2023年のEICMAでアンベールされたばかりのGSX-S1000GX。2023年11月末、スズキはポルトガルにてGSX-S1000GXの「WORLDWIDE PRESS TEST RIDE(世界プレス試乗会)」を大々的に開催。世界中から50名近いジャーナリストが集められ、日本からは鈴木大五郎氏と、僕こと谷田貝 洋暁の2人が参加することになった。ちなみにこのGSX-S1000GX、渡欧の時点では日本での発売に関してのアナウンスはなかったが、2024年1月25日に早くも国内販売されることが決定! そんなホットなGSX-S1000GX「世界プレス試乗会」の模様を数回にわたってお伝えしよう。
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GSX-S1000GXのセミアクティブサスペンションはSHOWA EERA®︎
数々の電子制御装備で武装したGSX-S1000GX。その中でもハイライトとなるのはやはり電子制御サスペンションだ。今回は、スズキ初採用となるこの電子制御サスペンションの部分をもうちょっと掘り下げてみたい。
GSX-S1000GXが採用したのは日立アステモのSHOWA EERA®︎。同社最新のセミアクティブタイプの電子制御サスペンションで、同社のスカイフック制御をベースにしており、1/1000mm単位で1/1000秒ごとに減衰力の調整を実施。またリヤショックに関してはプリロード調整も電子制御化されており、プリセットだけでなく「オートレベリング」機能も搭載している。
姿勢を司るプリロード調整「オートレベリング」機能を搭載
「オートレベリング」機能とは、いわば全自動のサグ出し機能だ。走行中の前後サスストローク差から車体のピッチングの大きさをセンシングしており、姿勢が基準値からズレると自動でリヤショックのプリロードを調整してバランス取りをするのだ。この他リヤショックには、“ソロ”、“ソロ+荷物”、“2人乗り”といったプリセット型のプリロード調整モードもあるが、“AUTO”にしておけば、ソロだろうとタンデムだろうと勝手にバイクの姿勢を調整してくれるというわけだ。
つまり「オートレベリング」機能があると、荷物が増えたり、パッセンジャーが降りたからといっていちいちプリロード調整する必要がなくて便利なのだ。ただ“AUTO”といっても全ての走行状況に対応できるわけではなく、今回の試乗会のように荷物を積んだままかなりのペースでワインディングを走るような場合には、“AUTO”ではなく“ソロ”、“ソロ+荷物”の設定にした方が、サスペンションの動きがシャッキリして走りやすいと感じた。“AUTO”はあくまで万人向けであり、大きな負荷がかからないような場合に活きてくる機能なのだ。
ちなみにプリロード調整に関しては、“ソロ”、“ソロ+荷物”といったプリセットのモードに関しても好みに合わせた微調整が可能。つまり「“タンデム”まではいかないにしても、“ソロ+荷物”より、もう少しリヤのプリロードをかけてフロント荷重を増やしたい」なんて微調整も可能なのだ。
使い勝手に関しては、スズキドライブモードセレクターα(SDMS-α)のおかげで、ものすごくわかりやすい&使いやすく簡便に作られているのだが、より走りを突き詰めたい場合にはセッティングメニューを使えば実に細やかなサスペンションセッティングができるのがGSX-S1000GXの長所というわけだ。
動きを司る減衰力調整は大枠3段階でさらなる微調整も
一方ダンピング、減衰力調整に関しては“H(ハード)”、“M(ミディアム)”、“S(ソフト)”の3種類があり、「S」にすると驚くほどサスペンションが大きく動く。文字通りソフトな乗り味となるのだ。一方「H」にするとしっかり硬くスポーティな印象になる。ただセミアクティブタイプの電子制御サスペンションなので、よく動く「S」モードであっても動きすぎてしまってストロークを使い切るようなことはなく、急ブレーキなどの急激なストローク変化を感知すると瞬間的に減衰力を高めて踏ん張って底突きを防ぐようになっている。
試乗会ではパニアケースを付けたまま、ワインディングを結構なペースで走る事になった。そんな高負荷な状態では流石に“S(ソフト)”のままではサスペンションが動きすぎるので、“M(ミディアム)”→“H(ハード)”と色々試してみるのだが、人間欲張りなもので慣れてくると、「“H(ハード)”ベースにフロントの減衰力をちょっと弱めて接地感を稼ぎたい」なんて要望がでてきたりしたのだが、そんな細やかな調整もセッティングメニューに入れば可能なのだ。
スズキオリジナルのスカイフック制御「SRAS」とは?
「オートレベリング」機能搭載のリヤショックに、細やかなセッティングが可能な減衰力調整機能、そして前後のピッチングモーションを減らす「スカイフック制御」。これらの機能はGSX-S1000GXだけでなく、セミアクティブタイプの電子制御サスペンションであれば大抵のモデルが搭載している機能ではあるが、スズキオリジナルの制御も追加されている。
それが「スズキ・ロード・アダプティブ・スタビライゼーション」。通称「SRAS」は、スカイフック制御の一種であり、走行状況に合わせてスカイフック制御のモードを切り替える。例えば、舗装路などの平坦路を走っている際には通常のスカイフック制御を行っているが、凹凸の強い石畳やダートへ入って大きなサスペンションストロークの変化やピッチングモーションの変化を感知すると「SRAS」モードがアクティブになる。
「SRAS」のモードがオンになると、路面のウネリによるオツリの増幅を防ぐ。具体的には伸び側の減衰力を意図的に高めるような制御を入れているそうだ。また振動やピッチングモーションによるスロットル操作への影響を減らすため、スロットルに対する反応が若干ダルになるような制御を行う。
実際、荒れた石畳や水溜り跡のような凹凸が残るダートも走ってみたが、「SRAS」制御の効果はしっかり実感できた。特に顕著だったのが凹凸の続くダート路面。GSX-S1000GXのような前後17インチホイールモデル、しかもスーパースポーツ由来のハイパワーな直4エンジンを搭載するようなモデルだと、どうしてもダートが走りにくく、ナーバスになるもの。だが、GSX-S1000GXはこの「SRAS」の制御があるおかげで意外と普通に走れてしまう。
「SRAS」はテールスライドしたりフロントアップするような積極的に砂利道を楽しむような走りをするための機能ではないが、GSX-S1000GXのような舗装路メインのロードスポーツバイクでやむを得ずダートを走る場合にはとても有効。「山奥の温泉が好きなんだけど、その手前の砂利道がものすごく苦手で…」というライダーにこそおすすめしたい機能だ。
最新のセミアクティブサスペンションが走りの幅を大きく広げる
2日間にわたるポルトガルでのGSX-S1000GXの試乗会で印象に残ったのはやはりサスペンションだ。モードを切り替えるとセッティングが大きく変わる。それも“誰にでも違いがわかる”……なんて生ぬるいレベルではなく、まるでバイクを乗り換えたかのようなキャラクター変化の仕方をするのだ。減衰力設定を“H(ハード)”にすれば、本当にスポーツバイクのような走りが可能な硬めの足回りとなり、持ち前のスーパースポーツベースエンジンのパワーを活かした走りができる一方、“S(ソフト)”にすれば動きすぎと思うくらい足回りが柔らかくなる。
ライダーとは欲張りな生き物だ。1台のバイクで長旅もするし、スポーツランもする。しかも、旅先で極上のワインディングを見つけたら、パニアケースを積んでいたって気持ちよく走りたいのである。普通のバイクなら、そんな場合に走りを楽しむならパニアケースを外す必要があるが、GSX-S1000GXならサスペンションのモードをパパッと切り替えればそのままの状態でワインディングが楽しめる。“攻め”のスポーツと、“快適”な旅という矛盾を、GSX-S1000GXは電子制御サスペンションで一挙解決してしまったというわけだ。
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