスク化されたフロントブレーキなどが相まってマッチョなイメージが増大。スズメバチというよりクマバチのほうがイメージに合うような気がしたものです

ホーネットS 2000

●ホーネット600は日本だとソコソコ、欧州では想定外のヒットとなったため、高速巡航を見越したハーフカウルを装着した「ホーネットS(なぜか600は付かない)」も2000年3月に登場。当時価格は64万9000円でシャシーやエンジン性能はSTDから不変ながら車両重量は197㎏、シート高は760㎜と変化しています。そして何よりトピックはフロントタイヤに120/70ZR17サイズが導入されたこと。リリースには「前後17インチタイヤで落ち着きのあるハンドリングを実現」とあるのでチョイと複雑な心境になった記憶がございます。なお、日本では正規ラインアップ落ちしたホーネットというブランドは欧州やアジア圏などで根強く継続。2023年にはブランニューモデル「CB750ホーネット」が登場して日本導入もウワサされるなど、話題は尽きません!

CB900ホーネット

●600シリーズの欧州大ヒットを受けて、2001年ついに登場した第三のホーネットが「CB900ホーネット(SC48)」。1998年に発売したCBR900RR(SC33)の918㏄直4エンジンをベースにした日本仕様は最高出力88馬力を9000回転、最大トルク8.6㎏mを5500回転で発生する力感に満ちた出力特性を実現。シャシーは600のものを強化改良した仕様で前後17インチタイヤを採用し、車両重量は218㎏でシート高は795㎜、タンク容量は19リットルに! 当時価格は82万円でした。2004年で日本仕様は生産終了となり、2007年型をもって海外向けもディスコン。実質的な後継機種と言っていい「CB1000R」へバトンを譲ったのでした

 

個性的で軽量コンパクトなハイパワー車を探している人に超“ハマる”モデルであることは請け合いです。

話を再び250のホーネットに戻しますと、2007年の生産終了までメカニズム的な大きな変更が行われたのは平成10年排ガス規制へ適合させた1999年と、サスセッティング変更やシート高を760→745㎜にする改良などが行われた2003年で、あとはカラーリングがらみの小変更がほとんどですから中古車を選ぶときも、あまり迷わずに済むところが助かります。

ぜひアナタだけのホーネットと巡り会ってくださいね!

では次回から、250並列4気筒ネイキッドジャンルで人気と長寿を誇った「カワサキ バリオス」について語らせていただくといたしましょう。

あ、というわけで1本出しアップマフラーが特徴のホーネットですが、人気車だけに左右2本出しやあえてのダウンタイプなどバラエティに富むリプレイスマフラーが販売されてきました。レッドバロンの中には中古マフラーや各種バイクパーツを販売している「パーツショップ日名橋」もありますので要チェック。車両検索、カスタム相談、旅仕様化へのアイデアなど、どんなことでも各レッドバロンのスタッフへお尋ねください!

バリオスという永遠のジャジャ馬【前編】はコチラ!

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