9月30日から発売となるヤマハのMT-09 Y-AMT。ギヤ付きのエンジンなのに、クラッチレバー操作もシフトチェンジ操作もないってどういうこと!? どうなっているの? とにかく『Y-AMT』に乗って確かめてきた!! ただ文章化するとかなり複雑かつ膨大な量になるので、“電子制御クラッチ”と、“電子制御ギヤチェンジ”の2回に分けて解説してくぞ!

『Y-AMT』の概要とおおまかな機構説明

クラッチ操作を電子制御で行うのでMT-09 Y-AMTのハンドルにはクラッチレバーはない。代わりに左のスイッチボックスにはギヤチェンジを行うためのシーソー式シフトレバーがある。

クラッチ操作を電子制御で行うのでMT-09 Y-AMTのハンドルにはクラッチレバーはない。代わりに左のスイッチボックスの下側にはギヤチェンジを行うためのボタン、“シーソー式シフトレバー”がある。

 

2024年は、“ギヤ付きエンジンの電子制御シフト”元年となった。従来のスクーターのAT(オートマチック)機構とは根本的に仕組みの違う、“ギヤチェンジが必要なMT(マニュアルトランスミッション)いわゆるギヤ付きエンジンをAT化する技術を各社がこぞって発表することになったからだ。

これまでのMTエンジンのAT化技術というと、ホンダが2010年のVFR1200F DCTから順次採用している『DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)』くらいしかなかった。……のだが2023年末にホンダは、AT化とはちょっと毛色は違うもののクラッチ操作を電子制御化して“クラッチレバー操作のみを簡略化する”『E-Clutch』を発表。ヤマハがこのMT-09 Y-AMTを発売。海外メーカーではBMWがR1300GSアドベンチャーに“ギヤ付きエンジンのAT化する電子制御シフト”ASAを搭載することを発表。KTMもアドベンチャーモデルにAMTと呼ばれる電子制御シフトを導入する準備を進めているようだ。

四輪車の世界ではすっかり当たり前となっているオートマチック変速だが、二輪車、特にギヤを持つマニュアルトランスミッションのバイクをオートマチック変速化するのはかなり難しい。ヤマハの『Y-AMT』はわずか2.8kg増でAT化を実現。DCTが約10kg増であることを考えるとかなりかるい。

四輪車の世界ではすっかり当たり前となっているオートマチック変速だが、コンパクトでエンジンなどの搭載位置に制限のあるバイクをオートマチック変速化するのはかなり難しい。ヤマハの『Y-AMT』はスタンダードモデル比でわずか2.8kg増でAT化を実現。DCTのユニットが約10kg増になることを考えると『Y-AMT』はかなり軽い。写真はMT-09 Y-AMTのエンジンを後ろから見たカットモデルだが、『Y-AMT』化によるエンジンの肥大化もほぼないと言っていい。

 

さて今回試乗する、ヤマハの『Y-AMT(ヤマハ・オートメイテッド・マニュアル・トランスミッション)』はというと、クラッチレバー操作もシフトチェンジ操作も電子制御で自動化するAT化の技術で、免許区分的にも、いわゆる“オートマ限定”の大型自動二輪免許で運転が可能だ。

ヤマハの『Y-AMT』のAT技術は、“電子制御クラッチ操作”を行う写真右側のユニットと、“電子制御ギヤチェンジ”を行う写真左側のユニットに大別可能。今回は“電子制御クラッチ”の部分を重点的に説明しよう!

ヤマハの『Y-AMT』のAT化技術は、“電子制御クラッチ操作”を行う写真右側のユニットと、“電子制御ギヤチェンジ”を行う写真左側のユニットに大別できる。今回は“電子制御クラッチ”の部分を重点的に説明しよう!

 

すぐに信用できたMT-09 Y-AMTの“電子制御クラッチ”

極低速域での動きが信用できない電子制御クラッチは正直使い物にならないものだが、MT-09 Y-AMTの電子制御クラッチの出来は非常に良かった! 

極低速域での動きが信用できない電子制御クラッチは正直使い物にならないものだが、MT-09 Y-AMTの電子制御クラッチの出来はいい。発進停止はもちろん、少々意地悪な微速前進で負担をかけてもいきなりクラッチが駆動をカットするなんてことはなく、しっかり半クラッチで駆動を伝え続けてくれる。 おかげでフルロックUターンや8の字走行といったナーバスな走行にも安心してトライできた。

 

これらギヤ付きエンジンのAT化技術でとにかく重要となるのは、兎にも角にも低速域における“電子制御クラッチ操作”の部分だ。とくに発進停止、Uターンなどの極低速域では、半クラッチなどの微妙な操作が必要で、もしこの領域のクラッチ操作が雑だと、低速走行時のふらつきや転倒の原因となってしまう。

ギヤを1速に入れて発進する時に“どれだけスムーズで違和感のない半クラッチ操作を電子制御で行えるか?” また“微速前進する際に安定した半クラッチ状態を作り出せるか? ”がとても重要になる。

MT-09 Y-AMTの電子制御によるクラッチ操作は、2、3回発進停止を繰り返すだけですぐ体にに馴染む出来の良いものだった。特にエンジンの動力が後輪に伝わり始める半クラッチ領域の制御が素晴らしく、ライダーがナーバスになる発進停止の領域で不安がない。それどころかフルロックでのUターンや8の字旋回といったテクニカルな走行も、スロットルとブレーキ操作だけで違和感なく行えてしまうほどだった。

最終的に車輪が完全に止まれば電子制御クラッチは駆動力をカットするのだが、ほぼ停止に近い微速前進でも、電子制御で半クラッチを維持してくれる。

最終的に車輪が完全に止まれば電子制御クラッチは駆動力をカットするのだが、ほぼ停止に近い微速前進のような状態でも、電子制御で半クラッチを維持してくれる。車速、ブレーキ具合はもちろんだが、電子制御スロットルの開け具合から、“ライダーの意思”を感じて制御にフィードバックしているという。

 

『Y-AMT』の電子制御クラッチが信用できたところで立ち乗りでバランスをとりながらブレーキとスロットルを操作して微速前進するトライアル的な走行(スタンディングスティル)も行ってみたのだが、これも問題なくクリア。この時点で『Y-AMT』のクラッチ制御が高いレベルにあるという確信が得られた。ここまで自然な動きをする電子制御クラッチなら、ベテランが違和感なく乗ることができるのはもちろん、クラッチ操作が苦手な初心者にとっても大きな利点になるのは間違いない。

MT-09 Y-AMTの電子制御によるクラッチ操作はまったく違和感がなく、この手のAT化技術のキモとなる、“極低速域”の制御が素晴らしく良くできていた印象を受けた。

クラッチアクチュエーターがリンクを押し引きしてクラッチ操作。微妙な半クラッチ状態もとてもうまく作り出す。

画面中央上部にあるクラッチアクチュエーターがリンクを押し引きしてクラッチ操作。ライダーがコントロールしているような微妙な半クラッチ状態もとてもうまく作り出す。

 

当然、速度域がアップした場合の変速時のつながりにも違和感がなくいことに驚く。むしろギヤチェンジ操作を合わせてかなり操作の完了が早いと感じる。シフトアップ時の変速ショックに関しては、2つのクラッチでシフトショックを消すDCTほどのシームレスさではないものの、シフトショックはかなり少ないのだ。若干のショックと、シフトチェンジ由来のピッチングモーションは起こるくらいで、“クラッチの繋がりが遅い!”なんて気になることななかった。

エンジン側クラッチレバーに繋がるリンクから先のエンジン内部のクラッチ構造はほぼMT-09のSTDと変わらない。ただアシストスリッパークラッチは電子制御が効かず、余計な動となるので廃されている。

エンジン側クラッチレバーに繋がるリンクから先のエンジン内部のクラッチ構造はほぼMT-09のSTDと変わらない。ただアシストスリッパークラッチは電子制御が効かず、余計な動きとなるので廃されている。

 

ちなみにMT-09 Y-AMTのクラッチまわりにおけるスタンダードモデルとの大きな違いに、アシストスリッパークラッチが入っていないということがある。気になってコーナー手前で2段飛ばしのシフトダウンを行って強烈なエンジンブレーキをかけてみる……と、電子制御スロットルによるオートブリッパー(MSR)が気持ちよくエンジン回転数を合わせてクラッチを繋ぐ。大きなエンジンブレーキがかかった場合には半クラッチも使うとのことだが、一連のスムーズさは正直、僕のシフトダウンより遥かに上手い。

『Y-AMT』のユニットは車両重量増による運動性の影響が少ないエンジン裏に収められ、飛び出しもほぼゼロ。

『Y-AMT』のユニットは車両重量増による運動性の影響が少ないエンジン裏に収められ、飛び出しもほぼゼロ。

 

さて、2回にわたってヤマハの『Y-AMT』についてお伝えしていますが、次回は『Y-AMT』の“電子制御ギヤチェンジ”の部分。AT化のキモであり、ATモード、MTモード、それに「D」、「D+」の2つのライディングモードなどについても解説します。

 

 

【関連記事】
MT車なのにクラッチレバー&シフトペダルがない!? ヤマハ MT-09 Y-AMTに乗ってきた!! その①“電子制御クラッチ”徹底解説編
MT車なのにクラッチレバー&シフトペダルがない!? ヤマハ MT-09 Y-AMTに乗ってきた!! その②“電子制御ギヤチェンジ”徹底解説編
MT車なのにクラッチレバー&シフトペダルがない!? ヤマハ MT-09 Y-AMTに乗ってきた!! その③“ATモード”徹底解説編

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事