前編でも述べました「BALIUS」とはギリシャ神話に登場した不老不死である神馬の名前。1991年、とてもコンパクトながら非常に筋肉質という秀逸なデザインとZXR250譲りで45馬力を発生する超高回転高出力エンジンとの魅力が見事に融合してヒットモデルとなったバリオスは、小改良と大改良を繰り返して世紀をまたぐロングセラーとなっていったのです!

2005年型バリオス-Ⅱ

●モデルライフの後期となる2005年型バリオス-Ⅱのカタログより。丸目一眼ヘッドライト、メッキも美しい砲弾型メーターケースとバックミラー……。まさに“単車”のイメージそのままなネイキッドスタイルであることを表紙でも強調。税込み当時価格は54万4950円で同時期のSTDホーネット(55万6500円)より1万円以上安い戦略的なプライスタグが付けられていました

 

バリオスという永遠のジャジャ馬【中編】はコチラ!

群を抜いていた使い勝手の良さも大きな魅力!

筆者が八重洲出版モーターサイクリスト(以下MC)編集部フリーター……つまりアルバイトとして潜り込んでから1年後に登場したカワサキ バリオス。

アルバイトイラスト

●「大型二輪免許持ってま〜す」「はい採用、明日から来て」という具合に始まったMC編集部バイト生活。まさかそこで社員にもなって30年以上働くことになろうとは〜〜〜

 

デビュー時の単独試乗インプレッション取材前日満タン給油役を仰せつかったのをこれ幸いと、10分で終わる仕事を1時間以上に引き延ばしてTOKYO湾岸プチツーリングをカマしたことはいい思い出です(←オイ)。

さて、瞬く間に人気モデルとなったバリオスは、当然のごとくMC誌面の作成に向けたさまざまな取材にも引っ張りだこでした。

パールティールグリーン

●長いバリオスの歴史で1992年型だけに用意された「パールティールグリーン」……惚れ惚れするくらいイイ色ですね。ちなみに2021年モデルのNinja400やZ250などへ採用され、一部総合電動工具ファン層に“マキタカラー”だ!と騒がれた塗色は「パールナイトシェードティール」でした。なお、ティール=青緑となります

 

限界性能バトル上等な熱狂の1980年代バイクブームが過ぎ去り、時代が変化した(かつ高コストだった)こともあってレーサーレプリカ全盛期には日常茶飯事だった谷田部周回路を使った最高速テストや筑波サーキットでの最速タイムアタックをバリオスで行なった記憶はございませんが、ライバル車との比較試乗ツーリングもの、積載性燃費データ取り、

バリオス荷掛けフック

●ツーリングなどで重宝する荷掛けフックの位置や数、構造についても独特なこだわりを持っているカワサキ。もちろんバリオスも使いやすいフックが左右2箇所ずつ用意されていました

 

市販マフラーチェックオーナーレポートカスタムモデル紹介、メンテナンス企画、用品(タイヤやビキニカウル&スクリーン)テストなど、まぁとにかくありとあらゆる雑誌のコンテンツに登場してもらったものです。

バリオス全景

●マグネット式はもちろんベルト式タンクバッグの取り付けもしやすかったなぁ……。後付けウインドスクリーン&ビキニカウルの比較テストもサクサク進行できた思い出があります。あ、洗車もやりやすく特にフロントブレーキがシングルだったためホイールを隅から隅まで磨き上げることも簡単でした。これでセンタースタンドが装備されていればメンテナンス面では完璧だったのですけれど、残念ながらオプションにも設定はなし……

 

745㎜というシート高が絶大なる安心感を生んだ!

特に女性タレントを起用するツーリング取材では「メーカーのしがらみがないならバリオスで……」とのリクエストを受けることも多く、足着き性よく高速巡航でも余裕があり小回りも効いて女性の容姿まで引き立てるカワサキのミニマム並列4気筒ネイキッドは、本当に高い汎用性を発揮してくれました。

バリオスの1本サス

●乗り手の体重や積載する荷物の重さ、タンデム走行の有無などに対応するため、リヤのショックユニットには7段階のプリロードアジャスターが設定されていました。黒いスプリングの直上、規則正しく穴が開いているところにフックレンチを引っかけて回していけば、パチン!パチン!という手応えを感じつつバネへの初期荷重が変化していきます。適切な工具を用意して調整を行いながら走行してみるとバイクの挙動が変わることに気付きますよ!

 

1993年型では250㏄クラスの競合車同様45→40馬力化されたものの、そもそもが絶対的なパワーうんぬんより「必要にして十分ならヨシ!」というユーザーのコンセンサスがすでに取れていたネイキッドブームの世界(ゼファーの大ヒットさまさまですねぇ

ZXR250

●1989年、4スト250レーサーレプリカジャンル最後発の雄として“レーシング・スーパーウェポン”を標榜しつつ登場したカワサキ「ZXR250」もしっかり45→40馬力化。写真は1995年型でブラッシュカラーや車名ロゴなどが時代を映しだしています。調べてみて驚いたのですがシート高はバリオスより低い735㎜だったんですね。ちなみに現行モデル、Ninja ZX-25Rはシート高785㎜!

 

そんな時代背景もあり低出力化が大きな影響を与えることはなく、250㏄スポーツを選ぶ多くのライダーにとってバリオスはショッピングリストの筆頭であり続けたのです。

1993年型バリオス

●40馬力化された1993年型では「パールロイヤルブルー」が登場。これまたシブくてイイ色です!

 

優美な外観へはヘタに手を加えることなく、ハザードランプや燃料計の追加といった地味ながら効果的なテコ入れを繰り返して発売以来ずっと人気車であり続けた……のですが、1996年にはとうとう“吹っ切れたら恐ろしいホンダ”が本気を出してきました。

神馬(バリオス)や山賊(バンディット)を倒すべく毒針を研ぎ澄ませたスズメバチ……「ホーネット」の登場です。

バンディット250VZ

●ホーネット発表を受けて1997年に登場したスズキ「バンディット250VZ」。VCエンジンありビキニカウルありで蜂を彷彿させるようなツートーンカラー仕様というナンデモアリ状態。250並列4気筒ネイキッドというジャンルを創出した功労車でありながら、世紀をまたぐことなく命脈は終了……。どうなる? どうする? 驚きのニューモデルに関しては後述します(ヒント:タイトル写真をよく見ると……!?)

 

アグレッシブな方向性で攻めてきたホンダ ホーネット

「ジェイドと同じ轍は踏まぬ!」と窮地に陥ったラオウよろしくリベンジ闘気全開で開発されたブランニューモデルは、グラマラスなスタイル+扱いやすく熟成されたインライン4+衝撃的な超極太リヤタイヤなどを組み合わせたパッケージングが確かに目新しく一躍ベストセラーモデルへと成り上がります。

ホンダホーネット

●ネイキッド……というよりは“ホーネット”というジャンルを作り上げた、とも言えるインパクト大なエポックメイキングモデル。CB400 SUPER FOURを大ヒットさせた開発陣が手がけたからこそ、その単純な縮小版であることを良しとせず全く違う方向性へ突き進んでいったのでしょう

 

さすがのバリオスも劣勢となり、バイク雑誌ギョーカイは「すでに長寿モデル、もうすぐフルチェンジするのでは!?」と勝手にアオリまくり(汗)。

はたして1997年、待望の新型車「BALIUS-Ⅱ」が登場いたします。

バリオス2ツートン

●デビュー年、限定1000台で登場したのがキャンディワインレッド×パールブローニュというツートーンカラー。こちら写真の反対側(車体左側)はタンクが赤でテールカウルが緑になっているという奇妙キテレツと言うか“あしゅら男爵(永井豪原作「マジンガーZ」の登場人物)”と言うか……ともかく空前絶後の塗り分けがなされていました。またがるとタンクの中心線でスパッと右が緑、左が赤なので(テールカウルはその反対)なんだか落ち着きませんでしたね。公道で見かけた記憶は皆無です

モーサイより転載

●この写真は八重洲出版のウェブサイト「モーサイ」〜4気筒も2ストも選べる! チョイ古250ネイキッドバイクが人気再燃【80〜90年代 250cc国産マシンヒストリー】〜より転載。はい、ナナメ上から撮影するとバリオス-Ⅱ非対称カラーはこのような姿でありました。見事な“あしゅら男爵”っぷりでしょう!

バリオス

●こちらは1本サスのバリオス最終型、1996年に1000台限定で発売されたキャンディワインレッド×パールアルペンホワイトのツートーンカラー。攻めてますな。なお、バリオス-Ⅱ発売開始後もしばらくは単色のバリオスが併売されていました。カワサキも2本サス化がどう受け入れられるか、多少は不安だったのかもしれません……

 

消費税が3%→5%となった年にバリオスは“Ⅱ”へ変貌

兵庫県明石市にあるカワサキモータースジャパン本社広報から届いたプレスリリースポジフィルムが入っている封筒をドキドキしながら開けて内容をチェックすると、思わず「こうきたか~!」という声が出ました。

よもやよもやのリヤ2本サス化!

そして……ハイ以上!!、というわけではまったくなく、想像を超えて気合いも手直しも入っているモデルチェンジではないですか。

リヤサス

●リザーバータンク付きショックユニット採用は当時のレトロ系ネイキッド文法に沿ったバリバリの定石。見た目はもちろんスプリングプリロードの調整がとてもしやすく、シート下に大きな収納スペースを設定できる(バリオス-Ⅱの場合は約3リットル)というメリットもございます

 

2本サス化にともない当然ながらサイドカバーとテールカウルのデザインは手直しされ、アルミスイングアームも形状を変更

ステップ位置は前方へ、ハンドル後端はライダー側へ移動されたことで、よりリラックスできるライディングポジションへと改良を受けていました。

さらに一見同じに見えるメイン&サブフレーム+シートレール部分も細かくモディファイされ、リヤサス上部締結箇所の剛性強化やピボット部まわりを仕様変更。ホイールベースも20㎜延長されました(1380→1400㎜)。

バリオス2エンジン

●トルク特性を改善させるためエキパイに連結パイプを新たに導入。40馬力の最高出力は1万5000回転で、最大トルク2.4㎏mは1万回転で発生する仕様です。新採用のスロットルポジションセンサー“K-TRIC”による調整もうまくいったのか、ツーリング用途で走らせる分にはパワー不足を感じることなんてほとんどなかったと記憶しています。なお、タンデムステップステーの配置変更を含めてステップまわりは全面的な変更を受けました

 

パワーユニット関連ではスロットル開度とエンジン回転数を検知して最適な点火時期を設定する“K-TRIC”を新規導入し、サイレンサーも大型化されて環境諸規制強化へ対応しつつ低回転域では粘りながらスッキリ高回転域まで軽やかに回るという「使い切れる40馬力」を達成。

メーター

●バリオス-Ⅱ後期のメーターまわり。40馬力化だけでなくさらなる環境諸規制強化への対策もあり、回転計の2万回転を表す「20」は消えてしまいましたが、それでもレッドゾーンは1万7000回転から、目盛りは1万9000回転まであるというトンデモナイ高回転型エンジンであることは不変。速度計もしっかり180㎞/hが刻み込まれておりますね。こんな250並列4気筒ネイキッドが50万円+αでフツーに売られていたのです……

 

細かいところではタンク上の立体BALIUSエンブレム跳ねる馬から駈(か)ける馬デザインが一新されていましたね。写真を見つつリリースを読み込んでいくほどに「こうきたか~」

バリオス-Ⅱのエンブレム

●これがバリオス-Ⅱのタンク上に鎮座していたエンブレムでございます。描かれているウマの姿はフェラーリからマスタングになったような……分かるかな?

スーフォアの方向性にバリオスが寄せていった!?

ただ正直、デザインや性能面などすべてにおいて1本サスで素晴らしく成立していたのに、重量的にも不利(乾燥重量は141→147㎏)となる2本サス化をバリオスが採用したというのは個人的には微妙な印象……。

ですけれど、ホンダCB-1(1本サス)からCB400SF(2本サス)への変身成功や400㏄以上のネイキッドジャンルにおける2本サスの定番化を受けてのビッグチェンジですからカワサキ側にも十分な勝算があったのでしょう。

実際、「ホーネットのデザインはちょっと先鋭化しすぎ……」と考える人も少なからず存在しており、かくいう指向のライダーをしっかり受け止める端正なネイキッドスタイル“Ⅱ”が獲得していたのは事実です。

「オガワぁ、ちょっとどいて」とライトボックスの上に並べたバリオス-Ⅱのポジフィルムを横からルーペでのぞき込んだ口の悪い先輩編集部員は、「ふーん、まるでCB250 SUPER FOURだなぁ」とバッサリ一刀両断して自分の机へ戻っていきました(笑)。

CB400スーパーフォア

●押しも押されもせぬ400水冷ネイキッドの絶対王者、ホンダ「CB400 SUPER FOUR」。このスタイリングの相似形で250モデルが出ていたらどうなっていたのか……。歴史にニラレバいや、タラレバはございません

バリオス2クロ

●写真は最終型となる2007年モデル。ヘッドライトまわりから跳ね上がったテールエンドに至るまでスキのないトラディショナルさは、まさにスーフォアと相通じるところがあると筆者は思うのですが、いかがでしょうか

 

ともあれ、当時多くのバイク乗りが求める整然とした2本サスデザインを実現したバリオス-Ⅱは、アバンギャルドなホーネットの強力な対抗馬として、以降も激しいシェア争いを繰り広げていくのです。

デビューの翌年、1998年型ではキーシリンダーの改良により防犯性が高められ、2000年型では平成11年排出ガス規制に対応すべく触媒などを導入。

黄色いバリオス

●後にも先にも2000年型のみに存在したパールクロームイエロー。どう考えても蜂を想起させる色でホーネットへの対抗心が見え隠れしているような……(?)。ただ、こういうビビッドなカラーさえ着こなしてしまうところはスタイリングが秀逸である証拠と言えるのかもしれません

 

2005年型ではイモビライザー付き盗難防止アラームを装着した「イモビアラームセレクション」を200台限定で発売し、2006年型からマルチリフレクター式ヘッドライトを採用するなどきめ細やかな改良が施されていきましたが、さらなる環境諸規制の強化を受けて2007年型をもって生産を終了いたしました(ホーネットも同様……合掌)

まんまバリオス-Ⅱのスズキ車が存在したッ

特筆すべきは2001年から2007年まで続いたスズキとカワサキ業務提携時代の成果として、2002年型から2005年型までスズキから「GSX250FX」という名のOEMモデルが発売されていたこと。

登場時の仕様はまさに銀色バリオス-Ⅱそのまんまでタンクに「SUZUKI」ロゴが入ってテールカウルには車名が配されるのみ……だったのですが(タイトル写真参照)、2004年型、そして最終型となった2005年型では単色に加えて突然スズキらしさ満点の青×白ツートーンカラーが追加され、ヤル気と存在感をみせたのでした(そこで終わっちゃいましたけれど)。

2004年型GSX250FX

●2004年型「GSX250FX」のカタログより。いや〜、筆者的には全然アリアリのアリですね。今見ても完璧なグラフィックだと思います。なお、カワサキD-トラッカーをベースにしたスズキ「250SB」や、スズキ スカイウェイブ250タイプSのOEMであるカワサキ「エプシロン250」はたまに拝見した経験があるのですけれどGSX250FXは街中で一度も見たことがないのです……(汗)

 

う~ん、このモデルはお察しのとおり超レアで広報車を借りた記憶もございません。

2005年型GSX250FX

●GSX250FXの最終型となる2005年モデルカタログより。単色の黒もめちゃくちゃイケてます。考えてみればスズキのシンボルであるGSXとカワサキを象徴するFXの2つをいただく車名というのもスゴイものがありますね。そんな車両がほとんど知られていないというのもナントモハヤ……

 

ともあれ16年以上の長きにわたり、250㏄並列4気筒ネイキッドジャンルで綱を張ってきたカワサキ入魂のブランドシリーズがバリオスとバリオス-Ⅱです。

「エリミネーター」も復活したことですし、Ninja ZX-25Rのインライン4を活用した令和の“超新生”(バリオス-Ⅲ?)にも期待したいですね!

あ、というわけで幅広いライダーの支持と弛まぬ改良により見事に世紀をまたいだ名車バリオス-Ⅱ。中古車の数は比較的多いものの相変わらずの高人気で、いい条件の車両は争奪戦の様相を呈しております。ですがレッドバロンスタッフに色、価格、カスタム具合などなど自分の希望を伝えておけば、近い仕様が全国300店舗超の直営ネットワークに上がったとき、いち早く知らせてもらえますよ。まずはお近くの店舗へレッツゴー、です!

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