1980年代初頭から燃え上がったレーサーレプリカブームに引導を渡し、ネイキッドブームの先駆けとなったカワサキ・ゼファー(英語で西風という意味)。「独走、許すまじ」とライバルメーカーも次々と矢を射ますが、ことごとく弾き返されます。そしてゼファー登場から遅れることちょうど3年。ついにホンダから渾身・逆転の一矢が放たれました!
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超強大なライバルは“社会現象”となっていた
マシンが主役の高性能絶対主義から、乗り手の感性に寄り添う“好”性能指向へ……。
ライダーの意識さえ変えてしまったフツーのバイク、カワサキ・ゼファーの革命については以前語らせていただいたとおりですが、本当に今では信じられないくらいの勢いがありました。
当時、筆者は埼玉県草加市にある某大学の学生だったのですけれど、つい数ヶ月前までNSRやTZRなどでSPレースに血道を上げていた先輩や同級生、バイト先の友人らがシレッとゼファー(400)やゼファー750に乗り換えていくのを目の当たりにして、ちょいと恐怖すら感じた記憶までございます。
時は流れ、筆者が大学をなんとか卒業し、当時最先端のライフスタイル・フリーターとして八重洲出版モーターサイクリスト編集部(MC編集部)に潜り込み、しばらく経った時点でも400㏄クラス……いやネイキッドジャンルにおける絶対王者はゼファーのままでした。
明暗分かれたネイキッドブームの覇者と敗者
業界の盟主たるホンダは、ゼファー登場のちょうど1ヵ月前となる1989年3月に「CB-1」をリリースしていたものの、今でいう“ストリートファイター”的なコンセプトがまだ早すぎたせいか完全に沈黙。
翌年の1990年モデルでは足周りを改良しつつ値下げまで断行(税抜き60万9000円)!
そのまた翌年の1991年には馬力規制に合わせてエンジン出力を57馬力→53馬力へ。さらに燃料タンク容量を11ℓ→13ℓ化、セミアップハンドル新採用など多岐に渡るモディファイを施しつつ価格を据え置いた「TypeⅡ」まで送り出すのですが、残念ながら大きな支持を得ることはできませんでした。
私もMC編集部諸先輩方の取材手伝いのため何度となくCB-1を運転したのですけれど、CBR400RR譲りのカムギアトレーンエンジンは高回転域で独特な「ギャイーン!」という刺激的なサウンドを奏で、それはそれでヤル気を鼓舞してくれるものでした。
が、ゼファーの心地よいマッタリ感を一度味わってしまうと「同じジャンルとは言えないよなぁ~」と複雑な心境になってしまったものです。
ホンダファン感涙。「コレが欲しかったんだよ!」
しかし、やられっぱなしでは終わらないのがホンダの恐ろしさ。
反撃の準備は水面下……いや朝霞研究所で着々と進められていたのです。
起死回生のコンセプトテーマは「PROJECT BIG-1(プロジェクト ビッグワン)」。
日本市場を見据えた……というそれは、
①「水冷・4サイクル・DOHC・直列4気筒エンジンを搭載していること」
②「その体躯はあくまでもセクシー&ワイルドであること」
③「走る者の心を魅了する感動性能を有すること」
という基本思想をまとめあげたもの。
そして1991年晩秋に開催された第29回東京モーターショーで突然、そのプロジェクトBIG-1コンセプトを具現化した「CB1000スーパーフォア」の参考出品車が登場いたします。
なお、前途多難、紆余曲折だらけのPROJECT BIG-1開発ストーリーは「モーサイ」にて是非。CB-1の骨格にCB1100Rのタンクを乗せたのが全ての始まりだったとか……。
空前絶後、200万人動員の晴れ舞台が後押し
そりゃぁもう、1991年の東京モーターショーは華やかでした。
後日の歴史検証では同年3月に「バブル」がはじけたとされていますが、広大な幕張メッセ一面に並べられた夢まみれの車両たちは、どれもバブル最盛期、ジュリアナ東京もかくやのイケイケドンドンパワーが生み出した産物。
CB1000SFの横にあの「NR」が並んでいた、という事実が全てを物語っているのではないでしょうか。
ともあれ、1991年の10月にCB1000スーパーフォアという最高にセクシー&ワイルドな参考出品車が登場したという衝撃はバイク誌を通じて日本全国津々浦々へと広がり、「スーパーフォア、いつ売るのだ?」、「ビッグワンを早く出せ!」というファンの期待は高まるばかり。
年を越して冬が終わり、バイクシーズンがまさに始まらんとする1992年4月。
絶妙すぎるタイミングで登場したのが1000……ではなく、400のスーパーフォアだったのです。
1000への憧憬をうまく落とし込む戦略も大ハマり
まさに青天の霹靂、二輪雑誌業界も「え? ヨンヒャク? 聞いてないよ~!」状態。
しかし、まだまだ“限定解除”がビッグバイク所有への高い障壁となっていた時代、中型限定の自動二輪免許(チューメンと呼んでましたね)でガマンせざるを得なかった数多くのライダーは諸手を挙げて400㏄版ビッグワンを大歓迎いたします。
あのショー会場で、雑誌グラビアで、鮮烈な印象を心に焼き付けられた「あのカタチ」が見事に400㏄クラスで再現されていたのですから!
グラマラスなボリュームを誇るガソリンタンクからサイドカバー、テールランプに至るまでスキのないスタイリングの仕上がり具合は、写真で見ても実車を眺めても完璧でありました。
一部では「ゼファーのモロパクリじゃん」、「プロリンクをやめてリア2本サスにするなんて技術の退歩だ!」など否定的な意見もありましたが、車両自体の圧倒的な完成度は、そんな声すら弾き返していきます。
エンジンに至ってはカムギアトレーンを廃してチェーンによる駆動へと先祖返り(!?)を果たし、吸排気系もCB-1から全面変更。クランク系の慣性マスも約70%増大させ、外観には本来なら不要な冷却フィンまで追加するというこだわりっぷり。
実際、走らせてみてもCB-1には感じられなかった“鷹揚さ”が見事に注入されており、それでいてゼファーを敵としない力強さまで実現していたのですから「参りました」とシャッポを脱ぐ(死語?)しかございません。
打倒ゼファーはここに果たされ、以降30年間、2022年まで続く英雄の進撃が始まったのでした。
次回以降もCB400スーパーフォアにまつわる数々のエピソードを紹介してまいりましょう。
あ、初代CB400SFは販売台数が非常に多かったので、30年余り経った現在でも比較的豊富な中古車の数が存在しています。基本的にとても丈夫ですし、レッドバロンの良質な中古車なら補修パーツの心配も不要です。あのころにタイムスリップしたくなったら、ぜひお近くのレッドバロン各店へ!