冬の北海道へバイクで行くということは、決して人にオススメできることではありません。
-10℃前後の雪の中という厳しい環境の中を生身の人間がバイクで走るという行為は、日常では考えられないぐらい身近に「死」があります。
今回のレポート内での装備やルートが絶対的な正解ではなく、常に状況は変化します。どれだけ準備をしてもし足りないほどです。
それだけではなく、ロードサービスやレスキュー車もすぐに来てくれるとは限りません。
その旨をご理解いただいた上でお読みいただけますようお願いいたします。

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2019年1月2日 07:00 猛者との別れ


旭川の朝は静かだ。

高台の上にあるホテルからは、まるで絵本の中の世界みたいに雪に覆われた街が見える。
遠くから見ている限り、雪はふんわりと柔らかそうに見えた。しかし近くで見て、実際に触ってみると決してそんなことはない。

玄関に出てみると、クロスカブはガリガリの雪に囲まれて凍ってしまっていた。夫と二人がかりでタイヤを地面から引きはがし、ホイールにこびりついた雪を手で払い落とした。
深刻な雰囲気ではなく「旭川の朝も相当ヤバいな!」なんて、楽しむ余裕は残っている。


ホテルの周りを散歩してみると、夜の間にかなりの雪が降ったようで、除雪車が走っていた。
こうして朝から除雪してくださっている方々のおかげで、今日もバイクに乗ることができる。ありがとうございます。


昨晩再会した猛者も降りてきた。彼は今日もスキーへ出かけるのだそうだ。
夫と私と猛者、3人並んで記念撮影をさせてもらった。


「それじゃ、気を付けて!」

どちらからともなくそう言って、今度こそ本当のお別れだ。
名残惜しい気もしたが、お互い名前は聞かず、猛者とその奥さんが乗った車を手を振りながら見送った。
旅の出会いって、きっとこんな感じ。二度と会うことはないだろうけど、こう言いたくなった。

「またいつか、この場所で!」



寂しいけれど、私も出発しましょう。

今日の目的地は札幌。140kmほどと短めの距離を移動する。
まずは国道12号線を南西へ向けて走り始めたのだが、出発してすぐに風が強くてどうしようもなくなった。立つのも辛いような強風に乗って、砂みたいに細かいサラサラの雪が吹き付けてくる。砂煙ならぬ、雪煙のような状態だ。
路面にはそんな雪と風の通り道が白く浮かび上がり、うっすらと縞模様が見えていた。

風は左側から強く吹きつけ、必死の抵抗もむなしくクロスカブはセンターラインに吸い込まれそうになる。あまりにも苦しく、

「助けて…無理だよ…もう嫌だよ……」

うわごとのように呟きながらノロノロと進んだ。

2019年1月2日 10:30 宗谷帰りのカブたち

しばらく耐えて走ったところ、風は弱まった。しかし今度は視界が真っ白になるほどの雪が降り始めたのだ。
4日間の疲労も併せてぐったりし始めた私の耳に、サポートカーとして後ろで車を運転してくれている夫の楽しそうな声がインカム越しに聞こえた。

「すごい!後ろからクロスカブが来た!冬の北海道で俺、クロスカブにはさまれて走ってる!」

道の駅 たきかわに入ると、後ろの黄色いクロスカブも一緒に入ってきてくれた。


黄色いクロスカブの男性は、山田孝之似のワイルドな雰囲気だ。
彼は年越しを宗谷岬で過ごした後、旭川で宿泊。今日は私と同様に札幌へ向かって走っているのだそうだ。
普段からモトクロスのレースに参加されているということで、私のクロスカブと同じタイヤを履いているにもかかわらずガンガン雪道を攻めて走っていて、本当にかっこよかった。

実を言うと、この時の私は自分の運転技術のなさに嫌気がさしつつあった。全然準備が足りなかったと落ち込んでいたのだった。
しかし同じバイク、同じタイヤで雪道を自在に走る彼を見て

「私ももっと頑張ります!」

もちろん気合を入れたって今から運転が上手くなるわけではないのだが、少なくとも下方傾向にあった心だけは、上向きに変化した。


どうも宗谷岬へ行ってきたライダーたちの多くが昨日のうちに宗谷岬から旭川へと移動し、そしてその中の一部が私たちと同じルートで今晩の札幌着を目指しているらしい。
それがわかったのは、道の駅で食事をとりながら休憩をしていたところ、明らかに見かけるバイクが増えてきたからだ。

今度は3人組の男性ライダーがやってきた。
3人は40代ぐらいだろうか?友人同士で1年前から計画を立て、やっと実行できた念願の年越し宗谷なのだそうだ。

1人は到着直後にゴリラのタイヤがバーストし、急遽レンタカーを借りて車で移動。もう2人はカブで、雪でツルツルとタイヤを滑らせながらも超満開の笑顔。
何歳になってもこうして一緒に馬鹿やってくれる友達がいるって、本当に最高だな。心の底から3人が羨ましくなった。


旅の中で初めて、同じ志を持って北海道の地へ来たライダーたちと会話できたことで、過酷なこの旅をもう少し続ける力をわけてもらったように感じた。

2019年1月2日 14:30 吹雪が止まない当別の街


そうは言っても雪は激しい。
国道275号線、特に当別に入ってからは常に吹雪が続いていたのではないだろうか。

道の駅たきかわに入る前の気持ちであれば、また弱音を吐いて落ち込むところだっただろう。しかし4人のライダーに出会って勇気づけられ、そして視界が悪い中で走るのに慣れたこともあり、何事もなくひたすら前へ進み続けた。
走っているうちにバイクや身体に積もった雪が硬く凍り始めたが、気にすることもなかった。


ローソン当別樺戸町店に入って休憩をしている間も、吹雪は絶え間なく続いていた。スマホで天気のアプリを見ながら夫と話した。

「これ、止むことあるの?」

「雪雲レーダーによれば…いや、ずっと降ってるね」

「あ、でも雪雲自体は小さいね。このまま走って突破しちゃった方が楽かもよ」

「よし!行っちゃおう!!」

本当は雪が弱まるまで休憩をするつもりだったのだが、このまま札幌へ向けて一気に走り切ってしまうことにした。

2019年1月2日 16:00 駐車場に暖房がついている!?

札幌市街に入ってからは、路面が読めなくなった。

さすが人口190万人の都市というだけあって、大通りは除雪が徹底されていた。場所によってはロードヒーティングが設置されているようで、ほぼドライな路面まであったほど。
しかし時々、何故かこぶし大の氷の塊が落ちているのだ。それもひとつではなく、ボコボコとゴーヤの表面みたいにたくさん。これを踏んだらバイクではひとたまりもない。

そして大通りから1本外れれば、泥交じりの雪が大量に残っていた。不規則に残るタイヤ痕や圧雪アイスバーンなど、これまで何度も苦しめられたような交通量の多い雪道が広がっている。

そんな札幌の道路でスリップするのはバイクだけではないようで、タクシーが「ギャギャギャギャっ」なんて派手な音をたてて滑りながら発進しているのを何台も見かけた。
道が混んでいたためゆっくり走れたのは、不幸中の幸いだったかもしれない。

ということで本日のゴール、ニューオータニイン札幌に到着だ!
「せっかく札幌に泊まるのだから、いいホテルに泊まってみたい」と夫にワガママを言って予約させてもらった。

さすが高級ホテル。なんとバイクは地下の、しかも暖房付きの駐車場に停めさせていただいた。
ドアマンの方にわざわざ案内していただき、恐縮してしまった。こんな良い場所に停めさせてもらってもいいんですか!?

すぐ隣の区画には、ピカピカに磨き上げられた大きな高級セダンが停められていた。
対して私の泥と雪にまみれたクロスカブ。
……帰ったら洗車をしてあげよう。汚くなっちゃったけど、私だってちゃんと大切に思っているからね。

暖房の力でクロスカブに積もった雪が溶け、久しぶりに素顔を見たような気持ちになった。

2019年1月2日 17:00 札幌は地下街のまち

札幌市へ来たのは初めて。バイクにはお留守番をしてもらい、徒歩で観光をすることにした。

絶対に行くと決めていたのは六花亭。帯広に本社を置く六花亭は、もはや知らない人はいないほどの有名製菓メーカーだ。
六花亭札幌本店にある喫茶店でいただいたのは、ゆり根のチーズケーキ。(2019年1月の期間限定メニューです。既に販売終了しているためご注意ください)
柔らかくて滑らかなチーズケーキの中に、ほっくりとした食感のゆり根が入っていた。不思議な食感の組み合わせなのにすごく美味しくて、ペロッと完食。

以前から六花亭のマルセイバターサンドやストロベリーチョコはかなりの好物だったのが、実店舗でケーキをいただいてみると、六花亭が丸ごと好きになってしまった。全部が丁寧で繊細な味がするんだもの。
すっかりテンションが上がって大量の焼き菓子やチョコレートを購入し、自宅へと宅配便で送ったのだった。


既に暗くなった札幌の街は意外にも人通りが少なかった。こんなにロマンチックなスポットだってほぼ独り占め。

「あれ~?なんでこんなに人が少ないんだろう?」

後日知ったのだが、札幌中心部には巨大な地下街が広がっていて、多くの人はそちらを通っているらしい。もしかしたらこの日も、地下は多くの人で賑わっていたのかもしれない。


ガランと静かな雪の街を眺めていると、なんだか急におセンチな気分になってきた。
そうか。明日でこのツーリングも終わりなんだ……。

走っている間は永遠にこの日々が続くような気がしてしまうのだが、実際にはきっちりと終わりの日がやってきて、また日常へと戻らなければいけないのだ。
何回ツーリングをしてきても、最終日の寂しさには慣れない。


明日に備えて今日は早めに寝よう。

1月2日の走行ルート




【つづく】

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