すでに広く知られているとおり「ホーネット(Hornet)」とは英語でスズメバチを意味する言葉。実質的な先代車となる端正なスタイリングの「ジェイド」とは一線を画す“攻めた”デザインは、幅広いライダーの注目を集めて一躍人気モデルの座をGET! 後に600、900まで登場し、今また最新モデルに使用されるというブランドの礎となったのです。

ホーネットカタログ 2000年版

●2000年モデルのカタログより。どう見てもバックシャンであることを自認しているビジュアルで、しかも下からアオリまくっている(リヤショックユニットのバネ塗色まで一目瞭然)構図が印象的ですね。「アップマフラーはタンデムするライダーが火傷しないのか?」と不安に思われる向きもいらっしゃるようですが、そこはそれ天下のホンダ製品、ノーマルマフラーなら適切なウエアを着用していれば全く問題ありませんっ

 

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強心臓の250ネイキッド戦線へハチの一刺し!?

その名も「ホンダ HORNET」

ホーネット赤色

●CB400SFの印象も想起させる車体の前半部分。後になって知りヒザを叩いたのですけれど、やはり「PROJECT BIG-1」の流れがデザインに色濃く反映されたのだとか。グラマラスな造形の燃料タンクはジェイド比で2リットル増量された16リットルの容量を誇り、ロングツーリング派にも熱く支持される要因となりました

 

1996年の2月に発売が開始された本田技研工業株式会社期待のブランニューモデルには、排気量もCBウンタラといった表記もなく“スズメバチ”を意味する「ホーネット」という、ともすれば一部の人に忌避されそうな名前が付けられていました。

車名ロゴ

●米海軍(海兵隊)が運用する戦闘攻撃機「F/A-18」の愛称ほか軍艦名、映画カーズにも出てきたクルマの名前、タミヤのRCカーおよびミニ四駆などでも使われてきた名称でもあり、趣味人にとってはおなじみ(?)な「ホーネット」というネーミング。カラーリングの識別などに使われる“モデルコード”では「CB250Fうんたら」が使われていたので、CBシリーズに属しているモデルであることが分かります

 

前身となったモデルが間違いなく多くの人に好印象を持たれるであろう「ジェイド(宝石の翡翠〈ヒスイ〉)」というネーミングでしたから変われば変わるものです。

ジェイド最初期

●これが1991年、デビュー時のホンダ ジェイド。当時の小中学生に「バイクの絵を描いてみて〜」とお願いしたら、94%はこのシルエットになったはずの「二輪車と言えばコレでしょう!」的なスタンダードデザインです。「それのどこが悪い」と言われたら何も言い返せないのですけれど(汗)、印象には残りづらいのかなぁ、と。まさに翡翠イメージそのものだったタスマニアグリーンメタリックの塗色は本当に美しかった……。税抜き当時価格は47万9000円。

 

というのも250㏄4ストロークレーサーレプリカ用に開発された並列4気筒エンジン(GSX-R250R向けですね)をヨーロピアンでシャレオツなネイキッドボディへ包み込んだスズキの「バンディット250」が1989年12月に登場してギョーカイの予想を上回る人気を獲得したことがひとつの契機に……。

バンディット250 1989

●400と同時に開発された「バンディット250」。“艶”をキーワードにボリューム感や曲線美を意識しつつ遊び心を持たせたデザインを採用。スリングショットキャブレターを採用した直4エンジンは最高出力 45馬力/1万4500rpm、最大トルク 2.6kgm/1万500rpmを発揮しました。税抜き当時価格は51万5000円。センタースタンド標準装備が泣かせます。いや本当にスズキとは思えない(いい意味)美しさ……。なお、写真はセパレートハンドル仕様車で、5ヵ月後の1990年4月にはアップポジションのパイプハンドル仕様車が追加されております

 

同じ年、1989年4月にデビューしたカワサキ ゼファーの快進撃は250㏄クラスにもレーサーレプリカ→ネイキッドへの大転換をもたらしていたのです。

使い勝手を考慮したらソッポ向かれた翡翠の涙

先行したバンディット250へ対抗するかのようにホンダは1991年3月発売の新型車として「ジェイド」をリリースするものの、同時期に登場したカワサキ「バリオス」の後塵をも拝する結果を突きつけられます(同年2月にはヤマハから「ジール」もリリースされていました)。

ジェイド/S

●発売開始からたった1年強、1992年4月のマイナーチェンジと同時に追加されたJADE/S(ジェイド・スラッシュエス)。写真は一番ビビッドなキャンディブルゴーニュレッド×ブラックの仕様で、CB400SFを彷彿とさせるツートーンカラーの採用が印象に残ります。エンジンはグレーメタリックに塗装されてメーターボディのメッキ化やラジエータ両サイドにもバフ掛けメタルを配するなど化粧も進化。清楚なお嬢様が一気に積み木をくずして(分かりますか?)しまったかのような印象を受けたものです……。なお、税抜き当時価格は49万9000円でした

バリオス 1991 青

●1991年型カワサキ「バリオス」。車名はギリシア神話に登場する不老不死の神馬から(なお、BALIUSとはそのラテン語経由の英語表記だそうです by Wikipedia)。燃料タンク上の跳ね馬エンブレムがイケてますね。水冷エンジンなので「ゼファー250」にはならない。ならばとばかり車名に通じる馬の隆々とした筋肉美を落とし込んだ抑揚のあるボディーワークが秀逸で人気が出たのもさもありなん。税抜き当時価格は49万9000円ナリ

 

バンディット、バリオスがネイキッドながらレーサーレプリカ群と同様の45馬力を絞り出していたのに対し、ジェイドは扱いやすさを高めるために低中速トルクを増強するべく、ベースとなったCBR250RR(MC22)のカムギヤトレーンエンジンをキャブレターからカムシャフト、吸排気系、2次減速比などに至るまで大幅に手を加えて40馬力までデチューン(ジールも40馬力組)

ヤマハ ジール

●3メーカーを紹介したら、やはりヤマハも……ということで、1991年型「ジール」です。正式名称はFZX250 ZEAL(3YX)で、今見ると不人気車になってしまった理由が分からない。「ジャンプするイルカ」がイメージだったという外装類も、特徴的なマフラーも2本ショックの採用も大いにアリかと。当時人気絶頂だった爽やか男性タレント加勢大周さんを起用した広告も悪くなかったと思うのですが、ジェイドと同じく新馬力規制を先取りして40馬力で登場したことがマズかったのか??? 税抜き当時価格は53万9000円

 

実際にバイク雑誌の仕事として4車を乗り比べる機会に恵まれたのですが、ジェイドの乗りやすさが群を抜いていた記憶は鮮明に残っております。

派手(?)なツートーンカラーを追加するも……

スズカワ45馬力組はガンガン回せる状況下だと最高に楽しいのですけれど、街乗りでは多少気を遣う面もありました。

かくいうホンダの本気が詰まったジェイドは、しかしながら端正すぎるクリーンなスタイリングと最初期のカラーリングが悪く言うと“地味”そのもので、まだまだスペック至上主義の根強く残っていた時代背景までジェイドに仇をなしてしまった……と言えるのかもしれません。

なお、1993年型からはバンディット、バリオスともに(もっと言えば2ストレーサーレプリカ群も含めて250㏄の全モデルが)新馬力規制により40馬力化されました。

ライバル全車が最高出力的には同じ土俵に立ったものの勢力分布図が劇的に変化するまでには至らず、ジェイドは静かに姿を消していったのです。

相撲イラスト

●土俵の上はガチンコ実力勝負の世界。バイクのシェア争いでウイナーとなるためには外観と走行性能だけでなく時代の流れまで見極めて、味方に付けなければなりません……

 

いや、本当にジェイドは良いバイクでしたよ。

「やられたらやりかえす、倍(ク)返しだ!」

「吹っ切れたホンダは恐ろしい」とは、NSR250Rの回CB400SFの回などでも述べてきたことですが、この250㏄並列4気筒エンジンネイキッドモデルのシェア争いでも、やはりホンダはライバル以上の魅力を放つモデルをブッ込んできました

それがホーネット「捲土重来、ホンダの好きな言葉です」シン・ウルトラマン参照)。

ホーネット 2007年カタログ

●2007年型カタログより。とにかくホーネットは後方からの写真こそ正義(笑)。モーターサイクリスト誌の取材時もどうやって撮影したら格好良く見える構図になるかを、先輩カメラマン諸氏とケンケンガクガクしながら決めていった記憶がございます。サイレンサーとスイングアームが浮き出るようにレフ板やストロボを配置したり前ブレーキを見せるためハンドルを右に切ったり試行錯誤したなぁ(遠い目)

 

開発のキーワードは「クラスを超えたインパクティブ・ネイキッド・ロードスポーツ」で、既成概念にとらわれないボリューム感がスタイリングのキモに。

すでに大ヒットモデルとなっていたCB400SFを彷彿とさせる肉感的な燃料タンク採用はもちろんですけれど、ホーネットのホーネットたるゆえんはリヤセクションにこそあり! 

ホーネットのタンク

●250㏄バイクとしては幅広ながら、形状が適切でニーグリップもしやすいホーネットの燃料タンク。このアングルから見ると本当にCB400SFっぽい形状ですね。1万6000回転からレッドゾーンの始まる回転計も180㎞/hまで目盛り数値のあるスピードメーターもアナログ式で見やすいものでした

 

並列4気筒エンジンからニョキニョキ伸びる4本のエキゾーストパイプがエンジン下部で姿を消したと思ったら、銀色に光輝くアップマフラーのサイレンサー部分がシュッとテールカウルに沿って現れ、天に向かって突き出てくるではあ~りませんか。

ホーネット リヤビュー

●音量を抑えることはもちろん、音質にもこだわったホーネットのアップマフラー。デザイン的なものだけではなく心地よい排気音がライダーの耳に届きやすいというメリットも見逃せません。タンデムシート部の裏側には回転収納式の荷掛けフックが4本用意され、積載性にも十分配慮していたのです

 

まさにスズメバチが持つ毒針イメージの具現化です!

全身が“クラスレス”な魅力に満ちあふれていた!

そして何と言っても180/55ZR17という極太リヤタイヤの導入がホーネットの個性を形作る決定打となりました。

同ジャンルライバルのリヤタイヤ幅は140~150㎜がほとんど

さらに言えば同時期のCB400SFも140㎜幅でバイアスタイヤだった時代です。

そこへリッタースーパースポーツ同等(CBR900RRファイアーブレードと同じ!)の“ゴツイ足”がドーンと組み込まれているわけですから、車体後方から眺めたときのインパクトは絶大

ホーネット リヤタイヤ

●現行のCB1300SFほか、今なおリッタースポーツバイクの大部分が採用している180/55ZR17というサイズのラジアルタイヤを27年前に採用しようと決断した開発陣はタイしたもの。しかもフロントは16インチ(130/70ZR16)! ゆえに安定感に富んだ手応えがありながら軽快そのもの、という独特なハンドリングをホーネットは獲得したのです

 

マフラーで隠れることのないスイングアームも極太断面で鈍く輝くアルミ製がおごられていました。

いやもう抜群のバックシャン(英語のback〈背中〉とドイツ語のschön〈美しい、美人〉を組み合わせた和製語)ぶりです。

背中を貫く極太一本の鉄骨がホーネットの真髄

後ろ姿に興奮しながら「ほっほ~」と眺め、少し心拍数が落ち着いてきたころ視線を前方へずらしていくと、アレレのレ? 

これまた銀色に輝くスイングアームピボッド部分はあれど、そこから続いているはずのフレームが見あたらない……???? 

そうなのです。

ホーネットは絶妙な剛性バランスとディメンション、そして特徴的な外観を実現するために新設計のモノバックボーンフレームを採用していたのです。

モノバックフレーム

●極太タイヤを履いたリアまわりの存在感と反力感を感じられるハンドリングとするために、ボルトオンの別体式ピボットブラケットまで採用。スッキリとした外観の達成にも大きく寄与しました

 

その構造が生み出すホーネットならではの個性的な走りや、デビュー以降の快進撃ぶりは次回紹介してまいりましょう。

あ、というわけで1990年代の250㏄クラスのメインストリームとなった並列4気筒スーパーネイキッド群はどれも一定以上の支持を獲得しており、中古車市場の在庫も豊富で程度の良い車両が令和の世にも多数存在しております。レッドバロンなら全国300店舗超の直営店が所有する豊富な優良在庫が瞬時に検索できますので、ぜひお近くの店舗へ足をお運びください!

ホーネットというバックシャン【中編】はコチラ

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