はじめに。冬の北海道ツーリングには大きな危険がともないます。
ほぼすべての路面が凍結し、天気や除雪状況によって大きくコンディションが変わります。

記事中では筆者 高木はるかが実際に使った装備やルートをご紹介しますが、絶対的な正解ではなく、その日その時の状況に合わせて対応する必要があることをご了承ください。


前回の記事はこちら

年越し北海道ツーリングに再挑戦:4 ついに到達!最北の地『宗谷岬』

本記事のルート

2022年12月30日



2022年12月31日


名寄へ戻ろう!

2022年12月30日 午前8時半
気温は-4度。

稚内では夜通し吹雪が続いていたようで、青空駐車の軽トラックは風下側を中心にモフッと真っ白になっています。
どうやら風が強い中でパウダースノーが降ると、風上側は雪がすべて吹き飛ぶ一方で、風下側では風に巻き込まれた雪が貼りつくようです。

「名寄へ戻ろう!そのあと、網走へ向かってみよう!」

年越しを目前にしてそう決めたのは、あと3日間も稚内から出ずに過ごすのが勿体ないように感じたから。
せっかく時間があるのなら、もっといろんな場所を走りたい。もっと冬の北海道を冒険してみたいと思ったのでした。

新たな目的地は、前回の年越し北海道ツーリングで初日の出に感動したオホーツク海。
しかし、前回と同じく紋別に泊まるのは守りに入り過ぎかな?…ということで、紋別よりも先の網走へ行くことを決めました。

スーパーカブに筆者が、軽トラックに夫が乗って出発です。

稚内市街地では朝から頻繁に除雪が入っているようで、主要道だけでなく、ちらっと見える脇道までもきれいな圧雪&アイスバーンが広がっている印象です。
幸いにも雪はほとんど降らず、視界は良好。一気に国道40号線を走り抜けました。

小晦日(こつごもり。
大晦日の前日)のこの日は、年越し宗谷岬を目指す多くのライダーが稚内入りをします。

市街地を過ぎたところでさっそく発見!郵便屋さん以外では、今回の旅で初めて見るバイクです。
どこかでバイクとすれ違うだろうと思ってはいましたが、いざその時が来ると大興奮!同志に出会ったような気分です。

徐々に対向車線から近づいてくるカブ3台は、遠目から見ても荷物をたくさん積載しているのがわかります。
おそらく、宗谷岬で宿泊するためのキャンプ用品を積んでいるのでしょう。

雪上走行は、少し荷物が増えるだけで大きく難易度が上がります。
軽トラックに着替えなどを積み、日帰りツーリング程度の荷物しか積載していない筆者から見ると、自走でやってくるライダーたちは全員スーパーマンです。
声は届きませんが、心の中でたくさんの声援を送りました。

「おつかれさま!本当にすごいよ!!」
「私の分も宗谷を楽しんで!この先も気を付けてね!!」

このあとも国道40号線では多くのバイクを見かけました。
そのほとんどはオフロードバイクかカブ。両者の走破性と拡張性の高さを実感しました。

──30分ほど走ったところで気になって立ち寄ったのは、開源パーキングシェルターです。
パーキングシェルターとは、吹雪が起きた時など悪天候時にドライバーの身を守るための避難場所。雪国ならではの設備で、トイレや自動販売機が備えられています。

シンと静まったシェルター内はまるで冷凍庫の中のよう。風が遮断されて外の環境に左右されない状況は、たしかに安心感のあるものでした。

シェルター内で休憩をしていた先客のトラックは、ビッチリと雪と氷に覆われています。
こんなに全面がカチカチに凍るなんて、いったいどれだけの距離を走ってここまで来たのでしょう!?

雪中ライダー大集合!

稚内市街から80kmほど。『道の駅 てしお』にて休憩をしました。
駐車場に入ると、なんと!すでに10台ほどの稚内を目指すであろうバイクが停まっているではないですか!!

ついさっき初めて他のバイクを見つけたばかりなのに、早くもこんなにたくさんのバイクと再び出会うなんて!!!!

しかもそれぞれの車両をよく見てみると、SNSで見かけたことがある猛者たちのバイクです。
まるで芸能人に出会ったような気分になると同時に、まさか彼らとの初対面が冬の北海道になるとは思ってもいなかったため、ビックリし過ぎて思わず笑ってしまいました。

そんな中、筆者に声をかけてくれたのは雑誌『モトツーリング』編集長のカン吉さんです。

カン吉さんは、年越し北海道ツーリングのパイオニアの一人。界隈では知らない人はいないほどの大ベテランです。
今回筆者が身に付けている装備やスパイクタイヤに関してもアドバイスをいただいていて、カン吉さんがいなければツーリングが成り立たなかったといっても過言ではありません。

愛車のハンターカブを見せていただくと、タイヤは中国のメーカー『ティムソン』のブロックタイヤ『TS808』に4輪用のラリーピンを装着しています。
走り心地を聞いてみると、悪路や積雪路では絶大な走りやすさを発揮する一方、乾燥路面ではブロックがブレて危険ということ。
素人にはなかなか扱えないじゃじゃ馬な乗り心地なのだそうです。

カン吉さんだけではなく、ここに集まるライダーたちは全員がお手製のスパイクタイヤを愛車に履かせ、それぞれがベストだと考える防寒装備を身に着けています。
おかげで、駐車場はまるで冬用バイク&ウェアの見本市。タイヤの作り方や防寒の考え方など、活発に意見交換がおこなわれていました。

筆者自身も今回の年越し北海道ツーリングで初めてスパイクタイヤを作りましたが、まだまだ改善点があるように感じています。
ここで得られた知識はきっと、今後役に立つ…はず!?

ライダー交代の午後

午後1時。『道の駅 てしお』のライダーたちに別れを告げてから、スーパーカブのライダーは夫に交代しました。
3日前の往路で名寄→稚内を走った際、一番気持ちいい区間を筆者が独り占めしてしまったので、復路では夫に譲ることを約束していたためです。

立ち寄ったのはオトンルイ風力発電所。まっすぐに続くオロロンライン(道道106号線)に28基の巨大な風車が立ち並ぶ絶景スポットです。

2003年より稼働して以降長年愛されてきたオトンルイ風力発電所ですが、2023年4月から建て替え作業が始まり、大幅に風車の数が減らされるのだそうです。

今の姿の最後の記念撮影というつもりで何気なく撮った写真は、ちょうど降り始めた雪の影響で思いのほか過酷な環境に映っちゃいました。
カメラをセットするまでは青空も見えていたのですが…小さな雪雲が散在しているようで、コロコロと天気が移り変わるのです。


さて、名寄に向かって走り始めた夫とスーパーカブ。
国道232号線を走っている時は「最高!」と気持ちよく走っていたのですが、国道40号線に戻るために経由した道道119号線で苦戦を強いられることになりました。


道道の峠はただでさえ除雪の頻度が少ないのですが、それに加えて雪がどんどん強まっていったのです。

スーパーカブに履かせているタイヤは前後共にブロックが低いため、積雪路でのグリップ力が高くありません。
軽トラックで後ろから見ているだけでもズルズルとスリップしているのがわかり、いつ転倒するのかとキンキンに肝を冷やしました。

今回走った道道119号線の区間は、わずか22kmほど。
ゆっくり1時間以上をかけて走行し、夫曰く「生きた心地がしなかった」とのこと。
その間他の車とすれ違うことは一切なかったため、道民の方々も要注意区間として避けているように感じました。

ようやく国道40号線に戻れた頃には、スーパーカブのリアは雪と氷まみれに。
朝にパーキングシェルターで見かけたトラックのように、まるで冷凍庫で長期間保管したような見た目になっていたのでした。


峠越えで時間をロスしてしまったことから、美深町まで来る頃にはすっかり陽が暮れてしまいました。
ラストはライダー交代。筆者が運転させてもらいました。

気温は-5度ほど。夜ということもあって気温以上に冷え込んでいるように感じましたが、ゼロスグラブ ヒート2のおかげでまったく寒さを感じることなく快適に走り続けることができました。
ゼロスグラブ ヒート2とハンドルカバーを組み合わせれば、どんなに凍える環境の中でも余裕でツーリングができちゃうような気がします!

午後6時。無事、名寄のホテルに到着です!

3日前は雪が溶けてビショビショだった名寄の道は、すっかり冷えて雪と氷におおわれています。
フロントの方も「ようやくいつもの年末に戻りました」というコメント。天気予報によると、これからしばらくは寒い日が続くのだそうです。

冬の郵便屋さんはすごい!

2022年12月31日 午前8時半
気温は-4度。風も雪も少なく安定した天気です。

この日は網走まで250kmほどを走る必要があったため、国道239号線を使い、寄り道をせずに東へドンドン進むことにしました。

ただし1か所だけ途中で立ち寄ったのは、上名寄郵便局。年賀状を投函するためでした。

お恥ずかしながら、行きのフェリーの中で宛名を書いたにも関わらず、この日まで年賀状の存在をすっかり忘れていたのです。
後日聞いたところによると、この時投函した年賀状は1月3日に広島の実家に届きました。

北海道にある郵便局から2000kmほども離れた広島まで、僅か4日でハガキが届くなんて!
当たり前のことかもしれませんが、郵便の力には驚くばかりです。

名寄市街を出るときにも、郵政カブが走っている場面を目撃しました。
相変わらず、スパイクなしのスノータイヤに両足をついて走る超絶テクニック。北海道の郵便屋さんたちは本当にたくましく、驚かされるばかりでした!

ひっくり返った雪景色

下川町で、予定外に道道101号線へ右折しました。国道239号線を走ってオホーツク海沿いへ行く予定だったのですが、強風をおそれてルート変更を決めたのです。

「失敗した…」と気が付いたのは、20分ほど走ってからのことでした。

山深くなるにつれてアイスバーンの上にサラサラな雪が積もり、タイヤで踏んだそばからズルズルとスリップして思うように走れなくなってきたのです。

筆者以外の車やバイクの姿はなく、他の人は通るのを避けている模様。
つまり、昨日夫が道道119号線でした失敗をもう一度繰り返してしまったのです。

「やっちゃったな…」

後悔し始めたものの、すでに走った分を引き返す時間がもったいなくて強行することを選びました。
走っていればそのうち着くはず。ヤバそうな場所では気を付ければ大丈夫。
そのうち国道39号線に合流できるはずだし、間に合わなければ軽トラックに載せちゃえばいいんだから…。

今思えば、この時すでに冷静さを失っていたのかもしれません。
道道の残り区間は40km以上。地図を見れば、多少時間をロスしたとしても引き返した方が楽ということは明らか…まさに「急がば回れ」そのものの状況に陥っていたのですから!

時速30kmほどでトコトコと山道を走り続け、「慣れてきたな、案外走れるものだな」なんて思い始めた時に事件は起きました。

「あっ!」と思った時には既にスーパーカブはコントロールを失い、ズルっと車体が左側に倒れていました。


「これは立て直せない!」そう思った次の瞬間。
まるで誰かに蹴り飛ばされたような勢いで、車体が右側に弾き飛ばされたのです。


とっさに受け身をとることもできず、バイクにまたがったままの状態で道路にたたきつけられました。

一瞬、目の前が真っ白になりました。

「イタタタ…イタタタタ……」

声は出たのですが、痛さのあまり他に言葉が出ません。
目の奥がツーンとするような感覚と、右側頭部がキリキリと締め付けられるような感覚があります。
…ヤバい。思い切り頭をぶつけちゃったみたいだ。

さらにマズいことには、大きな怪我がないことを確認したあと空き地まで移動したところで、だんだん吐き気がしてきたのです。

「今日はもう中止にして軽トラックにカブを積もう」

夫に声をかけてもらいましたが、あまりの苦しさにしばらく雪の上でうずくまったまま動けませんでした。
おそらく軽い脳震盪を起こしていたのでしょう。
フルフェイスヘルメットをかぶり、僅かでも雪が積もった上に倒れ込んだことは不幸中の幸いでした。

最後の力を振り絞ってスーパーカブを軽トラック荷台に積載しましたが、助手席に乗ってすぐにウトウトしてしまいました。気力・体力ともに限界でした。

そのあとは夫の運転で、自動車道を使って網走まで移動しました。

たまに目が覚めると、窓の外を流れる雪景色に胸がギュッと締め付けられます。
さっきまで夢とワクワクにあふれていたはずの雪道が、急に敵意を持って襲い掛かってきたような感覚に陥りました。

あのまま稚内にとどまるべきだったのか。冒険せず、安牌を選んで旅するべきだったのか。

後日落ち着いて出した結論をお伝えすると、やはり31日の筆者の行動は間違っていたとしか言えません。
長過ぎる距離、険し過ぎる道。筆者の技量を超えたルートを選択してしまいました。

冬の北海道ツーリングは、街中から峠まで、道中すべてがエンデューロのコースに匹敵するような環境です。
通常のツーリングの感覚で冒険を求めると、簡単にライダーの限界を超えた障害に鉢合わせてしまうのです。

雪道走行に慣れていない人は道道での峠越えを避けるべき。
どうしても道道を走らなければいけない場合は、時間にかなり余裕を持って計画的に走るべきなのです。

筆者の場合は夫が軽トラックで後ろを走っていたため助かりましたが、バイクだけで来ていたら…一人で走っていたら…と思うと、背筋がゾッとします。


幸いにも夕方には体調が戻り、無事に網走のホテルへ到着できました。

翌日に備え、カブを2台とも降ろします。
今はまったく乗る気がしませんが、明日はお正月。やっとの思いでオホーツク海沿いまでやってきたのだから、カブに乗って初日の出を見に行かなければ一生後悔するかもしれません。


ホテルの食堂でいただいた夕食には、年越し蕎麦が付いていました。
夕食会場は先客が3名いるだけで、シンと静か。お鍋の固形燃料がフツフツと燃える音だけが聞こえていました。

今頃宗谷岬はお祭り状態なのでしょうか?
自分で選んだこととはいえ、気分が落ち込んだせいもあってしんみりと蕎麦をすすりました。
一息ついたからか、腕の筋肉も痛くなってきたような気もします。

「…まぁ、いいか」

転倒はしたけれど、幸い他者や車を巻き込まなかった。怪我もほとんどなかった。
今後は道道を避けながら走ればいいのだから、2022年最後の学びができたと思えばまったくの損ということもないはず。

とりあえず今晩は早く寝て、体力の回復に努めよう。
ホテルの部屋に戻って10時半には布団にもぐりこみ、知らない間に2023年を迎えていたのでした。

【続く】



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