オンロード、オフロードを問わず2ストロークエンジンが主役だったバイクレースの世界。しかし1990年代後半から環境への配慮が声高に叫ばれるようになり、白煙をまき散らす2ストマシンへの風当たりは強くなる一方に……。モトクロッサーにもかくいう流れがやってきたのを受けて、スズキとカワサキは手を握りつつ開発をスタートさせたのです……が!?

●2004年9月に配布された2005年型カワサキ「エプシロン250」カタログより。色がシャンパンミストシルバーとエボニー(写真)の2色展開となり盗難防止に有効なイモビライザーも新たに装備。これまでの回で紹介してきた両社のOEM車両は一定の存在感を発揮しつつあり、後述するスズキとカワサキが共同開発したモトクロッサーも世界中のレースで勝ちまくり。「おおおおっ! 両社の業務提携はめちゃくちゃうまくいっちょるのう!!」と筆者はノーテンキに感動していたものですが、現場ではやはり不協和音が大きくなってきて……!?
アナタの知らないOEMの世界【その5】は今しばらくお待ちください m(_ _)m
Contents
レースを取り巻く当時の世相を有名かつ分かりやすい例で……
全世界でファンを獲得し今をときめく、MotoGP……。
二輪ロードレースの世界最高峰では現在、ドゥカティ、アプリリア、KTM、ホンダ、ヤマハが実に250~300馬力を発揮する1000㏄の4ストロークエンジンを搭載したマシンで鎬を削っています。

●2025年型ホンダ「RC213V」……360㎞/hを超えるトップスピードを実現する水冷4ストロークV型4気筒DOHC4バルブエンジンは1000㏄の排気量で180kW(約245馬力)以上を発生! いやとにかく最近のMotoGPマシンはウイングやらスポイラーといった空力付加物が凄すぎますな
しかし、その前身となる2001年までのWGP(世界ロードレース選手権)で頂点に君臨する500㏄レーサーたちは押し並べて2ストロークエンジンを採用していました。

●WGP2ストローク500㏄時代の最終盤を圧倒的な強さで駆け抜けたホンダ「NSR500」。499.27cc水冷2ストローク V型4気筒ケースリードバルブエンジンは最高出力180馬力以上を1万2200回転で発揮!
これは同じ排気量なら4ストより2ストのほうが軽量でパワーを引き出すことが容易なためでしたが反面、構造上オイルを混合気と同時に燃やさなければならず、排ガスに含まれる有害物質が多いことも問題視されることに……。

●「同じ500㏄という排気量のなかで2ストレーサーに勝てる4ストマシンを作るぞ!」という無謀に過ぎる挑戦を実際にやってしまったメーカーがありましてね……ホンダっていうんですけれど(^^ゞ。写真は1979年型「NR500」。お願いですからバイクに少しでも興味があるなら一度は「NR500」について調べてみてください! いい本も出てますヨ(オススメはコチラ)
結局、WGP改めMotoGPとなった初年度となる2002年こそ2スト500㏄マシンと4スト990㏄マシンとが混走したのですけれど、以降は有害物質を多く含む白煙を出さない4スト車両だけで激しいバトルが繰り広げられることになりました。

●「排気量は990㏄にしていいから4ストで2スト500㏄を凌駕するレーサーを作ってね」というMotoGP新時代のレギュレーションを受け「NR500の無念晴らしたらぁ〜!」とばかりハイパー本気モードになったホンダ開発陣。240馬力以上を発揮する独創のV型5気筒エンジンはライバルを圧倒したのです(エンジン改良の変遷が分かるサイトはコチラ)
「モトクロッサーこそ2ストでなきゃ!」という常識は打破された
ロードレース同様に1990年代後半から起伏ある不整地コースを激走するモトクロス(MX)の世界でも環境への配慮を求める声が日増しに大きくなり、なんと自他ともに認める2ストのヤマハが他社に先駆けて2スト250マシンと比肩する4ストモトクロッサーを1997年に実戦投入!

●1997年型ヤマハ「YZM400F(0WH2)」。搭載されたパワーユニットは397㏄水冷4ストローク単気筒DOHC5バルブエンジンで最高出力41.9kW(57馬力)以上! トランスミッションは4速!
かくいうファクトリーマシン「YZM400F」は、AMAスーパークロス最終戦ラスベガス大会で独走優勝を飾ってしまい、オフ界隈……いや世界に衝撃が走りました(冗談抜きに大快挙だったのですよ~。詳細はコチラ)。
その興奮冷めやらぬ同じ1997年のうちに市販モトクロッサー「YZ400F」を発表したヤマハは、2001年に「YZ250F」、2002年には真打ち「YZ450F」を登場させて4ストモトクロッサー界を力強く牽引ッ!

●……と思いきや、令和7年の現在でもしっかり2ストモデルを数多くラインアップしているのがヤマハの真骨頂。もちろん競技専用車両ですけれどね(ラインアップはコチラ)。写真は2025年型「YZ250」であります
世界中のライバルメーカーが慌てて後を追うというフェーズに入っていったのです。
実はバイクメーカーにとってモトクロッサーはゴハン(主食)!
……と、お待たせしました。ここでやっと本題が始まります(^^ゞ。
復習しておきますと、2001年8月に業務提携を発表したスズキとカワサキは2002年2月から国内及び海外仕様でバイクとATVの相互OEM供給をスタート。

●申し訳ございません。前回まででOEM車両はほぼほぼ網羅&紹介できたと安心していたのですが、とある読者様からご指摘をいただいたのでここで追加紹介いたします。カワサキ製の海外向けクルーザー「バルカン1600ミーンストリーク」が……

●スズキ「マローダー1600」(北米では2004年モデルがこの名前。2005年型は「ブルバードM95」)として発売されていた時期がありました。よく見るとヘッドライトカバーやテール部分の形状などに独自性が見てとれますがベース車両は間違いなくバルカンですね m(_ _)m
すでにある車両の融通からさらに踏み込んだ真の共同開発モデルとして選ばれたのが、250㏄4サイクルエンジンを搭載したモトクロッサーだったのです!
2003年2月18日に出されたリリースを眺めれば「製造は川崎重工が担当し、販売はそれぞれが自社のチャンネルを通じて個別のブランドで行なう。なお、両社は販売に先立つ2003年4月からこの共同開発車を国内レースに投入し、開発を推進する」……とあります。
「な~んで初めての共同開発が競技用車両……モトクロッサーなの?」という至極真っ当な疑問を抱く方もいらっしゃることでしょう。

●For-R連載 バイクのソレなにがスゴイの!? Vol.53 『ローンチコントロール』記事内より写真を転載。今どきモトクロッサーの進化はものすごいのです!
確かに日本国内では毎年100台単位でしか売れないモトクロッサーではあるのですけれど、広大な国土を持つ北米をメインとした世界全体で考えると、文字どおりケタが2つ違う市場が広がっているのですね。
幅広いラインアップの中でも4スト250クラスは最も量販が見込めるコアゾーン。

●2025年型カワサキ「KX250」……ぜひリンク先に飛んで最新モトクロッサーの凄みをチェックしてみてくださいね。なお、1963年から始まるカワサキKXの歴史はコチラ。今回のコラムにジャストミートなKXメカ解説ページはコチラ
名門2社がタッグを組んで4ストモトクロッサーを開発ッ!
両社にとってMX向け4ストエンジンはまさにゼロスタートとなるため莫大な費用が掛かることが確実ながら、そちらを含めた開発費は折半(?)できるし、同じ車両を2つのブランドで売れば生産台数も2倍(?)……。

●いやもうトニカク新規バイクの開発にはお金がかかります。そこを多少なりともセーブできるなら経営陣としては検討を進めて当然……
はたして両社の皮算用と夢と気合が具現化したファクトリーマシン「KX250F-SR」は2003年全日本モトクロス開幕戦で完全優勝デビュー!
以降も勝利を重ねてクラスチャンピオンを獲得しました。

●鬼神の如き走りをみせて当時のIA125(現在のIA2)クラスでシリーズタイトルを獲得した溝口哲也選手の功績は、非常に大きいものだったと言えるでしょう!
その栄光を引っさげ満を持して発売された2004年型市販版カワサキ「KX250F」とスズキ「RM-Z250」は全世界のユーザーに好評を持って受け入れられたのです。

●2004年型カワサキ「KX250F」。ボア77㎜×ストローク53.6㎜という超ショートストロークレイアウトの249㏄水冷4ストDOHC4バルブ単気筒エンジンは、徹底した各部の薄肉化を図りつつチタニウム、マグネシウムなどの軽量素材を積極的に採用した完全新設計(43馬力/2.93kgm)。アルミ複合メッキシリンダー、表面に錫メッキを施した鍛造ピストンなども採用し高回転時における信頼性を高めていました。当時価格(税抜き※以下同)は55万9000円

●2004年型スズキ「RM-Z250」スリムなクロームモリブデン鋼製ダブルメインチューブフレーム(スズキはもちろんカワサキ流の呼び方であるペリメターフレームとは言わない)、新設計のリヤサスペンションリンケージシステム(ぶっちゃけユニトラックリヤサスですね)、特別設計のリムやタイヤなども軽量化に貢献(車重は92.5㎏!)。車体のスリム化によって体重移動がしやすくなりライディングポジションの自由度が増したのも特筆モノでした。ちなみにシート高は960㎜です(^^ゞ。当時価格56万円
聞いた話ではエンジンの基本的な設計はスズキが行い、カワサキお得意のスチール製D断面ペリメターフレームを中心とした車体に搭載するという見事なフュージョンっぶりで戦闘力は超一級……全世界で数々の勝利を重ねていきました。
翌2005年モデルは両社とも色変更+αで推移したのですけれど、アレアレアレ?となったのが2006年モデル。
なんとカワサキは新規開発したアルミ製ペリメターフレームを採用してシャシーを全面刷新してきたのに対し、スズキはまったく変更なし!

●2006年型カワサキ「KX250F」。「KX450F」と各部を共有したという新開発のアルミペリメター(ツインスパーと同義)フレームが神々しいですね。開発陣同士の関係がうまくいっていれば、黄色い外装で同様のマシンがスズキからも発売されてしかるべき。駄菓子菓子! 実際は違ったのです
つまり共同で開発をしたのは、実質的に2004年モデルだけということ!?
スズキが当時4年ごとのフルモデルチェンジにこだわっていたせいなのか(実際、2007年型「RM-Z250」はスズキ独自開発のアルミツインスパーフレームを採用して登場)、エンジンの過渡特性や車体のまとめ上げ方などで両社の好みや方向性が異なっていたせいなのか?

●2007年型スズキ「RM-Z250」。公式HPを確認しても「エンジン、車体ともにすべて新設計とした」と公言。速い遅い勝った負けたが冷徹に現れてくる競技の世界。ライバルを出し抜く性能向上のレシピをガチガチに戦っている者どうしが共有することは「ありえへん!」だったのかしら
真相は闇の中ではありますが、とにもかくにも肝煎りだったモトクロッサーの共同開発は早々に破綻(と言ってしまっていいでしょう)し、そちらの影響も大きかったのかスズキとカワサキの業務提携自体まで2007年には解消されてしまいました。
短い結婚(?)生活ではあったけれど……これでいいのだ!
結局のところ相互OEMが行われたのは約5年……、その間にスズキからカワサキへ2万数千台、カワサキからスズキへは7000台ほどが供給されたと聞いております(※全世界での累計)。
歴史にタラレバもニラレバもテレレバーもありませんが、もしモトクロッサーの共同開発がうまく推移し、相互に融通しあうOEMモデルもさらに増大していったとしたら現在はどうなっていたのか?

●業務提携が解消される前年ギリギリ、2006年型(最終モデル)まで用意されたカワサキ「エプシロン250」カタログより。漆黒のメタリックフラットアイアンブラックにはフレアパターンも配され(写真)、もう1色渋くてカッコいいメタリックグラニットグレーまでラインアップしており両社のやる気を感じたのですが……
妄想こそムクムクと大きく膨らみますけれど、この世は何事も選んだ道が正解。
2025年現在、両社とも元気イッパイ!

●近年、イヤハヤ参りましたとしか言いようのない進撃のカワサキ! 日本市場のラインアップを見てもトヨタ「プリウス」ばりのストロングハイブリッドたる写真の「ニンジャ7ハイブリッド」から純粋な電動バイク、スーパーチャージドエンジン搭載マシン、復活の250/400インライン4スポーツ、盤石なネオレトロシリーズ、過激なシルエットのストリートファイターネイキッド、ハイスピードツアラー、トコトコトレール車、クルーザーにスーパースポーツ……がズラリと揃うという盤石ぶり。あえて言えばアドベンチャー系がちょいと弱いかな(そこも近く補完されそう!)
独自性と魅力があふれる多様なモデルを続々と発表し続けておりますので、万事オーケーということなのでしょう(^w^)。

●スズキは昨年11月にイタリア・ミラノで開催された「EICMA 2024(ミラノショー)」で発表したデュアルパーパスモデルの新型「DR-Z4S」(上写真)とスーパーモトモデルの新型「DR-Z4SM」を2025年10月8日から日本で発売を開始しました。ほぼ1年待たされたわけですが、価格が判明して以来、ネットでも大いに盛り上がっていますね!

●気になるプライスは2台とも同じで119万9000円(消費税10%込み)! 以前コラムで紹介した「DR-Z400SM」はデビューした2005年型で73万2900円(消費税5%込み)でしたから倍……とは言いませんが相当な値上がりっぷり。しかし、電子制御にしても排ガス浄化機能にしても20年分の進化が注ぎ込まれておりますし、なんと言ってもスズキ製という安心感は絶大なもの……。ぜひお近くのレッドバロンで実車をご確認ください!
さて次回(最終回)は、世界を見わたすとまだまだあるバイクメーカーのOEM(ODM)関係について語りおろしてまいりましょう!

●ン? カワサキロゴの付いている、このスタイリッシュなスクーターは一体……???
あ、というわけで日本で発売されたOEM車両、「250SB」や「GSX250FX」や「エプシロン250/150」などは挑戦の時代を象徴するモデル。内容は言わずもがななスズキ or カワサキ製ですので、レッドバロンの『5つ星品質』な中古車をチェックして、あえて狙ってみるのも大アリです!
アナタの知らないOEMの世界【その5】は今しばらくお待ちください m(_ _)m