2024年9月30日に発売されたばかりのヤマハのMT-09 Y-AMT。その最大特徴のは、ギヤ付きのエンジンをオートマチック化する『Y-AMT』機構。つまりギヤ付きモデルなのにクラッチレバー操作もシフトチェンジ操作もいらないってことにある。いったいどうなっているのか? とにかく乗って確かめてきた!! 前回、前々回と『Y-AMT』の“電子制御クラッチ”“電子制御ギヤチェンジ”の部分を紹介してえきたが、今回はいよいよ“AT”、オートマチック変速の部分を徹底解説。ヤマハの二輪車としては初となるギヤ付きエンジンのAT化はどんな技術なのだろうか?

ヤマハ MT-09 Y-AMT ■全長2090 全幅820 全高1145 軸距1430 シート高825(各㎜) 車重196㎏(装備)■水冷4ストDOHC並列3気筒 888cc 120ps/10000rpm 9.5kg-m/7000rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量14ℓ(ハイオク指定) ブレーキF=ダブルディスク R=ディスク タイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 価格:136万4000円

ヤマハ MT-09 Y-AMT ■全長2090 全幅820 全高1145 軸距1430 シート高825(各㎜) 車重196㎏(装備)■水冷4ストDOHC 4バルブ並列3気筒 888cc 120ps/10000rpm 9.5kg-m/7000rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量14ℓ(ハイオク指定) ブレーキF=ダブルディスク R=ディスク タイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 価格:136万4000円

MT-09 Y-AMTには、一般的なギヤ付きバイクにあるクラッチレバーやシフトペダルがない。逆に左スイッチボックスにはギヤチェンジのためのシーソー式シフトレバーがある。“ATモード”時でも好きなタイミングでシーソー式シフトレバーを操作すればギヤチェンジが可能。

MT-09 Y-AMTには、一般的なギヤ付きバイクにあるクラッチレバーやシフトペダルがない。逆に左スイッチボックスにはギヤチェンジのためのボタン“シーソー式シフトレバー”があり、“ATモード”時でも好きなタイミングでギヤチェンジが可能。人差し指でシーソー式シフトレバーを操作すればギヤチェンジが一瞬で完了する。『Y-AMT』は操る楽しさを享受したいベテランはもちろんだが、“手が小さかったり、握力が乏しくてクラッチ操作に苦労している”というライダーや“ギヤチェンジやクラッチ操作が不慣れ”というビギナーライダーまで、誰もがバイクの楽しさを享受できる機構に仕上がっている。

勝手にシフトチェンジするATモードの使い勝手はどうか?

停止中はもちろん、走行中でも左スイッチボックスの上部のレバーで“MTモード”と“ATモード”が切り替えが可能。メーター右側の表示も切り替わる。

停止中はもちろん、走行中でも左スイッチボックスの上部のレバーで“MTモード”と“ATモード”が切り替えが可能。メーター右側の表示も切り替わる。

 

新型MT-09 Y-AMTに搭載された『Y-AMT』。“この『Y-AMT』はあくまで任意のタイミングでギヤチェンジを行うMTモードをより楽しむための機構です”……なんて開発陣の想いを何度も聞いたうえでこんなことを言うのは気が引けるのだが、ユーザーとしてはオートマチック変速、“ATモード”が搭載されているのならその“楽さ加減”や“使い勝手”も気になるものだ(笑)。

ATモード(自動変速)で走り出し、速度を上げていくと当たり前だが、1速→2速→3速→4速と自動でギヤがシフトアップする。逆に車速が落ちれば自動でシフトダウン。ちなみにギヤが2速、3速に入ったまま停止した場合、勝手に1速に入れる機能も付いている。試乗にあたっては、サーキット走行はもちろんだが、低速走行でのゴー&ストップなども試してみたが、総評としては特にATモードで気になるところはなく、前評判どおり“初心者からベテランまで誰もが安心して乗ることができる”機構に仕上がっていた。

確かにホンダのDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)に比べてしまうと、変速時のシフトショックはそれなりにあるが、DCTはその名のとおり2つのクラッチを積んで10kgの重量増を許しているからこそ、あそこまでのシームレスな変速が可能なところがある。一方、MT-09 Y-AMTの『Y-AMT』機構は、スタンダードモデルに対し2.8kgにまで重量増を抑え込んでいる。DCTモデルの場合、“ナシ”と“アリ”を乗り比べると、明らかにDCT“アリ”の方が重くなっていることを走りでも実感することになるが、『Y-AMT』の場合“ナシ”と“アリ”の重量感の差はほぼないと言っていい。実際、試乗会ではスタンダードモデルなどとの乗り比べもしてみたが、『Y-AMT』モデルがスタンダードモデルと同じようにスポーツ走行できてしまうことにビックリ。スタンダードモデルに対する違和感のなさが逆に素晴らしいと思う。

MTエンジンをオートマチック化する既存技術にはDCTがあるが、『Y-AMT』の優位性はとにかく軽量コンパクトなところにある。DCTが約10kg増になるのに対しY-AMTはわずか2.8kg増。クラッチ操作のみを電子制御化するホンダのE-Clutchが約2.0kg増であることを考えると、完全オートマ化を実現している『Y-AMT』の優位性がよくわかる。

MTエンジンをオートマチック化する既存技術にはDCTがあるが、『Y-AMT』の優位性はとにかく軽量コンパクトなところにある。DCTが約10kg増になるのに対しY-AMTはわずか2.8kg増。クラッチ操作のみを電子制御化するホンダのE-Clutchが約2.0kg増であることを考えると、2.8kg増で完全オートマ化を実現している『Y-AMT』の優位性がよくわかる。

 

次に「D」、「D+」の各ATモードのフィーリングをチェック。走らせた印象は、ツーリングペースにちょうどいい変速を行う「D」モードに対して、「D+」モードはややスポーティなフィーリングで、よりエンジンの高回転域を使って走る味付けになっている。ただ、どちらのモードもサーキットでタイムを縮めるためのモードではなく、どちらかというとツーリング先で疲れたときのイージーライディング用のクルージングモード。またはストップ&ゴーの多い渋滞路でこそ役立ちそうな機能である印象を受けた。“スポーティに楽しく走るならATモードじゃなくて、やっぱりMTモードでしょ!?”という開発陣の意思がしっかり読み取れるような味付けになっている。

MT-09 Y-AMTのATモードには「D」、「D+」の2つのライディングモードが備わっており、エンジン出力のマップやシフトチェンジのタイミングが異なる。

MT-09 Y-AMTのATモードには「D」、「D+」の2つのライディングモードが備わっており、エンジン出力のマップ設定やシフトチェンジのタイミングが異なる。

「D」、「D+」の2つのライディングモードは、右スイッチボックスのモードボタンで切り替える。ちなみに「D」、「D+」どちらのライディングモードでも、左スイッチボックスにあるシーソー式シフトレバーで、ライダーによるオーバーライドが可能。つまり“ギヤをもう1速落としてエンジンブレーキを強めたい”なんて場合はこのボタンでギヤを操作することができる。

「D」、「D+」の2つのライディングモードは、右スイッチボックスのモードボタンで切り替える。ちなみに「D」、「D+」どちらのライディングモードでも、左スイッチボックスにあるシーソー式シフトレバーでライダーによるオーバーライドが可能。つまり“ギヤをもう1速落としてエンジンブレーキを強めたい”なんて場合は任意でギヤを操作することができる。

 

『Y-AMT』のATモード感心したのはシフトダウンのタイミングの素晴らしさだ。今回の試乗はサーキットオンリーのクローズド環境。さすがに速度レンジが高すぎて「D」モードで走っているとオーバーライドして自分の意思でギヤチェンジしたくなる場面が多々あったのだが、「D+」にするとシフトタイミングがややスポーツ用に切り替わるのだ。

サーキット走行であれば、明らかに「D+」モードにするとオーバーライドしたくなる場面が減る。ガッツリ強めの減速をかければ、3速→2速と続け様に勝手にシフトダウン。しかも、そのシフトダウンのタイミングに違和感がないというか気持ちよくシフトダウンを入れてくる感じ。コーナーへの進入速度やブレーキタイミングを早め遅めと試してみると、単にある一定のエンジン回転数で変速を行うのではなく、速度の変化に合わせて“いい感じ”にシフトダウンを入れてくることに驚いた。

「D」は街乗りツーリング用という雰囲気でシフトアップのタイミングも早く、エンジン回転数の高いところまで回さないような設定。逆に「D+」では、シフトアップでもダウンでもかなり高いエンジン回転数を使ってよりスポーティに走るイメージ。ただ設定パラメーターを見るに“MTモード”のスポーツモードに比べると、「D」、「D+」も若干おとなしめな味付けになっている。

「D」は街乗りツーリング用という雰囲気でシフトアップのタイミングも早く、エンジン回転数の高いところまで回さないような設定。逆に「D+」では、シフトアップでもダウンでもかなり高いエンジン回転数を使ってよりスポーティに走るイメージ。ただライディングモードの設定パラメーターを見るに“MTモード”のスポーツモードに比べると、「D」、「D+」もややおとなしめな味付けになっている。

 

ATモードの変速タイミング算出には、さぞかし高度な技術を使っているのかと予想したのだが、開発陣によれば、IMUを使っていないというから余計にビックリ! タネを明かせばエンジン回転数はスロットル開度はもちろん、ABSなどで使うホイールの速度センサーからバイクの加減速の変化を読み取って変速タイミングを決めているとのことだが、実に頭のいいAT機構に仕上がっており違和感がない。

ヤマハの『Y-AMT』は、MT-09が搭載するのと同じ888ccの直列3気筒エンジン(CP3)を搭載するモデルへの転用が発表されており、その次はCP2と呼ばれる688ccの並列2気筒エンジン搭載モデルにも搭載される予定。実名を挙げれば、CP3系がトレーサー9GT、XSR900/GP、ナイケンで、CP2がYZF-R7、MT-07、XSR700、テネレ700。今後、さまざまなモデルに転用されることが見込まれている『Y-AMT』は、IMUを搭載しないようなバイクにも転用が可能な技術として仕上がっているというわけだ。

IMUを備えないモデルにも転用が可能な『Y-AMT』。技術的には電子制御スロットルを備えいないモデルにも搭載可能とのことだが、ヤマハが提唱する“操る楽しさ”を実現するには、どうやら電子制御スロットルが不可欠らしい。

IMUを備えないような低価格なモデルにも転用可能な『Y-AMT』。技術的には電子制御スロットルのないモデルにも搭載可能とのことだが、ヤマハが提唱する“操る楽しさ”を実現するには、どうやら電子制御スロットルが不可欠になるらしい。

 

シート高825mmのMT-09 Y-AMTのポジションチェック

ライダー(谷田貝 洋暁):身長172cm/体重75kg

ライダー(谷田貝 洋暁):身長172cm/体重75kg

跨り部分がしっかり絞られており、両足の踵がなんとか両側つくぐらいの足着き性。825mmのシート高数値は2023モデル(RN69J)から変わっていないものの、より前輪荷重を増やすため2023モデルに比べてハンドルを低くし、ステップもバックステップ気味のポジションに変更されている。ちなみにシート高はMT-09のスタンダードモデル、SP、Y-AMT仕様も全て825mmで一緒。

 

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