近年、様々な企業が親子のバイク教室を開催している。10~20代でバイクに乗っている子に聞くと、「家族もバイクに乗っている」「昔、親の後ろに乗っていた」「今は乗ってないけど、親が昔乗っていた」という答えが高確率で帰ってくる。

80~90年代のバイクブーム世代の子どもたちが、いまバイクに乗り始めているのだ。こうした若年層に、どうやったらバイクに乗り続けてもらえるのか? これは、今後10~20年を見据えた大きな課題だ。

そのためにも、小さな頃からバイクに触れられる環境があるということは、とても大きい。自転車だけでなく、バイクにも乗っておく。こうした原体験が免許取得やバイク乗車の動機、その根底にあることは間違いないからだ。

ホンダが取り組む「親子でバイクを楽しむ会」

親御さんとお子さんが2列になって走行の順番を待つ。他の親子バイク教室ではあまり見られない光景だ。

そこで今回は、ちょっと変わった親子のバイク教室を紹介したい。それは、ホンダが数十年前から続けている取り組みで、その名も「親子でバイクを楽しむ会」だ。名称からではわからないが、その中身はかなり独特で、なかなかに衝撃的だった。今回は一番最初のコース(段階)である「ファーストステージ(バイクの正しい扱い方と基本的な乗り方を身につける)」を取材してきた。まずは、その特徴を簡単にまとめておく。

「親子でバイクを楽しむ会」の特徴とは?

我が子の走りをチェックしながら後ろを追走するお父さん。子どもはみるみる上達していくからスゴイ!

特長1. 親御さんもバイクに乗るよ

なんと最初に走り出したのは親御さんのほう。広いコース内をCRF125Fに乗って慣熟走行する。始まったばかりなのに、もう頑張っちゃってるお父さんもチラホラ(笑)


この会では、お父さんお母さんも一緒にバイクに乗る。お子さんの前を先導して走ったり、お子さんと並走したりといったことも頻繁にある。一番初めのコースからこうした取り組みがあることは珍しいことだ。単に、子どもにバイクの乗り方を教えるのではない。ルールやマナーを守ることの大切さをお父さんお母さんから伝えていく中で、親子の絆やコミュニケーションの大切さも学んでいく場なのだ。

特長2. 先生はお父さんお母さんだよ

お手本を見せるのはインストラクターで、それを見ているのは親御さんとお子さん。この後、自分の子どもに教えることになる親御さんは真剣そのものだった。

2人並んで真っ直ぐ走る練習。視線は遠くへ、加速姿勢や減速姿勢、スロットルの開け方やブレーキの掛け方など「子は親を見て育つ」を実体験?


この会では、お手本を見せてくれるのはインストラクターだが、一緒に練習したり、教えてくれるのはお父さんお母さんだ。インストラクターは親子2人の練習の様子を見て、親御さんにもお子さんにもアドバイスをくれる。実際のところ、親御さんの教え方が上手だと、お子さんの上達も早いと感じた。

親子の絆やコミュニケーションというのも、この会のテーマだ。お父さんの腕前や経験、教える力も試される?

クルマの免許だけで、バイクの免許を持っていないというお母さんは、インストラクターにマンツーマンで原付スクーターの乗り方を教えてもらってから参加。

特長3. お片付けもするよ

一日お世話になったバイクを洗車してあげる。濡らしたウエスで外装を一生懸命に拭いていた。モノを大事にする心。


一日の講習が終わった後に待っているのは、洗車、給油のほか、自分たちが使っていたヘルメットやプロテクターといった道具のお片付けだ。子どもたちにとっては、ちょっとしたライダー気分、バイクライフ気分を味わえたようで楽しそうだった。

プロテクターやヘルメットもきちんとお片付けする。こういう所も教育の一環。


給油では、ガソリンスタンド(コースの一画に設置してある)までバイクを押して行って、インストラクターさんにガソリンを入れてもらう。人生で初めての、自分で入るガソスタなのかな。

講習が終わったらガソリンスタンドで給油してもらう。意外とこういう所をしっかり覚えているものだよね。

会の始まりは、オリエンテーションから

オリエンテーションは、自然光が取り入れられた明るく広い教室で行なわれた。親子がそれぞれに自己紹介。


3つの特徴をさらっと見ただけでも、普通の親子バイク教室とは違った内容だとわかっていただけるだろう。なお、会のスケジュールは朝9時からのオリエンテーションに始まるが、建物もとても大きくてキレイ。自動車教習所と同じくらい(それ以上?)の設備が揃っている。

交通教育センターもてぎの外観。教室や倉庫も広くて立派。快適な講習が受けられる。


というのも、実はこの会自体が、ここ、モビリティリゾートもてぎ内にある「交通教育センターもてぎ」、鈴鹿サーキット内にある「鈴鹿サーキット交通教育センター」、HSR九州内にある「交通教育センターレインボー熊本」と、全国で3か所しか開催されていない。

他の親子バイク教室が、大きな公園や販売店の駐車場などで“移動教室”のように開催されることもあるのとは違い、整った設備の中で行なわれるのがこの会の特徴でもある。でないと、最後に洗車や給油なんてこともできないだろう。

交通教育センターもてぎの広々としたコース。四輪車のスクールも行なわれていた。

交通教育センターもてぎはモビリティリゾートもてぎ(旧 ツインリンクもてぎ)内にある。北ゲートをくぐってすぐ左側に位置している。


さて、オリエンテーションでは、お子さんはもちろんのこと、インストラクターやお父さん、さらにはカメラマン(なぜに僕www)まで、自己紹介をした。ちなみに、大人は「名前、住所、所有バイク、今日の目標」を聞かれていたが、所有バイクという所にこの会のなんたるかを感じた次第。もちろん「今は乗っていない」「乗りたいけど買えない」なんていう切実な意見も聞かれていて、ちょっと親近感わいちゃうよね、これ。

また、お子さんには「名前、好きな遊び、今日の目標」なんかが聞かれていて、今日の目標を設定するというのはとても良いことだなと感心した。

オリエンテーションで説明するインストラクターの吉原さん(右)。手前は氏家さん。このお二方がバイクを教えてくれた。

大切な「おやくそく」とは?

お子さんの体調管理はとても大切。無理をしても楽しくない。いつも以上に気にかけてあげる必要がある。


オリエンテーションでは、時間割り(今日1日のスケジュール)と「おやくそく」についても説明がある。お約束は次の4つだ。

1. せんせいのいうことをきく
2. まわりにめいわくをかけない
3. きめられたふくそうでバイクにのる
4. つかれたらいう

4番目の「疲れたら言う」というのはすごく大切なこと。運転中はヘルメットをかぶっているので、夏場は熱中症の危険もある。子どもが「疲れた」と口に出した時には、もう遅いことも多いそうだ。だから早めに言って休むことが大切とのこと。また、水分補給についても説明があって、練習中にも休憩のたびに「水を飲むように」と促されていた。

なお、インストラクターの説明中にトイレに行った子がいたが、その間、聞けなかった説明については、遅れた分をすぐに取り戻せるような教え方もされていた。ちょっとしたことかもしれないが、そうしたノウハウのスゴさも実感できた。親御さんもインストラクターも、お子さんの状態や行動を気づかいながらカリキュラムが進んでいくのだ。

さて、ここまで、概要とオリエンテーションについて紹介した。後編では、実技講習の様子について紹介したい。

 

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