200馬力の輸出仕様から遅れること約10ヵ月後に登場した「VMAX国内仕様」。最高出力は151馬力に抑えられていたとはいえ、それは当時世界一厳しいとも言われていた日本の騒音&排ガスなど環境諸規制数値を堂々クリアしてのもの。エンジンから湧き上がってくる強大な馬力へ単純にリミッターをかけただけ……でないことは一目瞭然でした!

2015年型VMAX_JPN

●2014年10月に配布された国内仕様2015年モデル「VMAX」カタログの表紙より。追加されたダークベリーレッドメタリック2の塗色が美しいですね。なお、2代目「VMAX」は2009年の登場時から2017年の最終モデルまで記念モデル(後述)を除き車両本体価格220万円は不変だったのですけれど、消費税が2014年4月に5%から8%に引き上げられたため販売価格は231万円から237万6000円となりました。分母が大きいだけに税率が3%上昇するとポン!6万6000円もユーザーの支払い額は増えてしまったのです……(^^ゞ

 

 

VMAXという孤高の“魔神”【その8】はコチラ!

 

VMAXという孤高の“魔神”【その10(最終回)】は今しばらくお待ちください m(_ _)m

 

逆輸入車にするか、それとも国内仕様か……。それが(大)問題だぁ!

 

 

ふ〜ん、もう20年近く前の話なのかぁ~。

 

 

あ、すみません。

 

 

光陰フルスロットルハヤブサのごとし

ハヤブサ 走行シーン

●厳しい環境諸規制をクリアするれっきとした国内仕様で188馬力/15.2㎏m、かつ180㎞/hスピードリミッターも付いていないスズキ「Hayabusa」が消費税10%込み223万3000円のプライスタグを付ける令和7年のニッポン……。大型二輪免許取りたてのガールズ&ボーイズでも問題なく購入できて、右手をグイッと捻りゃ意識を失うような激烈加速と自らの行為に恐怖できるほどの最高速を味わうことだって可能です。ある意味、とてもいい世の中になりました!?

 

 

2000年代のビッグバイクオーナーを大いに悩ませ続けた手厚い保証&サービスの国内仕様にするか、やっぱりフルパワーっしょ!な逆輸入車にするか問題がすでにふた昔前の話だと改めて認識し、時の流れるスピードへ改めて感嘆してしまったのです。

シェイクスピア

●「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」はシェイクスピアの戯曲『ハムレット』の名セリフ。まぁ、そこまで深刻ではなくともマジな話、当時のライダーは欲しいバイクで2つの仕様が選べたときにメッチャ悶々と思い悩んだものなのです……

 

 

1990年代のどちらにするか問題はオーバーナナハン解禁を受けたスズキ「GSX1100S カタナ」やカワサキ「GPZ900R」、そして初代ヤマハ「VMAX」などヘリテイジorクルーザー系モデルが中心となっていましたが、

GPZ900R_1991

●1991年型の国内ニンジャこと「GPZ900R(A8型)」。排気量の上限を750ccとする日本独自の自主規制が撤廃されたことを受けてカワサキ初のオーバーナナハンモデルとして登場〜。エンジン出力は海外向け(当時はフルパワーでも108馬力)に比べたら控えめな86馬力。なおかつスピードリミッターの装着や二次減速比の変更など異なる部分も多かった(タンデムベルトも日本仕様独自の装備)ものの79万9000円という戦略的価格も奏効し予想を超えるクリーンヒットを記録しました!

 

 

ホンダは1992年型の「CBR600F」からスーパースポーツの国内仕様化真摯に取り組み、2003年「CBR600RR」、2004年「CBR1000RR」の国内版登場では大きな話題を勝ち取りました。

CBR600RR日本仕様

●いやぁ、今見てもシビれるカッコよさですなぁの2003年型国内仕様「CBR600RR」。前身となる「CBR600F4i」のエンジンをベースに改良を施しフレキシブルな69馬力/5.2㎏mというパフォーマンスを実現。革新のユニットプロリンクリヤサスペンションも注目を集めました。当時価格は税込み93万4500円。現在も121馬力/6.4㎏mを誇る600スーパースポーツとしてラインアップされており157万3000円〜160万6000円で発売中!

2009_YZF-R1日本仕様

●ヤマハも2009年4月、「VMAX」国内仕様登場と同タイミングで「YZF-R1」の国内仕様を投入! 6代目にして初めてとなる日本向けリッタースーパースポーツは145馬力/10.0㎏mのパフォーマンス(欧州フルパワー仕様は182馬力/11.8㎏m)。ロッシ選手も大絶賛のクロスプレーンエンジン、特徴的だけどカッコいいデメキンフェイス、なおかつ国内仕様しか選べない写真の白に赤フレームも話題となり逆輸入版R1を大きく凌駕する人気を誇りました。当時価格は141万7500円で逆輸入車が160万円弱程度だったことも理由に挙げられるでしょう

 

 

 

折しも当時、我が国は厳しくなる一方の騒音規制や排出ガス規制だけでなく、ビッグスクーターの大ブームが発端となった(!?)駐車場問題、市販マフラーへの音量規制新提案(カスタムが不可能になるようなシビアな内容……こちらは後日、回避されましたが)などなど、お上は日本のバイク文化を取り潰そうとしているんじゃないの!?と勘ぐってしまうほど厳しい締め付けが次から次へと繰り出されており、ギョーカイ全体が重苦しい雰囲気になっていたことを記憶しております。

駐車監視員

2006年6月道路交通法改正により違法駐車対策の強化のため、使用者責任の放置違反金制度の新設、放置車両確認事務等の違法駐車対策の推進を図るための規定を整備。その一環として放置車両確認事務の業務が民間法人に開放され、警察署長が公安委員会に法人登録した法人への業務委託が可能になった……つまり上イラストのような制服に身を包んだ民間の駐車監視員がバシバシ違反車両を取り締まるようになったワケです。いやぁ、効果はテキメン! 例えば渋谷の坂という坂を埋め尽くしていたナウなヤングのビッグスクーターカスタム軍団がまたたく間に姿を消しましたからね……

 

 

厳しい時代だからこそ細部まで拘りに拘った本物を世に出そう……

 

そんな中で開発の佳境を迎えた2代目「VMAX」は200馬力の海外向け輸出仕様をキッチリ仕上げたあと、改めて世界一ハードルが高いとも言われた日本のレギュレーションに完全合致した151馬力の国内仕様を作り上げていくこととなりました。

2009_VMAX_JPN

2009年型国内仕様「VMAX」。ボア×ストローク90×66㎜、圧縮比11.3というシリンダー挟角65度の1679㏄水冷4ストV型4気筒DOHC4バルブエンジンに電子制御スロットル(YCC-T)や可変ファンネル機構(YCC-I)まで備えるFIが導入され最高出力151馬力/7500rpm、最大トルク15.1kgm/6000rpmを発揮。変速機は5速リターン。燃料タンク容量15ℓ、シート高775㎜、装備重量311㎏。タイヤはフロント120/70R18、リヤ200/50R18。60㎞/h定地燃費は16.0㎞/ℓ。リニア制御3ポジションABSやスリッパークラッチ、4-1-2-4マフラー&三元触媒、マグネシウム合金の投入(クラッチカバー、ACMカバー、ドライブ軸カバー)、2分割ラジエター、優れた加速感とハンドリングを両立させる専用開発タイヤ、シート下配置で低重心化に貢献する樹脂製燃料タンク、ハンドル後方に装備した有機ELマルチファンクションディスプレイなどがドカスカ採用されたことでも大きな話題となりました。しつこいですが本体価格は220万円で、それに消費税5%上乗せで当時販売価格231万円ナリ!

 

 

消音と排ガス浄化をつかさどる触媒入りチャンバー+マフラーの内部構造はまさに別物となり、変化した排気効率に対応すべくフューエルインジェクションのセッティングは極少開度からフルスロットル領域まで全面的な見直しを敢行!

2012_VMAX俯瞰

●タンデム(シート)ベルトの装着が泣かせるシン・魔神国内仕様。詳細に見比べれば4本出しマフラーエンドの開口部も海外仕様より小さくなっていたりするのですが、違っているところ探しはサイゼリヤのメニューだけにしておきましょう。あ、2009年モデルの塗色はブラックメタリックMです

 

 

必要にして十分に過ぎる怒濤の加速感を実現しつつ、微細なスロットル操作へリニアに対応するドライバビリティは海外仕様より上だと発表会の壇上に立ったヤマハ開発陣は胸を張りました

 

 

ドライバビリティ……エンジンがライダーの意図に沿って円滑に応答する具合はハンドリングに直結していますからね。つまり、低~中速域での操縦安定性に関わるスムーズさや気持ちよさは国内仕様に軍配が上がります」と担当者。

VMAX走り

●そこに「ある」だけで周囲の空気まで変えてしまう存在感……

 

 

筆者も取材で体験できたのですが、なるほどストップ&ゴーが続く市街地走行が長引けば長引くほど国内仕様「VMAX」の意のまま感が際立ってくると感じました。

 

 

そして高速入り口でフルスロットルを喰らわせた瞬間脳ミソが後方へ置いていかれるような強烈なGを体験……。

加速イメージ

●国内仕様が遅いだのどうだのイチャモンをつけてくる困ったちゃんライダーに対し「スロットルをガバッと開けられるもんなら開けてみぃや!」と一喝するような開発陣の意気込みを感じた仕上がりっぷり。小生も感動しました(^^ゞ

 

 

いや本当に必要にして十分、二十分、三十分(?)なドドドド怒濤の加速感!

 

 

あと何度だって書きますが、巨体からは想像がつかないほどワインディングでの身のこなしも軽やかなんですよ2代目「VMAX」は……(そこんとこは海外版も日本版も同じ)。

VMAX走り

●乗り手のスキルさえ伴えば「そんじょそこらのスーパースポーツには簡単に負けない運動性能を持たせてあります」という開発陣の言葉が心底理解できるはず!

 

 

キーパーソンいわく「ここまで手間暇かけて国内仕様を仕上げたのは日本のユーザーを守りたいから。バイクへの風当たりが強くなっているなか、メーカーが各種サービスに直接介在できる状況を通じて大人の文化としてのVMAXライフを提供していきたいのです(大意)」。

 

正直なところ逆風だらけの状況ながら使命をまっとうした2代目!

 

かくいう意気込みで2009年4月20日から年間800台という販売計画のもと、全国約200店の「VMAX取扱店」を窓口に231万円にてリリースが開始された国内仕様「VMAX」。

 

 

前回で述べたとおりスタートダッシュを決めたいところで世界金融危機のアオリを受け、早々に並行輸入業者による200馬力海外仕様まで国内へ流入

 

 

さらに2011年には似たようなコンセプトと言えなくもないドゥカティ「ディアベル」が185万円という価格で日本市場へ登場するなど逆風が吹き荒れっぱなしだったシン・魔神。

●1198.4㏄水冷4ストV型(ドゥカティはL型と呼称。バルブ駆動はデスモドロミック)2気筒DOHC4バルブエンジンはイタリア本国仕様で162馬力/13.0㎏m(日本仕様は112馬力/11.6㎏)を発揮。変速機は6速リターン。燃料タンク容量17ℓ、シート高770㎜(日本仕様は750㎜)、装備重量225㎏。タイヤはフロント120/70ZR17、リヤは「VMAX」より太い240/45ZR17! 登場するやいなや同社のドル箱車種となり全世界的に大ヒット! 14年経った現在では「Diavel」だけでなく「XDiavel」ラインも構築され、ともにV4エンジンを積むモデルまで登場……。なんだか非常に口惜しいッス

 

 

駄菓子菓子! 

 

 

ヤマハ開発陣は一切のブレなく2012年、2014年、2015年、2016年と各年式モデルへ(ぼぼ)カラー変更のみを施しつつ淡々と販売を続け、

2012年型VMAX

2012年型「VMAX」。新色としてマットブラック2を採用し、サイドカバーには新たに職人によるバフクリア処理を導入。なおかつシートステッチの色も赤から灰色へと変更を受けました

2014年型VMAX

2014年型「VMAX」。色変わりとしてマットグレーメタリック3を新採用

2015_VMAX

2015年型「VMAX」。追加されたベリーダークレッドメタリック2(シートには赤いステッチを採用)。上で紹介しているマットグレーメタリック3と合わせて2色展開に〜

2016年VMAX青

2016年型「VMAX」のSTDモデルはダークパープリッシュブルーメタリック1の装いに……

2016VMAX60周年

●2016年型はもうひとつ、ヤマハ発動機創業60周年を記念した「VMAX 60th Anniversary」も登場! 2015年11月17日から2016月4月末日までの受注生産モデルで本体価格はSTDより10万円高い230万円。そちらに消費税が上乗せされ248万4000円にて発売されました。カラーリング名はヤマハブラック

2016_VMAX_60TH

タンクとリヤカウル天面にイエロー地にブラックのスピードブロックを配して1970〜80年代の欧米のレースを疾走したヤマハ車のスピリットを表現。また、マットブラック塗装をエアインテークやサイドカバーに。ハーフグロス塗装をエキゾーストパイプに施して光沢感あるアルマイトパーツとの調和が上質な味わいを印象づけていました

 

 

そして2017年……最終型を120台限定で受注して生産を終了

2016年VMAX青

2017年からは「EURO4(2016年度版)」の排ガス規制をクリアしていないバイクは生産できなくなるため、同年8月をもって「VMAX」は生産が終了するとアナウンスされました。120台限定で有終の美を飾ったのは2016年モデルでも採用された蒼きダークパープリッシュブルーメタリック1のカラーリング……

 

 

 

これをもって2代目「VMAX」の歴史は一旦閉じられたのです。

 

純利益が過去最高を記録している現在のヤマハはVMAXのおかげ!?

 

北米・欧州・日本ほかの各仕様をまとめた総生産台数が9万3196台だったとヤマハ発動機広報部から正式に(誇らしげに!?)発表された初代とは対照的に2代目の総生産台数は公表されておらず少なくとも筆者には見つけられませんでした。

 

 

では大ヒットしなかった2代目「VMAX」は失敗作だったのか? 

失敗?

●………………

 

 

そんなわけはございません。

 

 

「VMAX」開発&生産で培われた貴重なノウハウ、攻めた販売方法で得られた深い知見などは後のヤマハを大きく変貌させ、現在につながる好調な業績の礎となったと筆者は考えております。

やったね大成功

●2024年12月期の連結業績で売上高が過去最高を更新し、同年1~6月期の連結決算では純利益が前年同期比で9%増の過去最高を記録しているヤマハ発動機。それもこれも「VMAX」のおかげ!?

 

 

次回(最終回)はそんな「VMAX」が遺したものを検証してまいりましょう!

カタログ

●2015年型「VMAX」カタログより。キャッチコピーは「ヤマハは細部に宿る。」ですよ……もうこれだけでゴハン38杯はイケてしまうくらいシビれる惹句ですよね〜。そんな何もかもが特別のスペシャル(^^ゞで魔神専用パーツが目白押しだった「VMAX」から一転、エンジンや骨格を共用しつつ柔軟に多くの車種を展開できるプラットフォーム戦略へ……。2010年代からヤマハのコペルニクス的転回が始まります!

 

 

あ、というわけで、今こそ乗るべき永遠〈とわ〉のバイク……ヤマハの至宝「VMAX」。レッドバロンには初代並びに2代目とも在庫がしっかりあり、アフターサービスも万全ですので是非お近くの店舗で在庫チェックからスタートしてみてください!

 

 

VMAXという孤高の“魔神”【その10(最終回)】は今しばらくお待ちください m(_ _)m

 

VMAXという孤高の“魔神”【その8】はコチラ!

 

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