1989年、最後発の250㏄並列4気筒レーサーレプリカとして生まれた「ZXR250」。1990年にデビューしたクラス唯一のスポーツツアラー「ZZ-R250」。そして1991年、ZXRのエンジンをネイキッドボディに搭載した「バリオス」が登場いたします。当時吹き荒れていた“ゼファー旋風”も追い風に大ヒットを記録し、ベスト&ロングセラーへの道を歩み始めました!

バリオス

●1991年型バリオスのカタログより。暗闇の中から浮かび上がる勇姿……。ゼファーとはまた趣きの異なるトランジスタグラマー(死語?)なボディーワークが最高にイカしていました。シート高は745㎜という低さを実現しており、乾燥重量が141㎏ということも相まって女性や小柄な方からの注目度も非常に高かったことを覚えております

 

ホーネットというバックシャン【後編】はコチラ!

ひと目見て大ヒットを確信したスキのない仕上がり

オガワァ、明日取材に使うバリオスを満タンにしてきて!」とモーターサイクリスト(MC)誌の大御所編集部員から依頼が発せられ、即座に「分っかりましたぁ!」と返事をする23歳の筆者

時は1991年の春

……今となっては信じられませんが“超”が付くほど空前の売り手市場だった就職状況にアグラをかき「まぁ数年くらい好きなことして遊んでもいい会社に潜り込めるだろ~」と浅慮して、1年前から始めたMC編集部でのアルバイト

就職内定

●面接に1回行っただけで内定決定……かつ交通費として数千円をいただいて帰ってきたなんてことがザラだった1980年代末期の就職戦線。「フリーター」なんて言葉がもてはやされて、筆者のように勘違いする向こう見ずなヒトも大量発生したのです

 

日々雑用をこなす中、広報車の洗車&満タン給油は、ピカピカの新車に触れたり走ったりすることのできる最高にゴキゲンな機会でもありました。

大ヒット中のゼファーと全く異なるテイストでキタ!

階段を駆け下りて八重洲出版玄関前の赤レンガ上に佇んでいたバリオスの実車を初めて見るなり「こりゃぁ売れるわ~」と思わず声が出てきたものです。

バリオス リヤビュー

●こちらも1991年型バリオスのカタログより。エンジン、フレーム、タンク、シート、マフラー……。あるべきところにあるべきパーツがきちんと収まっている安心感というのは、確かにライダーの共通認識として存在していると思わされます。燃料タンク容量もしっかり15リットルが確保されており、ツーリングライダーも納得。テールカウル下のアシストグリップには左右2つずつ固定式荷掛けフックも用意されておりました〜

 

これまでのコラムでも散々述べてきたとおり、1989年にひっそりデビューするものの、気が付けばレーサーレプリカブームに引導を渡す大旋風を巻き起こした「ゼファー」

ゼファー

●バイク業界人ですら誰ひとり、のちの超絶大ヒットを予想できなかったカワサキ ゼファー。GPz400系の空冷2バルブ(一応DOHC)ベースのエンジンは46馬力にて登場しており、2年後に出てきた250のバリオス(45馬力)とはたったの1馬力差! レーサーレプリカ時代には考えられなかった図式ですネ

 

翌1990年には「ゼファー750」も登場して“西風”人気は、ますますジャンジャンバリバリ確変大爆発中のさなかです。

当然続くであろうカワサキ250ネイキッドに関するスクープでもスタイリングは“ゼファー系”で決まり!なんて記事があったようななかったような(笑)。

バリオス外観

●高回転で高出力を発生する水冷エンジンらしい大型のラジエターコアを防護すると同時にデザイン的にもワンポイントとして目立たせてやろうとするデザイナーの手腕には改めて感動させられます。ゼファーのオイルクーラーがあくまでシレッと目立たぬように配されているのと比較すれば、その差は歴然かと。シュッとした小ぶりな新意匠ウインカーも受ける印象をより精悍なものとしているのです

 

しかし、目の前にあるバリオスは明らかにゼファー系とは違う、文字どおりBALIUS(=ギリシャ神話に出てくる不老不死である神馬)の名前に相応しい、筋肉質でグラマラスなボディワークが具現化されていました。

セクスィーな凹凸が車体の各部に見てとれる仕上がり!

強いて挙げればツンと跳ね上がったダックテール部分にゼファー(400)の面影が見てとれましたが、そこよりヘッドライトへ向かっていくボディラインは全くの別物

バリオスエンジン

●絶妙なカーブを描くメインパイプにφ38㎜の高張力スチール管を採用したフレームへ組み込まれたZXR250ベースのサイドカムチェーン式並列4気筒DOHC4バルブエンジンには空冷モデルのようなフィンが追加されて好評を得ました。外観こそレトロ調になったもののφ30㎜CVKダウンドラフト式キャブレターの4連装も相まって、45馬力/1万5000回転、2.6㎏m/1万1500回転のパフォーマンスを発揮する実力は本物!

 

サイドカバーと燃料タンクは、なだらかな折れ具合を持つ新設計鋼管ダブルクレードルフレームに寄り添いつつ、流麗なラインを描いてヘッドパイプへと収れんしており、そこへ待ち受ける頑健そうなラジエターカバー(アルミ合金製で実際に丈夫。転倒時にはエンジンカバーとともに接地して車体へのダメージを軽減するという機能も持たされていました)がスタイリングを引き締めています。

そんな外装類に「Kawasaki」ロゴは小さくテールエンドのみ

タンク上には「BALIUS」という車名と跳ね馬がデザインされたエンブレムだけがドーン!というのもやたらカッコよく思えたもの。

バリオスのエンブレム

●このエンブレムに引っ張られたか「バリウス」と呼ぶ人もいましたね。エストレヤなのかエストレアなのか、ヴェルシスなのかベルシスなのか。雑誌屋泣かせの車名が多いのもまたカワサキ……。あ、ザンザスはザンザスです(笑)

 

カウルの中に隠されていたため本来はのっぺりしていたZXR250用エンジンには、空冷と見間違えてしまうくらいの細かいフィンがあしらわれており、ネイキッドモデルには不可欠なエンジンの確たる存在感までしっかり醸し出されているではありませんか。

一介のバイク好きアルバイトも魅了した美しき肢体

改めて全体を眺めてみると、奇をてらわないオーソドックスな端正さがありながら懐古主義ではなく、250らしいコンパクトな車格なのに抑揚の効いた造形で立派にも見える……。

正直、ケチをつけるポイントがありません

ほっほ~と感心しながら車両のまわりをグルグル回ってチェックしていると、別件で降りてきた大御所編集部員に見つかり……(ヤバい)。

「なんだ、まだガソリンスタンドへ行ってないのか。少し遠回りしてもいいから、とっとと行ってこい」。

失礼しました~とばかり大急ぎでウエア類を蒸着……いや装着してイグニッションオン。

セルを回すやフォーッ!と軽やかな並列4気筒サウンドが流れ出します。

前方へ目をやると、とてもコンベンショナルな同径二眼式アナログメーターが並んでおり好感度はさらにマシマシ。

しかし、よくよく文字盤をのぞき込んでみると回転計のレッドゾーンは1万9000回転から! 

“20”の数字も誇らしく(←つまり2万回転ですね)さらにそこから先、2万1000回転を表す部分まで目盛りがあるという、レーサーレプリカ直系エンジンであることを激しく主張しているではあ~りませんか。

バリオス メーター

●写真が小さくて申し訳ありませんが、最初期バリオスのメーターは速度計、回転計ともに右下側に妙な透き間が……。これ、ZXR250向けメーターの内部構造をそのまま移植したからなんですね。コストダウンにはとても有効な手段!?

バリオスメーター

●中央に燃料計が追加された1995年型のころには妙な空きスペースのない、円周をフルに活用して速度とエンジン回転を表示するデザインへと改められていました。すでに40馬力仕様になっていましたけれど、1万9000回転から始まるレッドゾーンは不変。カワサキ……“分かってます”

 

大御所編集部員の生暖かくも厳しい視線を感じつつ焦って発進しようとするとスコン!とエンスト……。

落ち着いて仕切り直し、少々吹かし気味にしながら丁寧にクラッチをつなぐと、スルスルスル……と悍馬は進みはじめました

シューンと粘る粘る粘る……これが並列4気筒の威力なのか

一度動き出してしまえば4つある気筒のどこかしらで爆発(燃焼)してピストンを強く押し下げる力が発生する並列4気筒エンジンだけに、アイドリング+αの回転域でギヤをスコンスコンと上げていっても粘ること粘ること! 

バリウス カタログ

●1995年型カタログより。「MIND TRIP QUARTER」とのキャッチコピーは長らくバリオスに使われてきた名文句。バリオスのスロットルを開けるだけで、あらゆるライダーは心地よくトリップしたはず。そう断言できるだけの魅惑的な魔法が、このバイクのパワーユニットには込められていたのです

 

シングルやツインなら「ガコガコガコッ」となるような状況下でも我関せず“ヒュホホホホホホ~”と駆け抜けていくのですから、本当にこの時代の250㏄並列4気筒エンジンというのはバリオスはもちろん、どのメーカーのものでも気合いの入りかたが違っていました(あ、現在のNinja ZX-25Rも、もちろん気合い入りまくってますよ)。

とはいえ、やはりこのジャンルの醍醐味はエンジンをブン回してどうか、ということ。

次回はそのあたりを実体験を含めて紹介してまいりましょう。

あ、というわけで1991年から発売されたバリオスは、1997年「バリオス-Ⅱ」への代替わりを経ながら世紀をまたぎ、2007年型まで高い人気を維持したまま販売され続けました。当然、中古車市場の在庫も豊富で程度の良い車両も多数存在しております。レッドバロンなら全国300店舗超の直営店が所有する豊富な優良在庫が瞬時に検索できますので、ぜひお近くの店舗へ足をお運びください!

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