9月30日から発売となったヤマハのMT-09 Y-AMT。ギヤ付きのエンジンなのに、クラッチレバー操作もシフトチェンジ操作もないってどういうこと!? どうなっているの? とにかく乗って確かめてきた!! 前回は『Y-AMT』の“電子制御クラッチ”の部分フォーカスして解説したが、今回はシリーズの2回目、“電子制御ギヤチェンジ”の部分を中心に解説していこう。
ヤマハの電子制御シフト技術『Y-AMT』の歴史
今回発売されたMT-09 Y-AMTが搭載する『Y-AMT(ヤマハ・オートメイテッド・マニュアル・トランスミッション)』は、2006年からFJR1300ASに搭載しているヤマハの電子制御シフト技術であるYCC-S(ワイシーシー・エス)の進化版という位置付けだ。18年前、世界初の二輪車用自動化MTシステムとして誕生した「YCC-S」は、“クラッチレバー操作”と“シフトチェンジ操作”を電子制御により自動化するというもので、この基本的な仕組みは最新の『Y-AMT』も一緒だ。
ただ今回登場したMT-09 Y-AMTには、同社の二輪車としては初の“二輪用オートマチック変速”技術も追加。つまりこれまでの二輪用「YCC-S」では、ライダーがボタン操作を行ってシフトチェンジする必要があったが、新たにAT(オートマチック変速)機能が備わったことで“オートマ限定”の大型自動二輪免許で運転が可能となっている。
面白いのはこの『Y-AMT』をヤマハとしては“MT(マニュアルミッション)時のスポーツ性をアップさせるための技術”としていることだ。あくまでAT(オートマチック変速)機能は付加的なもので、開発陣は技術説明会で“『Y-AMT』はオートマチック化のための機構ではなく、ライダー主導でギヤチェンジをして楽しむための機構である”ということを繰り返し強調していた。名称をこれまでのYCC-Sから『Y-AMT』へと変更したのも、あくまで“MT(マニュアルミッション)”時のスポーツ性をアップさせるための技術であることを強調するため、Y-AMTとあえて“MT”の文字を入れることが目的だったらしい。
つまり、せっかく運転が楽になるAT(オートマチック変速)機能を付けたにも関わらず、“『Y-AMT』はMT(マニュアルミッション)で運転操作を楽しむための機構”だとヤマハは言っているのだ。……うーん、よくわからないよね。僕も実際に乗るまではヤマハの言っていることがわからなかった。
サーキット走行がより楽しくなる『Y-AMT』
……驚いた。MT-09 Y-AMTの試乗会が行われたのは袖ヶ浦フォレストレースウェイ。つまりサーキット走行なのだが、走行ペースを上げるほどに指先でギヤチェンジが完了する『Y-AMT』の効用が身にしみる。端的に言えば『Y-AMT』があると“走りがいつもより遥かにスムーズになる”のだ。というのも一般的なギヤ付きのモデルの場合、左足でシフトチェンジを行う際には、まず右のステップに荷重を移してそれからシフトペダルを操作する必要がある。街乗りレベルではあまり意識することはないかもしれえないが、これがスポーツ走行となるとこのステップの踏み替えによるマシンのふらつきが相当気になる。当然ふらつかないように気をつけながら変速操作するのだが、これが運転に集中するスポーツ走行の中ではかなりのリソースを割くことになる。
ところが『Y-AMT』の場合は、ステップの踏み替えがそもそも必要なく、人差し指を動かすだけでシフトチェンジが完了。そもそもふらつくことがないから、スロットルワークやブレーキ操作など別の作業に集中力のリソースを割けるというわけなのだ。もうこれだけでなんだかいつもよりコーナリングがうまくなったように思えるから不思議。特に『Y-AMT』仕様からスタンダードのMT-09に乗り替えたときには、“『Y-AMT』にはここまで楽させてもらっていたんだ”と思うほどの違いがあったのだ。
また『Y-AMT』はシフトチェンジの確実性もかなり高い。……というか正直、僕のシフトチェンジよりも上手い(笑)。シフトアップはともかく、コーナリング直前のシフトダウンは、ギヤのチョイスはもちろん“エンジン回転数を合わせてバックトルクを減らしてマシンの挙動をスムーズにしたり……”なんて繊細な作業が必要で、僕はこれがめっぽう苦手。少々荒っぽいシフトダウンでリヤタイヤから“ギャッ!”というスキール音が聞こえる……なんてこともしょっちゅうなのだが、『Y-AMT』なら指先一つで素早くギヤチェンジが完了。しかも、マシンが勝手にエンジン回転数を合わせてくれ、しかも微妙なクラッチコントロールまで行ってスムーズなギヤチェンジを行ってくれるのだからたまらない。なんだかものすごくライディングが上手くなった気になるというか、気持ちよくスポーツ走行が行えるのだ。
乗ってみれば、実に“人機官能”に則ったモノづくりを行うヤマハらしい乗り味に仕上がっていたMT-09 Y-AMT。“よりスポーティな走りを楽しむための機構です”との開発陣の言葉どおり、『Y-AMT』はライダーがよりバイクとの一体感や操る楽しさを享受できる機構となっていた。……なんて感じで「まとめ」に入ってみたのだが『Y-AMT』にはもう一つ、オートマチックで変速するATモードも搭載されている。 開発陣によれば『Y-AMT』機構の“本流”ではないが、やっぱりこちらも気になるところ。次回は『Y-AMT』のATモードについて徹底解説していこう。
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