バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は車体、サスペンションの用語の『プリロード調整』だ。

海外仕様スーパーカブのプリロード調整機構

タイで乗ったダブルシート仕様のスーパーカブ。リヤショックには、「一人乗り」と「二人乗り」のアイコンのあるレバーがあり、状況に合わせて簡単に設定を切り替えられるようになっていた。これがいわゆるプリロード調整機構だ。

そもそも『プリロード調整』とは?

サスペンションをいじるなんて! そんな突き詰めたスポーツ走行はしないから関係ないよ!……なんて感じでみんな敬遠するサスペンションの話(笑)。でもね、知っておけば速く走ることとは関係なく快適に走れたり、場合によってはやらないと危ないことだってあるのがサスペンションの『プリロード調整』。むしろツーリングライダーがキャンプツーリングや二人乗りをするなら絶対に知っておいた方がいいテクニックが、今回紹介する『プリロード調整』なのだ。

そもそもの話をすれば『プリロード』とは、英語で書けば「pre load」。preとはプリとかプレのpreであり“前の”、“事前の”という意味。一方、loadは、“荷重”とか“負荷”という意味。つまり『プリロード調整』とは、“事前の”“負荷”を“調整”することだ。では、何の負荷を調整するかというとサスペンションのバネ、スプリングのことであり、このスプリングを“前もって”、どれぐらい“縮めて”おくか? が『プリロード調整』の本質ということになる。

コイルスプリングに限らず輪ゴムで想像してもらってもいいのだが、スプリングや輪ゴムを押し縮めよう(伸ばそう)としたときに、押し(引き)戻そうとする力が発生すると思う。その力を反力というが、その反力は押し縮めれば縮めるほど増すことはなんとなく体感したことがあるだろう。あの反力の強まり具合を事前に調整するのが『プリロード調整』というわけだ。

Rebel1100のリアプリロードアジャスター

『プリロード調整』が可能なバイクのリヤショックにはプリロードアジャスターと呼ばれるスプリングを締め込むための機構が備わっている。イラストは「このプリロードアジャスターがあると、ライダーの体重や積載など状況によって変わる負荷に対してサスペンションの性能を幅広くアジャストできますよ〜」、という内容。レブル1100のリヤショックには19段階の『プリロード調整』が搭載され、『プリロード調整』が5段階しかないレブル500との比較を行なってその対応レンジの広さをアピールしている。「『プリロード調整』付きのレブル1100なら、二人乗りやキャンプツーリングなどの高負荷な走りまで対応できるんです! スゴイでしょ!!」と言いたいわけだ。

 

V-STROM800DEの『プリロード調整』機構

Vストローム800DEはフロントフォークにも『プリロード調整』を搭載。市販車においては通常、リヤショックにまず『プリロード調整』を搭載し、さらに高いレンジの走りを想定するような場合にフロントフォークにも『プリロード調整』が搭載される。前後のサスペンションに『プリロード調整』を搭載しているということは、相当走りにこだわっているという証拠でもあるのだ。

 

走りにこだわったスポーツバイクの場合は、フロントフォークにもこの『プリロード調整』があることもあるが、市販車の多くはリヤショックのみに『プリロード調整』を搭載している。自分のバイクの取扱説明書にリヤショックの『プリロード調整』の記載があれば、そのモデルは『プリロード調整』可能ということだ。特に段階式の『プリロード調整』の場合は手軽に調整できて効果も体感しやすい。

最初は、“なんだか壊しそうで触りたくない……”とか、“元に戻せなくなりそうで……”とか考えてしまうものだが、『プリロード調整』をいじった程度でバイクが壊れることも、元どおりに戻せないこともないので安心して調整してみてほしい。

プリロード調整

調整が簡単な段数式の『プリロード調整』の場合、階段状のノッチ(切り欠き)が設けられており、この段数を変化させることでスプリングの縮ませ具合を調整する。まずは愛車の取扱説明書を見て、『プリロード調整』機能があるかどうかを確認。そこには合わせて標準設定値なども書かれているはずだ。

『プリロード調整』のここがスゴイ!

キャンプツーリングや二人乗り時の運転が格段に楽になる!

段数式の『プリロード調整』

段数式の『プリロード調整』を搭載したバイクの中にはフックレンチと呼ばれる専用の工具が車載工具に付属していることもある。

 

いつも乗っているバイクで二人乗りしたり、キャンプツーリングに大荷物を積載したときに、なんだか一人で走っているときより走りにくく感じたことはないだろうか? 荷物や人の重さで左右に振られやすくなるのはもちろんだけど、なんだかバイクが後ろに大きく傾いている感じがして、ちょっとハンドルに覆い被さるようにして前傾姿勢で運転したくなるような……。極端な場合には、ちょっとアクセルを大きく開けるとフロントタイヤが浮き上がってしまいそうな、危うい雰囲気を感じたことはないだろうか?

まぁ、ここまで極端な変化が出ることはなくても、荷物を積むといつもよりヘッドライトの光軸が上向きになってしまってなんだか対向車が眩しそうだったりする状況はツーリングライダーならけっこう経験あると思う。そんな場合は、ヘッドライトの光軸を調整する前にまず『プリロード調整』を行ってリヤショックの反力をアップするべきなのだ。この荷重の変化で後ろに傾いてしまって走りにくくなったバイクの姿勢を元に戻してあげる作業こそが『プリロード調整』というわけである。

“不安”を感じたら『プリロード調整』し

写真はホンダのCB400スーパーフォアのリヤショック。二人乗りや荷物の積載で“乗りにくい”とか“不安”を感じたら、まず『プリロード調整』してみよう。ちなみに『プリロード調整』のことを“イニシャル調整”なんて言ったりするが同じことなので覚えておこう。

 

実際、大荷物や二人乗りでリヤタイヤへの荷重が大きく増えた場合に『プリロード調整』でスプリングを縮めて……つまりプリロードをかけてあげると、アクセルを大きく開けた時にフロントタイヤが浮いてしまいそうな危うい感じが減って走りやすくなる。この“フロントタイヤが浮いてしまいそうな危うい感じ”は、いわゆるバイクのインプレッション記事でよく見かける“フロントタイヤの接地感が減っている状態”というやつである。『プリロード調整』とは、積載や二人乗りによって前後タイヤにかかる荷重バランスが崩れて乗りにくくなった状況を、適正な前後の荷重配分に戻してあげる作業というわけだ。

今までよくわからなくて敬遠してきたけど、なんだか『プリロード調整』をやらなきゃ損な気がしてきたでしょ? 実際やると格段に走りやすくなる……というか安心して走れるようになるので是非とも挑戦してもらいたいところだ。

それに仲間とツーリングに出かけた際に、「ああコレね、プリロード調整。キャンプ道具積んだらちょっとフロント荷重が抜けたんでプリロードかけたんだよ。これでちょっと乗りやすくなるハズなんだけどね」……なんてウンチクたれながらバイクをいじってたら、ちょっと乗れてる風じゃない!?

『プリロード調整』のやり方

ダイヤル式の『プリロード調整』

ダイヤル式の『プリロード調整』は工具も必要なく、気になったらダイヤルをグリグリと回すだけで『プリロード調整』が可能。アドベンチャーバイクなど積載を前提としたバイクに多く見られる。写真はヤマハのテネレ700のリヤショックで、『プリロード調整』はダイヤル式。H方向に回すとハード(硬め)になり、S方向へ回すとソフト(よく沈む)ようになる。実際調整してみると跨ったときの沈み方が変わり、足着き性も大きく変化する。

 

では、どれくらい『プリロード』をかけるか? サーキットでタイムを削るような場合はタイムの短い方となるが、我々ツーリングライダーの場合はこれはもう乗り手の印象第一、好みでいい。というのも“一番大切なのは走っていて不安がない”ということだからだ。不安がないからこそしっかりスロットルを開けられるし、しっかりブレーキを握り込めるというわけ。走ってみて不安や不具合がなくなったなら、概ね『プリロード調整』が成功しているということだ。逆にフロントタイヤの接地感が戻らない……など不安が残る場合にはさらにプリロードをかけてあげる必要がある。

実際の調整にあたってはデフォルト状態から、まず“全締め(プリロードを目一杯かける)”、もしくは全緩め(プリロードを目一杯緩め)してみると『プリロード調整』による挙動の変化が体感しやすい。当然ツインショックの場合は左右の『プリロード調整』値を一緒にすることを忘れずに。

蛇足だが足回りパーツのカスタムでは、この『プリロード調整』で好みのセッティングが得られなかったような場合によりレートの高い(低い)スプリングへと交換したり、もっと調整幅の大きいハイグレードなサスペンションへ交換するのだ。

安心して『プリロード調整』してみよう

カスタムして取り付けたサスペンションならともかく、ノーマルで付いている『プリロード調整』で変化する範囲はそれほど大きくない。“全締め”、“全緩め”の極振りしたところで、いきなりバイクがおかしな挙動を始めるような変化は起きないので安心して『プリロード調整』してみよう。

 

『プリロード調整』においては、いわゆる極振り(全締めもしくは全緩め)してみて走りやすいと思う方が正解だ。そこから少しずつ数値をノーマル側へ戻して一番走りやすいと感じるかけ具合を探し出す。あんまり変化が体感できないようなら、デフォルトの状態に戻すというというやり方で構わない。

ちなみにわからなくなったら、取扱説明書を見てノーマルの数値に戻せばいいだけなので安心していじってみよう! この『プリロード調整』は、いろいろいじってみてその違いが感じ取れるようになるだけで結構楽しいものだぞ!

 

サグ出しとかサグ取り

前後のサスペンションがよく動くよう柔らかなセッティングが施されたオフロードバイクは体重、乗り方で荷重のかかり方が大きく変わるため『プリロード調整』によるセッティングが非常に大切。今回は街乗りやツーリングをメインとした『プリロード調整』を紹介したが、より高いレベルの走行やタイムを出すためにはセッティングレベルのサスペンション調整が不可欠となる。そのようなストロークの一番いい場所を使うために行う『プリロード調整』をサグ出しとかサグ取りといったりする。

プリロード調整

スプリングをどれだけ縮めるか? で反発具合の強さを調整するのが『プリロード調整』の本質。オフロードバイクに多いダブルナットで調整する無段階式の場合、ノギスで測ったりしながらプリロードのかけ幅を調整したり、上の写真のように二人でサグ出ししたり……。いずれにせよ一人ではちょっとやりにくいのでオフロードバイクの『プリロード調整』の作業はお店に相談した方が無難だ。

 

 

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