年を経るごとに強化されていった環境諸規制の影響、特に排ガス浄化との兼ね合いによって空冷+キャブレター+ビッグシリンダーという不利な条件がトリプルで揃っている大排気量空冷単気筒モデルは厳しい試練の時代を迎えます。そんな現在へと続く苦闘の歴史を紐解く前に「CB400SS」同様、「SR400」の対抗馬として登場したスズキの“迷”……もとい、名車の紹介から進めましょう!
●ど〜ですか、お客さん! 「CB400SS」の勇姿は〜。シリンダーの背後にアンパンマン絵描き歌「まるい おだんご のせました」状態によく似たモーターの姿が見えます。この車両はエンジン始動方式がセル・キック併用になった2004年型のブラック(スタンダード)ですね。以降、高い利便性と適切な好性能ぶりで市場に確固とした地位を築いた“空冷ビッグシングルCB”は、印象的なカラーリングバリエーション展開とともに販売台数を着実に積み上げていきました。レッドバロンで中古車を選ぶときは色にもこだわってくださいね。日本全国300超、あらゆる店舗の在庫が瞬時にチェックできますからね〜
CB400SSというレジスタンス【中編】はコチラ!
直立猿人、いや直立エンジンを積んだニクいヤツ!
「♪覚えてい~ますぅかぁ~」とリン・ミンメイ(CV:飯島真理さん)のクリスタルボイスがどこからともなく流れてくる“忘却されがち”なバイクたちを集積したフォルダというのが筆者の脳内にございまして(なぜかスズキ車が多い)、
そこで牢名主を張るレベルのLR[レジェンドレア]が、スズキ「テンプター」でございます。
平成に入るとともに巻き起こったレトロ&カスタムブームを追い風に、一度は死に体となったスーパーレア……いや、「SR400」がV字回復からの大ヒットを記録していった1994~1996年の勢いを見て、ホンダは同排気量帯に1997年「CB400FOUR(NC36)」を、1998年には「CL400」をリリース(「CB400SS」は、ちょっと離れて2001年10月でしたね)。
●いや〜盛り上がりすぎたレトロブームは、ホンダ「ドリーム50」なんて今となってはアンビリーバブルなモデルも世に放ちました。1962年に発売されて世界各地で活躍した市販レーサー「CR110カブレーシング」を彷彿とさせるスタイリングを持つ原付一種モデル(前後ディスクブレーキ!)とは……。49㏄空冷4スト単気筒DOHC4バルブエンジンは5.6馬力の最高出力を1万500回転で発生! 燃料タンク容量6.2ℓ、車両重量88㎏、シート高740㎜、当時価格は32万9000円!
そしてスズキも負けじと1997年4月にクラシック路線へマン振り(フルスイング)した「TEMPTER(誘惑する者という意味)」を世に問うたという流れですね。
●1997年型スズキ「テンプター」。ボリューム感のあるフォルムでありつつ単気筒スポーツらしいスリム・軽量・コンパクトな車体に396cc空冷4ストOHC4バルブエンジン(最高出力27馬力/7000回転、最大トルク3.0㎏m/5000回転)を搭載。始動方式はセルスターターのみでキュルルン!と目覚める直立パワーユニットは歯切れのよい鼓動感やトルク感、扱いやすさなどを兼ね備えていました。車両重量173㎏、シート高780㎜、燃料タンク容量12ℓ、当時価格は46万9000円ナリ。なおサイドカバーには「ST400 POWER TO THE FUTURE」とのエンブレムが……。テンプターの正式表記が「ST400V」だからなんですね
SRを追撃するモデルを作ろうにも、何はなくともまずエンジンなのですが……ありましたありました。
異色の400㏄クルーザーとして名を馳せていた「サベージLS400」の396㏄空冷シングルエンジンがあるではないですか。
●652㏄バーチカルシングルエンジンを搭載し、1986年から発売された「サベージLS650」(49万9000円)の弟分として、翌年登場した「サベージLS400」(写真)。TSCCを採用したエンジンは低中速域を重視したチューニングがなされ、最高出力は24馬力、最大トルクは2.7㎏mを発揮。フロントフォークやサイドスタンドにまでクロームメッキを施したというこだわりぶりがタマリマセン。当時価格は47万9000円! ……しかしスズキはデュアルパーパス「DR800S」もそうですが、巨大なシングルエンジンがお好きだったようで(^^ゞ
その特徴でもあった直立シリンダーのパワーユニットをパワーアップしつつロードスポーツへ移植すれば、SR以上のトラディショナルさが訴求できるというものです。
デザインもメカの完成度も文句なし! なのに……(涙)
ヘッドライトはもちろん丸目単眼で、タンクもサイドカバーもシートも奇をてらわない端正な形状でまとめあげ、車体各部には目を引くクロームパーツも配しました。
●1997年型「テンプター」カタログより。いやホントに出来はバッチグーだったんですよ。エンジンも「ドコドコドコッ!」と回るのかと思いきや、「ドゥーーーッ!」と滑らかに7500回転から始まるレッドゾーンまで一気呵成ですわ。ハンドリングも鷹揚で〜。ただ、最大のウリであるフロントのダブル2リーディング式ドラムブレーキは効きが強力なのはいいのですけれど、少々“カックン”なフィーリングなので、最初だけはちょっと慣れが必要でしたね。しかし、何といってもセルモーター付きなのでエンジンを止めることに躊躇(ちゅうちょ)が要りません。SRとの比較試乗では早朝から夜までかかった取材でヘトヘトになった帰り道、強引に先輩から「オレはテンプターに乗ってくから、編集部までSRをヨロシク〜」とやられたときカジュアルな殺意が……(ウソ)
しかし……、「んんんん~? 全体的にとてもシンプルでイイ具合にはなったがインパクトがないな。さて、どうしたものか。フフフ……そうだ、SRが2リーディング式ドラムブレーキなら、ウチはそれをダブルで装着してやれ。さらに軽量化に効いて見た目のカッコよさも手に入るアルミ製H断面のリムも導入したら決まりだ! どうだ、オレは天才だぁ~ッ!!」
……とアミバ様(by北斗の拳)的なスズキ開発者がいたかどうかは不明ですが、見事に仕上がった初代の車両にはタンクにデカデカと“TEMPTER”という(どこぞの欧州ブランドと見間違うような)英単語が入り、SUZUKIロゴも“S”マークも見当たらないため、“ン? コレって英国車???”ムードは(なんとなく)満点。
●1997年型「テンプター」カタログ表紙より。ノートンの「フェザーヘッドフレーム」にも似たセミダブルクレードルフレームを専用設計し、そこへバーチカル(直立した)シングルエンジンを搭載。フロントブレーキは写真に映っていない反対側も全く同じ意匠となっています。ダブル2リーディングドラム式ですからね。同様の方式はスズキの“水牛”「GT750」初期型にも使われていましたが、もちろんそちらを流用したものではなく、新たに鋳造の型をおこしたものとか。そりゃぁ、目を引きますわな〜。発売当時、バイクにそんなに詳しくない人なら、とてもスズキの新型車には思えなかったでしょうね
実際、ピカピカの広報車を借り出してツーリング取材へと赴き、高速道路のSA・PAや道の駅などで休憩していると「これ、何シーシー?」レベルのオバサマ&オジサマから、
●排気量を聞いてくる「ナンシーおじさん」。79.5%の割合で「オレも昔は〜」と続き、とめどなく昔話を聞かされる確率は38.8%。面白くない失敗話で“てへぺろ”と終わる割合は21.4%(民明書房バイク部調べ!?)
BSA、トライアンフ、ヴェロセット、ノートンなどを駆ってらっしゃるガチ英国車クラシック勢まで、普段行っていたネイキッド取材のときより格段に多くの人から質問攻めを受けたものでございます。
特に印象的だったのは、当時やたらと走っていたSRカスタム軍団からのフロント足まわりに関する熱視線で、舐め回すようにダブル2リーディングドラム式ブレーキとアルミH断面リムを眺めていくライダーはおよそ数人といった小さな単位ではなく……。
毎回少し離れた場所からそんな不審な挙動を眺めつつ「フッ……スズキがやりおったわ」と謎のラオウ(by北斗の拳)的目線でニヤニヤとほくそ笑んでいた29歳の筆者がいたものです。
●人間、興味のあるものが目の前に存在していると子供のように瞳が輝き出すものです。当時のSRカスタマーは、他車との差別化のためにチョー必死でしたし……
駄菓子菓子!
初代、1997年型では気合いの入った黒、赤、銀の3色ラインアップでデビューした「テンプター」だったものの、速攻で放置プレイが始まってしまい(つまり想定したよりも低い支持しか得られなかったということ……)。
2000年型では黒1色のみが細部改良とともに発売されたものの、そこからはまたナシのツブテとなり、2002年末までに全生産が終了したと聞いております。
●1997年型「テンプター」カタログより。真横からのシルエットもイケているでしょう!? フロントフェンダーはもちろんリヤフェンダーも金属製で、しっかりクオリティの高い塗装も実施。オプションでセンタースタンドを取り付けられたことも素晴らしいポイントでした。なお、60㎞/h定地走行による燃費は43.5㎞/ℓ。燃料タンク容量は12ℓなので、単純計算すると満タンで522㎞走れることに……。グラブバーには荷掛けフックが左右2カ所ずつ用意されていましたので、ツーリング勢も納得の仕上がりです
SR人気がピークを迎えていた当時、キック式スタートでなかったのが災いしたのか、初期型の余りにも某英国車をリスペクトしすぎた“あざとさ”が鼻についてしまったのか……。
●2000年型「テンプター」カタログより。タンクにはデカデカと「S」エンブレムが配され、サイドカバーには近代的なデザイン(?)となった「TEMPTER」のロゴが……。ここまでガラッと変わってしまうということはナニか大人の事情があったのかな?と勘ぐってしまうほど。ともあれ、シリンダーは黒く塗装され。タンクには2本のピンストライプ、シートには白いモールも追加されるなど気合いの入った意匠変更が行われていながらお値段は据え置き! 頑張ったんですけれどねぇ……
真相は不明ですけれど、本当につくづくバイクビジネスというのは難しいものです。
生産終了後、スズキならではの独特かつ端正なシルエットとメカニズムの信頼性などが再評価され、程度のいい中古車の価格がヒジョーに高値安定していると聞くと、ホントに「なんだかなぁ!」なのですけれどね……。
空冷ビッグシングルモデルは淘汰される一方に……
と、いうわけで2000年代序盤以降となると、大排気量……いや1999年型を最後に「SR500」も姿を消しましたので(SRX600は、なんと1991年型が最終!)、
●はい、こちらが最終型となった1991年型ヤマハ「SRX600」です(写真は最後に色追加されたソルトレイクシルバー……タマラン色ですなぁ)。その前年、1990年にフルモデルチェンジを受けてスタイリングがより洗練されるとともに、オイルタンクがエンジン前面へ移動され、セル始動となり、リヤがモノクロス(1本)サスペンションとなるなどの全面改良を受けたにもかかわらず、SRX400ともどもあっさりSRより先に消えてしまうとは……(以降、数年は生産されたそうですが)。本当にバイクビジネスというのは難しいものdeath
400㏄空冷シングルロードスポーツ市場の戦いは絶対王者「SR400」と、2004年型からセルを付けるなど肩の力が抜けて復調した「CB400SS」とのマッチレースが続いていきました。
●う〜ん、あえて本文では触れていないのですけれど、実はもう1台、ホンダの397㏄空冷4スト単気筒OHC4バルブエンジンを搭載したモデルが存在しておりました。ハイ、「XR400モタード」です。2005年3月、オリジナル(?)のオフロードマシン「XR400R市販版」をスッ飛ばして突如登場したモタード仕様。「オラ、テイスティ路線じゃないもんね!」とばかり最高出力は30馬力、最大トルクも3.4㎏mまでアップされ、車両重量は145(乾燥131)㎏とCBより軽量。前後17インチのオンロードタイヤを履いておりましたから、その走りたるや……。しかしこちらの方向性にはスズキのバケモノ「DR-Z400SM」(398㏄水冷DOHCエンジンで40馬力/4.0㎏m。車両重量145㎏!)がおりましたので天下は取れず、写真の2007年9月に登場したモデルが最終仕様に。このセル始動オンリーの空冷エンジンでオフロード公道仕様「XR400L(?)」をホンダが出してくれていたなら……と切ない妄想は広がります
しかし、そんな2台の前にまたまた、しかもこれまでのものとは比べものにならない要求をしてくる平成19年度排出ガス規制が立ちはだかります。
●2005年9月に発売された「CB400SS」のカタログより。往年の「ベンリィCB125」などを彷彿とさせるこのパールコーラルリーフブルー×クラシカルホワイトのツートーンカラーは美しかったですねぇ。評判もよかったのか翌年には同じ塗り分けでキャンディーグローリーレッドの仕様も登場してきました。しかし、終焉の時は着々と近づいていたのです……
詳細はコチラを読んでいただきたいのですけれど、「冗〜談じゃないよ」とビートたけしさん扮するキャラクター“鬼瓦権造”が手を前にかざしつつ首をカクカクし続けて首がもげるくらいに激しく厳しい数値が課されることになり、空冷+キャブレター車はほぼ絶滅……。
ゼファーχ(カイ)やXJR400Rほかの“空冷+キャブ”な人気車が次々と姿を消していった暗黒時代を覚えておられる読者の方も多いことでしょう。
●2008年モデルで消えていったバイクは数多いのですが、こちらのカワサキ「W650」もその1台。しっかり“ファイナルカラー(写真はローハンドル仕様)”として大人気を博してから終了し、2年後にサクッと「W800」を登場させました。以降、773㏄空冷バーチカルツインの血脈は現在に至るまで続いております〜(あげくメグロブランドまで復活させるとは……恐るべしカワサキ!)
もちろん、「CB400SS」、「SR400」も例外ではありません。いや、ひとつのシリンダー容量が大きいだけに、対応難易度はさらに複雑……。
そのせいか、CB-SS&SRはともに2008年型で“有終の美”を飾る(ような)リミテッドエディションやスペシャルエディションを出した後は完全に沈黙……。
●専用カラーのキャンディールビジウムレッド×グラファイトブラックや特別なシール類、ブラウンシートなどを採用したホンダ「CB400SS Special Edition」。2007年10月19日から同年11月11日まで(短い!)の受注期間限定モデルとして発売されました。当時のSTDが48万9000円(消費税抜き価格、以下同)、ツートーンが49万9000円というなかでSEは50万9000円でしたから、内容を考えれば破格値でしたね。残念ながら、何台の受注があったのかは不明です(^^ゞ
●2008年7月に登場したヤマハ「SR400 30th Anniversary Limited Edition」。職人が手作業したサンバースト塗装(ベリーダークグリーンメタリック1)に史上初となるゴールドのダブルストライプを施し、初代SR500風のタックロールシートを採用。他にも各部パーツを特製バフ仕上げとしてメーターも専用品というシリアルナンバー付き500台限定仕様。価格は税抜きで58万円(当時のSTDは46万3000円)でしたが、そりゃもう“秒”で売り切れましたとも! 今なおガレージの奥深くで大切に保管されている車両も多いのでは……!?
「いやいや、SRはようやったよ。1978年に生まれてから30年じゃろ!? 30年間おんなじスタイリングでおんなじキックスタートだけのままで続けてきちょったんじゃからブチすげぇこっちゃ。じゃが、さすがにここいらがもう潮時じゃろ~」とは、“不惑”となりお互い髪の毛に白いものも混ざりはじめた悪友Cくん(【前編】参照)とサシ呑みの席で、話題はやっぱりSR(笑)。
「ほうじゃのぅ~、ヤマハさんからもホンダさんからも(モーターサイクリスト)編集部へ情報はなんも来とらんから、空冷の400シングルスポーツは2008年モデルで打ち止めっぽいのう〜」とワシ……いや私。
二人して遠い目をしつつ、消えゆくモデルへ追悼の盃を献杯したものです。
よもやの規制クリア! SRはもうちょっとだけ続くんじゃ
んがッ! なんとなんとなんとッ!!
オッサン二人、涙の(勝手な)献杯から1年以上が経過して2009年も押し迫った12月。
よりによってシーラカンスSRのほうが(失礼)、フューエルインジェクション……FIシステムとフルトランジスタ点火とハニカム触媒ほかの新機構を伝統のスタイル内に(ムリヤリ)突っ込んで、大復活を果たしたではありませんか!
●2010年型ヤマハ「SR400」。FI化に不可欠な燃料ポンプ(カップ酒の容器くらい大きい)を燃料タンク容量(12ℓ)を減らすことなくスリムなボディへ押し込めるため、電装部品の配置をゼロから見直す作業を敢行! 3次元パズルを何度となく試行錯誤するも、どうしてもサイドカバーの幅を10㎜拡大しなければ全ては収まらなかったという……。いや、それだけで済んだのならミラクルでしょう! と、いうわけで見えないところを微調整しまくったため、タンクやシートもキャブ車とは互換性がなくなったものの、SRをSRたらしめるスタイリングは死守されたのです。
●FI化されたことなどでインジケーターランプの数が増えてにぎやかになったメーター。最高出力はキャブレター車時代の27馬力/7000回転から26馬力/6500回転(最大トルクも0.1㎏m減)となったものの、走らせた印象は全く変わらず。それよりクラッチ操作力やキックペダルの踏力が軽くなり、始動性も向上したメリットのほうがありがたかったくらい。ただ、従来型STDで46万3000円だった価格は55万円(ともに税抜き)へ大幅値上げ。そりゃ高価な三元触媒も使っていますからね……。車両重量も168㎏→174㎏となりました
しかも始動方式は……キックのみで変わらず!!
ピロリン!とメールで第一報が届いたとき、「そこまで魔改造するなら、ついでにセル付けない……?」とMC編集部のデスクが大きくザワついたことは言うまでもありません。
ともあれ、これで国内メーカーのライバルは皆無となり、SR400は孤高の領域へ。
海外メーカーとしては英国発祥で現在はインドのメーカーとなっている「ロイヤルエンフィールド」社が、500㏄クラスの大排気量空冷レトロシングル分野で気を吐く……という構図になっていきました。
●筆者がたまたま保管していた2016年型ロイヤルエンフィールド「クラシッククローム500 EFI」の写真。ほかにもミリタリー仕様やタンデム仕様などもあり、一定数以上が日本へ上陸しております。SR以上にシーラカンス(失礼)なバイクで面白いですよ。パワフルなカフェレーサー仕様「コンチネンタルGT」もあったなぁ。ただ、現在では正規輸入総代理店が変わっており、ラインアップも大幅に変更されております。詳細はコチラをご確認ください。現在のニッポンは本当にいろんなバイクを選ぶことができるんですネ!
SR、43年の歴史に終止符。狂想曲が巻き起こる!
さて、始まったものは、いつか必ず終わります。
FI化されて以降、毎年のように(時に驚くような)色変更を繰り返しつつ、
●2015年12月18日に登場した「SR400 60th Anniversary」には驚かされましたね〜。ヤマハ発動機創業60周年を記念したモデルなのですが、まさか黄色地に黒い“スピードブロック”を配してくるとは……。これって1970年代にアメリカのレースシーンで大活躍した“USインターカラー”なんですよね。キングことケニー・ロバーツ選手もこのカラーリングをまとったマシンで大活躍をしていたのです。価格は税抜き54万円でした
2017年型では「次期モデルをちゃんと開発していますよ~」というアナウンスとともに一旦生産終了し、2019年型でさらに厳しくなった排ガス規制と法規制に合わせた改良を行って無事復活!
●車体左側サイドカバーの裏にこんな大きなカップ酒……もといFI用の燃料ポンプが配されていたのです。その他の電装部品も狭いスペースにミチミチのミチであることは一目瞭然。さらに2019年型からは平成28年規制に適合させるため、エンジンクランクケース前方にキャニスター(ガソリンタンクから蒸発したり不完全燃焼したガスを活性炭でろ過して再度燃焼室へ送り込む装置)も装着されました。エンジン出力はまたまた低下(26→24馬力)し、車両重量は1㎏増(175㎏)。しかし同時にマフラーの内部構造を改良して音質を向上させるなどヤマハ開発陣の執念にも似た“カイゼン”は続きます……
●2019年モデルとして登場した「SR400」(税抜き53万円)のグレーイッシュブルーメタリック4はもうタメ息が出るような美しさ。同時にベリーダークオレンジメタリック1をサンバースト塗装した「SR400 40th Anniversary Edition」(同64万円)も500台限定で発売され、これまた“秒”で売り切り……。あ、2013年には「SR400 35th Anniversary Edition」も受注期間限定(同51万円←謝恩価格とかで当時のSTD〈同55万円〉より安かった!)されております。これら一連の“燃える商魂”すらファンユーザーは大歓迎していました〜
このまま未来永劫、SRは改良され続け、高いハードルを着実に乗り越えながら続いていくのか……と思いきや、ヤマハは公式に2021年型で「SR400」を完全に生産終了することを発表いたします。
さらにさらにさらに達成数値が厳しくなった令和2年排ガス規制に加えて、ABS(アンチロックブレーキシステム)義務化と車載式故障診断装置(OBD-2)の搭載義務化などが重なり、さすがの不撓不屈なヤマハ開発陣もギブアップ……!?
いや、技術的な対応が絶対にできないというワケではなかったのでしょうけれど、さらなる高額化と重量増と、何よりスタイリングの大幅改変は避けられないところ。
なにせFI化のときの電動ポンプ追加だって大騒ぎだったのですから、さらに結構なスペースを取るABSシステムユニットを1970年代後半に設計が成された、スリム極まりないバイクのボディに押し込めるのはMr.マリックでも不可能なこと(?)。
●正直なところガソリンタンク容量が3ℓになってもいいから、前後ABS付き、トラクションコントロール付き、パワーセレクトモード付き、アップ&ダウンクイックシフター付き、アダプティブクルーズコントロール付き、セミアクティブ電子制御式サスペンション付き……だけどキックスタートの「SR400」を見てみたかった気もいたします(←ヤケクソ)
SRをSRたらしめている流麗なデザインを変えるくらいなら、43年間という途方もない歴史にだって自ら終止符を打つ。
そんなところまで“いちいちカッコいいヤマハ”ですね……。
「ヤマトや銀魂のような終わる終わる詐欺じゃない、これが本当に本当のSRの終わりだ!」ということで、2021年型「SR400ファイナルエディション」&「SR400ファイナルエディション リミテッド」を争奪する大フィーバーが巻き起こったことは記憶に新しいのではないのでしょうか……。
●2021年型ヤマハ「SR400 Final Edition Limited」……販売店まで絞った上でシリアルナンバー付き限定1000台がリリースされた43年の集大成。色名的には単に“ヤマハブラック”となるのですが、匠によるサンバースト塗装によって形容しがたい金色のグラデーションが浮かび上がります。価格は税抜き68万円、消費税が10%になっておりますので税込みですと74万8000円……ですが“秒”! ちなみに青と灰の2色が用意された「SR400 Final Edition」は税抜き55万円(税込み60万5000円)でありました。こちらは5000台用意されたそうですが、もちろん……“分”! 当然のごとく2021年の251〜400㏄クラスベストセラーの座に輝いて長い歴史を締めくくったのです。そんなんできへんやん、普通……
目の上のタンコブが消えた途端にホンダが……(^0^)
そのようなSRが終焉を迎えた2021年というタイミングで、ホンダが日本市場への導入を開始したのが、なんと空冷エンジンを搭載したブランニューモデル「GB350/S」だったのです。
●写真は2021年4月に発売されたホンダ「GB350」(税抜き50万円/税込み55万円)。より走りに特化した「GB350S」は54万円/59万4000円(※同年7月発売)。348㏄空冷4スト単気筒OHC2バルブエンジンは最高出力20馬力/3000回転、最大トルク3.0kgm/5500回転のパフォーマンス。車両重量は180㎏(Sは178㎏)、シート高800㎜、燃料タンク容量15ℓ。2023年7月からは令和2年排出ガス規制に適合したモデルが、それぞれ税抜き1万円だけアップした価格で発売されております。いや〜、アッと間に各地で見かけるようになりましたね〜。野太い排気音もサイコーです!
こちらはもう最新の設計により、超絶厳しい環境諸規制も前後ABS(+トラクションコントロール)&OBD-2搭載なども余裕でクリアすることを前提として作り上げられた車体で、直立猿人いや直立エンジンであることも相まって「テンプター」を丸くふくよかにしたような(!?)スタイリングも秀逸です。
ご存じのとおり瞬く間に人気モデルとなり、2021年こそ“さようならフィーバー”に沸くSR400に続いての251~400㏄販売台数2位に甘んじますが、2022年は文句なしのベストセラー第1位の座へ就きました!
……逆に言えば、SRは販売していた43年間、ずっとホンダの“目の上のタンコブ”であり続けたということですか(スゴイ!)。
そして、SRがいなくなった途端に宿願だった空冷シングルスポーツジャンルで……どころか251~400㏄市場をひっくるめての天下を奪取するとは驚きです。ホンダ関係者はさぞや快哉を叫んでいることでしょう。
しかもそれが「GB」ブランドで達成されたことに深い深い因縁……いや、巡り合わせを感じます。
●どの回転域からでもライダーが望むパワーが引き出せて振動も少なめで燃費も良好、しかもタフ……。そんなホンダの傑作エンジンを搭載したモデルは「CB400SS」を筆頭に、まだまだ中古車市場に多数残っております。「ナニガナンデモSR一択っしょ!」というこだわりを一旦置き、アタマを柔軟にして中古車選びをしてみると見えてなかった新しいバイクライフの楽しみが見えてくるかもしれませんよ〜
FT400/500、GB400/500T.T.シリーズ、CL400、CB400SS(XR400モタード)、が果たせなかった宿願を新生「GB」がようやく成就させたワケですからね。
これからも大排気量空冷ロードスポーツ市場がどのように変化していくか、読者の皆さんも興味を持っていただけたなら幸いです。
では、次回もお楽しみに~(^0^)/
●次回からは空冷CBつながり(?)ということで、ホンダ「CB1100」シリーズをお届けする予定です!
あ、というわけで本文中にはあまり出てきませんでしたが(汗)、セル・キック併用となった後期型から評価も販売台数もウナギ登りになった「CB400SS」や、スズキの底力を感じられる「テンプター」。そして押しも押されもせぬ横綱「SR400」ほかのテイスティな車両は、ぜひともレッドバロンの良質な中古車の中からお探しください。ずっと安心して乗り続けられること、請け合いです!
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