1993年3月に登場した2代目ZZ-R400(N型)は、流麗なスタイリングと完成度の高さが好評だったため、大きなフルモデルチェンジを受けないまま2007年までその命脈を保ちます。その心臓を得たネイキッドモデルが大人気になったり、ワンランクアップした排出ガス規制をクリアしたりと、地味?ながらニュースにあふれた道のりを振り返りましょう!

ZZ-R400という高汎用性万能車【中編】はコチラ

ZZR400_03

●写真は2003年度版 ZZR400カタログより。このスタイリングのN型になって10年が経とうとしていましたが、古くさくなるどころか派手なグラフィックを取り去り、単色(もしくはツートーン)で“素”の造形を訴求するようになってから、改めて美しさが際立ってきた印象を受けたものです。中でも2001年型から「アルクロスフレーム」をコスミックグレー(ほぼ黒)に塗るようになった効果は絶大なものがありました

 

“ラムエア”対“VC”の仁義なきバトルが勃発!

運命のいたずら単なる巡り合わせなのか。

奇しくも同年同月となる1993年3月に2代目ZZ-R400と、対抗馬としてスズキ開発陣が魂を込めたブランニューモデル「RF400R」とが世に放たれます。

RF400R

●はい、中編では黒を紹介しましたが、やはりRF400Rといえばイタリアの跳ね馬ことフェラーリを彷彿とさせる真紅のボディが頭に思い浮かびます。繰り返しますが、RFのデザインモチーフはフェラーリ・テスタロッサ……ではなく、海を泳ぐ魚の「エイ」です。このカラーではシートを2色にするなど細部までこだわりまくっていました

ジブリ 耳をすませば

●一部マニアいやファンには、1995年に公開されたスタジオ・ジブリ作品「耳をすませば」にしっかり登場したことでも知られるRF400R。ジブリは今、歴代作品の多彩なカットを「常識の範囲内ならご自由にお使いください」と大盤振る舞い中なんですね(ですので中編でも使わせていただきました)。さっそく探してみたのですけれど、RFの登場シーンは“ご自由カット”内には見当たらず……残念

 

当然ながらバイク雑誌業界も色めきたち、この2台をからめた企画が続々と登場したものです。

筆者もモーターサイクリスト誌のアルバイトとして両車に乗る機会を得ましたが、レーサーレプリカGSX-R400向けパワーユニットをルーツに持つRFのエンジンは、とにかくヒュンヒュンのビンビン(笑)。

レスポンスの鋭さを売りにしていた“スリングショット”キャブレターを採用していたこともあり、右手をひとひねりすれば高回転域までスカッと吹け上がるものの低中速域はスカッスカだった印象が残っています。

規制の中で気持ちよさを追求したビックリドッキリメカ

開発陣もそのあたりが分かっていたのか、翌1994年にはバンディットに先行採用されていた“VCエンジン”仕様の「RF400RV」が速攻で追加導入されました。

バンディット400V

●こちらは1991年に“VC”を初搭載して登場した「バンディット400V」ですね。VC機構は1気筒あたり吸気側、排気側にそれぞれ高速用カム2個、低速用カム1個の計6個を配列するという非常に凝ったシステムで低中回転域からスムーズで力強い上に高回転域まで滑らかに吹け上がり、強力なパワーを感じられるエンジンとして開発されたもの。本文でも書いていますが切り替わった瞬間がとても分かりやすく、峠を攻めるときは非常に燃えました。ただコーナリング中に「シパーン!」とくると少々ビビりましたが……

 

こちらはVariable Valve Control=可変バルブタイミング・リフト機構付エンジンで、回転数に応じて高速用カムと低速用カムを自動的に切り替え、吸排気バルブのタイミングとリフト量を変化させるという内容。なお、1気筒あたりの作動バルブ数を回転数に応じて2バルブ/4バルブと切り替えるホンダCB400SF/SB装備の“HYPER VTEC”とは全く異なるシステムですのでご注意のほどを。

いやぁ~、VCを心臓に組み込んだ「RF400RV」はとにかく面白かったですね~。

RF400RV

●写真は最終1999年型のRF400RV。ZZ-Rとは対照的にグラフィックの派手さが増していくところさえナイス(筆者はスズキファン)。現在乗られている方、どうか大切に……

 

たしか8000回転前後でカムが切り替わったはずなのですけれど、スロットルをワイドオープンしていくと、かくいう回転域で「シパーン!」とVC機構が作動して(強く体感できました)、力強さと回転上昇速度がさらに一段と鋭くなるのですから興奮度もMAXです。

非常に愉快、痛快……ではあるのですけれど、では、“ツアラー”として相応しい出力特性か?というと、アタマに疑問符が数個浮かんできたもの。

その点、ツインラムエアシステムを装備していたZZ-R400は低速度域ではまぁそれなりでも、60~70㎞/hあたりのスピードレンジからモリモリモリッとトルクの厚みを増していく感覚が興味深くも気持ちよく、景色を眺めながら淡々と距離を稼いでいくようなシチュエーションならなおさら、飽きることのなかった記憶がございます。

ZZR400エンジン部

●凝った構造のアルミフレームに直4(並列4気筒)エンジンを搭載した400㏄フルカウルスポーツツアラー……。残念ながらこれから未来永劫、現れてはこなさそうな貴重な存在です。手元に招き入れるには今が最後のチャンス!?

 

この2台、勝負あり! と思いきや、クセのある……いや、クセになるデザイン、なおかつスポーツ寄りに振った明快な方向性を支持する旅好きライダーも一定数以上いたため、RF400シリーズは長らくラインアップに留まるモデルとなりました。

RF900R

●ちなみにこちらが「RF900R」ですね。1990年に“オーバーナナハン”解禁された流れを受けて、1994年から国内正規販売車にもなっております。今でもたま〜に街で見かけると、ついつい目で追ってしまいますね

 

後期ではRF400RVのみの専売となり、そちらも1999年型を最後にフェードアウトしていったのですけれど、鮮烈な個性は今なお中古車市場で再評価され続けております。

ネイキッドモデルとのシナジー効果で世紀またぎ

ところで、ZZ-R400の歴史を語る上で必ずと言っていいほど出てくる話題が「そのエンジンはZRXに流用された」というもの。

ZRX

●「えっ? ZZ-Rのエンジンってこんなにカッコよかったの?」と広報写真が送られてくるやモーターサイクリスト編集部が騒然としたカワサキ「ZRX」の勇姿(1994年2月発売)。もちろん丸見えのネイキッドゆえ視線に耐えうるパワーユニット周囲のお化粧は施されておりましたが、それでもそのガチ決まりぶりにビックリドッキリしたのは事実です

 

まさしくそのとおり。

ですがZRXにツインラムエアシステムは装着されておりません。当然ながら外装やフレーム、車体各部も異なっておりますけれど、ばく大な開発コストのかかるエンジンを共用することにより、バリエーションモデルを造り出すハードルは下がっていきます。

最近だとエンジンだけでなくフレームほかのパーツまでほぼ共用しつつ全く違う個性を生み出す例は国内、いや海外メーカーも含めて常套手段になってきた雰囲気さえありますが、中でもカワサキには驚かされる例が多いように感じます。

Z900

●いやもう直近では、この大変身に腰を抜かしました。カワサキの誇る先鋭的なスタイリングのストリートファイター「Z900」が……⇩

Z900RS

●エンジン、フレーム、足周りなど多くのパーツを流用しつつ、トラディッショナルな「Z900RS」に生まれ変わったのですからビックリドッキリ(しつこい)です。この手法でZ650RSも登場しましたね

 

さて、「400直4ツアラー」の雄として押しも押されもせぬ地位を築き上げたZZ-R400は、冒頭に述べたとおり1990年のデビューから2007年の最終型まで、実に17年以上にわたってロングセラーを続けたモデルとなりました。

その人気もトレンドに合わせたカラーチェンジ細かな部分の改良があってこそ。

常に“最新が最良のZZ-R400”を追い求めていった

ここで改良の全てを紹介することはできませんが、ブレーキローター、キャリパー、電気系統、バッテリー、減速比、エンブレム、シート着脱方法、燃料計、デジタル時計などなど。多岐にわたるパーツがツアラーの資質を高めるため、変更や追加を受けているのです。

ZZR400カタログ

●2004年型のカタログより抜粋。このモデルからフロントディスクブレーキのローターに空けられている孔が放射状からウェーブ状になりました。これは放熱効果をさらに高めるためとか、細かすぎる……。同時にフロントブレーキキャリパーも変更されています。2000年代、バイク業界はトラッカーブームやビッグスクーターブームに沸いておりましたけれど、ZZR400はツアラーとして進むべき王道を堂々と歩んでいったのです

 

中でも性能面に関わる部分で大掛かりな改良を受けたマイナーチェンジは2001年3月のこと。

従来のものよりさらに厳しい「平成11年排出ガス規制」に対応するべく、排気ポートに新気を導入し未燃焼の排出ガスを再燃焼させることで、CO(一酸化炭素)とHC(炭化水素)を大幅に低減させる「KCA(Kawsaki Clean Air)とプラチナとロジウムを挟み込んだ「パイプ触媒」を組み合わせた「KLEEN(Kawasaki Low Exhaust Emission system)」を新たに装備。

ZZR400 2001カタログ

●2001年型 ZZ-R400カタログより抜粋。KLEENシステム採用と同時に、スロットル開度と連動して理想的な点火時期を決定する「K-TRIC(Kawasaki - Throttle Responsive Ignition Control)」も装備されており、ハードな制約のなかで最善の性能を確保するべく奮闘した開発陣の苦労が伝わってくるようです

 

触媒や補機類の追加などで乾燥重量こそ2kg増えた197kgになったものの、スペック上の最高出力(53馬力/11000回転)と最大トルク(3.8kgm/9000回転)は変化なし

減速比をきめ細やかに最適化することも同時に行われて、ツアラーとしての総合的な完成度をより高めたのです。

マイナーチェンジの前後で「う~ん、若干だけど新型のパワーは下がったよね」という大先輩もいたのですが、正直私は違いが分かりませんでした(汗)。

広いカウリングの表面を彩っていた派手なデカールが姿を消し、シルバーだったフレームがコスミックグレーとなりスタイリングがググッと引き締まったことのほうが、よほど印象に残っています。

ZZR400カタログ表紙

●2004年型 ZZR400カタログの表紙はモノトーンかつ中央に車名をデボス加工で際立たせるという凝りまくりな内容。2003年以降、ZZとRの間にハイフンは入れませんという公式見解もスッと腑に落ちる仕上がりですね

 

実は吸排気チューニングへの対応力も高い!?

最後にちょっとイイ話。これはZZ-R400に限った話ではないのですけれど、いい意味でアバウトなキャブレターを装着していた時代の車両は、マフラーを純正品から市販品に交換するだけ出力特性が激変したりします。

筆者がモーターサイクリストで担当していた企画「マフラーテスト」でも、ポン付けしただけなのに最高出力までポンッと数馬力アップ!という実例はザラにありました。

さらに素材が鉄やステンレス、さらに2本出しだったZZ-R400のマフラーをチタンに代表される軽量な素材やサイレンサー1本出しのものに交換したなら劇的な軽量化を果たすことも可能! 

ZZR400マフラー

●もちろん純正マフラーの完成度は素晴らしいもの……ですが、各年式に対応した適切なマフラーでその変化ぶりを楽しめるのはオーナーの特権。筆者もGSFとXRモタードでJMCA認定品をエンジョイしてます

 

現オーナー、オーナー予備軍の皆さまにおかれましては、ZZ-R400で旅をするのはもちろん、多彩なカスタムを楽しむこともご考慮いただけると幸いです。

あ、というわけでレッドバロンの中には各種バイクパーツや中古マフラーを販売している「パーツショップ日名橋」もございます。中古マフラーの在庫は常時1500本以上ということですから、掘り出し物を探す楽しみも広がりますね。中古車購入時に装着をお願いすることもできるのだとか。もろもろ不明点はお近くの店舗へ足を運んでスタッフにご相談ください!

(ZZ-R400編おわり。ZZ-R250編へつづく

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