前編でも述べましたが「BALIUS」とはギリシャ神話に登場した不老不死である神馬の名前。1991年、とてもコンパクトながら非常に筋肉質という秀逸なデザインとZXR250譲りで45馬力を発生する超高回転高出力エンジンとの魅力が見事に融合してヒットモデルとなったバリオスは、小改良と大改良を繰り返して世紀をまたぐロングセラーとなっていったのです!
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群を抜いていた使い勝手の良さも大きな魅力!
筆者が八重洲出版モーターサイクリスト(以下MC)編集部にフリーター……つまりアルバイトとして潜り込んでから1年後に登場したカワサキ バリオス。
デビュー時の単独試乗インプレッション取材前日に満タン給油役を仰せつかったのをこれ幸いと、10分で終わる仕事を1時間以上に引き延ばしてTOKYO湾岸プチツーリングをカマしたことはいい思い出です(←オイ)。
さて、瞬く間に人気モデルとなったバリオスは、当然のごとくMC誌面の作成に向けたさまざまな取材にも引っ張りだこでした。
限界性能バトル上等な熱狂の1980年代バイクブームが過ぎ去り、時代が変化した(かつ高コストだった)こともあってレーサーレプリカ全盛期には日常茶飯事だった谷田部周回路を使った最高速テストや筑波サーキットでの最速タイムアタックをバリオスで行なった記憶はございませんが、ライバル車との比較試乗やツーリングもの、積載性&燃費データ取り、
市販マフラーチェック、オーナーレポート、カスタムモデル紹介、メンテナンス企画、用品(タイヤやビキニカウル&スクリーン)テストなど、まぁとにかくありとあらゆる雑誌のコンテンツに登場してもらったものです。
745㎜というシート高が絶大なる安心感を生んだ!
特に女性タレントを起用するツーリング取材では「メーカーのしがらみがないならバリオスで……」とのリクエストを受けることも多く、足着き性よく高速巡航でも余裕があり小回りも効いて女性の容姿まで引き立てるカワサキのミニマム並列4気筒ネイキッドは、本当に高い汎用性を発揮してくれました。
1993年型では250㏄クラスの競合車同様45→40馬力化されたものの、そもそもが絶対的なパワーうんぬんより「必要にして十分ならヨシ!」というユーザーのコンセンサスがすでに取れていたネイキッドブームの世界(ゼファーの大ヒットさまさまですねぇ)。
そんな時代背景もあり低出力化が大きな影響を与えることはなく、250㏄スポーツを選ぶ多くのライダーにとってバリオスはショッピングリストの筆頭であり続けたのです。
優美な外観へはヘタに手を加えることなく、ハザードランプや燃料計の追加といった地味ながら効果的なテコ入れを繰り返して発売以来ずっと人気車であり続けた……のですが、1996年にはとうとう“吹っ切れたら恐ろしいホンダ”が本気を出してきました。
神馬(バリオス)や山賊(バンディット)を倒すべく毒針を研ぎ澄ませたスズメバチ……「ホーネット」の登場です。
アグレッシブな方向性で攻めてきたホンダ ホーネット
「ジェイドと同じ轍は踏まぬ!」と窮地に陥ったラオウよろしくリベンジ闘気全開で開発されたブランニューモデルは、グラマラスなスタイル+扱いやすく熟成されたインライン4+衝撃的な超極太リヤタイヤなどを組み合わせたパッケージングが確かに目新しく、一躍ベストセラーモデルへと成り上がります。
さすがのバリオスも劣勢となり、バイク雑誌ギョーカイは「すでに長寿モデル、もうすぐフルチェンジするのでは!?」と勝手にアオリまくり(汗)。
はたして1997年、待望の新型車「BALIUS-Ⅱ」が登場いたします。
消費税が3%→5%となった年にバリオスは“Ⅱ”へ変貌
兵庫県明石市にあるカワサキモータースジャパン本社広報から届いたプレスリリースとポジフィルムが入っている封筒をドキドキしながら開けて内容をチェックすると、思わず「こうきたか~!」という声が出ました。
よもやよもやのリヤ2本サス化!
そして……ハイ以上!!、というわけではまったくなく、想像を超えて気合いも手直しも入っているモデルチェンジではないですか。
2本サス化にともない当然ながらサイドカバーとテールカウルのデザインは手直しされ、アルミスイングアームも形状を変更。
ステップ位置は前方へ、ハンドル後端はライダー側へ移動されたことで、よりリラックスできるライディングポジションへと改良を受けていました。
さらに一見同じに見えるメイン&サブフレーム+シートレール部分も細かくモディファイされ、リヤサス上部締結箇所の剛性強化やピボット部まわりを仕様変更。ホイールベースも20㎜延長されました(1380→1400㎜)。
パワーユニット関連ではスロットル開度とエンジン回転数を検知して最適な点火時期を設定する“K-TRIC”を新規導入し、サイレンサーも大型化されて環境諸規制強化へ対応しつつ低回転域では粘りながらスッキリ高回転域まで軽やかに回るという「使い切れる40馬力」を達成。
細かいところではタンク上の立体BALIUSエンブレムも跳ねる馬から駈(か)ける馬へデザインが一新されていましたね。写真を見つつリリースを読み込んでいくほどに「こうきたか~」。
スーフォアの方向性にバリオスが寄せていった!?
ただ正直、デザインや性能面などすべてにおいて1本サスで素晴らしく成立していたのに、重量的にも不利(乾燥重量は141→147㎏)となる2本サス化をバリオスが採用したというのは個人的には微妙な印象……。
ですけれど、ホンダCB-1(1本サス)からCB400SF(2本サス)への変身成功や400㏄以上のネイキッドジャンルにおける2本サスの定番化を受けてのビッグチェンジですからカワサキ側にも十分な勝算があったのでしょう。
実際、「ホーネットのデザインはちょっと先鋭化しすぎ……」と考える人も少なからず存在しており、かくいう指向のライダーをしっかり受け止める端正なネイキッドスタイルを“Ⅱ”が獲得していたのは事実です。
「オガワぁ、ちょっとどいて」とライトボックスの上に並べたバリオス-Ⅱのポジフィルムを横からルーペでのぞき込んだ口の悪い先輩編集部員は、「ふーん、まるでCB250 SUPER FOURだなぁ」とバッサリ一刀両断して自分の机へ戻っていきました(笑)。
ともあれ、当時多くのバイク乗りが求める整然とした2本サスデザインを実現したバリオス-Ⅱは、アバンギャルドなホーネットの強力な対抗馬として、以降も激しいシェア争いを繰り広げていくのです。
デビューの翌年、1998年型ではキーシリンダーの改良により防犯性が高められ、2000年型では平成11年排出ガス規制に対応すべく触媒などを導入。
2005年型ではイモビライザー付き盗難防止アラームを装着した「イモビアラームセレクション」を200台限定で発売し、2006年型からマルチリフレクター式ヘッドライトを採用するなどきめ細やかな改良が施されていきましたが、さらなる環境諸規制の強化を受けて2007年型をもって生産を終了いたしました(ホーネットも同様……合掌)。
まんまバリオス-Ⅱのスズキ車が存在したッ
特筆すべきは2001年から2007年まで続いたスズキとカワサキ業務提携時代の成果として、2002年型から2005年型までスズキから「GSX250FX」という名のOEMモデルが発売されていたこと。
登場時の仕様はまさに銀色バリオス-Ⅱそのまんまでタンクに「SUZUKI」ロゴが入ってテールカウルには車名が配されるのみ……だったのですが(タイトル写真参照)、2004年型、そして最終型となった2005年型では単色に加えて突然スズキらしさ満点の青×白ツートーンカラーが追加され、ヤル気と存在感をみせたのでした(そこで終わっちゃいましたけれど)。
う~ん、このモデルはお察しのとおり超レアで広報車を借りた記憶もございません。
ともあれ16年以上の長きにわたり、250㏄並列4気筒ネイキッドジャンルで綱を張ってきたカワサキ入魂のブランドシリーズがバリオスとバリオス-Ⅱです。
「エリミネーター」も復活したことですし、Ninja ZX-25Rのインライン4を活用した令和の“超新生”(バリオス-Ⅲ?)にも期待したいですね!
あ、というわけで幅広いライダーの支持と弛まぬ改良により見事に世紀をまたいだ名車バリオス-Ⅱ。中古車の数は比較的多いものの相変わらずの高人気で、いい条件の車両は争奪戦の様相を呈しております。ですがレッドバロンスタッフに色、価格、カスタム具合などなど自分の希望を伝えておけば、近い仕様が全国300店舗超の直営ネットワークに上がったとき、いち早く知らせてもらえますよ。まずはお近くの店舗へレッツゴー、です!