前編に引き続き、2024年9月27日(金)、宮崎県宮崎市の宮崎市民プラザ・オルブライトホールにて開催されたシンポジウム「第12回 BIKE LOVE FORUM in 南国みやざき」(BLF宮崎)について紹介する。

BLF宮崎では2つのテーマでステージトークが行われ、前編ではバイクツーリズム(観光地へのライダー誘致)に関するトーク対談について紹介したが、後編では電動二輪車の利活用に関するパネルディスカッションの模様をお届けする。

パネルディスカッションは3つのトークテーマで構成

パネルディスカッション「電動二輪車利活用による社会課題(脆弱な二次交通)解決」では電動二輪車の活用について様々な視点から議論が行われた。3つのトークテーマで構成されたので、それぞれの内容について紹介する。

第1部:モビリティー革命の背景と地方部交通網の課題
第2部:電動二輪車“ならでは”の特性を活かした利活用推進
第3部:地方部における社会課題解決に向け、電動二輪車ができること

なお、二次交通とは、空港や鉄道の主要駅といった地域の交通拠点から観光地などの目的地までの交通手段、または日常生活においても複数の交通機関を利用する際に、2つ目の交通機関を指す言葉だ。

▲駅で見かける電動キックボードのシェアリングやレンタルサイクル、レンタルバイクも二次交通にあたる

第1部:モビリティー革命の背景と地方部交通網の課題

▲ファシリテーターを務めた大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻助教の葉 健人さん

 

議論の冒頭、ファシリテーターを務めた大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻助教の葉 健人さんは、特に地方部において少子高齢化が進んでおり、利用者が減ることで電車やバスといった公共交通の維持が難しくなっていることを背景に、公共交通よりも個別に移動できる手段に頼らざるをえない地方都市圏での現状・課題について説明した。

▲少子高齢化、都市部と地方の人口推移等の違いなどモビリティ革命の背景にある社会情勢について説明

 

▲三大都市圏と地方都市圏では個人の移動手段・環境や公共交通環境が大きく異なる

 

▲大都市と地方都市ではMaaSの形態、連携先も異なってくる

 

そして、そうした課題を解決するための手段として、さまざまな移動を束ねるMaaS(マース※)の取り組みへの現状、行政と産業が連携した取り組みへの期待が語られた。

特に地方部では、まちづくりやインフラ整備との連携が重要となり、カーボンニュートラル・脱炭素に向けた環境負荷の低いモビリティの活用が様々な課題解決につながるという考えを示した。

※Mobility as a Service:公共交通はもちろんのこと個人の移動手段までを含めた複数の交通・移動サービスを1つにつなげて利便性を高め、スマホアプリで検索から予約・決済までを行えるような次世代サービス

第2部:電動二輪車“ならでは”の特性を活かした利活用推進

▲日本自動車工業会二輪車委員会電動二輪車普及部会部会長の川端雄介さん

 

第2部では、二次交通の衰退が進む地方都市圏において電動二輪車が有効な移動手段となること、カーボンニュートラルに取り組む自治体との相性の良さもあり日本に適したMaaSの実現に電動二輪車が必要なソリューションであることが、日本自動車工業会二輪車委員会電動二輪車普及部会部会長の川端雄介さんから説明された。

▲自工会は2050年カーボンニュートラル実現に向けてマルチパスウェイで取り組んでいるが、原付領域では交換式バッテリーによる電動化を進めている

 

走行中に二酸化炭素(CO2)を排出しない、騒音や振動がなく乗り心地が良い、構造がシンプル、ガソリンスタンドに行かなくてよい、ガソリン車に比べるとランニングコストに優れるなど電動バイクのメリットが伝えられる一方で、デメリットについても複数挙げられ、バッテリー性能に依存する航続距離の短さ、充電時間の長さ、バッテリー・充電器の価格による初期費用の高さが指摘された。

ただし、よくやり玉にあげられる充電1回分の航続距離が短いという問題については、ユーザーの一日当たりの平均走行距離(7.7km)よりは大きく上回っており、コミューターとしての通勤通学、買い物利用などにおいては現状の性能でも全く問題がないことも説明された。

▲電動コミューターのメリットと課題が示された

 

▲バッテリーは交換式と固定式のそれぞれに適正な需要があると見られている

 

バッテリーシェアリングの有用性

また電動コミューターについては、交換式バッテリーのシェアリングサービスについて、エネオスと国内二輪メーカー4社の共同出資による株式会社Gachaco(ガチャコ)の CEOである渡辺一成さんから現状と課題について説明が行われた。

▲Gachaco(ガチャコ)のバッテリー交換ステーションは飲料自動販売機くらいの大きさだ

 

▲株式会社GachacoのCEO 渡辺一成さん

 

国内バイクメーカー4社による統一仕様のバッテリーを交換ステーションで入れ替えることで電欠をなくす、経路充電(移動中の充電)を素早く済ませるというバッテリーシェアリングは東京と大阪など大都市部で始まっている。

▲東京と大阪でのバッテリー交換ステーションの設置状況

 

バッテリーシェアリングが普及すれば、ユーザーは車両価格の45割ほども占めるバッテリーを購入する必要がなくなり、リースやレンタル・シェアバイクの価値・利便性を向上させることができる。また、性能が低下したバッテリーの回収・リサイクル・二次利用もしやすくなり、そうした面からも地球環境に貢献できるようになる。

▲バッテリーシェアリングのメリットは多い。このほか交換ステーションが災害対策になるというものも

 

▲バッテリー交換ステーションは、都市部では面的に、地方では点的に設置するのが理想

 

地方都市圏の交通手段確保と環境負荷低減、その両方の観点から地方都市圏と電動バイクの相性はとても良いようだ。

電動バイクは通学手段としても有用

▲日置市役所総務企画部企画課ゼロカーボン推進係係長の井上英樹さん

 

また、カーボンニュートラルの推進と公共交通衰退への取り組みという観点から、高校生の通学手段として電動二輪車のシェアリングを導入した鹿児島県日置市の実証事業について、日置市役所総務企画部企画課ゼロカーボン推進係係長の井上英樹さんから説明が行われた。

▲鹿児島市のベッドタウンとしても発展している日置市

 

薩摩半島の中央部に位置する人口45千人の日置市は、温室効果ガスの排出削減とエネルギーの地産地消によるエネルギー代金の地域内循環のため2050年ゼロカーボンシティの実現に向けて取り組んでいる。

これまでも太陽光発電や水力発電など再生可能エネルギーの導入、再エネ実務人材の育成、再エネ普及促進事業などを提案し、環境省が募集する脱炭素先行地域にも制定されている。

▲日置市は2050年カーボンニュートラル実現を目指し、脱炭素政策に取り組んでいる

 

こうした取り組みのひとつとして、人口減少が著しい吹上地域において、電動バイクのシェアリング実証事業および再エネ普及に向けた理解促進事業を行っており、こうした取り組みは経産省のエネルギー構造高度化・転換理解促進事業にも選定された。

その背景には、運転手不足による通学バスの廃止や減便がある。通学にちょうどいい時間のバスがない、部活に影響が出る、車で送迎することが負担になるといった生徒や保護者からの声があり、こうした状況が学校の生徒募集にも影響し、地域が存続するための社会課題となっていたことが挙げられた。

▲吹上地域の高校では、生徒も保護者も学校も公共交通衰退の影響を受けて困っていた

 

電動バイクを用いた通学実証実験は2024年9月から開始されている。通学手段にバイクを使用することに対しては不安視する声も出ていたが、参加生徒の安全運転教育をしっかり行うことで実現した。

▲生徒の7割が普段からバイク通学を行っている県立吹上高等学校でライドシェアリング実証事業を開始。その半数が電動バイクに切り替えると、二酸化炭素排出量を年間35トンも削減できる見込み

 

第3部:地方部における社会課題解決に向け、電動二輪車ができること

第3部はパネルディスカッションのまとめという内容になった。ファシリテーターを務めた大阪大学の葉 健人さんは、地方では移動手段の確保が難しくなるなか電動二輪車が日本版MaaSの実現に対してひとつのソリューションになり得るとし、一方で普及のためには正しい認知の拡大と地域と連携した取り組み、所有だけでなくシェアリングの活用など社会システムとして機能させることの重要性を挙げた。

また他の登壇者からは、電動二輪車がガソリン車の代替手段としてだけでなく、地域課題の解決とユーザーのQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)向上に寄与すること、シェアリングの活用が循環型社会の実現に貢献し、充電ステーションの普及が災害への備えとして地域レジリエンス(耐久力・回復力)の強化にも貢献できることなどがつけ加えられた。

筆者の所感:聴きごたえのあるステージトーク

▲フォーラム会場に展示された国内4メーカーの電動バイクと4社で仕様統一された交換式バッテリー

 

12回目の開催となったバイクラブフォーラムは、ステージトークの内容が例年にも増して良かったなという印象だ。バイクツーリズムもコミューターの電動化も、二輪業界や二輪市場、バイクの利用環境だけにとどまらず、今後の社会とバイクのあり方、その良好な関係性を考えるうえでとても重要なテーマだった。

国内二輪市場が停滞するなか、販売台数などの量だけにとらわれずモノもヒトもその質を高めていくことでバイクの価値を再定義していくことは、モビリティの変革のなかバイクが生き残っていくことにとても有益なことだと再認識した。

次回、2025年9月19日に開催される「第13回 BIKE LOVE FORUM in 埼玉・おがの」の開催内容にも期待したいし、読者の皆さんにもぜひシンポジウムに足を運んでほしい。

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事