横浜と名古屋の2会場で開催されたクルマとバイクの技術展

バイクに関する最新技術を知ることができる「人とクルマのテクノロジー展 2025」が、5212223日にパシフィコ横浜で、7161718日にAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)で開催されました。本記事では横浜会場の模様をお届けします。

本展示会は技術に関するものなので、クルマやバイクがずらりと並んでいるというものではありませんが、普段は目にすることのないエンジンの内部機構や電装機器、制御技術などがびっしりと展示されています。モーターサイクルショーに比べるとかなり専門的で、一般のお客さんよりもエンジニアやバイヤーなど業界で働く人たちの来場が目立ちます。

ちなみに、自動車産業におけるものづくりに対しての考え方や時代の潮流をとらえるといった企業のビジネス眼を知ることができますから、モビリティ業界で働きたいといった学生さん、転職を考えている社会人の皆さんにもお勧めです。

それでは、バイクメーカーと関連サプライヤー(メーカーに部品などを供給する企業)を中心に、筆者が注目した展示について紹介していきましょう。

バイクから飛行機まで! Y-AMTカットモデルも:ヤマハ発動機株式会社

最初に紹介するのはご存じヤマハです。独自の開発思想「人機官能」と技術ビジョン「楽しさの追求と社会課題の解決で、みんなの未来を創る」を体現した機器を多数展示し、知能化、エネルギーマネジメント、ソフトウェアサービスといったコア技術について発信していました。

クルマのエンジンを開発・製造していることでも知られるヤマハですが、自動車メーカーへの供給を目的とした自動車用電動駆動ユニット「e-Axle(イー・アクスル)」を展示。モーター、インバーター、ギアボックスがコンパクトにまとまった3in1構造で様々なタイプのクルマに適用可能とされています。

次に紹介するのは「ハイブリッド航空機用4連結電動モーター」です。航空機用とされていますが、飛行機のみならず船舶での使用も想定された高出力モーターで、1基あたりの出力は500kW4つ連結すると2MW(メガワット)のパワーを発揮します。油密構造の油冷システムを採用しており、高い定格出力(長時間安定して発揮できる最大電力量)を実現しています。

バイクの技術では、NMAX155ABSに搭載され、マニュアルトランスミッションのような走行感覚が特徴の電子制御CVT(無段変速機)「YECVT」とMT-09MT-07TRACER9 GT+に搭載されている電子制御シフト機構「Y-AMT」が展示されていました。

クラッチ・シフト操作を手元のシフトレバーに集約したY-AMTはクラッチレバーとシフトペダルを廃したトランスミッションで、スポーツライディングをより身近にしてくれる機構です。展示ではエンジンカットモデルを動かすことでその仕組みがわかりやすく見ごたえがありました。

CNに向けた電動モビリティとエタノールバイク:株式会社スズキ

続いてはカーボンニュートラルに関する技術展示を行ったスズキです。軽トラック「キャリイ」をベースにした電気自動車「BEV軽トラック」を製作し、太陽光発電の自産自消を検討する実証実験について説明。着ぐるみの牛さんがフリップをかかげながら日本の農業課題やガソリン車とBEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー電気自動車)の違い、カーボンニュートラルについてプレゼンしてくれとてもわかりやすかったです。

バイクに関しては、カーボンニュートラルの実現に向けて2つのアプローチを提案しました。ひとつめは高濃度バイオエタノール燃料にも対応できるよう開発中のインド市場向けフレックス燃料車両(FFV)「GIXXER SF 250 FFV」(海外仕様モデル・参考出品車)です。

油冷エンジンを搭載したGIXXER SF 250をベースに、インジェクターや燃料ポンプ、エンジン制御などを改良してバイオエタノール85%までの混合燃料を使用できるそうです。植物を原料とするバイオエタノール燃料を使うことで二酸化炭素削減に貢献します。

なお、エタノールの濃度が高くなると低温環境下でのエンジン始動性が悪くなりますが、タンク内燃料のエタノール濃度を認識してインジケーターに表示、ユーザー自身で濃度管理ができるようなエンジン制御システムを目指しています。

ふたつめはBEVの世界戦略車第1弾となる電動スクーター「e-ACCESS(イー・アクセス)」です。生産はインド、販売は世界各国で予定されており、「走る、曲がる、止まる」の基本性能の高さを目指して高温環境下など高い負荷をかけた中での開発テストが行われ、BEVとしての信頼性を高めています。

また、駆動バッテリー(公称電圧51.2V、容量3.07kWh)にはEVC(エレクトリックビークルコントローラ)を採用し、DC/DCコンバータも直接取り付けるなど部品レイアウトがコンパクトになるように工夫されています。航続距離はWMTCモードで87km(社内測定値)です。

2050年CN・交通事故死者ゼロ実現へ:本田技研工業株式会社

ホンダは2050年の「カーボンニュートラル」「交通事故死者ゼロ」実現に向けた様々な次世代技術を展示しました。ブース中央に置かれたクルマの骨組みのような「Wiseスケルトン1/1モデル」には次世代Honda SENSING、ダイナミクス統合制御に関するセンサーや制御デバイスが装着され、安全安心でシームレスな移動の実現に向けたクルマの車体設計をイメージさせてくれます。

カーボンニュートラルについては、薄くて軽いバッテリーと関連技術に加え、廃車からのプラスチックやナイロン、アルミ材などをリサイクルするリソースサーキュレーション技術も展示。

まず、薄型化と軽量化を実現した次世代バッテリーパックについては、車体の衝撃分散ボディ構造により衝突保護のためのスペースを削減することで、バッテリー搭載可能面積を拡大して航続距離を増やせるというメリットがあります。

次に、リソースサーキュレーション技術では、廃車由来プラスチックのリサイクル技術、アクリルやナイロン6といった素材の水平リサイクル技術(使用済み製品の原料を再利用して同じ製品をつくる技術)などを展示しました。アルミダイカストの完全水平循環技術など見どころの多い展示でした。

なおリサイクル材の使用といった製造工程での環境対応はバイクでも進んでいます。NC750Xは、ホンダの四輪販売店から回収したクルマの廃棄バンパーなどのリサイクル材を外装の一部に使っています。また、フロントスクリーンと外装の一部には環境に優しい「DURABIO™(デュラビオ™:三菱ケミカルグループが開発したバイオエンジニアリングプラスチック)」を使用し、省資源化と製造工程における二酸化炭素の削減に貢献しています。

交通事故死者ゼロについては、独自の協調人工知能「Honda CI(Cooperative Intelligence)」による運転支援技術などを展示しました。

前後カメラを通したHonda CIにより自車の周囲360度の状況を認知し、事故などの発生リスクを予測してドライバーに伝達することで、見落としなどの認知不足をサポートして交通事故を防ぐものです。

交通事故の要因の多くは、安全不確認、前方不注視、動静不注視といった認知ミスですが、車体各部に装着されたカメラ・センサーといった機械の目がドライバーに危険を教えてくれ、運転操作をサポートしたり車体を制御してくれるシステムです。

サプライヤーで注目したのはボッシュとFCC

サプライヤーの中で目を引いたのは、BOSCH(ボッシュ株式会社)とFCC(株式会社エフ・シー・シー)でした。

ドイツに本社を置く大手自動車機器サプライヤーのボッシュは、ADAS(エーダス:Advanced Driver-Assistance Systems ※先進運転支援システム)に使われている自社開発の前方/側方レーダー(第7世代)など幅広い展示を行いました。

近年大型モデルを中心にバイクにも搭載されつつあるADASですが、国内外の多くのメーカーが同社のレーダー技術を採用しています。

車間距離を保ちながら先行車を追従して走行する運転支援システムのACC(アダプティブクルーズコントロール)や衝突予知警報、死角検知などの機能もこのレーダーがあってこそです。

最後に紹介するFCCは、クルマ・バイク用のクラッチを開発・製造するメーカーで、二輪車用のクラッチでは世界シェアNo.1の企業です。 クイックシフターなどの装備にも必要とされているスリッパークラッチの代名詞「アシスト&スリッパー」も同社の登録商標です。

バイクに関する技術展示としては、マニュアルトランスミッション搭載車のイージーライド化(発進時のクラッチ操作が不要など)に貢献する自動発進湿式多板クラッチのほか、EV用の機電一体ユニット「iePuⓇ」などを展示。スクーターやカートなどモビリティの電動化に向けた開発も進んでいるようです。


いかがでしたでしょうか。展示内容のほんの一部を紹介させて頂きました。機械や電気などモビリティに関する技術に興味のある方は、ぜひ来年の展示会に足を運んでみてください。オンライン展示を行うメーカーも多いので、WEB上でも楽しめますよ!

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