バイク業界うっかりガン無視の静かなデビューから一転、逆輸入車にもかかわらず人気が沸騰したカワサキのフラッグシップ「ZZ-R1100」。最高速に憧れて購入したオーナーたちは、いざ走らせてみると想定外の扱いやすさにも驚き、ますます惚れ込んでいくこととなりました。実は筆者もレンタルバイクで“ZZ-Rショック”を受けたひとりなのです。
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全宇宙最速(当時)のバイクを自由にできた夢の1日
現在のように「レンタルバイク」自体がメジャーなものではなかった1990年代初頭。
気になるバイクがあってもメーカー主導の試乗会なんて(ほぼ)影も形もなく、ましてやレアな逆輸入車など、実車を見ずに購入して納車されるまで走り味ひとつ分からないまま……という状況が当たり前でした(だからこそ当時のライダーたちは雑誌の試乗記事を目を皿にして熟読していたわけですね)。
すでにモーターサイクリスト編集部でアルバイト生活を送っていた筆者でしたが、取材で使用する有力ショップ虎の子のフラッグシップ群に触れられるのは洗車とガソリン給油時のチョイノリ(直近にあるスタンドとの往復354m)くらいのもの。
中でもZZ-R1100(C型)は“ヤタベ”での最高速チャレンジを目の前で見ていたこともあり、「いつか公道で気ままに走らせてみたい」欲が亢進し続けて辛抱タマラナクなり、必死になって情報を集めていたところ……。
なんと埼玉県のとあるバイクショップでZZ-R1100のレンタルが始まったではありませんか! 超速攻で予約して丸一日、全銀河で最速のモーターサイクルを好きに駆る権利を得たのです。
最初のインパクトから強烈すぎた次代からの使者
「う、おおおおぉォおおぉぉおおおおおおおぉおおおおぉぉぉ~~~~~~っ!!!!!!」
夢見心地のままショップから車両を借り受け、高速入り口の加速車線でちょっとだけラフにスロットルを開けた瞬間、意識の吹っ飛びそうなフル加速が始まり、タコメーターのような俊敏さで速度計の針が動いていきます。
「なんじゃこりゃぁ~っ!」と狼狽しつつ、なんとか正気に戻ってクルージングへと移行しましたが、心拍数は高止まりをキープ。初っぱなから圧倒されまくりです。
一時期所有していたカワサキGPz750が筆者にとって“ビッグバイク”の基準でしたから、あらゆる意味で1980年代モデルとは次元が違うことを走り出して数分で思い知らされました。
当時はまだバイクと軽四輪の高速道路上での最高速度は80㎞/h(2000年に100㎞/hへ引き上げ)でしたので、6速ホールドだとアイドリング+αといった低回転域しか使わずじまい。
右手を数㎜ひねるだけで流れをリードできるためストレスなくどこまでも走っていけそうです。
仕事を抜きにして訪れたワインディングは最高(笑)
その日の目的地は伊豆箱根。いつも人足として取材に同行している場所へあえて行き、撮影ポイントである各コーナーで華麗にバイクを操る辻 司さんや川島賢三郎さん、宮崎敬一郎さんら大先輩バイクジャーナリスト諸氏の気分を少しでも味わってしまおう……という腹づもりでした。カメラマンはいませんけれど(涙)。
クジラかシャチをイメージさせる黒々艶々したボディは乾燥重量でさえ228㎏(装備重量なら250㎏超え!)と威圧感たっぷり。
……なのですが、いざまたがってみると足つき性が良く、ニーグリップ部の形状も適切なため車体との親密感は一気にマシマシ。野太い低速トルクと相まって渋滞している市街地走行も難なくこなしてくれました。
ビックリするほどの扱いやすさこそ頂点に立つ者の嗜み
「こいつ……、曲がるぞ!」
ワインディングに差し掛かった瞬間、完全に想定外だったZZ-R1100の挙動に思わず気分はガンダムに初搭乗したときのアムロ・レイです。
相当に曲率の大きい荒れた峠道にも突っ込んでみたのですけれど、まぁクルリクルリと向きを変えてくれること!
十分なストロークのある前後サスペンションの動きはとてもしなやかで、スロットルのオン・オフへ素早く反応し、ジオメトリーが適切に変化するため強い旋回力を生み出してくれるのでしょう。
巨体らしからぬ軽快なハンドリングに気分は上がりまくります。狭い峠道だけでなく箱根ターンパイクのような高速コーナーでも絶大なる安定感をもって連続する屈曲部をクリアしていってくれましたので、もう脱帽するしかありません。
この300㎞/hが狙える超高速性能と自由自在な操縦安定性との両立は以降に続く“メガスポーツ”のデフォルトとなり、ZZ-R1100(D型)はもちろん、ホンダCBR1100XXスーパーブラックバード、スズキGSX1300Rハヤブサといった歴代最高速レコードホルダーの備えるべき資質として受け継がれていくことになります。
自分の心にリミッターが必要な圧倒的高性能に陶酔
さて、最深部が2500mという日本一深い湾である駿河湾の育む海産物に舌鼓を打ったりしたあと帰路についた筆者ですが、今から30年以上前、20代前半という若さゆえにバカなことをしでかしそうになりました。
ガラッガラの西湘バイパスを走行中に、右手を大きくひねりたい衝動にかられたのです。
しかし6速ホールドのままでさえ、50㎞hから制限速度の70㎞/hまでの加速は文字どおり“アッ”という間。右手を戻さなければもの凄い勢いで速度計の針が進撃を開始するのは確実です。
走行風が当たれば当たるほどパワーの湧き出るラムエアシステムも猛加速を後押しすること間違いなし。
ふと気が付けばそれまでの人生で経験したことのない速度域に達してしまうことは火を見るより明らかなので、必死になって自制心を保ちました。
280㎞/hオーバーを可能にする精度(完成度)の高さは、たとえ80㎞/h巡航でもしっかり乗り手へ伝わってくるもの。閉店ギリギリのショップへ車両を返却するまで、ずっと「うーん」「ほほう……」「へぇ〜っ!」と感心と感動を繰り返していたことはいまだに覚えています。
そんな30年経っても色あせない鮮烈な記憶を残してくれた至高の一台。
大ヒットしたモデルだけに、いまだ中古車市場でも豊富な在庫があるようです。
興味が出たようでしたら、ぜひお近くのレッドバロンでご相談を!