1992年4月に発売開始されるや破竹の進撃を始めたCB400スーパーフォア。燃え上がったバブル経済はすでにはじけていたとはいえ、まだまだ余熱が残っていたころでもあり、1993年の年間登録台数では1万7000台をオーバー! 400㏄クラス・ネイキッド・ロードスポーツモデルのベストセラーに輝きます。その勢いには一点の陰りもないように思われたのですが……。
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「ゼファーっぽい」モデルが続々登場し、どれもヒット!
ゼファーシリーズが切り拓いた巨大なネイキッド市場へ「PROJECT BIG-1」という旗印のもと、セクシー&ワイルドなスタイリングに水冷エンジンを搭載したCB400/1000スーパーフォアで斬り込み、一気に劣勢を挽回したホンダ。
ようやく目の上のタンコブをどうにかできた……と安心する間もなく、1993年3月にはヤマハからXJR400が、1994年2月にはスズキGSX400インパルスとカワサキZRXが相次いで登場してきます(そのあたりの車種写真はコチラにてご確認ください。○ン○スもお忘れなく……)。
全車ゼファーが作り上げた“文法”にのっとり、過去の名車も想起させる端正なフォルムに2本のリアサスや4into1の集合マフラーを備えており、いずれもヒット作へ成長……。
過去に何度となく繰り返されてきた4メーカーで限られたシェアを奪い合う激しいバトルのスタートです。
“ローレプ”イメージを色濃く出して成功したZRX
中でも“ローソンレプリカ”で広く知られる「Z1000R」をモチーフとしたカワサキ・ネオレトロネイキッド第二の矢、ZRXはCB400スーパーフォアに勝るとも劣らない注目度と人気を集めました。
ZZR400用をベースとした水冷エンジンは、53馬力という最高出力こそCB400SFと同じながら最大トルクはSFより0.1kgm多い3.8kgmを1000回転低い9000rpmで発揮。
低~中速域での適度なマッタリ感と高回転域でのパワフルさとのうまい両立ぶりに、試乗してみて舌を巻いた記憶がございます。
そしてなんといっても精悍なビキニカウルから始まるスタイリングが絶妙でした!
ネイキッドモデルの王道は丸目単眼ヘッドライト……という大前提こそ変わらないのですけれど、ゼファー(400)の登場から5年もの年月が経過しており、ナニカモウスコシヒトヒネリガホシイヨネという機運が高まっていたのは事実。
そこへ角目のビキニカウル(しかも歴史的な背景あり)で登場したZRXは、ある程度のボリュームを持つ“ド定番とはちょっと違うモノが欲しいぞ”系ユーザーのニーズにズポッとはまり込んだのです。
そんな彼女、彼らをみすみす取り逃がした悔しさがホンダ陣営になかったとは言わせません(笑)。
ZRXの顧客を狙った!? '90年代中盤「ビキニカウルの変」
「やられたらやり返す、倍返しだ!」は朝霞研究所の裏スローガン(!?)。
開発は急ピッチで進められ、ZRXの登場から約1年でビキニカウル装着タイプである「CB400スーパーフォア バージョンR」がSTDモデルに追加されるカタチで発売されました(1995年3月)。
単なる角形ヘッドライトにビキニカウルだとVT250FかCBX750ホライゾンになってしまいますので、めちゃくちゃこだわった横長のヘッドライトを新規開発して導入。
その下部にはブラックスクリーンも配されており、「この顔は98式AVイングラムかVF-1Sバルキリーか、はたまた機械伯爵か……」とオタクな友人たちと語り合ったものでございます。
結論から申し上げますとCB400SF バージョンR、これがもうビックリするくらい鳴かず飛ばずの状態になってしまいました。
電子制御の点火時期やバルブタイミングの変更などでエンジン出力特性にまで手が加えられ、さらにアルミサイレンサーの4-2-1マフラー、意匠を変更したメーター、ハンドル、フロントサスとリアサスの構成部品&セッティング、シート(クッション)形状変更、ステップ周りのパーツなどもバージョンR専用品。
極めつきはダブルクレードルフレームのダウンチューブにクロスパイプを追加するというメーカー純正車体骨格強化までが施されており、それでいてSTD比たったの2万円高……という今だったらウソ?、冗談!、詐欺じゃないの!?と通報する人も出てきそうなくらいのバーゲンプライス。
にも関わらず、ユーザーからそっぽを向かれてしまったのですから本当にバイクビジネスというのは難しいものです。
「黒はともかく、イメージカラーとして訴求したジャビットくんのようなオレンジ色がまずかったか?」とばかり、たった4ヵ月後の同年7月にはシブシブで精悍なシルバーも追加されますが、事態は好転せず結局のところ1年ちょっとで廃盤に。
いざ購入してもわざわざ丸目に戻すというライダーが多い、という笑えない話も耳に入ってきました。この不可解な経緯は、いまだ筆者のなかで“バイク販売七不思議”のうちトップに君臨している「事件」であります。
「R」のかたきは「S」でとる! 鮮やかなリベンジ成功
しかし、フラれっぱなしでは終わらないのがホンダの恐ろしさ。
一発逆転の準備は水面下……いや朝霞研究所で迅速に進められていたのです。
なんと「R」が世に出たちょうど1年後の1996年3月、「CB400スーパーフォア バージョンS」がリリースされました。ぶっちゃけて言ってしまえば“丸ライトのバージョンR”。
エンジン、フレーム、足周り、マフラー、ステップ関連etc……。バージョンRのスペシャルな装備をそのまま継承しつつ、加えてフロントブレーキには対向式4ポッドキャリパーと新しいフローティングディスクが導入され、チェーンとリアサスのグレードアップまで実現。
それでいてSTD比で1万円しか高くないという(59万9000円)、またまたアンビリーバブルな値付けがされて、こちらはホンダの思惑どおりドカンと超絶大ヒットを記録。
以降、CB400スーパーフォアと言えばバージョンSのことを指すという状況が、1999年のフルモデルチェンジまで続きます。
ではなぜ、そんな状況になってもSTDモデルを併売し続けたのでしょうか?
それもまた開発陣の意地だったのでしょう。バージョンRやSは、あくまでよりエキサイティングな走りに特化したスペシャルな仕様。PROJECT BIG-1コンセプトにあるスムーズ&パワフルな「走る者の心を魅了する感動性能」は、あくまでSTDモデルでこそ具現化されているのだ、STDこそスーパーフォアなのだ、と。
その思いを証明するかのように、STDの価格はデビュー時から全面変更を受けるまでの7年間、ずっと税抜き58万9000円のまま据え置かれました。幾度となくさまざまな小……いや大改良まで施されたにもかかわらず、です。
あ、以前の回でも述べましたが、そのような初代スーパーフォア(NC31)はエンジンの機構がシンプルだからこそ、非常に耐久性の高いモデルとなっております。なおかつ販売台数も膨大! レッドバロンの本社工場にある部品のストックもばく大! 良質な中古車で1990年代をプレイバックするのもアリですよ!