前編では県内自治体による二輪業界への取組みを、中編では「バイクのふるさと浜松」への浜松市の取組み、バイクラブフォーラム開催実行委員会による二輪市場の動向説明、日本自動車工業会二輪車委員会による二輪車産業政策ロードマップの説明と具体的な施策、日本二輪車普及安全協会による安全運転への取組みなどを紹介しました。
後編では、第11回バイクラブフォーラムin静岡・浜松のメインテーマである「バイクカルチャー発祥の地、静岡で若年層の交通安全教育を考える」に関する発表やパネルディスカッションについて紹介します。
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バイクラブフォーラム初! 文部科学省が登壇
さて、バイクラブフォーラム(以降BLF)の歴史の中でも若年層の交通安全教育がテーマに選ばれたのは初めてのことです。
こうした背景には、二輪乗車中の若年層の死亡率が高いこと、埼玉県が三ない運動を撤廃し早期交通安全教育に転換したこと、免許不要の自走モビリティ「特定小型原動機付自転車(特定原付)」を含めた改正道交法が施行されたこと、そして、「第12世代バイクブーム」の中で免許を取得、バイクを購入している層が若年層であるということもあるでしょう。
このような現状を鑑みて、プログラムのステージには、BLF初登場となる文部科学省の安全教育推進室から林 剛史 室長補佐、埼玉県の高校生講習で座学を担当している埼玉県警察本部交通総務課の村上 祟 課長補佐、二輪車業界として安全運転教育の普及に取り組む日本自動車工業会二輪車委員会から安全教育分科会の飯田 剛 分科会長、そしてJAPAN RIDERSアンバサダーも務めている梅本まどかさんの4名が登壇しました。
なお、文部科学省の職員がBLFのステージに登壇したのも初めてのことでした。学校教育を主幹している文科省から担当者が登壇したことは、今後のモビリティ活用社会にとっても大きな一歩だと思います。
学校教育現場では安全教育に注力している
2011年の東日本大震災以降、文部科学省は学校での生活安全、交通安全、災害安全の3つの安全教育に力を入れています。学校保健安全法第3条第2項という法律に基づいて「第3次学校安全の推進に関する計画」によって、幼・小・中・高校と各年代ごとに段階を踏んだ交通安全教育を推進しています。
こうした説明の中で最も重要な点として挙げられたのが、教職員向けの資料「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」でした。
この資料には「二輪車の特性の理解と安全な利用」という項目もあり、四輪車との死角と内輪差、車両の特性と運転特性といった実践的な内容となっています。
特に、バイク通学に関する安全確保上の留意点については詳しく説明されていて、「二輪車や自動車による通学は、生徒の通学に要する身体的・経済的な負担軽減の観点からも必要であり」と前置きされた上で、通学におけるバイク使用のルール、車両の点検整備、駐車時の管理、学校・校門周辺での他生徒との混雑緩和、乗車時の行動、実技指導を含む実践的な安全運転講習などに生徒が参加できるように考慮するといった具体的な指導が明記されています。
このように、文部科学省は高校生が二輪車や自動車に乗ることについて、かなり細かい資料・マニュアルを用意していることが説明されたのでした。
その他、教職員向けの冊子・DVDの制作と配布、交通安全指導者の養成研修、都道府県教育委員会と連携した学校安全教室推進事業などを行い、各学校での中核となる教職員の養成に努めているそうです。
高校生講習には“意義“も“効果”もある!
埼玉県警は、三ない運動廃止と同時に継続的に取り組んでいる「高校生の自動二輪車等交通安全講習」について説明を行いました。
埼玉県教育委員会による本講習会の模様はForRでも度々お伝えしてきましたので、そちらをご覧ください。“埼玉県〟で検索すると下の2本以外にもずらっと出てきますよ。
【参考記事】
5年目を迎えた埼玉県の高校生講習! 改善と進化が続く!<前編>
5年目を迎えた埼玉県の高校生講習! 改善と進化が続く!<後編>
さて、村上課長補佐は冒頭で「警察としても、交通安全教育というのは交通事故防止対策の大きな柱と位置付けています。(中略)交通社会に参加する最初の段階にあたるので、高校生を対象に二輪車事故を防止するための交通安全教育を実施することには大きな意義を感じています」と述べました。
高校生講習において埼玉県警は、白バイ隊(交通機動隊)による実技講習や交通総務課による座学「二輪車安全講習」を担当しています。
こうした取組みの中で、胸部プロテクターやエアバッグ・ベスト、ヘルメットのあご紐締結といった基礎的な安全対策から、特定原付に関する乗車・運用ルールの説明といったタイムリーな法改正までをカバーしています。
県内高校生の二輪車事故は減少傾向です。昨年以降、高校生以下の交通死亡事故が起きていない、講習を受講した生徒については重大事故が発生していないことを踏まえて「本講習には一定の効果があるのではないかと考えています」と発表を締めくくりました。
バイクメーカーが三ない運動見直しに取り組む理由
日本自動車工業会は、飯田分科会長が「高校生への二輪車安全運転教育の意義と自工会の取組み」と題して発表を行いました。
自工会の二輪車委員会は国内バイクメーカー4社で構成されていますが、三ない運動の見直しに取り組む理由として「二輪車業界の責務として、二輪車に乗車している全ての高校生の命を守るために安全教育を届けたい」という趣旨が述べられました。
三ない運動は、全国組織的な展開は収束したものの、地域単位や各校単位で残っていて、自動車教習所に入所するのに学校長の許可証が必要だったり、入所したら学校に連絡が入ったりということが今でも行われている地域があります。
こういうことがあると、子供たちは「じゃあ内緒で…」と考えてしまって“隠れ乗り”が増えるわけです。原付免許試験や一発試験のように試験場に直行してしまえば学校への連絡はありませんから、隠れ乗りがなくなることはないんですね。
でも、「隠れ乗りの生徒には安全運転教育を届ける術がない(飯田分科会長)」ことから、高校生の安全運転教育を前提とした三ない運動の見直しを推進しているというわけです。
自工会は他団体と連携しながら、三ない運動の見直しについて各県の教育委員会などに働きかけたり、三ない運動に代わる安全運転教育の体制づくりのサポートなども行っているそうです。
埼玉県警が示した若年層の高い死亡率!
プログラムの最後は、登壇者4人によるパネルディスカッションでした。その中で、埼玉県警の村上課長補佐から示されたのが上の図です。
過去5年間の統計では、免許人口の1%(約80万人)しかいない15~19歳の二輪事故死者数が、かつてのバイクブーム世代でもある50~54歳と同じ276名となっていて、若年層の死亡率の高さが示されたんです。
その要因としては、バイクの乗車経験が少なく危険感受性(危険予測)が低いこと、交通ルールへの理解と運転技能の未熟さが挙げられました。
また、こうした重大事故は何らかの交通違反が要因となっていることが多く、その相関関係についても説明されました。
自工会の飯田分科会長は「交通安全教育は生涯教育であるという考え方のもと高校生年代だけで事故を起こさなければよいのではく、彼らが生涯に渡って事故を起こさない、誘発させない運転者育成を目指すという考えの下に各地域で展開しています」と述べた上で、メディアには講習現場の取材を、関係者には視察を呼びかけました。
二輪業界(自工会)が掲げる「2030年に事故死者半減(2020年比・526人から263人に)」という目標に向けて、せっかくバイクに乗ってくれた若年層ライダーに交通安全教育や安全運転啓発をどのように届けていくべきなのか、そうしたことを考えさせられるプログラムでした。
来年のBLFは宮崎県宮崎市での開催!
ちなみに、来年の第12回BLFは宮崎県(宮崎市がメイン)での開催となりました。ライダーにとっての宮崎と言えば「日南フェニックスロード」でしょうか。一度は走ってみたい南国ムード満点のシーサイドロードとして憧れている方も多いと思います。
それでは、また来年もBLFで会いましょう!