自分を上回っているライバルがいれば徹底的に研究して凌駕していく。またやられたなら、さらに己を鍛え上げて再挑戦……。飽くなき商品性向上こそが絶対的な命題だった1970~1990年代のバイクブームにおいて、画期的なマシンを数多く生み出してきたSUZUKI。しかし2010年代、こと250ロードスポーツ市場においては高性能化バトルにソッポを向いた方向へと突き進んでいきます!

2012年GSR250カタログ表紙

●2012年型スズキ「GSR250」カタログの表紙より。あの伝説的存在“B-KING”イメージをうまく250クラスの車格へ落とし込んだスタイリングのキモは、やはり真正面からのヘッドライト形状とえげつないほどボリューミーなフューエルタンクカバー! 車体各部に配されたメッキや銀色ペイントの加飾も効果的でありました。ただ、正直に申し上げますと全体のフォルムを最初にパソコンのモニターで見たときには流麗さが感じられず「うむむむむ?」と頭を抱えてしまったものです

 

エストレヤというスーパースター【後編】はコチラ!

ヤリスギなスズキがスキになってしまった……どうしよう

1980年代(特に前半)、スズキは常にエポックメイキングな“突破者”でした。

GSX1100Sカタナ、RG50Γ、GS250FW、RG250Γ、GSX-R、RH250、GSX-R750、RG400/500Γ、シュートS……。

スズキ シュートS

●1985年3月に発売されたスズキ「シュートS」(16万9000円)。「カーナ」と同じ当時最強レベルの6.5馬力エンジン(強制空冷2スト単気筒)にキックダウン機構付きVベルト無段変速システムを搭載し、スクーター初となるフロントディスクブレーキ+テレスコピックフォークまで採用! 10インチの前後タイヤはチューブレス。車重は57kgだったものの速度計、回転計、燃料計、時計機能を有する豪華なデジタルメーターまで装備していた“走りのエリート”……。筆者的に衝撃を受けたモデルなので白黒ですけどご紹介〜

 

よく言えばパイオニア、悪く言えばハチャメチャ

ワンピース ルフィ

●「快速王にオレはなる!」と言ったかスズキー・D・アールフィ(苦しい?)。空気は読まず、己の信念の赴くまま次々立ちはだかるライバルたちを一点突破していくスズキーの姿に筆者は酔いしれたものです

 

二輪ギョーカイの共存共栄ムードを率先してブチ壊し、仁義なきハイパフォーマンス合戦へ他メーカーを巻き込む口火を切ったモデルはスズキが一番多かったという印象がございます。

山口県の片田舎でモーターサイクリスト(MC)誌を貪るように読んでいた筆者は、スズキの破天荒時代がちょうど多感な時期と重なったこともあり、「将来は横内悦夫さんのようなスーパーエンジニアになりたい!」と夢想しつつ、3型カタナにまたがったラムちゃんのプリントゴッコ年賀状を級友のみならずMC編集部に送りつけていたりしました。

ラムちゃん年賀状

●モーターサイクリスト誌1985年3月号“読者からの年賀状”コーナーに掲載された筆者の……いや輝かしい歴史。まさかそのMC編集部にて働きだし、ホンダNRをコカしたりすることになろうとは(笑)。そんなことはともかく、このころのスズキからは本当に目が離せませんでした。世界GPトップレーサーと同じ2ストスクエアフォーエンジンを搭載した市販車(RG400/500Γ)まで出してくるとは……まさに夢の時代

 

“解の公式”でつまずいて理系の道をあきらめたため超一流バイク開発者への夢は潰えましたが、「スズキって何だかスゲー!」という記憶は大脳辺縁系から海馬を経て大脳皮質へ深く深く刻み込まれたのです。

パッと見の印象では「何で今さら〜」のオンパレード

そんな時代から幾星霜。

レーサーレプリカブームの終焉後に続いたネイキッドブームのみならず、ビッグスクーターアメリカン(ジャメリカン)、エンデューロレースレプリカ、メガスポーツ、トラッカー、リッタースーパースポーツ、通勤快速スクーターほかの各ブームにおいても走行性能や総合的な魅力で他メーカーを慌てさせる高性能車を輩出してきたスズキ。

スカイウェイブ400

●400㏄以上のビッグスクーターにおいてもジャンルをけん引したスズキ。1998年には小型二輪スクーターのパイオニアとして上写真の「スカイウェイブ400」を、2002年には量産スクーターで世界最大排気量となる638㏄並列2気筒エンジンを搭載する「スカイウェイブ650」を登場させました(下写真)

スカイウェイブ650

●この“スカブー650”が2005年に導入された“大型二輪免許AT限定”に多大なる影響を与えたことは有名な話ですね。ちなみにそちらの排気量上限(650㏄まで)は2019年12月1日に撤廃されており、現在はクラッチレバーレスのDCTモデルなら1833㏄のホンダ「ゴールドウイング」でさえ、大型二輪AT限定免許で乗ることが可能になっております

 

2008年のカワサキ「ニンジャ250R」発売に端を発した“250フルカウルスポーツ”バトルにおいても、スズキはスゲー車種を出してくれるに違いない!と信じて疑っていませんでした。

B-KINGのパンフ

●2008年型「B-KING(ビーキング)」のパンフレットより。機種記号であるGSX1300BKが物語るようにGSX1300Rハヤブサをベースとした超弩級ネイキッドモデルで、最高出力は183.5馬力、最大トルクは14.9㎏mというバケモノじみたスペックを誇りました。まさに“バイクの王”……。200/50ZR17という極太リヤタイヤを履くものの、直上にあるメガホンのような2本出しアップマフラーの迫力に霞んでしまいがち(笑)。とまぁ、そんなB-KINGのイメージを受け継いだ250モデルが出てくるらしい、という風のウワサを聞いたときには心が躍りましたねぇ〜

 

そして2012年7月、スズキから待望の250スポーツモデルが発売開始。それが「GSR250」だったのです! 

ただ、発売直前のスクープ記事や第一報の7:3写真を見ての第一印象は……ビミョー……。

GSR250広報写真

●低い位置から上方へ勢いが抜けていくウエッジシェイプであることは分かるのですが、線がごちゃごちゃしているというか何というか……。口の悪い先輩編集部員はモニターに映っていたこの写真を見るなり「蟻(あり)だな」と言い捨てて自分の机へ(汗)。しかし発表会や試乗会を経験したあとで今一度写真を見直してみると、フロント部が重たく見える原因やフューエルタンクカバーの必然、巧みな細部デザイン処理などがことごとく腑に落ちてカッコよく見えてきたではありませんか。そして心の中でつぶやきました「アリだな」

 

まずもって“旬”なフルカウルではないネイキッドスタイルですし、エンジンがニンジャと同じ水冷4スト並列2気筒であることはいいのですけれど、弁方式はDOHCではなくOHCで、なおかつ4バルブでもない2バルブ! 今さら〜????

GSX250Rエンジン

●1980(昭和55)年に登場したGSX250EでさえDOHC4バルブだったのに2012(平成24)年のバイクがOHCの2バルブとは……。しかし開発陣は制約だらけな公道実走行でのベストを考えて、甘美な“高回転高出力化”への誘惑をバッサリ断捨離。極力シンプルなメカニズムとすることで徹底的にフリクションロスを低減させ(ローラータイプのロッカーアームまで採用!)、混合気の燃焼が生み出すエネルギーを複雑な機構で部品も多い(=フリクションロス大)エンジン自体を回すことではなく、車輪を動かすほうへ多く配分することを選んだのです

 

最高出力はニンジャ250Rの31馬力はもとより、前年登場した単気筒エンジンのCBR250R(MC41)が発生する27馬力より低い(たったの)24馬力ってナンデスカ(>_<)? 

嗚呼、型破りだった突破者SUZUKIは型ハマりな軟派者となってしまったのか……。

そんな絶望にも似た悪しき感情は、GSR250発表会で勢ぞろいした開発陣の自信に満ちた笑顔と発言を見聞きして、さらに実際に走らせてみれば1980年代を引きずるスペック至上主義ヤロウの勝手な早とちりであったことが完全に露呈されました。

GSR250カタログ走り

●日本での開発がほぼほぼ終了したら一定数のスタッフが中国へ飛び、工場のラインを稼働させて生み出された試作車を何度となく徹底的にチェック。現地のガソリンを入れ、現地の道路事情から出てくる問題点をさらにフィードバックして改良と微調整を繰り返し、意図した性能が生産される全数で再現できるようになるまで地道な努力を延々と繰り返したのだとか。「日本のユーザーでも納得するレベルまで質感を上げて、それを安定させるまでが一番大変でした」と当時、関係者から聞いた記憶がございます

 

苛酷な使用条件にも耐えうるタフなシャシーを実現

皆さんご存じのとおり、GSR250(シリーズ)はMade in China

中国は江蘇省常州市にあるスズキと中国&香港の資本グループとが手を組んだ合弁会社「常州豪爵鈴木摩托車有限公司」にて生産されてきたバイクなのです。

豪爵は現地だとHaojue(ハーウェイ)と読むらしいのですけれど、スズキ開発陣は「ゴーシャク、ゴーシャク、ゴーシャクスズキです」とニコニコしながら連呼していたことが強く印象に残っております。

さて、そんな彼の地で製造されることになった世界戦略車、日本名「GSR250」(現地中国の名称は「GW250」。欧州では「INAZUMA250」という3つの車名を持っていました)は100~150㏄のバイクがほとんどという中国市場においてはゴージャスなトップモデルであり、かつ公安……つまりは警察の白バイとしても使われることを前提に開発が進められた車両で、直近我が国で言うなればホンダ「CB1300ST」であり「CB1300P」であるとも言えるような存在。

GW300公安

常州豪爵鈴木摩托車有限公司のウェブサイトより、最新最上の公安用車両「GW300J ABS」です。いやもうメチャクチャカッコよくないですか? 今回この画像を見つけて「ほっほ〜」と感嘆してしまいました。GSR250S(←次回以降お話する予定)を購入してこの仕様にしたら相当目立つし、キャンプツーリングにもバッチリではないかと思いますけれど……。なお、赤色灯はマネしちゃダメ、ゼッタイ(^_^;)

 

開発は日本を中心に行われたそうですが、それはそれは気合いが入ったものだったとか。

なんといっても広い中国ですから未舗装路や激しいデコボコ道などで酷使されることも前提にメインフレームと足周りをガッチリ仕立て、さらに公安仕様が備える巨大なトップケースと左右サイドケースに荷物をフル積載し、かつ親パンダのような同僚をタンデムしても(+赤色灯など!)音を上げないシートレールも標準装備

GW300J走り

●私が原稿に書いたことと完全にシンクロする写真が常州豪爵鈴木摩托車有限公司のウェブサイトにあって笑ってしまいました。タンデマーはスリムな方ですけれどね。あ、同サイトを少し探ると出てくるVストローム250ベースの公安車両もイケてましたよ〜

 

その他クルマでも定評のある“壊れないスズキ”の細やかなノウハウを全身へと傾注したぶん装備重量は183㎏とフルカウルのニンジャ250R(168㎏)やCBR250R(161㎏ ※3台ともノンABS)と比べても重めな設定となってしまいました。

過積載☆距離ガバ勢(!?)に見つかってしまった深い魅力

しかし、それを補って余りあるのが、あえてOHC、あえて2バルブ、あえて超ロングストロークを採用し、低・中速トルクをモリモリのマシマシに太らせた完全新規設計248㏄水冷4スト並列2気筒エンジンなのです。

GSR250

●エンジン外観には「あれ? DOHCなの?」と一瞬戸惑ってしまうような意匠とカバーが与えられていますが正真正銘OHC2バルブです。そして……はい、お察しのとおりこのエンジンは現在のGSX250RとVストローム250にも使われており、すでに10年以上スズキとこのエンジンを選んだライダーたちに多大なる利益と幸せをもたらし続けているのですよ、凄いですね〜

 

同じ2気筒のニンジャ250がボア(内径)62.0㎜×ストローク(行程)41.2㎜なのに対し、GSR250のエンジンはボア53.5㎜×ストローク55.2㎜ですからね、とても同じ土俵で勝負するマシンとは思えません。

そうなのです。あの血で血を洗うハイパフォーマンスバトルを数多く勃発させてきたスズキが、新世代250スポーツジャンルでは実用域に全振りして(生まれてきた背景が背景とはいえ)、“低回転低出力、極太トルクで好燃費”というライバルたちとは真逆の命題……アンチテーゼを突きつけてきたのです! 

GSR250カタログ語らい

●2012年型カタログより。初年度はパールネブラーブラック、キャンディカーディナルレッド、そして写真に載ってないサンダーグレーメタリックの3色展開。単色もいいですけれど、モデル中盤からツートーンカラーや凝ったグラフィック、さらにはエキパイがブラックアウトされた仕様も登場してきたりして、どんどん化粧がうまくなり垢抜けていくガールorボーイようなところがまた最高。なお、カタログには60㎞/h定地燃費が40㎞/ℓと記載されておりました

 

そうして生まれた偶力バランサー入りエンジンは重めの車重もなんのその、発進時にエンストしにくく、動き出すやストトトトッと軽快な加速が楽しめ(アナタが想像するよりもずっと鋭い動きです)、田園地帯をダラダラ流すときでも不快な振動が少ないので気を遣う必要なく、高速道路では6速ホールドでどこまでも走っていける

するとビックリ「え~っ! ウソ~ッ!? ホント~?」と往年のJD(女子大生)を彷彿させる歓声が口をついて出てしまうほどの低燃費が叩き出されたりするのですから評判にならないワケがありません

GSR250タンデム

●2014年型カタログより。シート高は780㎜と標準的でしたが太もも部分の形状がスッキリしており足着き性は良好(178㎝の筆者インプレ。小柄な方は「シートが少し幅広で足が広がってしまうからソコソコ」という声も)。後ろに大切な人を乗せて走るときも大いなる安心感とともに操縦ができました。恥ずかしいエンストもしにくいですしね。スタイリングにマッチした大きなグラブバーもタンデマーにとっては助かる装備……ああそうそう、センタースタンドが標準装備されているというのも大きなポイントとなったものです

 

バイク雑誌による谷田部最高速テストも筑波サーキットタイムアタックも遠い昭和の思い出話となった平成20年代中期。

すでに誰も彼もが一番高スペックなバイクを率先して買い求めるという時代ではなくなり、自分の等身大バイクライフを真摯に考えて、最適なモデルをSNSやYouTubeなどの口コミ情報から選ぼうとするライダーが増えました。

SNSでハッピー

●そのバイクを自腹を切って購入したオーナーが語る肉声というのは本当に役立つものです。大いに活用しつつ、でも最終的な決断は自分自身の責任において行い、クレバーなバイクライフを楽しんでまいりましょう!

 

すると“スペック数値では見えづらい魅力”が迅速に拡散されるようになり、結果としてGSR250は大ヒットモデルへ上りつめていったのです。

よく見ると……カッコいいじゃないですか(雑誌屋稼業の秘技、手のひら返し)! 

次回はGSR250のデザインやハンドリングの魅力などについてお届けする予定です。

GSRカスタム用品

●当時のカタログに同封されていたカスタムパーツカタログも気合いが入っていましたね〜。防風スクリーンの装着率が高かった印象が残っています。なおこちらに掲載されているヨシムラのGSR250用マフラーは現在でも一部購入することができます。左右2本出しで9.4㎏と重いSTDマフラーと交換すれば1本出しの精悍な外観とともに、6.7〜6.9㎏(約70%!)の軽量化も実現できてしまうのですからナイスですね〜

 

あ、というわけでGSR250は2013年の同ジャンル販売台数では当時の絶対王者ニンジャ250にこそ敵わなかったもののCBR250Rを上回る台数(年間目標販売台数2000台の倍以上!)を記録し、以降もコンスタントに売れ続けていきました。それはつまり優良な中古車が数多く存在しているということ。ぜひお近くのレッドバロンで実車確認してください。なお、膨大な在庫の中でも特にオススメな中古バイクがネット検索できるようになりましたので、こちらもぜひご確認を~!

GSR250という“アンチテーゼ”【中編】はコチラ!

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