パラレル(並列)に隣り合ったシリンダー内にある2つのピストンが混合気の高速燃焼でドカン!と押し下げられ、コンロッドを介してクランクシャフトをブン回す……。そのクランクピンの位置をネジって(?)270度にしてみたらアラ不思議! 従来からあった360度とも180度とも異なる“玄妙な趣きかつ実利もしっかりある出力特性”が現れちゃった……ので、二輪ギョーカイが色めき立ったのです!
TDM850/900という出木杉くん【後編その2】はコチラ!
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「パラレルツイン」と聞いてもイマイチ萌えないライダーは多数……!?
前回でもさわりを述べましたが“並列2気筒”というのは、それこそ1930年代の英国車(1933年に登場した650㏄のトライアンフ「6/1」が元祖とか。※興味があったらググってみてね!)から連綿と進化&発展を遂げてきた、バイク用パワーユニットの代表的なエンジン形式であります。
ただ1980年代ともなると、特に250㏄以上のロードスポーツモデルではあまりにも普遍的なものとなってしまったため、「マルチ」(並列4気筒〈3気筒や6気筒も!〉)、
「ブイ」(V型2気筒〈3気筒や4気筒も!〉)や「ボクサー」(水平対向2気筒〈4気筒や6気筒も!〉)などの華々しい、見た目も語感も派手なエンジンたちに比べると、
「今どきパラツイン? つまんなさそ~」と、筆者のような“三ナイ運動で免許も取れないクセにバイク雑誌の受け売りで無駄な知識だけはスカスカな頭にこびり付いているスペック至上主義中高生ヤロウ”にとっては、もはやワクワクもしない魅力の乏しい存在になっていたのです。
ハ~イ、ここでみんな机に突っ伏して~、センセイ怒らないから正直になりなさい。
アナタも「2気筒よりは4気筒がエライ」とか「パラツインよりVツインやボクサーツインのほうがカッコいい」と心の底では思っていたでしょ?
そう思っていたら挙手ッ!
ハイ、周り見ない、周り見ない、ま・わ・り・を・み・な・い・ッ!
ヒィ、フウ、ミイ…………そうですよね、そうなんですよね!?
かくいう、な~んとなく並列2気筒というだけで肩身が狭く感じる雰囲気がまだ残る1992年に登場したヤマハの初期型「TDM850」は、こと国内市場においては、まさにカチ合ってしまった並列4気筒リッターネイキッド旋風が吹き荒れる中で、見事なくらいに埋没……(あくまで国内市場ではね! 欧州では大ヒット御礼状態を継続)。
TDMの心臓を魔改造したビッグツインスーパースポーツ「TRX850」爆誕!
しかし不屈のヤマハ開発陣は手塩にかけた849㏄大排気量パラレルツインの可能性を信じ、パリダカ制覇用マシンの開発で大いなる知見を得た“270度位相クランク”の並列2気筒エンジンを世界で初めて実用化し、1995年にバリバリのロードスポーツモデル「TRX850」へ搭載させてきたのです!
その2年ほど前(1993年)にアルバイトから正社員として八重洲出版に潜り込み(?)モーターサイクリスト誌の編集部員として活躍(??)していた筆者は、ヤマハ広報部から送られてきたポジフィルムを拡大鏡でのぞき込んで、その美しさに感嘆したもの……。
相変わらず超人気ムーブメント継続中だった並列4気筒ネイキッドジャンルにおいて、すでにヤマハも「XJR400」と「XJR1200」でひと山当てておりましたので(←言い方)、
エンジンだけでなくスタイリングにおいても「TRX850」は独自性と理想形を追求できたのかもしれません(ただ、「ドゥ○ティ・900SSのパクリじゃん!」という通りすがりの言い捨て系評論は実走インプレ取材中の取り巻きさんからでなく、アンケートハガキでも多数届いておりましたが……)。
いや本当に初っ端、クローズドコースほかでグリグリ試乗した一流バイクジャーナリストや腕に自信ありの先輩編集部員たちからは、「コレ、とんでもなく凄いマシンだぞ!」という絶賛の声しか上ってきませんでしたね。
ここで改めて並列2気筒エンジンとクランク位相角度との関係を述べておくと、非常に大ざっぱな言い方をさせてもらうなら、180度クランクは「ガーーーッ!」と中・高回転域まで豪快に力強く吹け上がる雰囲気が特徴的で、現行モデルとしてはカワサキ 650、400、250のニンジャ&Z系・「エリミネーター」、ホンダ「CBR250RR」・「レブル500」・「CBR400R」ほか、スズキ「GSX250R」・「Vストローム250」、ヤマハ「YZF-R3/25」・「MT-03/25」などが採用中。
360度クランクはツインらしい鼓動感とともに低回転域から太いトルクを生み出すのに有利な手法で、現在はカワサキ「W800」・「メグロK3」などが導入ずみ。
これまで書いてきたとおり前期型の「TDM850」も360度クランクだったのですが、5バルブや2軸バランサー、吸排気系のストレート化などの採用で低速域からドコドコ感がありつつ、中・高回転域までマルチエンジンのように気持ちよくブン回る特性が与えられていました。
並列2気筒エンジンの新たな地平を切り拓いた270度位相クランクとは結局!?
では、パリダカ制覇に向けたマシンの開発過程から生まれ、「TRX850」で世界初採用された270度位相クランクの乗り味はどうだったのかというと、360度クランクを持つ前期型「TDM850」の美点……極低回転域から排気量なりのトルクがシュッと立ち上がりつつ、規則正しいドコドコ感ではなく「バララッ・バララッ・バララッ……」という不等間隔なパルス感とともに高回転域まで力強く吹け上がっていくというものでした。
う~ん、ちゃんと伝わっているでしょうか(^^ゞ。
自信がないので、1997年型「TRX850」のカタログ文面から引用させていただくと、
「(前略)つまり、1番気筒と2番気筒がドドッと立て続けに爆発すると、しばらく間をおいてから再びドドッと爆発することを繰り返す。爆発のサイクルが短くなったり、長くなったりするわけだ。机の上に指を2本立てて、それを馬の前脚に見立てギャロップしてみてほしい。それが不等間隔爆発のイメージだ。規則的なタイミングで路面を蹴るよりも、蹴るタイミングに抑揚をつけることで、路面を噛む力を強くする。これが、不等間隔爆発が生み出す力強いトラクション特性の秘密である。(後略)」。
ギャロップとは「襲歩(しゅうほ)」ともいい、競走馬の疾走状態のこと。
よく漫画や時代劇の暴れん坊な将軍などでは「パカラッ、パカラッ、パカラッ」という擬音で動きが表現されていますよね、あの感覚なのです。
実はこれ、一般的なシリンダー挟み角90度のV型2気筒エンジンと同じ爆発間隔だったりするので、フィーリングはとてもよく似ているのですけれど、個人的に「TRX850」のものはより“雑味”の少ないクリアな吹け上がりをする……という印象を受けた記憶がございます。
なんだかビールのキャッチコピーみたいですが(汗)。
カムシャフトとそれを駆動するチェーンなどの超高速回転系パーツの数がVツインの半分で済むパラレルツインならではの構造的メリットも大きかったのでしょう。
革新パラツインの特長を最大限に生かすため車体も徹底的に磨き上げた!
そんな前後長が短く、ドライサンプ方式でアルミダイキャスト製オイルタンクをミッション直上スペースに設置し、シリンダー前傾角を40度とするジェネシスレイアウトまで採用したエンジンや、そのほかの重量物を車体中央部へ徹底的に集めることで、圧倒的な“マスの集中化”を実現していたのです。
もちろん「○ゥカ○ィのような」と揶揄されたスチールパイプ製トラスフレームも、シャシーディメンションの理想を追い求めていった必然の形状。
なおかつリヤからの力がスイングアームを介して伝わってくるピボット部分には、しっかり軽量高剛性なアルミ鍛造ブラケットを採用して複雑かつ強力な応力を受け止めていたのですね~。
それらにより跨がった瞬間、「え? コレが850㏄のバイクなの?」と驚く程のスリムさが実現されており、エンジンがとても遠く、下にあるという印象を抱きました。
はたして峠道では1430㎜というショートホイールベース(ちなみに「XJR1200」は1500㎜)や乾燥重量188㎏という車体、そして高性能な前後サスペンションなどが奏功して、とにかくクルクルと軽く気持ちよく曲がってくれるバイクだなぁ……、と感動しきり。
コーナーを脱出してスロットルをワイドオープンしたとき「バララララッ!」と独特な排気音&鼓動とともに急加速してくれるのも快感でしたね~。
強いてネガティブな印象を受けた部分を挙げれば、ミッションが5速なので高速巡航時についつい幻の6速を探してしまうことと、なかなかに攻撃的なライディングポジションのため長時間乗り続けると、背中や首などに疲労が蓄積してしまいがちなところだったでしょうか(個人の感想です)。
後日オーナーさんを取材したときは「オイルやプラグの交換が面倒くさいよぉ!」と苦笑いをされていましたが……(^^ゞ。
そんな「TRX850」は、なんと登場した1995年から1997年までの3年間、平 忠彦選手を軸にしたプライベートチームが鈴鹿8耐にも参戦!
なかでも1996年はマールボロのサポートをGETし、ペアライダーにクリスチャン・サロン選手も招聘して自力で予選を突破し、見事総合24位で完走するという快挙を遂げました。
まわりはホンダ「RVF/RC45」やヤマハ「YZF750SP」、スズキ「GSX-R750SP」、カワサキ「Ninja ZX-7RR」といったバケモノ4気筒マシンだらけだったのですから、本当にたいしたものです……。
結局、「TRX850」はカラーリング関連の追加や変更のみが加えられていき、1999年モデルを最後にフェードアウト。
どこまでいっても通(つう)な趣味人のためのバイクというイメージがつきまとってしまったからでしょうか、残念ながら大ヒットモデルとはなりませんでした。
とはいえ、その美しさ、こだわり抜かれた走行性能はまぎれもなくホンモノ。
今なお数々のモディファイを施した車両でサーキット走行会を楽しんだり、ドラッグレースやジムカーナに参加したりしている人を見かけることができるほどです(もちろん公道でも)……素晴らしいですね!
ベストタイミングを見計らって後期型「TDM850」が驚きの登場〜ッ!
……と、延々「TRX850」について語ってきたのですが、ここでようやく出木杉クンこと「TDM850」の登場です(^^ゞ。
1992年3月にデビューするも、「ゼファー1100」、「CB1000SF」ほか、オーバーナナハン解禁の勢いで大ブームとなったビッグネイキッド軍団旋風を前に強烈な存在感を示せないまま、日本市場では1994年モデルを最後に引っ込んでしまった初期型「TDM850」……。
捲土重来は1998年7月にスタートいたしました、そう後期型「TDM850」の登場です!
実のところ欧州市場では後期型「TDM850」が1995年9月のパリショーですでに発表され、「TRX850」でお披露目された270度位相クランクエンジンを堂々の新規導入!
さらに攻め込むことのできるラジアルタイヤ化も併せて告知されたことで、彼の地の(距離ガバ峠攻め攻め変態)ライダーたちは狂喜乱舞したとか!?
翌1996年からヨーロッパを中心に後期型「TDM850」のセールスが開始されるや、前期型以上の熱狂がバックオーダーに拍車を掛けます。
そちらへ応えるかのようにヤマハも毎年のように魅力的なカラーを投入……。
前述のとおり、欧州での需要と供給がようやく落ち着いてきた(?)1998年7月から、ようやく日本市場でも後期型「TDM850」が発売されることとなりました。
やはりなんといってもパッと見で目を引くのはスタイリングの大胆な変化でしょう。
ラジエターを覆うシュラウドは有機的な“うねり”を感じさせるものとなり、車体左側のみにプロジェクターヘッドライトを採用したフロントフェイスからテールエンドへ至るまで大胆な抑揚がつけられた、プレスリリースが言うところの“新オーガニックフォルム”を見事に具現化しているではあ~りませんか!
カラーリングまで前期型では黒と濃紫という渋すぎる色を各年式1色ずつに終始していたのに、1998年登場の後期型では精悍な「ソルトレイクシルバー(銀×黒)」を訴求色にしつつ、目が覚めるようなイエローをフィーチャーした「ライトグレーメタリック3(黄×銀)」まで用意されるという2色展開にッ!
ヤマハもようやく本気を出してきました……。
というのも、「TDM850」が国内市場において雌伏している間、非常に大きな状況の変化が起こったからなんですね。
そうです! お察しのとおり二輪免許取得制度の改定がビッグニュースとしてギョーカイを駆け巡りました。
1995年に自動二輪免許が「大型自動二輪免許」となり、中型限定自動二輪免許が「普通二輪免許」へと改められ、なんとその排気量☆無制限な「大型自動二輪免許」が教習所でも取得できるようになったのですから、そりゃもう大騒ぎですがな(運転免許試験場で行われる一発試験がなくなったワケではなく、そちらを選ぶことも可能)!
「あぁ、金さえ払えば誰でもビッグバイク免許が“買えるようになった”のね」と悪態をつく人もいたりはしましたが(限定解除で苦労された経験を持つ方々の一部)、総じてユーザーは超絶ハイパーウルトラスーパー熱烈歓迎ムード。
ビッグバイク購入への高すぎた免許ハードルが一気に地面とツライチレベルまで下がったようなものですから、泣く泣く“チューメン”でガマンしていた単車乗りたちは、こぞって教習所へと通いはじめて排気量☆無制限な天下無双の「大型自動二輪免許」をゾクゾクとGET!
まぁ、大型二輪免許を取ったら当然のごとくドデカイ単車に乗りたくなるのが人情というものですから、結果的にビッグバイクが飛ぶように売れはじめたのですね。
すでにブームとなっていたビッグネイキッドはもちろん、ビッグクルーザー、ビッグツアラー、ビッグオフ、そして夢の時速300㎞到達まで夢想できるメガスポーツや毎年のように性能が向上していたリッタースーパースポーツなども逆輸入車として入手可能ですから、ほんの数年前とはまるで違う夢のような状況に!
ブームの裾野が広がれば「人気ジャンルに憧れてビッグバイク免許を取ったはいいが、数多くの他人様と一緒の車両というのもなんだかイヤだな……」と考える人が出てくるもの。
すると「おや? 中途半端な排気量だけど大型二輪免許でしか乗れない、個性的なバイクがあるじゃないか!」という少々ヘソ曲がり(?)なライダーも次々に現れて、後期型「TDM850」が“再発見”されていったのです。
そこへインターネットという心強い援軍も加わり……。
このあたりのダイナミックな動きはとても面白いので、ぜひ【後編その2】で展開させてください。
第一、「TDM900」がまだ登場しておりませんし……(^^ゞ。
扱うバイクは出木杉クンなのに筆者がぐだくだクンで、まことに申し訳ありま千 昌夫(さん) m(_ _)m。
あ、というわけで1990年代(とりわけ中盤以降)に生まれてきた「TDM850」や同級生のビッグバイクたちは、タイヤチョイスやメカニズム的も現在へつながる仕様を有しておりますので、令和の現在、中古車を選ぶときも安心材料が多いのですね。日本全国に300強の店舗を構えつつ、『5つ星品質』の中古車を販売しているレッドバロンなら安心して“ナインティーズバイクライフ”も楽しめますよ~!
TDM850/900という出木杉くん【後編その2】はコチラ!