1980年代初頭から燃え上がったレーサーレプリカブームに引導を渡し、ネイキッドブームの先駆けとなったカワサキ・ゼファー(英語で西風という意味)。「独走、許すまじ」とライバルメーカーも次々と矢を射ますが、ことごとく弾き返されます。そしてゼファー登場から遅れることちょうど3年。ついにホンダから渾身・逆転の一矢が放たれました!

●どこまでも青い空と海をバックに青き陽炎が立ち上っているような幻想的な写真が使われた初代CB400スーパーフォアのカタログ。水冷であること、リア2本サスであること、そして車体が“伝説的なCB”すら彷彿させる美しいシルエットを描いていることまで、ひと目で伝わってくるビジュアルにシビれました〜

 

超強大なライバルは“社会現象”となっていた

マシンが主役の高性能絶対主義から、乗り手の感性に寄り添う“好”性能指向へ……。

ライダーの意識さえ変えてしまったフツーのバイク、カワサキ・ゼファーの革命については以前語らせていただいたとおりですが、本当に今では信じられないくらいの勢いがありました。

ゼファー広報写真

●カワサキ・ゼファーが登場したのは1989年4月のこと(当時価格税抜き52万9000円)。動き出しこそ静かだったものの秋口には日本を丸ごと飲み込む超大型旋風と化し、長らくスペック至上主義に囚われていたバイク好きの固定観念すら吹き飛ばしていきます

 

当時、筆者は埼玉県草加市にある某大学の学生だったのですけれど、つい数ヶ月前までNSRやTZRなどでSPレースに血道を上げていた先輩や同級生、バイト先の友人らがシレッとゼファー(400)やゼファー750に乗り換えていくのを目の当たりにして、ちょいと恐怖すら感じた記憶までございます。

時は流れ、筆者が大学をなんとか卒業し、当時最先端のライフスタイル・フリーターとして八重洲出版モーターサイクリスト編集部(MC編集部)に潜り込み、しばらく経った時点でも400㏄クラス……いやネイキッドジャンルにおける絶対王者はゼファーのままでした。

明暗分かれたネイキッドブームの覇者と敗者

業界の盟主たるホンダは、ゼファー登場のちょうど1ヵ月前となる1989年3月に「CB-1」をリリースしていたものの、今でいう“ストリートファイター”的なコンセプトがまだ早すぎたせいか完全に沈黙

CB-1広報写真

●1986年に登場したCBR400RからCBR400RR(1988年)へと受け継がれてきたカムギアトレーンエンジンをデチューンして、美しいスチール製ダイヤモンドフレームに搭載した「CB-1」。まさに消費税の始まる21日前の1989年3月10日に、当時価格64万6000円で発売が開始されました

 

翌年の1990年モデルでは足周りを改良しつつ値下げまで断行(税抜き60万9000円)! 

そのまた翌年の1991年には馬力規制に合わせてエンジン出力を57馬力→53馬力へ。さらに燃料タンク容量を11ℓ→13ℓ化セミアップハンドル新採用など多岐に渡るモディファイを施しつつ価格を据え置いた「TypeⅡ」まで送り出すのですが、残念ながら大きな支持を得ることはできませんでした。

CB-1タイプⅡ

●タンクとハンドルだけでなく、シート形状やミッション内の6速ギヤ比、二次減速比、エンジンセッティング、フレームやエンジンほか各部の塗色などまでガッツリ変更。各部の質感はとんでもなく高く、洗車するたび惚れ惚れとしたものです。ジェイドにも使われていたカワセミのような緑色、好きだったなぁ……

 

私もMC編集部諸先輩方の取材手伝いのため何度となくCB-1を運転したのですけれど、CBR400RR譲りのカムギアトレーンエンジンは高回転域で独特な「ギャイーン!」という刺激的なサウンドを奏で、それはそれでヤル気を鼓舞してくれるものでした。

やる気イメージ

●度重なるデチューンが施されたとはいえ、CB-1エンジンのベースは超高回転域での限界性能を競い合うカリッカリのレーサーレプリカCBR400RRのもの。始動するや元気がみなぎる強心臓でしたね……

 

が、ゼファーの心地よいマッタリ感を一度味わってしまうと「同じジャンルとは言えないよなぁ~」と複雑な心境になってしまったものです。

ホンダファン感涙。「コレが欲しかったんだよ!」

しかし、やられっぱなしでは終わらないのがホンダの恐ろしさ

反撃の準備は水面下……いや朝霞研究所で着々と進められていたのです。

起死回生のコンセプトテーマは「PROJECT BIG-1(プロジェクト ビッグワン)」。

日本市場を見据えた……というそれは、

①「水冷・4サイクル・DOHC・直列4気筒エンジンを搭載していること」 

②「その体躯はあくまでもセクシー&ワイルドであること」

③「走る者の心を魅了する感動性能を有すること」

という基本思想をまとめあげたもの。

そして1991年晩秋に開催された第29回東京モーターショーで突然、そのプロジェクトBIG-1コンセプトを具現化した「CB1000スーパーフォア」の参考出品車が登場いたします。

CB1000SF

●写真は1992年11月24日から発売された市販仕様の「CB1000スーパーフォア」。フルカウルのCBR1000F内に隠されていたゴッツい水冷エンジンと23ℓ容量の巨大なタンクが醸し出すド迫力は圧倒的でした。当時価格は税抜き92万円

 

なお、前途多難、紆余曲折だらけのPROJECT BIG-1開発ストーリー「モーサイ」にて是非。CB-1の骨格にCB1100Rのタンクを乗せたのが全ての始まりだったとか……。

CB1100R

●1981年から83年まで発売された伝説のモデル「CB1100R」。CB900Fのエンジンをベースに1062㏄まで排気量を拡大。フレームもCB900F用をベースに各部を専用設計した。レース出場を視野に入れ、26ℓ容量の軽量アルミタンク形状は、まさしくスーパーフォアシリーズを想起させるもの!

 

空前絶後、200万人動員の晴れ舞台が後押し

そりゃぁもう、1991年の東京モーターショーは華やかでした。

後日の歴史検証では同年3月に「バブル」がはじけたとされていますが、広大な幕張メッセ一面に並べられた夢まみれの車両たちは、どれもバブル最盛期、ジュリアナ東京もかくやイケイケドンドンパワーが生み出した産物。

CB1000SFの横にあの「NR」が並んでいた、という事実が全てを物語っているのではないでしょうか。

●1気筒あたり8バルブ! UFO形状のオーバル(長円径)ピストン4つが激しく上下してパワーを生み出す……。全身これロマンしかない「NR」の市販直前バージョンも壇上に飾られていたのが1991年の東京モーターショーでした。こちらもスーパーフォアシリーズと同じ1992年に520万円という前代未聞の価格にて発売されます。32バルブのマシンはバブルの権化でもありました

 

ともあれ、1991年の10月にCB1000スーパーフォアという最高にセクシー&ワイルドな参考出品車が登場したという衝撃はバイク誌を通じて日本全国津々浦々へと広がり「スーパーフォア、いつ売るのだ?」「ビッグワンを早く出せ!」というファンの期待は高まるばかり。

年を越して冬が終わり、バイクシーズンがまさに始まらんとする1992年4月。

絶妙すぎるタイミングで登場したのが1000……ではなく400のスーパーフォアだったのです。

CB400SF

●写真のパールシャイニングイエロー、そして赤と黒のソリッドカラーが58万9000円。黒×灰、銀×青のツートーンカラーが59万9000円(ともに税抜き当時価格)。肉感的なガソリンタンクは18ℓを飲み込み、リア2本サスの採用によりシート下には5.5ℓものユーティリティスペースを確保。荷掛けフックも4カ所に用意されるなど至れり尽くせりな“おもてなし力”もCB400スーパーフォアの真骨頂でございました

 

1000への憧憬をうまく落とし込む戦略も大ハマり

まさに青天の霹靂、二輪雑誌業界も「え? ヨンヒャク? 聞いてないよ~!」状態。

しかし、まだまだ“限定解除”がビッグバイク所有への高い障壁となっていた時代、中型限定の自動二輪免許(チューメンと呼んでましたね)でガマンせざるを得なかった数多くのライダーは諸手を挙げて400㏄版ビッグワンを大歓迎いたします。

あのショー会場で、雑誌グラビアで、鮮烈な印象を心に焼き付けられた「あのカタチ」が見事に400㏄クラスで再現されていたのですから! 

CB400デザインスケッチ

●開発初期のラフスケッチ。懐古主義ではない、しかしCBの伝統を感じさせるラインを求めて、デザイナーは細かな修正を重ねたとか……

 

グラマラスなボリュームを誇るガソリンタンクからサイドカバー、テールランプに至るまでスキのないスタイリングの仕上がり具合は、写真で見ても実車を眺めても完璧でありました。

一部では「ゼファーのモロパクリじゃん」、「プロリンクをやめてリア2本サスにするなんて技術の退歩だ!」など否定的な意見もありましたが、車両自体の圧倒的な完成度は、そんな声すら弾き返していきます。

エンジンに至ってはカムギアトレーンを廃してチェーンによる駆動へと先祖返り(!?)を果たし、吸排気系もCB-1から全面変更。クランク系の慣性マスも約70%増大させ、外観には本来なら不要な冷却フィンまで追加するというこだわりっぷり。

CB400エンジン

●吸気ポートの比較図。角度を従来の33°から5°にすることで、管長の33㎜短縮に成功。ポート径はφ29㎜からφ26㎜に変更されて吸気流速を大幅に高め、充填効率を一段と高めた

クランクウェブ

●クランクウェブの比較図。CB-1とスーパーフォアとでは、もう全くの別物……。あえて重くすることで低回転域での粘り強さを実現させたのです

 

実際、走らせてみてもCB-1には感じられなかった“鷹揚さ”が見事に注入されており、それでいてゼファーを敵としない力強さまで実現していたのですから「参りました」とシャッポを脱ぐ(死語?)しかございません。

打倒ゼファーはここに果たされ、以降30年間、2022年まで続く英雄の進撃が始まったのでした。

最新CBビジュアル

●鮮烈デビューから30年。堂々たるベスト&ロングセラーとして君臨してきたCB400スーパーフォア&スーパーボルドールが、2022年秋に生産中止になるという衝撃的なニュースが4月28日に流れてきました。復活の可能性は非常に低いと言われていますが、はたして……???

 

次回以降もCB400スーパーフォアにまつわる数々のエピソードを紹介してまいりましょう。

あ、初代CB400SFは販売台数が非常に多かったので、30年余り経った現在でも比較的豊富な中古車の数が存在しています。基本的にとても丈夫ですし、レッドバロンの“譲渡車検”車両なら補修パーツの心配も不要です。あのころにタイムスリップしたくなったら、ぜひお近くのレッドバロン各店へ!

CB400 SUPER FOURという英雄【その2】を読む

 

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事