映画「トップガン」で活躍したF-14トムキャットの翼。バルキリー、モビルスーツらアニメ世界でのロボット。ほかにもダンベル、関数、抵抗器、ショベル、側溝、マルチラック……!? 主にオトコノコの心をつかんで離さない“可変”というパワーワード。1999年にフルモデルチェンジを受けたCB400SFは超有名な可変機構を引っさげて登場し、さらなる独走状態を築き上げます!
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ネイキッド界の英雄、驚きの新機構を得て堂々の転生!
「ノストラダムスの大予言」が的中するのかしないのか。
恐怖の大王と2000年問題の連チャン攻撃で何となく世の中がザワついていた1999年。
そんな年の2月に400㏄ネイキッド界の押しも押されもせぬ盟主、CB400スーパーフォアが初めての全面改良を受けました。
スタイリングは従来モデルの持つセクシー&ワイルド感を踏襲しつつ、さらに躍動感と迫力にあふれるデザインを採用し、タンクからサイドカバー、そして跳ね上がったテールエンドに至るまで連続した流れを感じさせる仕上がりへと進化。
欧州を起点に盛り上がりを見せていた“ストリートファイター”風味までうまく取り込んだ秀逸な面構成であることは、モーターサイクリスト編集部へ送られてきたプレスリリース封筒内の広報ポジ写真からもよく伝わってきました。
しかし! なんと言っても2代目400スーフォア最大のポイントは新開発された「HYPER VTEC」エンジンの搭載でしょう。
「は? VTEC? REV(レブ)じゃないの?」
1980年代のバイクブームをヘタにリアルタイム体験してしまった筆者のようなひねくれ者は、雑誌広告やカタログ、ポスターなどへデカデカと躍る「VTEC」という文字列に、ちょいと抵抗感を感じたものでした。
「ブイテックブイテックって五月蠅いなぁ。クルマ業界でチヤホヤされたからってバイクの世界にもご降臨ってか? へっ! オマエのご先祖様はなぁ、二輪車向けに開発されたシステムなんだぞぉ。つまりバイクのほうが先だ! 偉いんだ!」
……と盆と正月にしか会わない親戚のオジサン(←酒グセ悪い)のごとく、誰かへクダを巻きたい気分に陥ったことはここだけの秘密です。
そうなのです。
1989年の「インテグラ」(四輪)に初搭載され、
その後NSX、S2000、シビックほかDOHCヘッドを持つハイパフォーマンスカーや、はたまた燃費向上のためハイブリッドカー用エンジンのSOHCヘッドに採用されたりと、“エンジン屋”であるホンダを象徴するアイコンとして一般大衆にも広く知られるようになった「VTEC」テクノロジー。
しかしその原点は、1983年に登場したバイク、CBR400Fが世界で初めて搭載した“REV”という機構なのですよ(Honda公式が公認済み)。
過渡期だったこそ意欲的なメカニズムが続々登場!
1980年代の初頭は、まさにレーサーレプリカ黎明期。
信号GPで、ワインディングで、そしてサーキットで、ライバルを圧倒する運動性能を獲得すれば飛ぶようにバイクが売れた時代でもありました。
30台後半の馬力でうろちょろしていた1970年代から技術も一気に進化し、43馬力、45馬力、48馬力、54馬力、55馬力……とニューモデルが出るたびにヨンヒャクの最高出力はうなぎ上りに上昇していきます。
「CBXの次」として開発されたCBR400Fは、もちろんバリバリのハイパフォーマンス路線。
SPレースでの勝利を目指した“リッター当たり200馬力”を発揮できる潜在能力と、一般走行で多用する極低速域から中速域での使い勝手とを高い次元で両立させるため、ホンダ開発陣が総力を挙げて作り上げたのがREV(Revolution- modulated Valve control=回転数応答型バルブ休止機構)だったのです。
簡単に言うとエンジンの高回転域では1気筒あたり4つあるバルブをフル稼働させてハイパワーを絞り出し、中~低回転域になったら2つのバルブを休ませて扱いやすさと好燃費まで実現してしまおうというもの(詳細はコチラ)。
果たして1983年12月に登場したCBR400Fの空冷インライン4は1万2300回転で58馬力を発揮してクラスナンバーワンを標榜……したのですが、2ヵ月後の1984年2月には59馬力の水冷エンジンをアルミフレームに搭載したスズキ「GSX-R」がリリースされ、すべて持っていってしまいます。
とはいえCBR400Fもやられっぱなしでいるわけにはまいりません。同年5月には2灯式ヘッドライトやハーフフェアリングを装備した“CBR400Fエンデュランス”を。その8月には「F-3」ロゴが大書きされたフルフェアリング仕様も追加。
翌1985年8月にはシングルシートを標準装備したモデルをシリーズに加えるなど、
大胆な外装テコ入れを矢継ぎ早に行うことにより一定のシェアを維持し続け、その心臓の左右冷却フィン中央部にはずっとREVの紋章が輝いていました。
こうして同時期に多感な中高生時代を過ごした昭和40年代男の脳裏には、「可変システム」イコール「なんかすごそう」という刷り込みが深く刻み込まれたのです。
魔法のようなコンパクト機構で高性能を実現!
繰り返しますがCBR400Fの“REV”技術に端を発する「VTEC(バリアブル(V)バルブタイミング(T)アンド リフト・エレクトロニック(E)コントロール(C)システム)」は前述のとおり四輪の世界で大ブレイクを果たし、多くの人に知られる一大ブランドとなってルーツとも呼べる400㏄並列4気筒エンジンへ里帰り(?)をしたというわけです。
その内容はなるほどハイパーで、CBR400Fや四輪用VTECでは当たり前のように使われてきたロッカーアームを介さない“直押し”タイプ……バルブリフター内で可変機構を完結させるという新規開発された超ハイテクが導入されておりました(詳細はやっぱりコチラ)。
低中速回転域では2個、6750回転を超える高回転域では4個のバルブが作動するとともに、常用側&休止側のバルブそれぞれに最適なカムプロフィールを設定することで、エキサイティングなエンジンフィーリングだけでなく燃料消費率の向上や走行騒音の低下まで実現させるというウルトラっぷり。
実際に乗ってみても、スロットルを開けていきシパッ!と4バルブに切り替わった瞬間から排気音が甲高くなり、吹け上がりの鋭さも格段にアップするので面白いことこの上なし!
半面、淡々と巡航する分には2バルブ領域の豊かなトルクといい意味でダルな右手操作への反応でストレスなく走行距離を稼ぐことができる……というライダーの夢が具現化したような内容で文句の付けようがありません。
執念にも似た磨き上げでライバルに差をつけていく
かくいうエンジンの進化と同時にフレームと足周りに大胆な改変が行われ、タイヤもバイアスからラジアルへ変更。乾燥重量比で従来型から6㎏もの軽量化まで実現していたのですから脱帽です。
それでいて価格は従来型バージョンS比で単色なら税抜き1万円ポッキリしか値上げしていなかったのですから当時のバイク業界、コスト計算が本当におかしい。
鬼に金棒、CBにHYPER VTEC……。
魅力にあふれる強力なデバイスも得た2代目CB400SFは当然のごとく人気を集め、ベストセラー街道をばく進していきます。
そして2000年代中盤には、現在でも圧倒的な支持を集めているアノ仕様が登場します。次回はそのあたりを紹介いたしましょう。
あ、というわけでCB400スーパーフォアは2代目になっても中古車の数が豊富に出回っております。アフターサービスも安心なレッドバロンの良質な中古車で、HYPER VTECのハイパーな乗り味を検証してみてはいかがでしょうか!