最新じゃないちょっと前の型落ちモデルから選んでみよう!

ForR編集部からの共通お題を受けての記事だけど、うーん難しいねぇ(笑)。絶版車というからには、カタログ落ちしてもう新車では手に入らないモデルという括りなんだろうけど、バイクという乗り物が生まれてすでに100年以上。しかも半世紀に渡って世界のトップブランド4社を擁してきたバイク王国ニッポンには、それこそ膨大な車種の絶版車が存在する。

1955年に発売されたヤマハ初のバイク・YA-1も絶版車。名車となればカワサキのZ2やW3、ホンダのCB750FOUR、スズキのGSX1100S KATANAあたりを挙げるのが順当ってもんだ。ただね、枕ことばに“今欲しい”って言葉が付いているのが気になる。つまり現在でも、“手に入れようと思えば普通に手に入る”ってことが重要なわけだ。こうなるとヤマハのYA-1あたりはもう流石に手に入らないだろうし、カワサキのZ2やW3あたりは、買えることは買えるだろうが、名車すぎてかなりのプレミア価格になっている。そもそもその辺りの車両のお話は、一家言ある他のライター陣にお任せするのがスジってもんだ。

ならばどんな切り口で僕は“今欲しい絶版名車”を5台選ぼうか? そう考えたときに思いついたのが、“モデルチェンジ前”の型落ち車両たちだ。つまりは今でも新車で買える現行車や後継車がありつつも、モデルチェンジ前やその前身となったちょっと型の古いモデルたち。バイクという乗り物は流行や各種規制対応、技術革新などを経て年々進化していく乗り物である。当然、最新モデルの新車を買うのが一番いいに決まっている。…のだが、中には流行りや市場からの要望でもともとの開発コンセプトからガラッと方向転換して別物になってしまったモデルや、ベースを共有する兄弟車のモデルチェンジと連動するかたちで、持っていた個性がスポイルされてしまうような場合もある。

ここではそんな“現行モデルもいいけど個人的には前のモデルも好きなんだけどな…”というモデルたちをピックアップ! うーん、吹けば跳んでしまうしがない二輪ライターとしては“現行車万歳! 新車最高!!”ってスタンスをとるべきなんだろうけど、メーカーさんに睨まれない程度に攻めていくぜ!

HONDA CRF250RALLY(2017~2020)

crf250rally

HONDA CRF250RALLY  (2017年登場時の税8%込価格:70万2,000円/ABS)

2020年12月にフレーム刷新やエンジンの仕様変更を含む大々的なモデルチェンジが行われたCRF250L&CRF250ラリー。最新型は横方向のフレーム剛性が落とされたことで車体のしなやかさが増し、ダートで扱いやすくなっている。ロードスポーツ性が高かった車体を見直してオフロードモデルとしての特性が高められたのだ。ただ、今回のモデルチェンジではCRF250Lはもちろんだけど、CRF250ラリーも同じように変更されてしまった。2017~20年までのラリーは、“とにかくラリーっぽい見た目”に拘ったマシンでCRF250Lとエンジンもベース車体も共通なのは現在と一緒なのだが、当時のCRF250ラリーはフロントフォーク全長が“L”比で30㎜も伸ばされた専用品がセットされていた。これがCRF250Lにはない独特の走行フィーリングを生み、特に高速道路では長い足のしなりがいろんな外乱を吸収するのか独特な安定感があって快適だったのだ。またサスセッティングもフワフワとしたラリーマシンのような柔らかめな設定が施されていた。まぁ、そのぶんオフロードでは30㎜足が長いおかげで外乱の影響を受けやすく、ちょっとダイレクト感に欠けるハンドリングだったのも確か。ワダチや地面から突き出た石などからのキックバックを受けやすかったのだ。それにサスの沈み込みと戻りが大きいので、ちょっとした坂道でサイドスタンドが立ちにくく、バイクが停めにくいなんて弊害もあったのだ。…でもね、あの先代CRF250ラリーの高速道路でのしっとりとした安定感は格別だった。新型になってオフ性能は上がったが、ちょっとその辺りがスポイルされてしまったのが惜しいと個人的には思っている。

YAMAHA YZF-R25(2014~2019)

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YAMAHA YZF-R25 (2014年登場時の税8%込価格:55万6,200円)

スポーツ走行のしやすい車体コンポーネントやボリューム感を求めるなら圧倒的に最新型の方。倒立フォークを得た19モデル以降の現行モデルの方に軍配が上がる。ただ、バイクはなんでもかんでもスポーツ性を高くすればいいってもんじゃないと思うのだ。フルカウルモデルだって街乗りしたり、通勤通学などの普段使いもするし、ロングツーリングに出ることもある。初期型のYZF-R25の場合、登場時のコンセプトが、“毎日乗れるスーパーバイク”なんて言っていたくらいで、かなり街乗りや普段使いの部分に気を使った…というかその部分に徹底的に拘ったモデルだった。それこそUターンのためのハンドル切れ角、足つき性のためのスリムな跨り部、出しやすいサイドスタンドなどなど、エントリーバイクとしての素質もものすごく高かった。ところがそこにCBR250RRなんていう段違いにスポーツ性の高い250フルカルモデルがライバルとして出てきてしまったもんだから、2019年のモデルチェンジではYZF-R25も“スポーティ”方面に随分引っ張られてしまった感がある。高剛性な倒立フォークがセットされ、ハングオン時にホールドしやすいボリューミーなタンクを得たり…。しかし、今思えば、正立フォークの前身YZF-R25は、細身でコンパクトな車体が扱いやすく、峠やサーキットにバイクを持ち込まなくたって、交差点レベルのコーナリングの楽しさが味わえる非常にいいバイクだったと思うのだ。まさに“毎日乗れるスーパーバイク”を具現化したようなバイクであった。

SUZUKI GLADIUS650(2010~2015)

GLADIUS650

SUZUKI GLADIUS650 (2009年登場時の税5%込価格:79万8,000円)

現在のSV650/Xの前身的存在。SV650/X同様、エンジンには名機と言っていい645ccの90度Vツイン。とにかくパルスフィーリングが強くスポーティなフィーリングのエンジンを、これまた素晴らしい出来のしなやかなトラスフレームに搭載。常用域で存分に“バイクを操る感覚”が味わえるのがこのSV650系の醍醐味である。そういう意味では、現行モデルのSV650/Xも最高に楽しい一台と言える。そもそもSVシリーズは1999年にネイキッドタイプのSV650、ハーフカウル仕様のSV650Sとして登場。しかし、一時期、車名が“SV”じゃなかったことがある。それが今回紹介するグラディウス650だ。名前の意味は、ローマ時代の剣闘士グラディエーターであり、そのグラディエーターが使っていた“刀剣”の意味でグラディウス。つまりはスズキの名車・GSX1100S KATANAへのオマージュでもあったわけだ。ただこのグラディウス、ちょっとデザインに凝りすぎていたところがあったのは否めない。スズキはこの頃、グラディウス650/400やスクーターのジェンマなど、かなりバイクのデザインに力を入れていた。ただ拘りのあまりちょっと値段が高めに設定されてしまったこともあり市場の中で大きな需要は掴めなかったようだ。2015年に海外発表された後継機のSV650(つまり名前がまたSVに戻った)のプレス向け資料で“Back to origin(原点回帰)”なんてコンセプトキーワードを見つけて「そこまで否定しなくても…」とちょっと残念に思ったものだ。個人的には、このバイクらしからぬ有機的な曲線でかためられたグラディウスのスタイリングはかなり独自性があって面白いと思うのだが、どうやらこのデザインは人を選ぶようだ。それに乗り味的にもSVシリーズの中でグラディウスだった期間だけエンジンキャラクターが中低速よりにセットされていたのも特徴。中低速域重視の645ccの90度Vツインとしなやかなトラスフレームを操る楽しさは折り紙付きだ。

KAWASAKI Ninja400(2014~2018) 

Ninja400

KAWASAKI Ninja400 (2014年登場時の税5%込価格:66万9,900円)

ヤマハのYZF-R25のところでも書いたけど、現代のフルカル系のモデルはちょっとスポーツ性能の強化に囚われすぎだと思う。誰も彼もがフルカウルスポーツに乗ったらサーキットでヒザ擦るワケじゃない。むしろ、サーキットでタイムを突き詰めるライダーの方が圧倒的少数だろう。カワサキのニンジャ400も近年の“スポーツ化”の流れを受けて極端なスポーツ化の道を歩んだ一台な気がする。なんせ2018年のモデルチェンジでは、それまでのニンジャ650ベースの車体から、ニンジャ250ベースの車体へシフト。つまり、よりコンパクトで軽い車体に余裕ある400ccエンジンを与えてパワーウエイトレシオを上げてスポーツテイストを増したというわけ。ただ、僕は以前の650ベースの車体が与えられていたニンジャ400のツーリング性能がとても気に入っていただけに、当時はちょっと残念に思った記憶がある。というのも2014年から2018年まで販売されたニンジャ400は、650同様のフレーム刷新を受けるとともにツーリング性能に徹底的に拘ったブラッシュアップが行われた。ハンドル、ステップまわりなどをラバーマウント化するとともに、サスストロークも伸ばしよりコンフォートなセッティングに。極めつけはやはりシートだろう。歴代最厚と開発責任者が熱弁したほどのコンフォートさが追求されたのだ。実際走ってみても長距離も快適で、オプションにパニアケースがあったり“400ccクラスにこれ以上のツアラーはないね! 最高!”と当時のインプレッションに書いている。2021年現在、カワサキのラインナップは、ニンジャシリーズのイメージ統一化がさらに進み、400ccモデルにはツアラー的な存在のモデルがないんだよね。400cc以下のカワサキ車でとにかく旅を快適にこなせる相棒が欲しいと相談されたら、この年式のニンジャ400をおすすめしたい。

HONDA NC700X(2012~2014) 

NC700X

HONDA NC700X (2012年登場時の税5%込価格:69万9,300円/ABS)

世界的に盛り上がるアドベンチャーツアラーブーム。正直、ここまでこのジャンルが盛り上がるとは思っていなかったが、日本国内でのアドベンチャーツアラーブームの立役者は間違いなく、このNC700Xである。現在のラインナップにあるNC750Xの前身的存在であり、排気量も669ccと76ccも小さいが、とにかく当時は安くてびっくりした。今でこそNC750Xは92万4,000円。まぁ、現代のモデルとしてスロットルバイワイヤトラクションコントロールなどの高級装備を得たので当たり前なのだが、100万円にも迫る勢いで高級モデルへと昇華しつつある。ところが2012年にNC700Xが登場したときにはABS付きで69万9,300円と随分お買い得感があった。というのも、当時は、ホンダが同じエンジン同じ車体でいくつかのマシンを作り分けるプラットフォーム戦略に力を入れ出した時期。NC700シリーズには、ネイキッドの“NC700S”、スクータータイプの“インテグラ”、クロスオーバーコンセプトの“NC700X”があって、NC3兄弟なんて呼ばれていた。それもこれも実は車体を共通とすることでコストダウンを図るための施策だったのだ。それにこのNC700Xは、アドベンチャーマインドあふれるオプション品の数々まで安かったのにも驚かされた。特にホンダ純正のトップボックス&サイドパニアは、ステー込みの3ケースセットで約15万円とかなりお買い得だったため、こぞってNCシリーズユーザー(Sもインテグラにも装着可能)はパニアケースを取り付けたもんだ。そんなこともあってNC700Xシリーズは何かと安さが際立ち、大荷物で旅するアドベンチャーツアラーを夢見るライダーに売れに売れたのだ。もちろんこの価格の安さと売れに売れた台数は中古市場にもしっかり反映されているのでお買い得だぞ! 

まとめ

…ってな具合で、現在のモデルとはコンセプトが違ってたモデル、今に比べて登場当時は価格が安かったモデルなどなど。現在メーカーから販売されている最新モデルだけに注目しているとちょっと気づきにくいけど、ちょっと視野を広げるだけでいろんなバイクが日本にはある。そんな型落ちモデルの中古車も“乗り手の目的”にさえ合致すればかなり賢い選択になる。それに日本ほど中古車の市場環境がしっかりしている国も少ないと聞く。こんなふうに過去のモデルにも単なるお金の節約という意味での選択肢でなく、しっかりした趣味として中古車を選ぶことができるのはバイク王国ニッポンだからこその特権なのだ。

 

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