ホンダのCRF250L、CRF250ラリーだけでなく、2024年末にはカワサキからKLX230、KLX230シェルパが登場。2025年には久々の400ccクラストレールとなるスズキ・DR-Z4SやKTM・390エンデューロRも発売開始になった。こんな感じで近年にわかに盛り上がりつつあるのがオフロードバイクというジャンルだ。ただこのオフロードバイク、いざ始めようとするとちょっとばかし特殊でエントリーユーザーにはわかりにくいことも多い。そこでオフロードバイク遊びをするためのハウツーや用語を毎回少しずつ紹介していく本企画。今回は『トレールバイク』をピックアップ。この“トレールモデル”や“トレールバイク”といった表現はオフロード系の記事でよく見かけるけどオフロードバイクのことじゃないの? ナニか違うの?

16年ぶり、国内モデルとして久々に復活したスズキ DR-Z4Sも『トレールバイク』だ。軽二輪クラスが多い『トレールバイク』にあって、水冷398ccのDOHC4バルブ単気筒エンジンを搭載。試乗記事はこちらにて!
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『トレールバイク』はナンバー付きのオフロードバイクと思っておけば“ほぼ”間違いない!
ハイッ! いきなり結論。『トレールバイク』とはナンバー付き、つまりは公道を走ることができるオフロードバイクのことだ。ただ、“ほぼ”なんてまどろっこしい書き方をしたのは、ナンバーを付けられるオフロードバイクの中には競技用のエンデューロバイク(エンデューロレーサー)もあったりするから。

KTMのエンデューロレーサーであるEXCシリーズは4ストロークモデルを中心にナンバー取得が可能。ヘッドライトを装備しており、同梱されているウインカーなどの灯火類を取り付けるなどしてナンバー登録すれば日高2DAYSエンデューロといった公道を活用する競技への出場が可能となるのだ。写真は2018モデルのKTM 250EXCを走らせる筆者。この頃のモデルは2ストロークエンジンを搭載していてもナンバー登録できた。
このエンデューロモデルはオフロードバイクであることは間違いないが、あくまでオフロードコースを走行したり、レースに出るためのコンペティションモデル。一部公道区間を使うラリー競技のためにナンバーを取得できるようになってはいるものの、あくまでそれは競技に出場するためのものであって『トレールバイク』という括りには収まらない。
これらのエンデューロレーサーはナンバーが取得できるうえに、現代の『トレールバイク』では義務化されているABSの装着も特例的に免れている。ただし、それには①シート高が900mm以上、②最低地上高が310mm以上、⑤競技向けのギヤ比、③車量重量140kg以下、④1人乗り仕様であること……、といったエンデューロレーサーとしての要件を全て満たす必要がある。蛇足だがトライアルバイクにも似たようなABS装着免除の要件がある。

『トレールバイク』はオフロードバイクではあるが、未舗装とはいえあくまで“道”を走るためのバイクなのだ。
ちなみにトレール(trail)とは舗装されてないような小道のこと。つまりはオフロードコースのような不整地ではなく、あくまで“道”を走ることを目的に作られたオフロードバイクが『トレールバイク』というわけである。
『トレールバイク』のことを、メーカーによっては“デュアルパーパスモデル”とか“オン・オフモデル”なんて呼び方をする場合もあるけど、この場合の“デュアル(二つ)”や“オン・オフ”とは、舗装された“道”も未舗装の“道”もどちらも走ることができるバイク、という意味。つまり『トレールバイク』と同義と思って間違いない。

飛んだり跳ねたりのモトクロスコース。こんなシチュエーションもオフロードであることは間違いないが、道(trail)ではない(笑)。ただメーカーは、『トレールバイク』のオフロード性能の高さをわかりやすく示すために発表/試乗会をあえてこんな本格的なオフロードコースで開催することもある。写真は2007年、WR250R登場時に行われた試乗会で場所はスポーツランドSUGOのモトクロスコースでライダーは鈴木健二選手。『トレールバイク』ではあるが“乗れる人が乗ればノーマルタイヤのままでもここまでできる!”ということをアピールした。
そして『トレールバイク』最大の特徴は、モトクロッサーやエンデューロバイクといった競技用のモデルとは違い、“日常的に舗装路を走っても不都合が起きない設計で作られている”というところに尽きる。公道では街中での低速走行はもちろん、軽二輪クラス以上の『トレールバイク』であれば高速道路走行や二人乗りをすることになる。『トレールバイク』はそんな高い負荷のかかる高速走行や二人乗りといった状況にも耐えられるよう、競技用モデルよりも車体剛性が高め。
イメージ的にはレースに使う競技モデルの方が車体の剛性は高そうな雰囲気があるが、そこまで高いスピードを必要としないオフロード競技車と『トレールバイク』とではむしろ逆。滑りやすい路面で踏ん張りを効かせるために車体剛性は低めの方が有利。エンジンのギヤに関しても、トップスピードよりも低速の加速を重視するモトクロッサーなどは、クロスミッションでそもそも5速しかなくトップスピードは意外に低かったりする。これは最高速よりもエンジンの軽さやコンパクトさを重視してのことだ。

二人乗りや高速走行、時にはその両方をするためには、より高負荷な状況に耐えられるフレームやサスペンションが必要になる。このため『トレールバイク』はモトクロッサーやエンデューロバイクに比べると車体の剛性が高めであり、その対価として車両重量が重くなるというわけだ。
大まかに分けて『トレールバイク』は3種類
『トレールバイク』の大まかな定義がわかったところでさらに細かく見ていこう。ひと口に『トレールバイク』といっても、その成り立ちによっていくつかの種類に分類できる。まず一つ目が……
①純粋なオフ車として生まれたトレールバイク
実名をあげれば最近登場したスズキのDR-Z4SやヤマハのWR250Rなどのモデルがここに分類される。オフロードを走るのに適したエンジン、フレーム、スイングアームなどが専用設計で作られており、総じて『トレールバイク』の中では高めのオフロード性能が追求される。路面からの大きな衝撃を受け止めるためにサスペンションストロークはより大きくとられ、最低地上高も大きめ。その一方でシートが高くなりがちであり、その数値はスズキのDR-Z4Sで890mm、ヤマハのWR250Rで895mmと、『トレールバイク』の中ではかなり高め。

スズキのDR-Z4S(右)とモタードモデルのDR-Z4SM(左)で、先代であるDR-Z400Sはレーサーをベースに誕生した経緯がある。モデルチェンジしたDR-Z4Sのギヤが現代のバイクで主流な6速ではなく5速のまま登場したのも、そんなレーサーがベースだった先代の素性に由来する。

スズキのDR-Z4Sのエアクリーナーフィルターは湿式を採用。オフロード走行ではエアクリーナーフィルターが汚れやすく、すぐに交換したり清掃したりできるようになっている。
②ロードバイクからの派生したトレールバイク
次はロードバイクから派生したオフロードバイク。こちらも実名を出せば、ホンダのCRF250L/ラリーやカワサキのKLX230/KLX230シェルパ、KTMの390エンデューロRといったところ。ホンダのCRF250Lは、元々フルカウルのロードバイクであるCBR250R(現在はカタログ落ち)の単気筒エンジンを使って作られた『トレールバイク』だ。ただオフロードモデル専用に作られていないエンジンはその全高が大きくなりがちで、最低地上高を確保するのが難しい場合が多い。

CRF250L(左/2012年登場)とCBR250R(右/2011年登場)。CRF250Lへの転用を見越して開発が行われたが、そのキャラクターは舗装路セクション重視。ただし2020年のフルモデルチェンジではギヤ比を変更するなどエンジンキャラクターはオフロード寄りに改められた。
ちなみにカワサキのKLX230は、クラシックなW230系とエンジンを共用しているが、成り立ちが逆で元々あった『トレールバイク』KLX230のエンジンを、クランクマスを重くするなどしてクラシックスタイルのW230に相応しい鼓動感強めのキャラクターに改変している。

KLX230(左/2024モデル)とW230(右/2024モデル)。『トレールバイク』のエンジンをロードモデルに転用して生まれたW230。ただしクランクケースやシリンダー&ヘッドなど、非常に多くのパーツを作り変えておりエンジンの見た目……というかエキゾーストパイプの取り出し口からして違う。

2025年9月に発売となったKTM 390エンデューロR(左)は、エンジンをネイキッドモデルの390DUKE(右)と完全共用。この2つのモデルは最高出力や最大トルクといった数値も一緒だ。
③競技用モデルを公道走行仕様にしたトレールバイク
最後は、モトクロッサーやエンデューロマシンなどの競技用モデルを公道走行仕様にしたオフロードバイク。近年で代表的なのがホンダのCRF450Lで、モトクロッサーであるCRF450Rをベースに公道仕様化。コンペティション(競技用)モデルとして生まれた高性能なマシンを最低限の改変で公道を走れるようにすることがコンセプトとされた。ちなみにCRF450Lの“L”とはストリートリーガル(STREET LEGAL)のL。オフロードへ割り切った性能のために1人乗り仕様となっている。

ABS装着義務化直前の2018年に登場し、日本国内では短命に終わったCRF450L。タンクを樹脂製からチタン製にするなどの改変も行われた他、キーイグニッションやハンドルロック機構なども盛り込まれている。左がCRF450Lで右がベースとなったモトクロッサーCRF450R。
また競技モデルを公道走行にしたオフロードバイクは、高いオフロード性能を持つ一方でメンテナンスサイクルが短めだ。高速巡航性能の低さといった性能面はもちろんだが、『トレールバイク』のように通勤や通学、ツーリングといった用途で長時間にわたって舗装路の上で酷使される目的では作られていないので、ブレーキやサスペンションなどの容量も低め。性能を維持するためには、一般的な『トレールバイク』と比べるとかなり短いスパンでメンテナンスやオーバーホールをする必要がある。

高速道路の走りやすさも考慮し、5速だったCRF450Rのユニカムエンジンを6速化して搭載。筆者はこのCRF450Lでレースにも出たことがあるが、『トレールバイク』とは一線を画す車体の運動性能に舌を巻いた。
というわけで、ひと口に『トレールバイク』といっても色々あることがお分かりいただけただろうか? なのでオフロードバイクを選ぶ際は、オフロードでの性能をどれだけ重視するか? それともロードセクションでの快適性や耐久性を重視するかでチョイスするモデルも変わってくるぞ!
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> ⑩「湿式エアクリーナーフィルターのメンテナンスはどうやるの!?」
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> ⑫「オフロード走行では何を着たらいいの!?」
> ⑬「オフロードグローブって消耗品なの!?」
> ⑭「オフロードバイクは高速道路が苦手!?」
> ⑮「ダート林道は一人で走っちゃいけないの!?」
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