ホンダが電動原付二種スクーター「CUV :e」を発売!

▲ホンダの電動原付二種スクーター「CUV e:」のLPLである後藤香織さんと開発陣(右)、ガチャコCEOの渡辺一成さん(左)

 

25年6月20日、ホンダのラインナップでは、一般ユーザー向けの原付二種として初となる電動スクーター、ホンダ「CUV :e(シーユーブイ イー)」が発売された。まずは簡単に特徴を説明しよう。

▲6月20日に発売されたホンダ「CUV e:」と交換式バッテリー「ホンダ モバイルパワーパック e:」(CUV :eは2本使用)と、ガチャコのバッテリー交換ステーション(Gachacoステーション)

 

「CUV :e」には国内バイク4メーカーの間で仕様統一されている交換式バッテリー「ホンダ モバイルパワーパック e:」が2本搭載されている。街中の走行実態に近いWMTCモード(※)での航続距離が72kmと生活の足としては十分で、交換式であることによりバッテリーシェアリングサービス(現在はガチャコのみ運用)を利用すれば、車両本体のみの購入も可能。国や自治体(都道府県・市区町村)による補助金を利用すれば購入費用やサブスク費用も抑えられる。

▲交換式バッテリーの「ホンダ モバイルパワーパックe:」を2本搭載する。バッテリーが交換式であることのメリットはとても多い

 

また、最大出力6kW(定格出力4.2kW)のEVシステムはトップスピードで80km/h以上を発揮し、原付一種の電動スクーターでは難しかった幹線道路のクルマの流れに乗るということにも、なんら不安のない走行性能が与えられている。

 

▲CUV e:のインパネ部には7インチTFTフルカラー液晶が採用されており、走行速度や走行モードなどの表示が機能的に配置されている

 

また、ホンダ独自のコネクテッドシステムである「ホンダ ロードシンク デュオ」を採用している。航続距離や車両の状態が把握でき、ガチャコのバッテリー交換ステーションも検索できるなどバッテリー切れ(電欠)の心配をなくすと共に、ナビゲーション機能のほか走行中の通話、音楽なども楽しめる。

これらの機能はOTA(Over the air)によるアップデート機能にも対応しており、スマホのようにタイムリーな機能・サービスの進化が可能となっている。

▲TFT液晶モニタ上に表示されたナビゲーション画面。ガチャコのバッテリー交換ステーションの検索もできるので電欠の心配もない


というわけで、筆者もその報道試乗会におじゃましてきたので、これ幸いと電動化に関する自論などを書き連ねつつ、後編では「CUV :e」の購入検討にも役立つような電動バイクの補助金制度や交換式バッテリーによるサブスクリプションサービスの現状、購入時に参考になるシミュレーション(ガソリン原付二種とのコスト比較等)についても説明したい。

※体重75kgのライダーが50km/hまでの加減速、停止を繰り返すモード

地球環境のお話はさておき… 電動スクーターの普及が意味するものとは?

▲地球温暖化については現在も議論が続けられていて、ひとつやふたつの視点では語り切れない。こむずかしい話はまた別の機会にて…


「EVシフトは失敗し、自動車の電動化はすっかり停滞した」というのが、欧米を中心とした先進国市場の風潮となっている。しかし、何でもかんでもEVはダメだと結論付けるのは少々視野が狭いと言わざるをえない。

なぜなら、アジアをコア市場とする二輪車に関しては、電動化がもたらす生活環境への恩恵と関連事業による収益が今後ますます拡大することが予測されているからだ。新興国や発展途上国ではまだまだモビリティの中心は二輪車であり、個人の移動から業務利用まで二輪車の電動化には、環境問題の改善だけでなく新規ビジネスとしての魅力があふれている。

「電動化は環境に悪いんだ」という昨今よく聞くフレーズも、その視点や視野の定め方ひとつで意味合いが大きく異なってくる。数あるエビデンスを自論に都合よく振りかざしても、国際政治の情勢ひとつで購入補助金がすぱっと打ち切られるのが現状なのだ。

よって、ひとまず地球温暖化、脱炭素化といった難しい話や、もともと原付スクーターは環境に優しい乗り物であるといった話はいったん置いておいて、電動二輪車、特に電動スクーター(コミューター)の普及には多くの価値があることをまずは知ってほしいと思う。

電動スクーターがもたらす数々のベネフィット

▲マフラーがない。たったこれだけで電動バイクがもたらす価値と、そこから生まれる利用のシーン、そうした利用で恩恵を受けるユーザーと関係ステークホルダーがいることに考えを巡らせるべきだ

 

コミューターやパーソナルモビリティと呼ぶべきスクーターの電動化には以下のようなメリットやベネフィット(恩恵・利益)がある。

・走行中にCO2(二酸化炭素)などの有害物質を排出しない
LCA(ライフサイクルアセスメント)よりも、消費者としてのユーザーとその生活環境にとって直接的に影響を与える事象

・音が静かで早朝や深夜でも近所に迷惑がかからない
新聞配達の騒音がイメージしやすいだろう。排気量の大きなバイクに乗るユーザーが早朝の出発時に大通りまでバイクを押していくなんてこともよく聞く話

・排気ガスがないので車体も服も汚れにくい
マフラーからの排気ガスがないので、車体やユーザーの衣服が汚れにくい

・ドライブチェーンがない
ドライブチェーンがない、チェーンオイルが飛び散ることがない。こういったことで女性がスカートのままでも安心して乗れるようになる

・マフラーがないので周囲の歩行者も安全
高温となるマフラーがないので、駐車中、周囲の人(特に子ども)が火傷を負うという心配がない

・遠くのガソリンスタンドに行かなくてよい
全国的に数が減り続けているガソリンスタンド。ガソリンを入れるために数km余分に走る必要がない

・構成パーツが少なく点検・整備しやすい
一般的に電動車のパーツ数はガソリン車よりも3割以上も少ない。電動車にはエンジンオイルも必要ないしECUなども統合簡略化される

・違法改造や暴走行為を抑制しやすい
マフラーがないので爆音を出しての走行はできないし、リミッターをカットして爆走したりといったことも抑制しやすい(電動の場合、速度と航続距離はトレードオフとなる)

・IoT技術に親和性が高く走行ログや車両の状態などが管理しやすい
インターネットと車両を接続して、走行時のログデータや車体各部の状況などをスマホアプリで管理、クラウド上に保管するといったことがしやすい

・IoT技術に親和性が高くレンタルやシェアリングで活用しやすい
インターネットを介することで、レンタルやシェアリングなど購入以外の選択肢でも車両を利用しやすい

・地下駐車場や自転車置き場にも駐めやすい
排気ガスが出ないため換気が難しい地下駐車場への駐車もしやすくなる。またマフラーやエンジンなど高温部が露出しないため自転車置き場などに駐めても安全


このように、スクーターを電動化するメリット、そのメリットがもたらすベネフィットは想像以上に多く、利用シーンや対象ユーザーを捉えた普及策を図っていくことが求められる。

なんでもかんでも電動化すればよいというわけではない

 

▲2024年のミラノショー(EICMA)でホンダが発表した2台。電動の「EV Fun Concept」と、電動過給機を搭載したV型3気筒エンジン。ファン領域であっても電動も内燃機関もどちらも開発を続けている。まさにマルチパスウェイだ

 

「バイクの電動化なんてつまらん!」「エンジンの鼓動と排気音がバイクの魅力だよ」という意見もよく聞く。そういったユーザーは頭ごなしに電動化を反対する向きもあるが、何もすべてのバイクを電動化する必要はない。

ファン領域のスポーツバイクなどはガソリンの燃焼・排気技術を高めつつ、将来的な合成燃料や水素燃料といった内燃機関(ICE)であり続ければよいのだ。その過程で環境対応技術はますます進化し、マルチパスウェイでのカーボンニュートラル実現とバイクが培ってきた趣味性を両立できる乗り物として存在できるだろう。

コミューターについては電動化を急ぐべきだ

▲駅近のシェアサイクルのラックに置かれていた特定原付の“電動サイクル”。所有や利用の形態も変わりつつあるいま、原付バイクのシェアが大きく失われる恐れもあるのだ

 

電動化を急ぎたいのはあくまでも“コミューター”領域での利用だ。毎日の通勤や通学、買い物といった生活の足に関するニーズを捉えられるよう、車両の開発・販売とバッテリーの充電・交換インフラの拡充を続けていくべきだ。

コミューター領域のバイクが電動化すれば、バイクはこれまで引きずっていた負のイメージからいよいよ本格的に解き放たれ、交通社会としてマネジメントすべき個人の移動に必要とされるパーソナルモビリティとして、社会との共生を強固なものにできるだろう。

電動アシスト自転車のみならず、特定原付(23年7月に施行)という競合モビリティまで登場したことを考えれば、二輪業界はコミューターの電動化に向けて、これまで以上に注力すべき時にある。筆者はそう考えている。

後編に続く。

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