冬の北海道へバイクで行くということは、決して人にオススメできることではありません。
-10℃前後の雪の中という厳しい環境の中を生身の人間がバイクで走るという行為は、日常では考えられないぐらい身近に「死」があります。
今回のレポート内での装備やルートが絶対的な正解ではなく、常に状況は変化します。どれだけ準備をしてもし足りないほどです。
それだけではなく、ロードサービスやレスキュー車もすぐに来てくれるとは限りません。
その旨をご理解いただいた上でお読みいただけますようお願いいたします。

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2019年1月1日 07:00 紋別プリンスホテルからの初日の出


あけましておめでとうございます!
ホテルの窓からは、オホーツク海から登る初日の出がきれいに見えた。

昨晩到着した時は夜だったので暗くて何も見えなかったのだが、窓の外には雪に包まれた紋別の街並みと、静かに波打つオホーツク海が広がっていたのだ。
目に映る全てが茜色の光に包まれた新年の朝。まさに「新しい1年の始まり」という感じの美し過ぎる景色に、思わず呼吸のタイミングすら見失うほどに見惚れてしまった。

あたりが明るくなるぐらいまで太陽が昇ったところでハッと気付き、「この旅だけはなんとか無事に終わりますように」とお祈りした。



出発のためロビーに降りてみると大勢の人が集まっていた。何かと思えばこれから餅つきが行われ、できたてのお餅が振る舞われるのだという。杵と臼を使って本格的につくようで、見物客は既に盛り上がっている様子だった。

「つきたてのお餅……!」
想像するだけで涎が垂れそうだったが、今日もそれなりに走らなければいけないため、グッと堪えて出発をした。

2019年1月1日 08:00 道の駅 オホーツク紋別で大ジャンプ


「あけおめジャンプ!」

今日は朝から行きたい場所があった。それがこちら『道の駅オホーツク紋別』にあるカニの爪のオブジェ。お正月と言えば、おせちと一緒にカニを食べる方も多いのではないでしょうか?

こちらの爪、元々は1982年に開催された『流氷アートフェスティバル』のために作られたものだそうだ。
高さ12m、直径6m、重さ7トンもあるそうで、自分の身長の8倍ほどの高さを持つリアルすぎる爪に、朝からテンションが上がってしまう。
もしも爪だけでこんなにも大きいカニが実在するとしたら、それはきっとゴジラやガメラみたいな怪獣に違いない!

爪の横には150cmを越える大きくて立派な門松が置かれていた。しかし爪が桁違いに大きいせいで、遠くから眺めるとミニチュアのように見えるのであった。

2019年1月1日 11:00 国道333号線は理想の雪道!?

今日のルートは、昨日来た道をほとんどそのまま折り返して旭川を目指す。走行距離としてはそこまで長くないのだが、カニの爪でたっぷりと時間をかけて遊んでしまったため油断は禁物だ。


徐々に標高を上げつつ、国道273号線の真ん中ぐらいに差し掛かった時だ。急に雲行きが怪しくなったなと思った途端、激しく雪が降り始めた。
山の天気は変わりやすい。おそらくここから先、急速に発達した雪雲が待ち構えているのだろう。

雪が酷くなるにつれて視界も悪くなっていった。
遠くの対向車が辛うじてヘッドライトで判別できるかどうがというぐらいの視界不良になったため、ハザードランプを点けながら徐行した。路側帯の無い道で下手に停車すると、後ろから来た車に追突されるかもしれないと思ったのだ。

雪は強くなったり弱くなったりを繰り返しながらも、運よく視界が完全に閉ざされることはなかった。ようやく雪が止んだ頃には国道333号線に入り、新たに5cmほど雪が積もっていた。

視界さえクリアになれば、元々の路面がキレイに除雪されているため走りやすい。実はこの国道333号線、無料の自動車道(2021年12月現在)である旭川紋別自動車道が並行して通っているため、道の規模の割に交通量がかなり少ない。私にとっては嬉しい条件が整っていたのだ。

広めのパーキングエリアを見つけた。店もトイレもない、雪の壁に囲まれた誰もいない広い駐車場。

広島出身でこれまで雪国に住んだ経験がない私にとって、スキー場以外でここまでの雪に出会ったのは初めてだ。バイクでターンをしてみたり、雪を投げてみたり、自分の脚でも走り回ってみたり…。
気温はおそらくー5度ほど。寒さから雪がまったく溶けないサラサラのパウダースノーだ。

信じられない話なのだが、あまりにも楽しくて2時間近くも遊んでしまった。


14時頃。再び走りだしたものの、遊び過ぎて疲れたため、セブンイレブン川上町店にて休憩をすることに。
店内はたくさんの人でごった返していた。車で5分ほどの場所に町営スキー場があるので、そのお客さんも多いのかもしれない。

駐車場では通りすがりの男性に声をかけられた。

「バイクで来てるの!?」

「そうなんですよ。ハハハハ…」

旅が始まって以来何度目かの質問に答えると、かなりギョッとした様子で

「えっ?女性なの!?」

……後日、年越し北海道ツーリングをしたことがある女性達とお会いする機会があったのだが、みんな揃って「男性に間違われた」と話していた。
「年越し北海道ツーリング女性あるある」といったところかもしれない。


さて、しんしんと雪が降る中、旭川を目指して国道39号線を進んでいこう。ここから先は昨日と同様、交通量が増えていくため路面が悪くなる。その上、タイヤで踏み固められた道はツルツルの圧雪アイスバーンになっている。
アイスバーンの上はスパイクタイヤでも滑りやすい。緊張感の中で走り続けていたところ、反対車線にバイクのようなシルエットが見えるではないか。

はじめは気のせいかと思ったのだが、間違いなくバイク。トリシティだった。

苫小牧でフェリーを降りて以来、初めて見たバイクだ。そしてよく見ると、フェリー内の二輪駐車ブロックですぐ隣に停めていた方であった。
あれから2日、まさかこんな場所で再会するとは。余裕がなく手を振れなかったのだが、まるで旧友に会ったような気持ちになった。

2019年1月1日 17:00 旭川の夜は豪雪

いやいや……旭川市街、雪、多過ぎでしょう。こんなに降るものなのかと驚くしかない。
旭川は北海道で2番目に人口の多い都市。したがって交通量もこれまで以上に多いのだが、こんな大雪の中で誰一人として動揺している様子がない。きっとこれが日常なのだろう。

もちろん路面はグチャグチャで、カチカチに凍った轍の上に大粒の雪が降り積もり、その上を更に車が通るものだから、滑ったりガタついたりで訳がわからない。
激しい緊張と慣れない雪道の中、だんだん何のためにバイクに乗っているのかよくわからなくなってきた。おそらく疲れもあったのだろう。

そんな気持ちが出てしまったのか、信号が赤に切り替わって停車しようとしたところで、なぜかフロントブレーキを思い切り握ってしまった。
もちろん、滑って転倒した。そしてクロスカブもろとも雪の壁に刺さってしまった。

雪とバイクの間に脚が挟まってうまく起き上がれずモゴモゴと手間取っていたら、向かいのツルハドラッグの駐車場から男性が走って助けに来てくれた。

「なかなか起き上がらないから心配になっちゃったよ」

男性は大柄でちょっと強面だったのだが、本当に優しい方だった。あの時はありがとうございました。


そんなこんなで本日のゴール、旭川パークホテルに到着だ!
予約時は気が付かなかったのだが、ホテルは市街地から15分ほど離れた高台の上にあった。そのため市街地以上の豪雪っぷりに度肝を抜かれたが、車が少ないからか、タイヤの3分の1ほどが雪に埋もれながらも無事に到着することができた。
雪道の走りやすさは、本当に面白いぐらいに交通量で左右されるのだ。

到着時、玄関前で煙草を吸っていた外国の方が興奮した様子で話しかけてきた。

「Are you crazy !?」

英語は苦手なので「バイクが好きなんだよ」みたいなことを身振り手振りを交えて喋ったが、うまく伝わっただろうか…?

2019年1月1日 19:00 夜景と羊とサプライズ


今晩は夕食がセットになった宿泊プランを予約していた。
会場は10階。高台の上にあるホテルの10階なのだから、旭川の夜景が一望できる贅沢なロケーションである。

無事に走り切った満足感を胸にビールをオーダーしたところで、ちょうど入店してきた男性と目が合った。
おや?どこかで見覚えのある顔だ。

「…………」




「うわぁぁぁぁあ!!!」

気が付いた時、お互い大声をあげた。

覚えているだろうか。
苫小牧へ向かうフェリーの中、食堂の前で会話をした男性。かつてバイクで冬の宗谷岬を目指して旅をしたという、あの猛者の男性がいたのだ!


猛者は苫小牧東港を出発したあと直接旭川へ来て、このホテルに連泊しながらスキーをして過ごしていたのだという。

一瞬の間にこれまでの旅路が映像となり、脳裏を駆け巡った。私にとってこの3日間は濃密な未体験の連続であり、既に1週間以上を過ごしたような気分。
すっかり感極まり、あまりの勢いにちょっと引いている猛者に半ば無理やり強い握手をした。

バイクは寒いでしょ。脛のところにさ、新聞紙入れてる?そうするとあったかいよ」

相変わらず優しい目をした猛者は、照れたような笑顔を浮かべてそう言った。

多少はマシかもしれないけど、私には絶対無理だ。新聞紙じゃ寒すぎる。
…やっぱりこの人には敵わないな。
「エヘヘ」と笑いながら、そう思った。



偶然にも、夕食のメニューはフェリーでは食べられなかった羊肉だった。

羊らしい独特な風味と、コッテリとした脂の旨味。レモンをかけるとスッと爽やかな味になるが、私は羊そのものの味を楽しめる塩のみの味付けが好きだ。
寒い地域でよく食べられている羊肉には、身体を温める効果があるらしい。明日も走るための元気をわけてもらったように、心と身体がポカポカした。

1月1日の走行ルート



つづく

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