パラレル(並列)に隣り合ったシリンダー内にある2つのピストン混合気の高速燃焼でドカン!と押し下げられ、コンロッドを介してクランクシャフトをブン回す……。そのクランクピンの位置をネジって(?)270度にしてみたらアラ不思議! 従来からあった360度とも180度とも異なる“玄妙な趣きかつ実利もしっかりある出力特性”が現れちゃった……ので、二輪ギョーカイが色めき立ったのです!

1999_TRX850_JPNカタログ

●1999年型「TRX850」カタログより。こちらは後期型「TDM850」にも大きく関わってくるモデルなので、以下、本文でネチネチと紹介させていただきます。正直、「270度位相クランク!」「トラクションが凄い!」と文字で説明しても、その凄さ、良さはなかなか伝わらないもの。近年のようにメーカー主催の試乗会やレンタルバイクが1990年代当時に広く普及していたなら、「TRX850」そして「TDM850」は倍以上売れたのではないかな……と妄想が広がります

 

 

TDM850/900という出木杉クン【中編】はコチラ!

 

TDM850/900という出木杉くん【後編その2】はコチラ!

 

「パラレルツイン」と聞いてもイマイチ萌えないライダーは多数……!?

 

前回でもさわりを述べましたが“並列2気筒”というのは、それこそ1930年代の英国車(1933年に登場した650㏄のトライアンフ「6/1」が元祖とか。※興味があったらググってみてね!)から連綿と進化&発展を遂げてきた、バイク用パワーユニットの代表的なエンジン形式であります。

 

 

ただ1980年代ともなると、特に250㏄以上のロードスポーツモデルではあまりにも普遍的なものとなってしまったため、「マルチ」(並列4気筒〈3気筒や6気筒も!〉)、

1981年CBX400F

マルチといったら「To Heart」の……いやいや、初期型ホンダ「CBX400F」のカタログ表紙でしょう! 並列4気筒モデルであることを高らかにうたう名キャッチコピー「400マルチ、いまクライマックス! 〜全身に息づくレーサースピリット。数々の革新メカ。いま、400マルチの時代が変わる。〜」の文字列は、瞬時に筆者を1981年、中学校1年生だったころへ戻してくれます

 

 

「ブイ」(V型2気筒〈3気筒や4気筒も!〉)や「ボクサー」(水平対向2気筒〈4気筒や6気筒も!〉)などの華々しい、見た目も語感も派手なエンジンたちに比べると、

 

 

「今どきパラツイン? つまんなさそ~」と、筆者のような“三ナイ運動で免許も取れないクセにバイク雑誌の受け売りで無駄な知識だけはスカスカな頭にこびり付いているスペック至上主義中高生ヤロウ”にとっては、もはやワクワクもしない魅力の乏しい存在になっていたのです。

●放課後、同様のバイク好きが教室に居残り、勝手にひいきのメーカーを背負って口プロレス(←要は舌戦)。今思い起こせば「偉そうに何言ってんだ」状態ですが、とにかく面白かった……嗚呼、セイシュン!

 

 

ハ~イ、ここでみんな机に突っ伏して~センセイ怒らないから正直になりなさい。

 

アナタも「2気筒よりは4気筒がエライ」とか「パラツインよりVツインやボクサーツインのほうがカッコいい」心の底では思っていたでしょ? 

 

そう思っていたら挙手ッ!

 

ハイ、周り見ない、周り見ない、ま・わ・り・を・み・な・い・ッ! 

 

ヒィ、フウ、ミイ…………そうですよね、そうなんですよね!? 

机に伏せる

●……と、テレビのドラマやコントでよく見た覚えのあるシーンを再現してみたのですけれど、実際に経験されたことあります? 少なくとも筆者はこんな風に先生から集団詰問された記憶はございません。机に突っ伏して寝たことは数え切れないほどありますが(汗)

 

 

かくいう、な~んとなく並列2気筒というだけで肩身が狭く感じる雰囲気がまだ残る1992年に登場したヤマハの初期型「TDM850」は、こと国内市場においては、まさにカチ合ってしまった並列4気筒リッターネイキッド旋風が吹き荒れる中で、見事なくらいに埋没……(あくまで国内市場ではね! 欧州では大ヒット御礼状態を継続)。

TDM850

●ビッグオフローダーでもない、生粋のロードスポーツでもない、はたまたツアラーでもない……。全く新しい価値観を提案してきた「TDM850」は、同じようなライバルも存在していなかったため企画として展開しづらく、バイク雑誌屋としても奥深い魅力をどう訴求すればいいものか大いに悩まされました……。まぁ、どう釈明したところで単なる言い訳になってしまいますけれどネ

 

TDMの心臓を魔改造したビッグツインスーパースポーツ「TRX850」爆誕!

 

しかし不屈のヤマハ開発陣は手塩にかけた849㏄大排気量パラレルツインの可能性を信じ、パリダカ制覇用マシンの開発で大いなる知見を得た“270度位相クランク”の並列2気筒エンジン世界で初めて実用化し、1995年にバリバリのロードスポーツモデル「TRX850」へ搭載させてきたのです!

1997_TRX850カタログ

●1997年型「TRX850」カタログより。1995年3月に発売されたヤマハ「TRX850」は「TDM850」ベースのパラレルツイン5バルブエンジンへ270度位相クランクを導入すると同時に吸排気系を改良し、最高出力83馬力/7500回転、最大トルク8.6㎏m/6000回転を実現。乾燥重量は188㎏とTDMの199㎏から11㎏の軽量化をはたしていました(装備重量は206㎏)。シート高は795㎜。燃料タンク容量は18ℓ、60㎞/h定地走行での燃費は33㎞/ℓで理論上の満タン航続距離は594㎞。税抜き当時価格は85万円(消費税3%込みの価格は87万5500円)で、こちらは最終型となる1999年モデルまで変わらず。ただし1997年4月1日以降、消費税は5%に上がったので税込み価格は89万2500円になってしまったのですけれど……

 

 

その2年ほど前(1993年)にアルバイトから正社員として八重洲出版に潜り込み(?)モーターサイクリスト誌の編集部員として活躍(??)していた筆者は、ヤマハ広報部から送られてきたポジフィルムを拡大鏡でのぞき込んで、その美しさに感嘆したもの……。

 

 

相変わらず超人気ムーブメント継続中だった並列4気筒ネイキッドジャンルにおいて、すでにヤマハも「XJR400」と「XJR1200」でひと山当てておりましたので(←言い方)、

ヤマハXJR1200

●1994年3月に発売された「XJR1200」は、ハイパフォーマンスツアラー「FJ1200」用をリファインした1188㏄空冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジン(97馬力/9.3㎏m)を搭載。いちいちカッコいいヤマハらしさ全開のスタイリングも大好評で、瞬く間に大ヒットモデルへ! ここからビッグネイキッドの排気量拡大バトルが始まっていったのはご存じのとおり。税抜き当時価格は89万9000円(消費税3%込みの価格は92万5970円)で、同年同月に国内仕様としてリスタート発売されたスズキ「GSX1100Sカタナ」と全く同じ。……両車とも買い占めておけばよかった(^w^)

 

 

エンジンだけでなくスタイリングにおいても「TRX850」は独自性と理想形を追求できたのかもしれません(ただ、「ドゥ○ティ・900SSのパクリじゃん!」という通りすがりの言い捨て系評論は実走インプレ取材中の取り巻きさんからでなく、アンケートハガキでも多数届いておりましたが……)。

1997_TRX850_JPN

●白や赤のイメージが強い「TRX850」ですが、1997年型から登場した「パープリッシュブルーメタリック7」も本当に精悍かつ美しいカラーリング……! なお、このハーフカウル〜テールカウルにかけてのデザイン、2023年に開催されたジャパンモビリティショーでも披露された「XSR900GP」は、ゼッタイ「TRX850」もリスペクトしているよなぁ……と筆者は思いました。もちろん、本来は「YZR500」イメージから、なのでしょうけれど

 

 

いや本当に初っ端、クローズドコースほかでグリグリ試乗した一流バイクジャーナリストや腕に自信ありの先輩編集部員たちからは、「コレ、とんでもなく凄いマシンだぞ!」という絶賛の声しか上ってきませんでしたね。

TRX装着タイヤ

●「TRX850」の標準装着タイヤはミシュラン ハイスポーツラジアルTXシリーズ! こちら、あの「YZF750SP」にも採用されていたZR規格のハイグリップタイヤで、開発陣のこだわりが見てとれる点でもありました。なお、サイズはフロント120/60ZR17、リヤは160/60ZR17

 

 

ここで改めて並列2気筒エンジンとクランク位相角度との関係を述べておくと、非常に大ざっぱな言い方をさせてもらうなら、180度クランクは「ガーーーッ!」と中・高回転域まで豪快に力強く吹け上がる雰囲気が特徴的で、現行モデルとしてはカワサキ 650、400、250のニンジャ&Z系・「エリミネーター」、ホンダ「CBR250RR」・「レブル500」・「CBR400R」ほか、スズキ「GSX250R」・「Vストローム250」、ヤマハ「YZF-R3/25」・「MT-03/25」などが採用中。

cbr250rr 2023

●最大のライバルであるカワサキ「Ninja ZX-25R」が並列4気筒エンジンの魅力をアピールすれば、このホンダ「CBR250RR」はパラレルツインの可能性を徹底的に追求中! 249㏄水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブエンジンは近年の非常に厳しい排ガス&騒音規制を次々にクリアしつつ、2017年新登場時の38馬力/2.3㎏mから42馬力/2.5㎏mまでパフォーマンスアップを実現! 180度クランクらしく「ガーーーーーッ!」と力強く吹け上がっていきます〜

 

 

360度クランクはツインらしい鼓動感とともに低回転域から太いトルクを生み出すのに有利な手法で、現在はカワサキ「W800」・「メグロK3」などが導入ずみ。

メグロK3

カワサキと目黒製作所の提携60周年にあたる2020年11月、2021年の新型車として登場した「メグロK3」。ベースモデルはもちろん「W800」で、773㏄空冷4スト並列2気筒OHC4バルブエンジン(52馬力/6.3㎏m)はシリンダーが地面に対して垂直にそそり立つバーチカルツイン! なお、同様の雰囲気を持ち、従来クランク角度も360度がほとんどだったトライアンフの大排気量モダンクラシックシリーズ(ボンネビルやスピードツイン、スラクストンなど)は、今や全て270度クランクとなっております……

 

 

これまで書いてきたとおり前期型の「TDM850」も360度クランクだったのですが、5バルブや2軸バランサー、吸排気系のストレート化などの採用で低速域からドコドコ感がありつつ、中・高回転域までマルチエンジンのように気持ちよくブン回る特性が与えられていました。

 

並列2気筒エンジンの新たな地平を切り拓いた270度位相クランクとは結局!?

 

では、パリダカ制覇に向けたマシンの開発過程から生まれ、「TRX850」で世界初採用された270度位相クランクの乗り味はどうだったのかというと、360度クランクを持つ前期型「TDM850」の美点……極低回転域から排気量なりのトルクがシュッと立ち上がりつつ、規則正しいドコドコ感ではなく「バララッ・バララッ・バララッ……」という不等間隔なパルス感とともに高回転域まで力強く吹け上がっていくというものでした。

クランク軸イラスト

●図版は2012年型ホンダ「NC700X」PRESS INFORMATIONより抜粋。シリンダー内の爆発……いや急速燃焼が等間隔で行われる360度クランク。対して270度クランクは不等間隔で燃焼が起こっているのが分かります。これが俗に言う“パルス感”を生み出し、タイヤを駆動する力にも瞬間的な「お休み」が入るため、そこでタイヤが地面をつかみグリップ力が回復するのでトラクションがいい、ともされているのですよね……

 

 

う~ん、ちゃんと伝わっているでしょうか(^^ゞ。

 

 

自信がないので、1997年型「TRX850」のカタログ文面から引用させていただくと、

エンジン

●1997年型「TRX850」のカタログより(前回に続いて再掲)。手持ちのiPhone SEでピンチ(拡大を)したら老眼の筆者でも読むことができましたので、今を生きる若人なら楽勝で解読できるはずです

 

 

「(前略)つまり、1番気筒と2番気筒がドドッと立て続けに爆発すると、しばらく間をおいてから再びドドッと爆発することを繰り返す。爆発のサイクルが短くなったり、長くなったりするわけだ。机の上に指を2本立てて、それを馬の前脚に見立てギャロップしてみてほしい。それが不等間隔爆発のイメージだ。規則的なタイミングで路面を蹴るよりも、蹴るタイミングに抑揚をつけることで、路面を噛む力を強くする。これが、不等間隔爆発が生み出す力強いトラクション特性の秘密である。(後略)」。

 

 

ギャロップとは「襲歩(しゅうほ)」ともいい、競走馬の疾走状態のこと。

 

 

よく漫画や時代劇の暴れん坊な将軍などでは「パカラッ、パカラッ、パカラッ」という擬音で動きが表現されていますよね、あの感覚なのです。

馬ハシリのイメージ

●馬の歩き方、走り方には大きく分けて4種類あり、ゆっくりな常足(なみあし)/ウォークから、速歩(はやあし)/トロット駈足(かけあし)/キャンターときて、一番速いのが襲歩(しゅうほ)/ギャロップなのですね。ヒヒ〜ン!

 

 

実はこれ、一般的なシリンダー挟み角90度のV型2気筒エンジンと同じ爆発間隔だったりするので、フィーリングはとてもよく似ているのですけれど、個人的に「TRX850」のものはより“雑味”の少ないクリアな吹け上がりをする……という印象を受けた記憶がございます。

 

 

なんだかビールのキャッチコピーみたいですが(汗)。

ビールイメージ

●日本のビールは総じて喉ごしの気持ちよさ重視でスカッとクリアな味が特徴……って、こちらも文字にしてウンヌンより実際に飲んだほうが伝わりますわな。体験って大事です

 

 

カムシャフトとそれを駆動するチェーンなどの超高速回転系パーツの数がVツインの半分で済むパラレルツインならではの構造的メリットも大きかったのでしょう。

SV650 ABSエンジン

●こちらはV型2気筒スポーツネイキッドの雄として君臨するスズキ「SV650 ABS」のエンジンヘッド透視図。確かに並列2気筒より構成パーツは多いし、エンジン前後長は長くなったりしがちですが、そこをデメリットではなくメリットに転化していくのも開発陣の腕の見せどころ。実際、「SV650」シリーズや「Vストローム650/1050」シリーズは素晴らしい出来映えであり、それもまたバイクが面白くて仕方のない要因でもあるのです!

 

革新パラツインの特長を最大限に生かすため車体も徹底的に磨き上げた!

 

そんな前後長が短く、ドライサンプ方式でアルミダイキャスト製オイルタンクをミッション直上スペースに設置し、シリンダー前傾角を40度とするジェネシスレイアウトまで採用したエンジンや、そのほかの重量物を車体中央部へ徹底的に集めることで、圧倒的な“マスの集中化”を実現していたのです。

1997年型TRX850カタログ

●1997年型「TRX850」のカタログより。こちらが上で紹介したエンジン関連説明ページと対になっていた部分ですので、ガンガン拡大して読み込んでください(笑)。いやぁ、タマリマセンなぁ〜(筆者は文字だらけカタログ大好きマン

 

 

もちろん「○ゥカ○ィのような」と揶揄されたスチールパイプ製トラスフレームも、シャシーディメンションの理想を追い求めていった必然の形状

 

 

なおかつリヤからの力がスイングアームを介して伝わってくるピボット部分には、しっかり軽量高剛性なアルミ鍛造ブラケットを採用して複雑かつ強力な応力を受け止めていたのですね~。

TRX850エンジンまわり

●フューエルタンクには下からのぞき込んだとしても溶接後の処理が目立たないフランジレス加工が施され、トラスフレームは溶接時に飛散&付着するスパッタを入念に除去したあと、接合部などの凹凸面にも均一に塗料が乗るように丁寧な電着+静電塗装を実行。各部にはステンレスボルト&ステンコートボルトがおごられるなど、ある意味で採算を度外視したこだわりが満載されていました。まさに神は細部に宿るを地で行く仕上げっぷり……! あ、ピストン運動を回転運動に変換するクランク軸、その力をクラッチを介して操るメイン軸、ギヤミッション→スプロケットを回すドライブ軸……この“三軸”を三角形のように配置する現代スポーツエンジンの最適解レイアウトもこの「TDM850」……の前身となる「XTZ750スーパーテネレ」が始めたものです、ハイ。凄いんです!

 

 

それらにより跨がった瞬間、「え? コレが850㏄のバイクなの?」と驚く程のスリムさが実現されており、エンジンがとても遠く、下にあるという印象を抱きました。

 

 

はたして峠道では1430㎜というショートホイールベース(ちなみに「XJR1200」は1500㎜)や乾燥重量188㎏という車体、そして高性能な前後サスペンションなどが奏功して、とにかくクルクルと軽く気持ちよく曲がってくれるバイクだなぁ……、と感動しきり。

TRX850リヤサス

●リヤにはサブタンク別体式ビルシュタインタイプのリンク式モノクロスサスペンションを採用。イニシャル調整は1〜7段、減衰力調整は圧側・伸び側ともに1〜20段を備えるというものでした。メカメカしいですのぅ〜

 

 

コーナーを脱出してスロットルをワイドオープンしたとき「バララララッ!」と独特な排気音&鼓動とともに急加速してくれるのも快感でしたね~。

 

 

強いてネガティブな印象を受けた部分を挙げれば、ミッションが5速なので高速巡航時についつい幻の6速を探してしまうことと、なかなかに攻撃的なライディングポジションのため長時間乗り続けると、背中や首などに疲労が蓄積してしまいがちなところだったでしょうか(個人の感想です)

フロントハンドルまわり

●1980年代後半の2ストレーサーレプリカ……ほどではなかったにしても、結構な垂れ角が付いていた「TRX850」のクリップオンハンドル。気持ちよく曲がってもらうにはニーグリップをしっかり行って背筋と腹筋で上半身を支えることが必要不可欠でした(疲れてくるとついハンドルに体重を掛けてしまうのですけれどね〜)。φ41㎜の正立式フロントフォークは10段のイニシャル調整機構と4段の減衰力調整機能付き!

 

 

後日オーナーさんを取材したときは「オイルやプラグの交換が面倒くさいよぉ!」と苦笑いをされていましたが……(^^ゞ。

 

 

そんな「TRX850」は、なんと登場した1995年から1997年までの3年間、平 忠彦選手を軸にしたプライベートチームが鈴鹿8耐にも参戦!

 

 

なかでも1996年はマールボロのサポートをGETし、ペアライダーにクリスチャン・サロン選手も招聘して自力で予選を突破し、見事総合24位で完走するという快挙を遂げました。

TRX850ストリップ

●革新のビッグツインエンジンと美しいトラスフレームを中心に据えた新時代のスーパースポーツは世界的なレースでも活躍できるはず……。そんな単純な発想から始まったという鈴鹿8耐チャレンジ。柔よく剛を制すを合言葉にレジェンド平忠彦選手が走り続けた3年間は、記録はもちろん記憶にも強く残るものとなりました。タイラレーシング、今から15年前のブログではそのマシンがチラリ。その勇姿をTRXカスタムやプラモデル改造のモチーフとする人もいまだに多いとか!

 

 

まわりはホンダ「RVF/RC45」やヤマハ「YZF750SP」、スズキ「GSX-R750SP」、カワサキ「Ninja ZX-7RR」といったバケモノ4気筒マシンだらけだったのですから、本当にたいしたものです……。

1995_YZF750SP

●1993年に初期型が発売されたヤマハのスーパーバイク世界選手権参戦用ホモロゲーションモデル「YZF750SP」。マイナーチェンジを受けた写真の1995年式は1月に発売され、リヤサスペンションをオーリンズ製として全長およびリンク比を改良しており、その他に着脱式シートフレーム、可変式スイングアームピボット、大型化されたラジエターなどを新採用。税抜き当時価格は130万円(消費税3%込み価格は133万9000円)で500台の限定発売ナリ! なお、こちらは「YZF」の名を冠した最初のモデルでもありました〜

 

 

結局、「TRX850」はカラーリング関連の追加や変更のみが加えられていき、1999年モデルを最後にフェードアウト。

 

 

どこまでいっても通(つう)な趣味人のためのバイクというイメージがつきまとってしまったからでしょうか、残念ながら大ヒットモデルとはなりませんでした

1999_TRX850カタログ表紙

●1999年型「TRX850」カタログより。この表紙を飾った「ビビッドレッドカクテル1」はブラックの配色といいそこへ至るまでのグラデーションといい、シビれるほどカッコいい1台、嗚呼それなのに……。後述するビッグバイク狂想曲時代でも「TRX850」の浮かれた話はついぞ聞いた記憶がございません。なぜなのか……

 

 

とはいえ、その美しさ、こだわり抜かれた走行性能はまぎれもなくホンモノ

 

 

今なお数々のモディファイを施した車両でサーキット走行会を楽しんだり、ドラッグレースやジムカーナに参加したりしている人を見かけることができるほどです(もちろん公道でも)……素晴らしいですね!

ブラックTRX850

●私が取材したとあるオーナーはブラックの「TRX850」へ黄色と白のラインを差し色して、めちゃくちゃセンスよく仕上げていらっしゃいました。写真を見つけることができなかったのが残念です……(涙)

 

 

ベストタイミングを見計らって後期型「TDM850」が驚きの登場〜ッ!

 

……と、延々「TRX850」について語ってきたのですが、ここでようやく出木杉クンこと「TDM850」の登場です(^^ゞ

 

 

1992年3月にデビューするも、「ゼファー1100」、「CB1000SF」ほか、オーバーナナハン解禁の勢いで大ブームとなったビッグネイキッド軍団旋風を前に強烈な存在感を示せないまま、日本市場では1994年モデルを最後に引っ込んでしまった初期型「TDM850」……。

 

 

捲土重来は1998年7月にスタートいたしました、そう後期型「TDM850」の登場です! 

1998_TDM850カタログ

●1998年7月10日から発売された後期型「TDM850」(型式名RN03J)。繰り返しになりますが各気筒相互の爆発間隔を等間隔から不等間隔(360度毎爆発→270度/450度毎爆発)に変更。またTPS(スロットルポジションセンサー)装備のキャブレターを採用してスロットル開度に対する点火タイミングの最適化を図り、オイルタンクをシリンダー背面に配置してマスの集中化を推進。その849㏄水冷4スト並列2気筒DOHC5バルブエンジンは最高出力80馬力/7500回転、最大トルクは8.2㎏m/6000回転というパフォーマンスを発揮! 乾燥重量は203㎏で装備重量は229㎏。シート高は795㎜。燃料タンク容量は20ℓ、60㎞/h定地走行での燃費は30㎞/ℓで理論上の満タン航続距離は600㎞。税抜き当時価格は79万8000円(消費税5%込みの価格は83万7900円

 

 

実のところ欧州市場では後期型「TDM850」が1995年9月のパリショーですでに発表され、「TRX850」でお披露目された270度位相クランクエンジンを堂々の新規導入! 

 

 

さらに攻め込むことのできるラジアルタイヤ化も併せて告知されたことで、彼の地の(距離ガバ峠攻め攻め変態)ライダーたちは狂喜乱舞したとか!?

TDM850 走り

●フロントに110/80ZR18、リヤには150/70ZR17のハイグリップラジアルタイヤを新採用。その性能を生かし切るため、フロントまわりの車体ディメンションを変更して良好な接地感と軽快なハンドリングを実現! 具体的にはフロント正立式フォークに従来モデル比較で2㎜アップとなるφ43㎜径インナーチューブを採用して剛性バランスの最適化が図られたのです。細かいところですが、薄型バッテリーを採用するとともに、盗難抑止装置「アラームイモビライザー」(別売)対応のワイヤリングソケットも新たに装備されました

 

 

翌1996年からヨーロッパを中心に後期型「TDM850」のセールスが開始されるや、前期型以上の熱狂がバックオーダーに拍車を掛けます。

 

 

そちらへ応えるかのようにヤマハも毎年のように魅力的なカラーを投入……。

1997年式TDM850 欧州

●1997年の欧州仕様「TDM850」……日本で言うところの「ビビッドレッドカクテル7」?が放つ鮮烈な赤味が目を引きますね。配色やグラフィックこそ違いますが、1999年の日本仕様でも、この赤色は登場しました。しかし、欧州仕様の後端が跳ね上がったウインドシールド……カッコいいですし走行風の整流効果も高そうです!

 

 

前述のとおり、欧州での需要と供給がようやく落ち着いてきた(?)1998年7月から、ようやく日本市場でも後期型「TDM850」が発売されることとなりました。

 

 

やはりなんといってもパッと見で目を引くのはスタイリングの大胆な変化でしょう。

TRX850カタログ

ヤマハいわく新しいオーガニック(有機的)フォルムのスタイリングは、ウインドプロテクション効果の向上、躍動感とボリューム感の演出などを狙いとして磨き上げられたもの。この生き物チックなウネウネ具合が映画『エイリアン』に出てくるモンスターを彷彿させたものですから「TDM850はH・R・ギーガー(エイリアンの造形を担当したスイスの画家、イラストレーター、造形作家)さんがデザインしたものだ!」という根も葉もないウワサすら流れたものでした〜

 

 

ラジエターを覆うシュラウドは有機的な“うねり”を感じさせるものとなり、車体左側のみにプロジェクターヘッドライトを採用したフロントフェイスからテールエンドへ至るまで大胆な抑揚がつけられた、プレスリリースが言うところの“新オーガニックフォルム”を見事に具現化しているではあ~りませんか!

TRX850プロジェクタ

●前期型のフロントフェイスはガチャピン顔(諸説あり)でしたが、後期型は仮面ライダーエグゼイド顔(!?)。つまり従来モデルの丸型2灯から左側ロービームのみがプロジェクタータイプの異型2灯ヘッドライトへ変更され、その上にはサブライトまで装備……。スキが見当たりませんなぁ……好きッ!

 

 

カラーリングまで前期型では濃紫という渋すぎる色を各年式1色ずつに終始していたのに、1998年登場の後期型では精悍な「ソルトレイクシルバー(銀×黒)」を訴求色にしつつ、目が覚めるようなイエローをフィーチャーした「ライトグレーメタリック3(黄×銀)」まで用意されるという2色展開にッ!

1998年式TDM850

●はい、コチラが1998年型「TDM850」の「ライトグレーメタリック3」ですね。1998年5月28日発表時のプレスリリースに書かれた国内年間販売計画は3000台と強気な設定。なお、同リリースには「本モデルは標高差の激しい欧州アルプス山岳路での"優れた走行性"を照準に、もともと主に欧州向けに開発したモデルです。'97年末までの販売台数は欧州・国内合わせて約6万台を記録しました」とありました。彼の地ではホントに売れていたんですね

 

 

ヤマハもようやく本気を出してきました……。

 

というのも、「TDM850」が国内市場において雌伏している間、非常に大きな状況の変化が起こったからなんですね。

 

そうです! お察しのとおり二輪免許取得制度の改定がビッグニュースとしてギョーカイを駆け巡りました

免許イメージ

●当然ながら公道にて堂々とバイクを走らせるには免許が不可欠。1975年以来ビッグバイクへの憧れを強固に阻んでいた試験場での一発試験“限定解除”がなくなるらしい……とのウワサが1994年ころから流れ始め、ギョーカイは固唾を飲んでその推移を見守っていたものです

 

 

1995年に自動二輪免許が「大型自動二輪免許」となり、中型限定自動二輪免許が「普通二輪免許」へと改められ、なんとその排気量☆無制限な「大型自動二輪免許」が教習所でも取得できるようになったのですから、そりゃもう大騒ぎですがな(運転免許試験場で行われる一発試験がなくなったワケではなく、そちらを選ぶことも可能)! 

合格イメージ

●極論すれば、原付免許すら持っていなかった人でも直接「大型二輪免許」を取得するため教習所へ通うことも可能に! ただ、やはり現実的ではないので、教習所のほうで先に「普通二輪免許」を取得することを薦められることもあったとか……

 

 

「あぁ、金さえ払えば誰でもビッグバイク免許が“買えるようになった”のね」と悪態をつく人もいたりはしましたが(限定解除で苦労された経験を持つ方々の一部)、総じてユーザーは超絶ハイパーウルトラスーパー熱烈歓迎ムード

高いハードル

●自分が試験を受ける都道府県の運転免許試験場のコースを覚えて、そこまでえっちらおっちら行って、試験ルートを頭に叩きこんで、挨拶や安全確認も完璧にして、初めて乗るビッグバイクにビビりつつ試験ルートをたどる……。場所によっては試験官が追走してチェックするところもあったとか。そりゃ緊張しますって!

 

 

ビッグバイク購入への高すぎた免許ハードルが一気に地面とツライチレベルまで下がったようなものですから、泣く泣く“チューメン”でガマンしていた単車乗りたちは、こぞって教習所へと通いはじめて排気量☆無制限な天下無双の「大型自動二輪免許」をゾクゾクとGET! 

低いハードル

●教習所で大型二輪免許を取ろうすると、練習のため走り慣れたコースで、乗りやすいバイクで検定を受けて、もし落ちてもフォローは万全。確かに隔世の感がありましたね、限定解除を乗り越えてきた筆者のようなライダーからすれば……(血の涙)

 

 

まぁ、大型二輪免許を取ったら当然のごとくドデカイ単車に乗りたくなるのが人情というものですから、結果的にビッグバイクが飛ぶように売れはじめたのですね。

 

 

すでにブームとなっていたビッグネイキッドはもちろん、ビッグクルーザー、ビッグツアラー、ビッグオフ、そして夢の時速300㎞到達まで夢想できるメガスポーツや毎年のように性能が向上していたリッタースーパースポーツなども逆輸入車として入手可能ですから、ほんの数年前とはまるで違う夢のような状況に! 

XV1100ビラーゴ

●1980年代後半〜1990年前半、ヤマハのクルーザーシリーズ“ビラーゴ”の頂点に立つフラッグシップモデル「XV1100ビラーゴ」。最大の魅力は1063cc空冷4スト(シリンダー挟み角75度)V型2気筒OHC2バルブエンジン(最高出力61.8馬力/6000回転、最大トルク8.7kgm/3000回転)が生みだす独特の鼓動感とトルクフルな駆動力、そしてロー&ロングのスリムなボディライン(車両重量は241kg)。1995年2月にスロットルポジションセンサー(TPS)や新作マフラー、ハイギヤード設定の5段変速機を装備した国内向けモデルが発売されたのも免許制度改定による史上空前のビッグバイクブームが到来したため(写真は1996年型)。1999年3月には後継モデルとなる「ドラッグスター1100(XVS1100)」が登場。広告などでは「DS11」という愛称が多用されていましたね〜

 

 

ブームの裾野が広がれば「人気ジャンルに憧れてビッグバイク免許を取ったはいいが、数多くの他人様と一緒の車両というのもなんだかイヤだな……」と考える人が出てくるもの。

 

すると「おや? 中途半端な排気量だけど大型二輪免許でしか乗れない、個性的なバイクがあるじゃないか!」という少々ヘソ曲がり(?)なライダーも次々に現れて、後期型「TDM850」が“再発見”されていったのです。

TDM850骨格

●軽量高剛性な(スチール製)デルタボックスフレームに独創の270度クランク849㏄水冷4ストローク並列2気筒DOHC5バルブエンジンを40度傾けて搭載したオールラウンドスポーツ……。そりゃあ、なかなかこれほど個性が突出したバイクは他にございません。

 

 

そこへインターネットという心強い援軍も加わり……。

 

このあたりのダイナミックな動きはとても面白いので、ぜひ【後編その2】で展開させてください。

 

第一、「TDM900」がまだ登場しておりませんし……(^^ゞ

TDM900

●「どうなっとんのか〜い! いつまで待たせるんじゃ〜い!!」とお笑い芸人のようなツッコミが聞こえてくるようではございますが、次回こそ出木杉クンの最終形態(?)、ヤマハ「TDM900」まで話を持っていきますので、何卒ご容赦のほどを……

 

 

扱うバイクは出木杉クンなのに筆者がぐだくだクンで、まことに申し訳ありま千 昌夫(さん) m(_ _)m

歌う人

千昌夫さんの「北国の春」や「星影のワルツ」などが大好きな筆者。カラオケヘ行ったときは必ず歌わせていただいております……ってナンの話でしたっけ??

 

 

あ、というわけで1990年代(とりわけ中盤以降)に生まれてきた「TDM850」や同級生のビッグバイクたちは、タイヤチョイスやメカニズム的も現在へつながる仕様を有しておりますので、令和の現在、中古車を選ぶときも安心材料が多いのですね。日本全国に300強の店舗を構えつつ、『5つ星品質』の中古車を販売しているレッドバロンなら安心して“ナインティーズバイクライフ”も楽しめますよ~!

 

 

TDM850/900という出木杉くん【後編その2】はコチラ!

 

 

TDM850/900という出木杉クン【中編】はコチラ!

 

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