2006年、「Ninja ZX-12R」と「ZZR1200」が統合されて新たなるカワサキ☆フラッグシップ「ZZR1400(北米名:Ninja ZX-14)」が登場いたしました。その強烈に個性的なスタイリングにギョーカイ人はもちろん全銀河バイクファン絶句……。しかし世界最速であるべしという呪縛から解き放たれた優しき怪獣は圧倒的な実力で幅広い支持を獲得していったのです!

●ど〜ですか、お客さん! 6連ヘッドライト直上のおでこ(?)にドーンとラムエア導入口という異形の相貌は……。「コイツの顔には魑魅魍魎というか、得体の知れないおどろおどろしさがあるでしょ!? 後ろに付かれたら道を譲りたくなるでしょ!? してやったりですよ、はっはっはっ〜!」と豪快に笑っていた田中俊治さん。なお正式販売前に配布されたこのポスター向け広報写真。導入口の大きさが後日生産されはじめた車両より大きいんです。つまり最後の最後の最後まで風洞テストを行ってベストな大きさを探っていたんですね

●これが最終的にゴーサインの出された生産型……。確かに導入口が上写真より小さくなっています。迫力という点では上でしょうけれど、より理想的な走行性能を求めたらこちらになったということ。デザインチームと車体開発チームとがバチバチにやりあっていたことが伝わります。そんな燃えるような熱気をはらんで開発された旗艦たるバイクが悪いはずありません!?
Contents
妖怪変化か化け物か。一度見たら忘れられない「顔」を獲得せよ!
「やはりフラッグシップ……世界最高峰のバイクはギョッとするほどの個性がないとね。期待しちょいて!」と、元マツダでユーノス・ロードスターの内外装などを担当し、2001年からカワサキでデザイン革命を推し進めていた田中俊治さん(前回参照)。

●初代ロードスターことNA型……なぁんて可愛らしくてカッコいいお姿なんでしょう。フロントマスクは能面「小面」、ボンネットからサイドラインへの流れは同じく能面の「若女(わかおんな)」をモチーフにしたという滑らかで色気のある面構成が秀逸すぎます。実はこちらのオーナーでもあった筆者、カワサキ時代の田中さんに取材でお会いしたとき無理を言ってサインをいただいてしまいました…… m(_ _)m
自信に満ちていたお言葉どおり2006年に登場した「ZZR1400(北米名:Ninja ZX-14 ※以下同)」は、インパクトありまくりな激烈スタイリングで出現しました。

●2006年型カワサキ「ZZR1400」。パールメテオグレーの塗色も迫力があっていいですな〜。造形を覆うステッカーのたぐいは一切なく(社名と車名は立体ロゴを貼付)田中イズムを感じさせます。型式名はZX1400A(写真)。1352ccの水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジンは190馬力(ラムエア加圧時は200馬力!)を9500rpmで発生。最大トルクは15.7kgm/7500rpm。シート高800㎜、乾燥重量215㎏(ABS付きのZX1400Bは218㎏……当時はまだABSの有無を選べたのですね〜)、燃料タンク容量22ℓ[※データは欧州フルパワー仕様のもの]
2003年に披露されたコンセプトモデル「ZZR-X」をベースにしつつ、目を引くサスペンションや可変機構などをより現実的な形状とパーツに置き換えて仕上げてくるのかな……という我々の勝手な予想は見事に裏切られ、ある意味エゲツないほどの姿(特に顔!)でのアンベール。

●2003年東京モーターショーでサプライズ登場した「ZZR-X」(非常に興味深いWEBヤングマシンの記事はコチラ)。こちらを土台にしたカワサキ新旗艦の予想イラストを山ほど見かけたものですが全て大ハズレということに。田中さん、スクープ記事が掲載されている雑誌を読んではニヤニヤとほくそ笑んでいたんだろうなぁ〜
その衝撃は瞬く間に全世界へ広がっていったのです。
ハヤブサとの完全決着こそつけられなかったものの大ヒットモデルに
デリバリーが始まるやいなや欧州のバイク雑誌(紙)群はこぞってスズキ「ハヤブサ」との全開性能比較テストを敢行……いたしますが、すでに笑えない冗談のような299㎞/hリミッターが存在しておりましたので最高速チャレンジは無意味(^^ゞ。

●最大のライバルであるスズキ「GSX1300R ハヤブサ」は1999年に登場して以来、細かい改良を加えられつつメガスポーツバイクの代名詞として長期独裁(?)政権を継続中(写真は2006年型)。両車とも条件さえそろえばアッという間に299㎞/hリミッターへ到達する実力を持ちながら、普段使いでも乗りやすいという美点を兼ね備えていました。あ、ハヤブサは1299ccの水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジンで最高出力175馬力/9800rpm。最大トルクは14.1kgm/7000rpm。シート高805㎜、乾燥重量217㎏、燃料タンク容量は21ℓナリ〜
速度リミッターへ到達するまでのタイムやゼロヨン結果、サーキットアタックなどでムリヤリ優劣をつけようとするものの絶対性能はほぼ互角であることが判明しただけで「どちらもアンビリーバボーに速い! あとは好みだ」との結論が続出したのには笑ってしまった記憶がございます。

●まさにがっぷり四つの好勝負を繰り広げた両車。「ハヤブサ」は数々の対決記事に引っ張り出されたためにメディア露出が増え、一時期落ち着いていた人気が再燃するという副次的な効果まで(^^ゞ。やはり何事にも好敵手という存在は必要不可欠なのです
「最新かつ最良のZZRであること」へ徹底的にこだわった執念の開発
結果的に「ZZR1400」はワールドワイドな大人気モデルとなっていくのですけれど、それはカワサキ開発陣とファンの願いが完全一致したからに他なりません。
具体的に言えば「世界No.1のパフォーマンスを備えていながら、そこら辺を乗り回すにも気楽に乗れて、荷物をたくさん積んで旅へも出かけられる。当然ワインディングではスーパースポーツを追い回したりもできる。いわばカワサキの伝統的なバイクとしてのZZRは、世界最高の能力を備えていながらオールマイティなところが高次元でバランスされていなければならない」(八重洲出版 別冊モーターサイクリスト 2012年3月号『Ninja ZX-14R開発者インタビュー』より抜粋)。

●写真は「Ninja ZX-14R」のリヤ周りなのですが、ヘルメットホルダーとシートの間に格納式の荷掛けフックが見えますね。そちらを引っ張り出してグラブバーにある荷掛けフックも活用すれば、ゴムひもを使っての(タンデムシート上)バッグ類固定もラックラク。あと使い勝手で特筆しておきたいのが、ヘルメットホルダー横で銀色に輝くアシストバー(※)。位置も形状もこれ以上ないくらいナイス!かつ適切な凹凸があるため滑りにくくセンタースタンド(※)を掛けるときにメチャクチャ助かるのです。筆者は取り回し時にも愛用してましたね〜 ※=仕様国によってはオプション
……この記事自体は【14R】登場時のものながら、2006年にデビューした「ZZR1400」のときも全く同じ思いで作り上げられたことはキーパーソンに確認済み。
さらに言うとこのコンセプトはまんま1990年に生まれ落ちて一世を風靡し、メガスポーツの絶対王者として長らく君臨した「ZZR1100(北米名:Ninja ZX-11)」に通じるものでもあったのです。
●1990〜1992年の間に他の追随を許さない圧倒的なパフォーマンスで数々の伝説を作り上げた「ZZR1100(C型・写真左)」。そちらの美点を引き継ぎつつ1993年〜2001年の長きにわたり存在感を誇示し続けた「ZZR1100(D型)」。実際に出すことはできなくとも「ワタシは今、世界最速のバイクに乗っている」という大いなる満足感とともに通勤&通学、タンデム、買い出し、ミーティング、チョイノリ、帰省、ショート&ロングツーリングから洗車でウットリ……までありとあらゆる状況で活躍してくれる存在だったのですから本当に凄いモデルでありました……
スズキ「ハヤブサ」登場の影響からか、かくいうコンセプトが揺らいだダブルフラッグシップ時代……。
「Ninja ZX-12R」では最速を追い求めすぎ、

●2000年に登場(〜2006年モデルまで)
「ZZR1200」だとNo.1バトルから一歩引いた感が否めない。

●2002年に登場(〜2005年モデルまで)
とんでもない高性能を秘めたフレンドリーな怪物……それがZZR
かくいう捻れ状態……ブレたところを是正し、再び「カワサキフラッグシップとはこういうことだっ!」という旗幟鮮明な起死回生の1台としてユーザーへ送り届けられたのが「ZZR1400」だったのです。

●写真は2007年型カタログより。人気大爆発を受けて各国に応じた様々な仕様が用意され、日本にはMA(マレーシア)仕様とUS/CAL(北米)仕様を中心にゾクゾクと逆輸入車が到着したものです(欧州フルパワー仕様にこだわって仕入れる業者も一部存在)。なお、左上のパールクリスタルホワイト(真紅のファイヤーパターン入り)は北米のみで発売されたスペシャルエディション……派手ですな! 巨大な市場からの熱い要望には田中さんも泣く泣く折れた!?(^^ゞ
その大きくおどろおどろしい外観からは想像も出来ないくらい乗りやすく、せせこましいワインディングだって思いのまま。

●鬼……というよりは仁王像がモチーフなのでしょうけれどリアルな話、後方からズゴゴゴゴッと迫り来る「ZZR1400」をバックミラーで確認するとこんな感じですよね……
よく見れば荷物積載やタンデムランへの配慮も十全で取り回しだって不思議なほど軽いのに、いざスロットルを捻り上げればアッという間に異次元ゾーンへ乗り手をいざなう……。

●八重洲出版 モーターサイクリスト 1993年3月号記事より。登場したての「ZZR1100(D型。最高出力はC型と同じ147馬力のまま)」をさっそく【ヤタベ】でチェックすると、ノーマルの状態であっさり280㎞/hオーバーを叩き出して最速王座は安泰。同日、155馬力エンジンを引っさげて最高速テストに挑んだスズキ「GSX-R1100」が270㎞/h止まりだったことを考えると空力特性を含めた総合力の違いを感じさせられたものです(この悔しさが「ハヤブサ」を生んだ!?)。この取材時から13年、2006年に登場した「ZZR1400」は安全な平坦直線路なら誰でも299㎞/hが出せる(?)超高性能を標準装備していました
まさしく万能。
後日、取材で「ZZR1400」に乗ったとき、筆者もウソ偽りなく「あぁ、ZZR1100が帰ってきた!」と心底感動したものです。

●ワタクシ、本当に(アルバイター時代になけなしの金をはたいて)レンタルバイクで「ZZR1100」を存分に堪能しておいて良かったナァと……(そのときのレポートはコチラ)。どうしてもメガスポーツの代名詞でもある【ZZR】は最高速ばかりに注目が集まってしまいがちですが、そこだけではない奥深い魅力があるからこそ全世界で大ブームを巻き起こしたのだと胸を張って言えます。その万能感が間違いなく「ZZR1400」にはありました!
それじゃぁ「ZZR1400」は、「ZZR1100」の発展系とも言える「ZZR1200」に1400㏄エンジンを搭載しただけなの……? と思いきや、ベースとなるメカニズムは「Ninja ZX-12R」を踏襲している点がまた面白いところなのですね。
次回はそんな車体側のこだわりエピソードを紹介してまいりましょう!
あ、というわけで本編では迷いの象徴みたいな書き方をしてしまった「Ninja ZX-12R」と「ZZR1200」ですけれど完成度の高さは折り紙付き。『5つ星品質』な中古車ならレッドバロンが蓄積してきた膨大なノウハウもアナタをサポートしてくれますよ。「ZZR1100」も含め、まずはお近くのお店で在庫チェックを!