前編に続いて、渚園(なぎさえん)キャンプ場で開催された「CBRミーティングin渚園2026」の模様をレポート。後編では、登場30周年を迎えたCBR1100XXスーパーブラックバード(以下、ブラバ)の開発責任者・山中 勲(やまなか いさお)さんによる30周年記念トークショーを中心にお伝えする。

Honda CBR1100XXスーパーブラックバードについて

▲Hondaの公式サイト「CBR Stories」より引用

 

Hondaの公式サイト「CBR Stories」には、「世界最高水準の性能を実現したスーパースポーツモデル」というタイトルで、1996年7月4日にドイツでプレス発表会が行われ、同月下旬にはフランスのポール・リカール・サーキットでプレス向け試乗会が開催されたことなどが記されている。

現在、“スーパースポーツ”タイプというと、レプリカのようにレースシーンをイメージさせるフルカウルマシンを指すが、ブラバのそれは速さだけでなく、公道走行のあらゆる場面で操って楽しく、感動できる性能が追求されたという意味でのスーパースポーツだ。

ブラックバード登場30周年記念トークショー

▲アウトドアチェアに座りながら話をする山中さん

 

トークショーは、事務局からの質問に山中さんが答えていくという形で行われた。貴重な機会なので、なるべく多くの発言を整文して掲載したい。

 


 

MC:山中さんは1945年生まれの81歳。本田技研工業入社後に数々の名車を手がけられ、特にV型4気筒の開発に注力されたという印象がありますが、最後に手がけられたのが今年30周年を迎えるCBR1100XXスーパーブラックバードということでよろしいでしょうか。

山中:その通りです。

MC:CBR1100XXスーパーブラックバードは現在も多くの方が所有し、愛されるバイクとなっていますが、今日のお気持ちをお聞かせください。

山中:こんなにも大勢のオーナーに集まっていただけるとは思っていませんでしたから、たいへんうれしく思います。このバイクは、ともすれば「最高速が速い」とか、「SR-71ブラックバード」から名前をつけたので余計にそういう印象が強いかもしれませんが、開発時のコンセプトは「モスト・プレジャブル・バイク」ということで、開発プロジェクトメンバーもそのコンセプトに集中して開発しました。

▲マッハ3を超える速度で飛行したアメリカの戦略偵察機『SR-71 ブラックバード』※撮影:NASA

 

それは何か? モスト・プレジャブル(=最も楽しい)ですから、まずスタイリングがよい、排気音がよい、乗り出したら加速がよい、さらにそのまま伸ばしていくと最高速がほかのどのバイクよりも速い。それから、速いだけではなく、いざというときにはブレーキ性能がよく、振動が手や足に伝わらないこと。それらの実現を目標に開発しました。

この時の開発記号は「MATB(エム・エー・ティー・ビー)」、我々は“マットビー”と呼んでいましたが、マットビーの開発プロジェクトメンバーはほかの機種の開発プロジェクトよりも結束力が強く、みんなが気に入って「自分もほしい」と言い、開発メンバーの多くがこのバイクを所有しています。

そんなバイクですから、今日もこうしてたくさんの方がモスト・プレジャブル・バイクの一端を味わいつつ、ここに集まってくれたのではないかと思っています。

 

営業担当者から「ブラックバードと名づけてほしい」

▲山中さんのもとで車体設計を担当し“ブラックバード”の名づけ親にもなった現MFJ会長の鈴木哲夫 氏 ※「バイクラブフォーラム in埼玉・おがの」にて 筆者撮影(2025年9月19日)

 

MC:CBR1100XXスーパーブラックバードという車名の由来について教えてください。CBRについているRやRRではなく、XXなのはなぜでしょうか?

山中:私の後輩に車体設計者で、鈴木哲夫(現MFJ会長)という人がいました。開発するときはドラフター(製図台)を使いますが、彼はそのドラフターの横に「ブラックバード」と書いて仕事をしていました。

それを見たドイツの販売責任者が「これはいい」ということで賛成し、「ぜひブラックバードという名前を付けてほしい」ということがあって、「ブラックバード」という名前を付けました。もちろんその後、営業担当がロッキード社に交渉し、問題のないよう了解を取っています。

XX(ダブルエックス)については私のこだわりで、RやRRというものがありますが、「じゃあ、その次は何だ?」と言ったら、Vだとかいろいろな記号はありますが、もうこれ以上はない究極のマシンだからXにしようということで、Xという文字を付けてあります。これがXX(ダブルエックス=究極の究極)となって、私も満足していて、今日に至っています。

 

直4のエンジンでカワサキに勝つ!

▲マイクを持ってにこやかに質問に答える山中さん

 

MC:続いてですが、ブラックバードのエンジンはなぜ1,100ccなのでしょうか? また、山中さんはV型4気筒のエンジンにとても力を注がれてきたと思います。ブラックバードにV型4気筒エンジンを搭載するアイデアはありましたか?

山中:ホンダの場合は、まず開発指示書というものが所長室から出てきますが、そこには「CBR1000F(1987年登場)をモデルチェンジしなさい」と書かれていました。

▲CBR1000F(輸出車)の最終型となった1996年式。※Hondaの公式サイト「CBR Stories」より引用

 

CBR1000Fは直列4気筒(直4)エンジンでしたから、V型4気筒を採用する余地はなかったですね。それを1000ccのままにするのか、もっと排気量を上げるのか、開発コンセプトをどのようにするのかということがあって、その時は「直4のエンジンでカワサキ(※)を負かす」ということで開発を進めました。

※当時、世界最速とされたカワサキ「ZZR1100」(1990年登場)

 

ブラックバード開発中のコーヒーは1日何杯?

▲山中さんが営むカフェ「コーヒー・ブラックバード」※写真提供:四葉さん

 


MC:最後の質問になりますが、山中さんは「コーヒー・ブラックバード」というカフェを経営されていて、かなりのコーヒー好きとお見受けします。ブラックバード開発時には1日何杯くらいコーヒーを飲まれていましたか?

山中:私たちの職場には、コーヒーをドリップで入れられる機械がセットされていて、誰でも気軽に飲めました。ですが、そうたくさんは飲んでいなかったですね。気分転換が必要なときに自分でドリップして机の横に置いておき、飲むくらいだから。1日1杯か2杯でした。

 

山中さんがどうしても伝えたかったこと


本来ならここでトークショーは終了になるということで、MCがスケジュールのアナウンスを始めていたが、そこで山中さんから「ちょっと今日はとっておきの話をしたい」という嬉しい申し出があった。思わぬサプライズに会場からは拍手が起こり、山中さんが話し始めた。

山中:このマシンは、先ほど言ったモスト・プレジャブル・バイクという開発コンセプトの中で、最高速が速い、コーナリング特性が軽い、そういう特性がありますが、そのために、かなり設計を頑張っています。

それは何かというと、クランクケースのベースライン(基準面)に対して、シリンダーの傾斜角度が従来の直4の角度とは違っています。従来の直4はシリンダーの角度が前傾15度ですが、それだとどうしてもエンジンに必要な剛性が確保できなかったものですから、前傾30度に変えて設計していきました。

▲CBR1100XXスーパーブラックバードのエンジンカットイラスト ※Hondaの公式サイト「CBR Stories」より引用

 

当然、15度と30度では加工治具が変わってしまいますから、浜松製作所(ブラバの生産工場)の工場長に「なんでそんなことをやらなきゃいかんのだ」とずいぶん叱られましたけど、「これがどうしても必要なんだ」と説得して、それで30度を通したことがあります。

ですから、“モスト・プレジャブル”は何となくできているのではなくて、そういう戦いを経たうえで成り立っているのだということを、ちょっと伝えておきます。はい、以上です。

▲サプライズではとっておきの開発エピソードが披露された。参加者はみな真剣に聞き入っていた

 


 

以上が山中さんのトークショーの全容となる。サプライズで伝えたかったのは、シリンダーの傾斜角について、製造側との調整を重ねながら、目指す性能のために設計上のこだわりを貫いた、というエピソードだった。

▲現在では絶版となっているが、山中さんの著書「ホンダ・フラッグシップバイク開発物語」(光人社 刊)もお勧めだ。山中さんが手がけた数々のホンダバイクについて開発秘話がつづられている

 

ブラバが最後のバイクでもいいかなって

それでは前編に引き続きブラバオーナーを2名紹介する。まるで新車のような輝きを放つピカピカのブラバにも出会うことができた。

●keiさん(神奈川県横浜市・44歳)
CBR1100XXスーパーブラックバード(1997年式)

ブラバの並びを見ていて、思わず声が出るほど驚いたのがkeiさんの愛車だ。カウルやスクリーン、ハンドル回りなど各部の色つやが段違いにきれいで、プラスチック類の退色もない。オドメーターをのぞき込むと、なんと2,820km! 展示試乗車か新古車かというレベルで車体がきれいだった。

前オーナーは北海道の方で、約30年間、自宅で保管し続け、定年後に乗ろうとしたものの車重が気になって手放したという。その後、絶版車に強いショップを通してkeiさんが入手。当然、新車時価格よりもかなり高額だったが、「大型二輪免許を取る理由がブラックバードに乗りたかったからで、だまされてもいいやくらいの気持ちで買っちゃいました」と、迷いはなかった。

19歳からさまざまなバイクを乗り継いできたが、ブラバのことはずっと気になっていた。6年前に大型二輪免許を取り、この春まではCB1100に乗っていたが、ブラバは常に探していた。そして巡り合った、新車のような奇跡の1台。

「ストーリーもデザインも本当に魅力的なバイクで、これが最後のバイクでもいいかなと思っています」

1日1回は各部を磨いているというkeiさん。約30年を経たブラバとのバイクライフに、心を躍らせていた。

 

なんとなく恋しくて、2台目のブラバ

●つっちぃさん(静岡県伊東市・28歳)
CBR1100XXスーパーブラックバード(1997年式)

「このブラバ、実は2台目なんです」と、豊富な愛車遍歴のつっちぃさん。1台目のブラバは10万kmを超えていたが、5年前に軽い事故に遭い、手放すことになった。その後はヤマハ SR400やBMW K1200S(レッドバロン伊東で購入)など、5台ほどさまざまなバイクを乗り継いできた。

それでも、「なんとなくブラックバードが恋しくて」とレッドバロン富士で同じ年式、同じ色の車体を探してもらった。ブラバのどこがそんなに魅力的なのだろうか?

「300km/hというロマンを追い求めた時代にもかかわらず、小さな小路や狭い峠道でも軽やかに曲がってくれて、人馬一体感が強い。そんなところが好きですね」

普段のメンテナンスはレッドバロン伊東にもお願いしているという。カウルや各部のプラスチックパーツも、かなりきれいに維持されていた。

「いい車体を見つけてもらったので、今後はアルミの腐食とかも磨いて、できるだけきれいに維持したいです」

先日は、バイクステーション倉敷に宿泊して出雲や福井を巡り、帰路ではバイクステーション岡崎に泊まるなど「無駄に動き回って(笑)」約2,500kmのロングツーリングを楽しんだという。

「山中さんのカフェに行ってお話を伺ったこともありますが、開発陣の熱意や当時から愛されていたことが強く伝わってきました。実際に乗ってみても出来がよいと感じますし、古さとかはまったく気になりません。本当に好きですね」

いろいろなバイクに乗ってきたつっちぃさんだが、今日の山中さんの話を聞いて改めてブラバへの“好き”を深めたようだ。

▲チタニウム・メタリックの愛車を並べた6人のオーナーたち。ブラバの初期型を代表するボディカラーだ

 


「CBRミーティングin渚園2026」のレポートは以上となる。

同じくブラバに乗っている筆者は、ツーリング雑誌ではBMWの試乗を担当しているが、現行のBMWと比べてもブラバの走行フィールはまったく引けを取らないと感じている。世界的なスポーツバイクブームのなかで他車と競い合いながら本気で開発されたブラバは、細部の作りにも、当時の開発陣のこだわりが感じられる。

絶版車だから現行モデルに太刀打ちできないのではなく、その当時のバイクにあった良さで、現行モデルにはないものもあるということを教えてくれる1台。皆さんにもぜひ一度、ブラバに乗ってみてほしいと思う。

 

▲山中さんの直筆サインが大書きされたウインドスクリーン。ホンダのフラッグシップモデル・オーナーにとって山中さんはレジェンドだ

 

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