バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。近年、高級なスポーツバイクやアドベンチャーバイクに搭載が進んでいる電子制御装置『電子制御サスペンション』を数回にわたって解説。今回は、基本の仕組みとその効用を見ていこう。

そもそも『電子制御サスペンション』とは?

ホンダのフラッグシップモデル・GOLD WING Tour

ホンダのフラッグシップモデル・GOLD WING Tourは、タンデム走行や荷物の積載などの状況に応じてリヤショックのプリロードを電動調整する『電子制御サスペンション』が搭載されている。

 

バイクにおけるサスペンションの仕事は、第一に“タイヤを路面に押し付けてグリップさせ続けること”であり、その次が路面からの衝撃を緩和し“乗り心地をよくすること”だ。この二つの仕事をするために、サスペンションにはクッションとしてのスプリングだけでなく、減衰力を発生させる装置が付いており、特に近代の高性能化したスポーツバイクの分野では“タイヤを路面に押し付けてグリップさせ続けること”が重要になっている。

この連載では、以前に「プリロード調整」と「減衰力調整」の話もさせてもらったが、この「プリロード調整」と「減衰力調整」を手動ではなく電子制御で行うサスペンションが電動調整式の『電子制御サスペンション』というわけだ。

電動調整式『電子制御サスペンション』のここがスゴイ!

ボタン一つでセッティングを変更

現在、最新式のバイクに搭載される『電子制御サスペンション』は、セミアクティブサスペンションが増えてきているが、今回解説するのは最先端のセミアクティブサスペンションではなく、電動調整式の『電子制御サスペンション』の方になる。

この10年ぐらいでものすごく進化している『電子制御サスペンション』であるが、登場当初は正直、手動のセッティングを変えていた「プリロード調整」と「減衰力調整」をボタンで変更できるくらいの機能しか持っていなかった。

ホンダのフラッグシップモデル・GOLD WING Tourの取扱説明書

GOLD WING Tourの『電子制御サスペンション』は、走行状況に応じてリヤスプリングの強さを予めプログラムされた4つの設定から選択し、変更できるようになっている。

 

「プリロード調整」の電動化

例えば、一人乗りと二人乗り、またたくさんの荷物を積むなど、バイクにかかる荷重が大きく変わる場合には「プリロード調整(特にリヤショック)」の必要が出てくる。手動式の「プリロード調整」の場合は、工具やダイヤルを使いリヤショックのスプリングの縮め具合を変更する。『電子制御サスペンション』の登場時はまずこれが電動化された。

大抵のモデルは、停車中にボタン一つで何種類かのプリロード設定が選べるようになっており、変更するとモーターや油圧などの動力でプリロードを調整を実施される。体感的には、二人乗り設定などプリロードをかけるとシート高が上がり、戻してプリロードを抜くとサスペンションがソフトになりシート高が下がるようなイメージだ。跨りながら設定変更を行うとまさにシート高が変わるような動きが体感できる。

ホンダのフラッグシップモデル・GOLD WING Tourのセッティング画面

画面中央がホンダ・ゴールドウイングのサスペンションセッティング項目。左から「一人乗り」、「一人乗り+荷物」、「二人乗り」、「二人乗り+荷物」の4段階でリヤサスペンションプリロードが変更できるようになっている。

 

「減衰力調整」の電動化

続いて「減衰力調整」は、いってみればサスペンションのストロークスピードを調整するための機構だ。減衰力が弱く、よく動くほど足回りはソフトに感じ乗り心地はよくなる。ただし速度レンジが上がったり、よりハードなブレーキングを行うようなスポーティな走り方をするとサスペンションが動き過ぎてしまい、肝心なところでストロークが足りなくなるなどの弊害が起こる。

これを防ぐために行うのが「減衰力調整」であり、内部のオイル流量を調整することでサスペンションの動き具合を変更している。『電子制御サスペンション』における「減衰力調整」も原理はまったく一緒で、オイルが通る流路を広げたり狭めたりすることで、サスペンションの動くスピードを調整しているというわけだ。

「減衰力調整」可能な『電子制御サスペンション』を搭載したモデルには、「コンフォート(アーバン)」、「スポーツ」、「ツーリング」、「エンデューロ(オフロード)」といったいくつかのライディングモードがプリセットされており、切り替えるとマシンのキャラクターが変わるというわけ。例えば「コンフォート(アーバン)」から「スポーツ」にモードを変更すると、オイル流路(オリフィス)がモーターで狭まり、よりスポーティな走行状況を想定したハードなセッティングになるというわけだ。

フロントフォーク内にあるソレノイドバルブ

サスペンション内部のオイルの通り道を手動ではなく、電動で調整する。『電子制御サスペンション』を搭載したモデルのライディングモードは、サスペンションの動きはもちろん、エンジンのスロットル進捗性などもモードに連動して変化するモデルが多い。

ソレノイドバルブの登場で『電子制御サスペンション』が大幅進化

2022モデルのNinjaH2SXSEのサスペンションユニット。

『電子制御サスペンション』は、内部のモーターやソレノイドバルブを動かしたりするため、コードがサスペンションに繋がっている。

 

『電子制御サスペンション』が登場したころの「減衰力調整」は、モーターによる駆動で流路(オリフィス)の開き具合を調整していた。このため調整終了まで何秒かの時間が必要。つまりレスポンスが悪かったのだ。しかし、即座に流路(オリフィス)の開き具合を変更できる電磁弁、つまりソレノイドバルブが登場すると『電子制御サスペンション』は、セミアクティブサスペンションへと一気に進化を遂げることになる。

ホンダのCBR1000RR(2017モデル)に搭載されたオーリンズ製のスマートECシステム

一瞬で設定変更が行えるソレノイドバルブの登場で『電子制御サスペンション』は大幅に進化。IMUなどとも繋がり車速、車両の姿勢変化などに合わせてサスペンションのセッティングを変更するようなモデルが登場している。

 

というのも、ソレノイドバルブ登場以前の『電子制御サスペンション』が行う「減衰力調整」は、何種類かの設定を選択することでキャラクターが変わるだけだったが、最新式のセミアクティブサスペンションは、モードによるキャラクター変更だけでなく、速度や荷重、入力量に応じて減衰力を即座に調整変更するなんて高等な制御を行うようになったのだ。この最新式のセミアクティブサスペンションについては次回で詳しく見ていこう。

 

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