ZZ-R1100という頂点【前編】を読む

ZZ-R1100という頂点【中編】を読む

バイク業界うっかりガン無視の静かなデビューから一転、逆輸入車にもかかわらず人気が沸騰したカワサキのフラッグシップ「ZZ-R1100」。最高速に憧れて購入したオーナーたちは、いざ走らせてみると想定外の扱いやすさにも驚き、ますます惚れ込んでいくこととなりました。実は筆者もレンタルバイクで“ZZ-Rショック”を受けたひとりなのです。

無視のイラストイメージ

●「ど〜せ大したことなんてないだろう」とシカトを決め込んだら、じつはとんでもない魅力と実力の持ち主で、歴史を塗り替えるような超ヒット作に……。奇しくも1989年にゼファー、1990年はZZ-R1100と、そのようなモデルが相次いでカワサキから登場したことは非常に興味深い事実です

全宇宙最速(当時)のバイクを自由にできた夢の1日

現在のように「レンタルバイク」自体がメジャーなものではなかった1990年代初頭。

気になるバイクがあってもメーカー主導の試乗会なんて(ほぼ)影も形もなく、ましてやレアな逆輸入車など、実車を見ずに購入して納車されるまで走り味ひとつ分からないまま……という状況が当たり前でした(だからこそ当時のライダーたちは雑誌の試乗記事を目を皿にして熟読していたわけですね)。

MC逆輸入車記事

●八重洲出版モーターサイクリスト1990年8月号記事より。ある意味で「東大入試より難しい」とも言われていた運転免許試験場での一発試験……“限定解除”をくぐり抜けた者だけが乗ることを許されていた魅惑のビッグバイク群。さらに国内4メーカーのものは日本の工場でつくっているのに、一度海外へ輸出したあと、再び輸入しなければ販売できないという謎システムがまかり通っていた時代です。それに比べれば、現在はなんと恵まれていることか……!?

 

すでにモーターサイクリスト編集部でアルバイト生活を送っていた筆者でしたが、取材で使用する有力ショップ虎の子フラッグシップ群に触れられるのは洗車ガソリン給油時のチョイノリ(直近にあるスタンドとの往復354m)くらいのもの

中でもZZ-R1100(C型)は“ヤタベ”での最高速チャレンジを目の前で見ていたこともあり、「いつか公道で気ままに走らせてみたい」欲が亢進し続けて辛抱タマラナクなり、必死になって情報を集めていたところ……。

なんと埼玉県のとあるバイクショップでZZ-R1100のレンタルが始まったではありませんか! 超速攻で予約して丸一日、全銀河で最速のモーターサイクルを好きに駆る権利を得たのです。

ZZR1100北米仕様

●ZZ-R1100の北米での呼び名は「Ninja ZX-11」。現在でも多少は残っていますが、当時は今とは比べものにならないくらい、輸出するそれぞれの国ごとに細かく仕様を変更しなければならなかったのです。写真のアッパーカウルに映っているオレンジ色のサイドリフレクターといった外観だけでなく、エンジンの最高出力も微妙に(時に大きく)異なっていることがしばしば。こだわる人も多いので、欧州仕様と北米仕様を両方レンタルするショップもチラホラありました

最初のインパクトから強烈すぎた次代からの使者

「う、おおおおぉォおおぉぉおおおおおおおぉおおおおぉぉぉ~~~~~~っ!!!!!!」

夢見心地のままショップから車両を借り受け、高速入り口の加速車線でちょっとだけラフにスロットルを開けた瞬間、意識の吹っ飛びそうなフル加速が始まり、タコメーターのような俊敏さで速度計の針が動いていきます。

ZZ-R1100メーターまわり

●1万1500回転からレッドゾーンの始まるタコメーターのほうが大きく、中央に鎮座しているZZ-R1100のインストルメントパネル。空吹かしをしたときの鈍重さは皆無! 右手の操作へ俊敏に反応し、飛び跳ねるように回転計の針が動く様は1052㏄もの排気量を持つエンジンとは思えないほどでした。そりゃもう、ぶち感動したっちゃのう(山口弁)。あ、2つのメインメーターに1つずつ設定されていたアナログ式のツイントリップメーターも非常に便利でした〜

 

「なんじゃこりゃぁ~っ!」と狼狽しつつ、なんとか正気に戻ってクルージングへと移行しましたが、心拍数は高止まりをキープ。初っぱなから圧倒されまくりです。

一時期所有していたカワサキGPz750が筆者にとって“ビッグバイク”の基準でしたから、あらゆる意味で1980年代モデルとは次元が違うことを走り出して数分で思い知らされました。

GPz750Fの広報写真

●写真は2型、77馬力化された「GPz750F」ですが、このひとつ前、72馬力仕様の「GPz750」(スタイリングはほぼ同じ)が、マイファーストビッグバイクでした。ヤマハFZ400Rから乗り換えたときは、ナナハンならではの図太いトルクに驚かされたものです。なお、個人的にはこのデザインがカワサキ空冷四発のなかで一番カッコイイ……と思っています

 

当時はまだバイクと軽四輪の高速道路上での最高速度は80㎞/h(2000年に100㎞/hへ引き上げ)でしたので、6速ホールドだとアイドリング+αといった低回転域しか使わずじまい。

右手を数㎜ひねるだけで流れをリードできるためストレスなくどこまでも走っていけそうです。

仕事を抜きにして訪れたワインディングは最高(笑)

その日の目的地は伊豆箱根。いつも人足として取材に同行している場所へあえて行き、撮影ポイントである各コーナーで華麗にバイクを操る辻 司さんや川島賢三郎さん、宮崎敬一郎さんら大先輩バイクジャーナリスト諸氏の気分を少しでも味わってしまおう……という腹づもりでした。カメラマンはいませんけれど(涙)。

箱根の十国峠付近

●当時、バイク雑誌が記事作成のため取材撮影を行なうといったら伊豆箱根方面。大先生&大先輩がたの華麗なライディングを横目で眺めつつ、レフ板片手に置き取り撮影の助手として現場である道路横の駐車場内を走り回っていたころが懐かしいですね(遠い目)

 

クジラかシャチをイメージさせる黒々艶々したボディは乾燥重量でさえ228㎏(装備重量なら250㎏超え!)と威圧感たっぷり。

シャチのイメージ

●全身ヌメヌメだけど引き締まっていて、普段は優雅に泳いでいながらイザとなれば誰ひとり追いつけない……。私のなかでZZ-R1100は、どうしても「シャチ」のイメージが強いのです

 

……なのですが、いざまたがってみると足つき性が良く、ニーグリップ部の形状も適切なため車体との親密感は一気にマシマシ。野太い低速トルクと相まって渋滞している市街地走行も難なくこなしてくれました。

ZZ-R1100タンク

●有機的な曲面を描くガソリンタンク(容量21ℓ)は太ももで挟み込むと非常にしっくりフィットする形状。メインフレームの絞り込みもあって停車時に足を着くときもスッとかかとを下ろせます。渋滞通過時などで大いに助けられたものです。「ポジションのカワサキ」という昔からの定評はダテではありませんでしたね

 

ビックリするほどの扱いやすさこそ頂点に立つ者の嗜み

「こいつ……、曲がるぞ!」

ワインディングに差し掛かった瞬間、完全に想定外だったZZ-R1100の挙動に思わず気分はガンダムに初搭乗したときのアムロ・レイです。

相当に曲率の大きい荒れた峠道にも突っ込んでみたのですけれど、まぁクルリクルリと向きを変えてくれること! 

ポケバイ

●多少……いや結構オーバーな表現であることは先に認めますが、乗る前にあれほど大きく感じたZZ-R1100のボディは慣れるほどに小さくなっていき、峠道でのクルクル感を味わってしまうと「ポケバイか!」とひとりツッコミを入れてしまいたくなるほど印象が変化しました。マイッタ!

 

十分なストロークのある前後サスペンションの動きはとてもしなやかで、スロットルのオン・オフへ素早く反応し、ジオメトリーが適切に変化するため強い旋回力を生み出してくれるのでしょう。

巨体らしからぬ軽快なハンドリングに気分は上がりまくります。狭い峠道だけでなく箱根ターンパイクのような高速コーナーでも絶大なる安定感をもって連続する屈曲部をクリアしていってくれましたので、もう脱帽するしかありません。

ZZR1100荷掛けフック

●写真はD型ですが、C型にももちろん設定されていたタンデムシート直近の「格納式荷掛けフック(バンジーフック)」。レンタルバイクで走った日もレインウエアなどを詰めたバッグをこのフックを活用し、ゴム紐でくくりつけてツーリングを楽しんだものです。こちら1986年登場のGPZ1000RXにはすでに装備されており、排気量の異なるモデルにも多く採用されていました。こういう細かい気遣いも、そのモデルに惚れ込んでしまう一因となるものです。さすがカワサキ!

 

この300㎞/hが狙える超高速性能と自由自在な操縦安定性との両立は以降に続く“メガスポーツ”のデフォルトとなり、ZZ-R1100(D型)はもちろん、ホンダCBR1100XXスーパーブラックバード、スズキGSX1300Rハヤブサといった歴代最高速レコードホルダーの備えるべき資質として受け継がれていくことになります。

MC1999年4月号記事

●八重洲出版モーターサイクリスト1999年4月号記事より。1990年代を中盤まで“メガスポーツ”界を制し続けたZZ-R1100も、その美点も弱点も徹底的に研究して現れたホンダ、スズキのブランニューモデルに後塵を拝するようになります

 

ZX-12R

●世界最速の座を奪還すべくカワサキが2000年に登場させたのが「Ninja ZX-12R」でした。新開発された1199㏄エンジンは最高出力178馬力を発生。写真の初代はなんと350㎞/hまで目盛りが刻まれたスピードメーターを装備。非公式ながら実測320㎞/hを超える実力があったとされるものの、翌2001年から欧州で始まった「299㎞/hスピードリミッター」という自主規制によって(冗談みたいですが本当です)さらなる最高速追求の道は閉ざされることとなりました

 

自分の心にリミッターが必要な圧倒的高性能に陶酔

さて、最深部が2500mという日本一深い湾である駿河湾の育む海産物に舌鼓を打ったりしたあと帰路についた筆者ですが、今から30年以上前、20代前半という若さゆえにバカなことをしでかしそうになりました。

ガラッガラの西湘バイパスを走行中に、右手を大きくひねりたい衝動にかられたのです。

悪人イメージ

●自分の心に住む“ブラック小川”のそそのかしに負けないで本当によかった。場合によっては一生掛かっても償いきれないような事態が発生していたかもしれませんから……(汗)

 

しかし6速ホールドのままでさえ、50㎞hから制限速度の70㎞/hまでの加速は文字どおり“アッ”という間。右手を戻さなければもの凄い勢いで速度計の針が進撃を開始するのは確実です。

走行風が当たれば当たるほどパワーの湧き出るラムエアシステムも猛加速を後押しすること間違いなし。

ふと気が付けばそれまでの人生で経験したことのない速度域に達してしまうことは火を見るより明らかなので、必死になって自制心を保ちました。

ZZR1100メーター

●サーキットでのラップタイムとは違い、極論ですがスロットルを大きく開け続けてさえいれば記録できる最高速度。その誘惑に立ち向かうのはなかなかに大変なこと。実際に出すのではなく「いざとなったら速いんだぞ」という気持ちの余裕こそが“メガスポーツ”の真骨頂なのですね

 

280㎞/hオーバーを可能にする精度(完成度)の高さは、たとえ80㎞/h巡航でもしっかり乗り手へ伝わってくるもの。閉店ギリギリのショップへ車両を返却するまで、ずっと「うーん」「ほほう……」「へぇ〜っ!」と感心と感動を繰り返していたことはいまだに覚えています

そんな30年経っても色あせない鮮烈な記憶を残してくれた至高の一台

大ヒットしたモデルだけに、いまだ中古車市場でも豊富な在庫があるようです。

ZZR1100が2台

●ZZ-R1100はC型(左)もD型も高い人気を誇ったモデルだけに、2022年現在でも中古車市場のタマ数は豊富な部類に入るとか。すでに生産から30年前後となる車両ながら、莫大な数の補修パーツをストックしている「本社工場」を持つレッドバロンなら安心して乗り続けることができますよ

 

興味が出たようでしたら、ぜひお近くのレッドバロンでご相談を!

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