9月30日から発売となったヤマハのMT-09 Y-AMT。ギヤ付きのエンジンなのに、クラッチレバー操作もシフトチェンジ操作もないってどういうこと!? どうなっているの? とにかく乗って確かめてきた!! 前回は『Y-AMT』の“電子制御クラッチ”の部分フォーカスして解説したが、今回はシリーズの2回目、“電子制御ギヤチェンジ”の部分を中心に解説していこう。

ヤマハ MT-09 Y-AMT ■全長2090 全幅820 全高1145 軸距1430 シート高825(各㎜) 車重196㎏(装備)■水冷4ストDOHC並列3気筒 888cc 120ps/10000rpm 9.5kg-m/7000rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量14ℓ(ハイオク指定) ブレーキF=ダブルディスク R=ディスク タイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 価格:136万4000円

ヤマハの『Y-AMT』のAT機構は、“電子制御クラッチ操作”を行う写真右側のユニットと、“電子制御ギヤチェンジ”を行う写真左側のユニットに大別できる。今回は写真左側の“電子制御ギヤチェンジ”の部分も合わせて説明していこう。
ヤマハの電子制御シフト技術『Y-AMT』の歴史
今回発売されたMT-09 Y-AMTが搭載する『Y-AMT(ヤマハ・オートメイテッド・マニュアル・トランスミッション)』は、2006年からFJR1300ASに搭載しているヤマハの電子制御シフト技術であるYCC-S(ワイシーシー・エス)の進化版という位置付けだ。18年前、世界初の二輪車用自動化MTシステムとして誕生した「YCC-S」は、“クラッチレバー操作”と“シフトチェンジ操作”を電子制御により自動化するというもので、この基本的な仕組みは最新の『Y-AMT』も一緒だ。

2006 FJR1300AS/世界初の二輪車用自動化MTシステム「YCC-S」を“AS仕様”に初搭載。スイッチボックスのボタン、もしくはシフトペダルのスイッチ操作でシフトチェンジが可能。ただし、初期のモデルは極低速域の制御がお世辞にもいいとは言えなかった。

2013 FJR1300AS/電子制御スロットルを搭載したことで、エンジン出力のコントロールがより緻密化し「YCC-S」は第2世代へ。極低速域の制御レベルが大幅に向上し、Uターン時などの安心感がアップ。スタンディングスティル的な動きも可能になった。

2017 YXZ1000E SS/バイクだけでなく、四輪バギーにも「YCC-S」を搭載。2023モデルからはこれまでMT操作だけだったYCC-SにAT機構が組み込まれることになった。
ただ今回登場したMT-09 Y-AMTには、同社の二輪車としては初の“二輪用オートマチック変速”技術も追加。つまりこれまでの二輪用「YCC-S」では、ライダーがボタン操作を行ってシフトチェンジする必要があったが、新たにAT(オートマチック変速)機能が備わったことで完全自動化。“オートマ限定”の大型自動二輪免許で運転が可能となっている。

2024 MT-09 Y-AMT/最新の『Y-AMT』を搭載したMT-09 Y-AMTもクラッチレバーがなければシフトペダルもない。またヤマハとしては初めての“MTエンジンを搭載したAT二輪車”であり、AT限定の大型二輪免許での運転が可能だ。
面白いのはこの『Y-AMT』をヤマハとしては“MT(マニュアルミッション)時のスポーツ性をアップさせるための技術”としていることだ。あくまでAT(オートマチック変速)機能は付加的なもので、開発陣は技術説明会で“『Y-AMT』はオートマチック化のための機構ではなく、ライダー主導でギヤチェンジをして楽しむための機構である”ということを繰り返し強調していた。名称をこれまでのYCC-Sから『Y-AMT』へと変更したのも、あくまで“MT(マニュアルミッション)”時のスポーツ性をアップさせるための技術であることを強調するため、Y-AMTとあえて“MT”の文字を入れることが目的だったらしい。
つまり、せっかく運転が楽になるAT(オートマチック変速)機能を付けたにも関わらず、“『Y-AMT』はMT(マニュアルミッション)で運転操作を楽しむための機構”だとヤマハは言っているのだ。……うーん、よくわからないよね。僕も実際に乗るまではヤマハの言っていることがわからなかった。

『Y-AMT』のシフトチェンジは左スイッチボックスにあるシーソー式レバーで行う。①「+」ボタンを手前に引くとシフトアップ、②「-」ボタンを押すとシフトダウン。またレバー形状を工夫したことで、③人差し指で「+」ボタンを弾いてもシフトダウンが可能。つまり慣れれば人差し指のみ操作でシフトアップ&ダウンが完結する。このシーソー式レバーを使ってのシフトチェンジはMTモード中はもちろんだが、ATモード時にも使えるようになっている。
サーキット走行がより楽しくなる『Y-AMT』

スポーツ走行において『Y-AMT』の効用を強く感じるのはコーナリングの進入時と脱出時。“やること”、“気をつかうこと”が減ればそれだけ走りがスムーズになるという単純な理屈だが、その効果は思いのほか絶大だった。
……驚いた。MT-09 Y-AMTの試乗会が行われたのは袖ヶ浦フォレストレースウェイ。つまりサーキット走行なのだが、走行ペースを上げるほどに指先でギヤチェンジが完了する『Y-AMT』の効用が身にしみる。端的に言えば『Y-AMT』があると“走りがいつもより遥かにスムーズになる”のだ。というのも一般的なギヤ付きのモデルの場合、左足でシフトチェンジを行う際には、まず右のステップに荷重を移してそれからシフトペダルを操作する必要がある。街乗りレベルではあまり意識することはないかもしれえないが、これがスポーツ走行となるとこのステップの踏み替えによるマシンのふらつきが相当気になる。当然ふらつかないように気をつけながら変速操作するのだが、これが運転に集中するスポーツ走行の中ではかなりのリソースを割くことになる。
ところが『Y-AMT』の場合は、ステップの踏み替えがそもそも必要なく、人差し指を動かすだけでシフトチェンジが完了。そもそもふらつくことがないから、スロットルワークやブレーキ操作など別の作業に集中力のリソースを割けるというわけなのだ。もうこれだけでなんだかいつもよりコーナリングがうまくなったように思えるから不思議。特に『Y-AMT』仕様からスタンダードのMT-09に乗り替えたときには、“『Y-AMT』にはここまで楽させてもらっていたんだ”と思うほどの違いがあったのだ。

シフトチェンジ時には“電子制御クラッチ”も積極的に仕事をする。制御の関係からSTDのMT-09が装備するアシストスリッパークラッチは省かれているが、強すぎるエンジンブレーキがかかると半クラッチにして力を逃したり、電子制御スロットルによるオートブリッパー機能が働いてエンジン回転数を合わせたりしてバックトルクを逃す。
また『Y-AMT』はシフトチェンジの確実性もかなり高い。……というか正直、僕のシフトチェンジよりも上手い(笑)。シフトアップはともかく、コーナリング直前のシフトダウンは、ギヤのチョイスはもちろん“エンジン回転数を合わせてバックトルクを減らしてマシンの挙動をスムーズにしたり……”なんて繊細な作業が必要で、僕はこれがめっぽう苦手。少々荒っぽいシフトダウンでリヤタイヤから“ギャッ!”というスキール音が聞こえる……なんてこともしょっちゅうなのだが、『Y-AMT』なら指先一つで素早くギヤチェンジが完了。しかも、マシンが勝手にエンジン回転数を合わせてくれ、しかも微妙なクラッチコントロールまで行ってスムーズなギヤチェンジを行ってくれるのだからたまらない。なんだかものすごくライディングが上手くなった気になるというか、気持ちよくスポーツ走行が行えるのだ。

『Y-AMT』開発にあたって開発陣がとにかくこだわったのはシフトチェンジ完了時間。なんと0.1秒で作業を完了するとのことだが、シフトロッドに内蔵したスプリングに畜力しておくこと(プリロード)によって、より素早く違和感のないギヤチェンジを実現している。

シフトロッドのスプリングの他にも、電子制御スロットルによるバタフライバルブコントロールやギヤドッグの穴数を増やしてギヤを嵌合しやすくするなどの工夫で開発初期の5分1の速度である0.1まで短縮できたとか。この速度はヤマハのクイックシフターの変速スピードと一緒だ。
乗ってみれば、実に“人機官能”に則ったモノづくりを行うヤマハらしい乗り味に仕上がっていたMT-09 Y-AMT。“よりスポーティな走りを楽しむための機構です”との開発陣の言葉どおり、『Y-AMT』はライダーがよりバイクとの一体感や操る楽しさを享受できる機構となっていた。……なんて感じで「まとめ」に入ってみたのだが『Y-AMT』にはもう一つ、オートマチックで変速するATモードも搭載されている。 開発陣によれば『Y-AMT』機構の“本流”ではないが、やっぱりこちらも気になるところ。次回は『Y-AMT』のATモードについて徹底解説していこう。
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