開発陣並びにキーパーソンからも『ヤマハの至宝』と称された2代目「VMAX」。衝撃的なデビューを果たし、瞬く間もなく全世界に熱狂的なファンを生み出した初代の降臨から20数年後にフルモデルチェンジを受けたシン・魔神ですから、そりゃもう押すな押すなの引く手あまた状態になる……かと思いきや、あまりにも生まれたタイミングが悪すぎた!?

VMAX1700

●2代目「VMAX」登場時にヤマハが発信した熱い想い……長くなりますがここで紹介させていただきます。「人にとってその物が何であるか」。VMAXの開発とは、まるで禅問答のような問いかけの連続でした。性能を競うものでもなく、限定された用途や利便性を追求したものでもない。この問いに対する答えは、VMAXを支持していただける方々の見識に委ねたいとヤマハは考えます。ひとつだけ、このモーターサイクルを創り出した私たちが申し上げられることは、「人生を豊かにするものであれ」ということです。VMAXはヤマハの至宝であり財産。ヤマハのモノ創りの精神である人機官能の象徴です。走る、見る、触れる。そのすべての瞬間にまだ出会ったことのない感動をお届けしたい。VMAX、その細部にヤマハが宿る。……今読んでも感涙モノです

 

 

VMAXという孤高の“魔神”【その7】はコチラ!

 

VMAXという孤高の“魔神”【その9】は今しばらくお待ちください m(_ _)m

 

「世の中には思いもよらない不運ってもんがあるんだよ」by内海!?

 

歴史にタラレバテレレバーパラレバーパトレイバーもないのですが、本当に2代目ヤマハ「VMAX」は生まれ落ちた時代に恵まれなかった……と言えるのかもしれません。

パトレイバー

●お約束の与太……というかダジャレで御免 m(_ _)m。○○していたら、××していれば……と事実とは異なることを仮定してする後悔を意味する俗語「たられば」。BMWのサスペンション名称と掛け合わせる言葉遊びは何度もしてきたのですが、今回は筆者も大ファンの「パトー」も追加。こちら、もう文句なしに面白いので電子版からでもいいですから、チェックいただけたられば)最高です!

 

 

 

1990年代初頭に起きたバブル崩壊を受けて深く静かに沈降していった日本経済

 

 

2003年4月には国力の指標でもある日経平均株価が7608円まで落ち込み(ちなみに現在は4万円台近辺)、「なんだかなぁ!(加藤あい、いや阿藤快)状態になっておりました。

株価暴落

日本の産業を支える大手企業の株価からなる日経平均株価は、株取引の参考になる指標の中でも代表的なもの。日本経済と株式市場の動向を把握する上でとても参考になるため日々のニュースでは為替と同時に報じられていますね。超絶大ざっぱに言うとコイツがガンガン下がるときは、我がニッポンが国内外から見限られている状態ということ

 

 

しかしそこからEU(欧州連合)の通貨同盟完全施行からの好景気や米国での不動産バブル、中国経済の驚異的成長などなど数多い外的要因の恩恵も受けて、2003年頃から数年間な~んとなく渡る世間だけでなくバイク業界においても金回りの良かった時期があったことを覚えていませんか?

ユーロ

楽天イーグルスのマーク……ではないですよ。1999年1月1日に誕生したヨーロッパにおける統合通貨「€(ユーロ)」です。始まってからしばらく、やたら高かった時期もあって筆者が行かせてもらったケルンショーやミラノショーの取材でも苦労した思い出が〜。つまり欧州に住む人にとってはいろんなものが割安感とともに買えたわけです。そりゃぁ「オラオラ! べらぼうでブラボーな速いバイクでもいっちょ買っちゃろバモス!」となりますよね

 

 

欧米で高額なバイクが飛ぶように売れていた2000年代前半……

 

 

端的な例で言えばリッタースーパースポーツの大ブーム

 

 

欧州……特にスペインを中心に「GSX-R1000」やら「YZF-R1」やら「Ninja ZX-(9)10R」やら「CBR1000RR」などが売れまくり、「日本メーカーにだけ美味しい汁を吸わせてなるものか!」とばかりドゥカティ、アプリリア、KTM、トライアンフら欧州勢も同じ土俵へゾックゾクと参戦

マスターバイク

●欧州のバイクメディアが中心となり、同じサーキットにありったけのスーパースポーツを集めてどれが一番なのかを決める壮大な企画「マスターバイク」! プチ好景気だったころはモーターサイクリスト誌も日本代表として招待され、ライダーと編集者が勇躍スペインのサーキットへ空の旅を行ったものです(遠い目)

 

 

1980年代後半の2スト&4ストレーサーレプリカよろしく、各メーカーが1~2年ごとにアップデートもしくはフルモデルチェンジしたリッタースーパースポーツ(600㏄クラスも同様に盛り上がりました~)を欧米を中心とした市場へドカスカ投入するという、今となってはとても信じられない(特に日本メーカーの現状を見るにつけ……(^^ゞ)夢のような状況となっておりました。

2004年型YZF-R1

●1998年の初代デビューから6年目で第4世代となった2004年型ヤマハ「YZF-R1」(変遷をまとめた公式サイトはコチラ)。乾燥重量172㎏&最高出力172馬力でパワーウェイトレシオ「1」を達成しつつ、メチャクチャスタイリッシュな外観をまとったモデルとして筆者的にも思い入れひとしおな1台。日本へも逆輸入車がドカスカ入ってきておりましたなぁ。あらゆるバイクメーカーが「乗るしかない、このビッグウェーブに!」と目の色を変えていたのです

 

 

日本では金回りが良くなるとハイパフォーマンスモデルが開発される!?

 

 

我が国なら空前絶後のビッグスクーターブームに沸いていたころですね。

 

 

当時は渋谷にある坂という坂にカスタムされまくった「フュージョン」やら「マジェスティ」やら「スカイウェイブ」やら「エプシロン(!?)」

カワサキ エプシロン

●そ〜なんです! 今をときめく硬派カワサキも♪イッツ オートマ〜チックなビッグスクーターを販売していた時期があったのです。2001年に始まったスズキとの業務提携を受け「スカイウェイブ250」を横流し……いや失礼、OEMにより「エプシロン250(写真は2002年型)」として販売していたのですね(逆パターンは「バリオスⅡ」→「GSX250FX」や「D-トラッカー」→「250SB」など)。なんだかんだ「エプシロン250」はモデルチェンジを受けつつ2006年版まで存在したので探せば中古車があるかも……。なお、スズキとカワサキの業務提携は2007年に終了しております

 

 

……やらが道路を埋め尽くす勢いでズラズラズラ~リと駐車しており、桂花ラーメンでターローメンを食べた腹ごなしがてらチーマーに気をつけつつナウなヤングが闊歩する街を散策するたび、かくいう風景には圧倒されたものです。

ホンダ フュージョン2003

●1986年に発売され小ヒットはしたものの忘れ去られていたホンダ「フュージョン」が、ポストTWを探すストリート系ライダーの熱い支持を背景に2003年、まさかの大復活(写真はショートスクリーン&パイプハンドルを標準装備した「フュージョン・タイプX」) 大都市にはこれらビッグスクーターを魔改造……足元に鉄板、シートや外装パーツはラメラメ。車高をベタベタに落とし、場合によってはロングスイングアームまで装着。さらに夜間怪しく輝く電飾や大音量オーディオまで取り付けるショップがゾクゾクと開店しました。50万円台で買った新車へ速攻で150万円クラスのカスタムを施すオーナーが山ほどいたのですから当然ですね……。♪みんな何処へ行った〜

 

VMAXダミータンクカット図

●欧州の金回りは良くなり大型バイクが飛ぶように売れ、米国は住宅ローンバブルでモトクロッサーほかレジャー用途モデルなども絶好調! ASEANではアンダーボーンフレームのスポーツバイクやスクーターが文字どおりケタ違いの販売台数を記録するなど、潤沢な金額的余裕が開発の終盤に差し掛かっていた2台目「VMAX」へ徹底的なこだわりを注ぎ込めた理由でもあるでしょう。どうですか、このカットモデルを見ても分かるように車体ほぼ全てが「VMAX」向け専用部品の塊というたいへんなへんたいぶりは……(^^ゞ

 

 

2007年7月には日経平均株価は1万8262円まで回復し、同年12月には世界を見据えたハイパフォーマンスカーに生まれ変わった日産GT-R(R35)」がついに発売開始と、

日産GT-R(R35)

●日産の社長だったゴーンさん肝いりで復活が計画された「GT-R(写真は2007年型)」。当時世界一とも言える走行性能が777万円から買えるとあって一大センセーションを巻き起こしました(現在は約1440万円〜3061万円!)。販売は全国160カ所に設置されたNHPC(日産ハイパフォーマンスセンター)のみで行われ、手厚いサービスを提供するとともに違法改造の防止も推進……。「カスタムの自由を奪うのか!?」と、こちらには賛否両論が百出した記憶がございます

 

 

クルマもバイクも大好きな筆者のような人間なら当然、そうではない一般的な人々の間にも何となく「超絶☆好景気が再び……!?」といった雰囲気が漂い、ドキドキワクワク感が世間に蔓延していたのではないかと。

VMAX日本仕様

●正直言うと国産メーカーにとって規制ばかり厳しくて規模が小さくなった日本市場なんぞどうでもよくなりはじめていった……いや、優先順位がみるみる下がっていったのがこの頃でもあるのです。しかしヤマハは2代目「VMAX」の国内仕様を真摯に作り込んでいきました。開発陣いわく「日本向け車両の完成度は輸出仕様より上です」と断言するほど! そのあたりの内容は次回詳しく……

 

 

海の向こうで大事件が起きていたなんて知らずに……。

 

 

そして歴史は繰り返し、とんでもない規模の不況が世界を覆った!

 

詳しく知りたい方はそれぞれキーワードをググっていただきたいのですけれど、2007年9月からアメリカでサブプライム住宅ローン危機が顕在化し、2008年9月15日に大手投資銀行のリーマン・ブラザーズが経営破綻! 

住宅ローン

サブプライムローンとは信用力の低い個人や低所得者を対象とした住宅ローン。米国ではこちらが広まったおかげで不動産が売れまくり、市場全体の金回りが非常に良くなったのですけれど……。やたらめったら貸し付けているうち高金利で高リスクなローンの本性がキバを剥き、返済不可能になる人が続出! バブルが崩壊しました

 

 

その「リーマン・ショック」をきっかけに世界金融危機(金融機関の経営破綻や信用不安の拡大を始めとして、経済が危機的な状況に陥ること)が始まったのです!!

 

 

ヨーロッパも同様の事態へ陥って新興国の経済にも深刻な悪影響が及ぶ事態にィィィィッ。

 

 

当初は「対岸の火事に過ぎないでしょ」と侮っていた感のあった我が国も結局どっぷり巻き込まれ、2008年10月28日には日経平均株価がバブル以降で最安値となる6994円90銭まで下落するという状況へ。

火事

●上図はいらすとやさんの「本能寺の変」……。対岸の火事そのものズバリなものがなかったため、あくまで火事イメージということで……。それはそれとしてにっくきはドミノ倒しのように連鎖していった金融危機。全世界的に労働者の手取りが減るわ、簡単にクレジットやローンも組めなくなるわで生活必需品ではないバイクの売り上げが激減……。そのアオリを受けて毎年のように進化していたスーパースポーツなどはせいぜい色変わりするだけの放置プレイが始まり、モデルラインアップも縮小の一途へ。負の連鎖は一度動き始めるとなかなか止まらないのです……

 

 

企業の業績悪化による影響から「派遣切り」なんてイヤな言葉も生まれてましたね。

 

あまりに急激な状況変化に対応しきれないまま生み出されたシン魔神……

 

 

ハイ、そうなんです。

 

 

2008年6月5日に輸出仕様がデビューした2代目「VMAX」は、まさに欧米経済の底が抜けるタイミングでの登場となり、

落とし穴

「金融危機ハンパないって! もぉ~リーマン・ショック、ハンパないって! 全世界が数ヶ月で後ろ向きになるトラップなんて、そんなん予測できひんやん普通……」 と、ここで筆者が大好きな大迫ハンパないって構文を使わせていただきました。まさしくこの世、一寸先は闇

 

 

対岸の火事だったはずのド不景気が見事にニッポン経済界を焼き尽くしている真っ最中だった2009年4月20日日本向けモデルがリリース開始……と、後になって考えてみれば言葉を失うほどのバッドタイミングシン・魔神は降臨してしまった……と言っても過言ではないでしょう。

 

 

さらにはその国内仕様、最高出力は151馬力で価格は231万円

2009_VMAX_JPN

●2009年型となるヤマハ「VMAX」国内仕様はボア×ストローク90×66㎜、圧縮比11.3というシリンダー挟角65度の1679㏄水冷4ストV型4気筒DOHC4バルブエンジンに電子制御スロットル(YCC-T)や可変ファンネル機構(YCC-I)まで備えるFIが導入され、最高出力151馬力/7500rpm、最大トルク15.1kgm/6000rpmを発揮(変速機は5速リターン)。燃料タンク容量15ℓ、シート高775㎜、装備重量311㎏。タイヤはフロント120/70R18、リヤ200/50R18。60㎞/h定地燃費は16.0㎞/ℓ。本体価格は220万円で当時の消費税5%を含めると231万円になるという計算でした

 

 

販売は事前にヤマハの定める厳しい「取り扱い条件」をクリアした全国約200店舗(当時)のみが受注注文で行うというプレミアム感☆満載な方式……。

 

 

前述した日産「GT-R(R35)」の売り方にソックリなことも大きな話題となりました。

 

 

仕上がりに絶対の自信を持ち、約10年間走行性能に一切の変更なし

 

 

困惑したのは日本のファンたち。

 

 

「新車の初代を100万円程度で購入したのですが、今度は倍以上ですか! 出来映えの良さは間違いないでしょうけれど……悩むな~っ」や「国内仕様で151馬はとんでもなく凄いことだけど、どうしても本来の姿である200馬力の輸出仕様が気になってしまいますネ」といった声を取材先で数多く聞いたものです。

 

 

ヤマハが設けた厳しい条件をクリアした「VMAX取扱店」で151馬力の国内仕様を購入すれば、3年間は定期点検や油脂類の交換やロードサービスが無料となり、さらに1年間の盗難保険まで付帯となりましたが、180㎞/h以上出せないスピードリミッターも標準装備ですのでモヤモヤ感が残ります

VMAXリヤビュー

●「厳しい諸条件をパスした最高のモノを作り上げたのだからフルノーマルのままで楽しんでほしい」という開発陣の思いと、「大枚はたいて購入したからには自分好みのカスタムやチューニングだって行いたい」というユーザーの願望。このせめぎ合いが2代目「VMAX」国内仕様にはつきまとっていた……という記憶が残っています

 

 

初代のハイパワー版逆輸入車を多数販売してきたプレストコーポレーションは、2代目「VMAX」デビュー前から「排ガスや騒音など各種環境諸規制をクリアできるかが不明なので取り扱いません!とキッパリ

 

 

ところがしばらくして、とある別の並行輸入業者が「輸出仕様でも日本を走れることが判明しましたので、200馬力版を売り出しま~す」と大々的に宣伝を始めたものですから、正規版シン・魔神に忠誠を誓いたい購入予備軍だってさすがに右往左往してしまいます。

VMAX走り

●いや、アタマでは分かっているんですよ。日本国内で200馬力なんぞ全くもって不要だし、ましてや180㎞/h以上出すなんて非合法の極みだとは……。でも、制限のない本来の姿を追い求めてしまうのもライダーのサガではないでしょうか(^^ゞ

 

 

もちろんヤマハの意気に感じ「国内仕様? フルパワー? あ~だこ~だ関係ないっ! とにかく新型VMAX持ってこいやぁ!」という漢気と潤沢な資金あふれるガールズ&ボーイズ(?)は一定数いらっしゃったのですが、「流行りに乗ってみるか~」的な日和見ライダーレベル(初代では多かった!?)だと、購入に至るまでのハードルがとても高く感じられたのは事実でしょう。

 

 

ホント、歴史にタラレバはないのですけれど環境諸規制などの条件をクリアすれば最高出力に規制なく、180㎞/hリミッターも撤廃された現在の状況下でシン・魔神が生まれ落ちていたなら……。

最後のVMAX

●詳細は次回以降述べますけれど2017年型(写真)をもって生産終了が告げられた「VMAX」。バイクの馬力規制は2007年になくなったのですが、ヤマハは信念を貫き開発した国内仕様の151馬力には変更を加えず。なおかつ180㎞/hスピードリミッターは2018年モデルから付けなくてもオーケーに……と、どこまでもタイミングには恵まれなかった2代目「VMAX」ではありますが、その高い価値は全くもって不変だと断言できます!

 

 

 

バイクを生み出すタイミングの難しさを感じずにはいられません。

 

 

 

次回はそんな2代目「VMAX」の国内仕様、その内容と歴史を検証してまいりましょう!

2005年版カタログより

●2015年型「VMAX」向けワイズギアドレスアップパーツカタログより。気合いが入っていましたね〜(^^ゞ

 

 

あ、というわけでヤマハ開発陣、執念の結晶である2代目「VMAX」は今こそ乗るべき永遠〈とわ〉のバイクだとも言えますね……もちろん初代もそうですが(^^ゞ。レッドバロンには両モデルとも在庫がしっかりあり、アフターサービスも万全ですので、是非お近くの店舗でスタッフに質問するところから魔神ライフ(!?)を始めてください!

 

 

VMAXという孤高の“魔神”【その9】は今しばらくお待ちください m(_ _)m

 

VMAXという孤高の“魔神”【その7】はコチラ!

 

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