自分を上回っているライバルがいれば徹底的に研究して凌駕していく。またやられたなら、さらに己を鍛え上げて再挑戦……。飽くなき商品性向上こそが絶対的な命題だった1970~1990年代のバイクブームにおいて、画期的なマシンを数多く生み出してきたSUZUKI。しかし2010年代、こと250ロードスポーツ市場においては高性能化バトルにソッポを向いた方向へと突き進んでいきます!
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ヤリスギなスズキがスキになってしまった……どうしよう
1980年代(特に前半)、スズキは常にエポックメイキングな“突破者”でした。
GSX1100Sカタナ、RG50Γ、GS250FW、RG250Γ、GSX-R、RH250、GSX-R750、RG400/500Γ、シュートS……。
よく言えばパイオニア、悪く言えばハチャメチャ。
二輪ギョーカイの共存共栄ムードを率先してブチ壊し、仁義なきハイパフォーマンス合戦へ他メーカーを巻き込む口火を切ったモデルはスズキが一番多かったという印象がございます。
山口県の片田舎でモーターサイクリスト(MC)誌を貪るように読んでいた筆者は、スズキの破天荒時代がちょうど多感な時期と重なったこともあり、「将来は横内悦夫さんのようなスーパーエンジニアになりたい!」と夢想しつつ、3型カタナにまたがったラムちゃんのプリントゴッコ年賀状を級友のみならずMC編集部に送りつけていたりしました。
“解の公式”でつまずいて理系の道をあきらめたため超一流バイク開発者への夢は潰えましたが、「スズキって何だかスゲー!」という記憶は大脳辺縁系から海馬を経て大脳皮質へ深く深く刻み込まれたのです。
パッと見の印象では「何で今さら〜」のオンパレード
そんな時代から幾星霜。
レーサーレプリカブームの終焉後に続いたネイキッドブームのみならず、ビッグスクーター、アメリカン(ジャメリカン)、エンデューロレースレプリカ、メガスポーツ、トラッカー、リッタースーパースポーツ、通勤快速スクーターほかの各ブームにおいても走行性能や総合的な魅力で他メーカーを慌てさせる高性能車を輩出してきたスズキ。
2008年のカワサキ「ニンジャ250R」発売に端を発した“250フルカウルスポーツ”バトルにおいても、スズキはスゲー車種を出してくれるに違いない!と信じて疑っていませんでした。
そして2012年7月、スズキから待望の250スポーツモデルが発売開始。それが「GSR250」だったのです!
ただ、発売直前のスクープ記事や第一報の7:3写真を見ての第一印象は……ビミョー……。
まずもって“旬”なフルカウルではないネイキッドスタイルですし、エンジンがニンジャと同じ水冷4スト並列2気筒であることはいいのですけれど、弁方式はDOHCではなくOHCで、なおかつ4バルブでもない2バルブ! 今さら〜????
最高出力はニンジャ250Rの31馬力はもとより、前年登場した単気筒エンジンのCBR250R(MC41)が発生する27馬力より低い(たったの)24馬力ってナンデスカ(>_<)?
嗚呼、型破りだった突破者SUZUKIは型ハマりな軟派者となってしまったのか……。
そんな絶望にも似た悪しき感情は、GSR250発表会で勢ぞろいした開発陣の自信に満ちた笑顔と発言を見聞きして、さらに実際に走らせてみれば1980年代を引きずるスペック至上主義ヤロウの勝手な早とちりであったことが完全に露呈されました。
苛酷な使用条件にも耐えうるタフなシャシーを実現
皆さんご存じのとおり、GSR250(シリーズ)はMade in China。
中国は江蘇省常州市にあるスズキと中国&香港の資本グループとが手を組んだ合弁会社「常州豪爵鈴木摩托車有限公司」にて生産されてきたバイクなのです。
豪爵は現地だとHaojue(ハーウェイ)と読むらしいのですけれど、スズキ開発陣は「ゴーシャク、ゴーシャク、ゴーシャクスズキです」とニコニコしながら連呼していたことが強く印象に残っております。
さて、そんな彼の地で製造されることになった世界戦略車、日本名「GSR250」(現地中国の名称は「GW250」。欧州では「INAZUMA250」という3つの車名を持っていました)は100~150㏄のバイクがほとんどという中国市場においてはゴージャスなトップモデルであり、かつ公安……つまりは警察の白バイとしても使われることを前提に開発が進められた車両で、直近我が国で言うなればホンダ「CB1300ST」であり「CB1300P」であるとも言えるような存在。
開発は日本を中心に行われたそうですが、それはそれは気合いが入ったものだったとか。
なんといっても広い中国ですから未舗装路や激しいデコボコ道などで酷使されることも前提にメインフレームと足周りをガッチリ仕立て、さらに公安仕様が備える巨大なトップケースと左右サイドケースに荷物をフル積載し、かつ親パンダのような同僚をタンデムしても(+赤色灯など!)音を上げないシートレールも標準装備。
その他クルマでも定評のある“壊れないスズキ”の細やかなノウハウを全身へと傾注したぶん装備重量は183㎏とフルカウルのニンジャ250R(168㎏)やCBR250R(161㎏ ※3台ともノンABS)と比べても重めな設定となってしまいました。
過積載☆距離ガバ勢(!?)に見つかってしまった深い魅力
しかし、それを補って余りあるのが、あえてOHC、あえて2バルブ、あえて超ロングストロークを採用し、低・中速トルクをモリモリのマシマシに太らせた完全新規設計248㏄水冷4スト並列2気筒エンジンなのです。
同じ2気筒のニンジャ250がボア(内径)62.0㎜×ストローク(行程)41.2㎜なのに対し、GSR250のエンジンはボア53.5㎜×ストローク55.2㎜ですからね、とても同じ土俵で勝負するマシンとは思えません。
そうなのです。あの血で血を洗うハイパフォーマンスバトルを数多く勃発させてきたスズキが、新世代250スポーツジャンルでは実用域に全振りして(生まれてきた背景が背景とはいえ)、“低回転低出力、極太トルクで好燃費”というライバルたちとは真逆の命題……アンチテーゼを突きつけてきたのです!
そうして生まれた偶力バランサー入りエンジンは重めの車重もなんのその、発進時にエンストしにくく、動き出すやストトトトッと軽快な加速が楽しめ(アナタが想像するよりもずっと鋭い動きです)、田園地帯をダラダラ流すときでも不快な振動が少ないので気を遣う必要なく、高速道路では6速ホールドでどこまでも走っていける。
するとビックリ「え~っ! ウソ~ッ!? ホント~?」と往年のJD(女子大生)を彷彿させる歓声が口をついて出てしまうほどの低燃費が叩き出されたりするのですから評判にならないワケがありません。
バイク雑誌による谷田部最高速テストも筑波サーキットタイムアタックも遠い昭和の思い出話となった平成20年代中期。
すでに誰も彼もが一番高スペックなバイクを率先して買い求めるという時代ではなくなり、自分の等身大バイクライフを真摯に考えて、最適なモデルをSNSやYouTubeなどの口コミ情報から選ぼうとするライダーが増えました。
すると“スペック数値では見えづらい魅力”が迅速に拡散されるようになり、結果としてGSR250は大ヒットモデルへ上りつめていったのです。
よく見ると……カッコいいじゃないですか(雑誌屋稼業の秘技、手のひら返し)!
次回はGSR250のデザインやハンドリングの魅力などについてお届けする予定です。
あ、というわけでGSR250は2013年の同ジャンル販売台数では当時の絶対王者ニンジャ250にこそ敵わなかったもののCBR250Rを上回る台数(年間目標販売台数2000台の倍以上!)を記録し、以降もコンスタントに売れ続けていきました。それはつまり優良な中古車が数多く存在しているということ。ぜひお近くのレッドバロンで実車確認してください。なお、膨大な在庫の中でも特にオススメな中古バイクがネット検索できるようになりましたので、こちらもぜひご確認を~!