はじめに。冬の北海道ツーリングには大きな危険がともないます。
ほぼすべての路面が凍結し、天気や除雪状況によって大きくコンディションが変わります。
記事中では筆者 高木はるかが実際に使った装備やルートをご紹介しますが、絶対的な正解ではなく、その日その時の状況に合わせて対応する必要があることをご了承ください。
前回の記事はこちら
年越し北海道ツーリングに再挑戦:3 トラブルを乗り越えて雪道を走るべし!
Contents
本記事のルート
2022年12月28日
2022年12月29日
ドロドロ道路でカブが錆びちゃう!?
2022年12月28日 午前8時半。
この日はスーパーカブと軽トラックの2台体制で、主に国道40号線・275号線を使って北上予定。いよいよ宗谷岬を目指します。
気温は+1度。「いつもはこんなことないんですけど…」と、ホテルの従業員の方も首をかしげるほどの暖かさなのです。
厳しい寒さのなかで遭難する心配がない一方で、2カ月以上も前から気合を入れてきた「極寒の中走るぞ!」というやる気がから回ってしまったようにも感じました。
──こんなはずじゃなかったんだけどなぁ…。まぁ、明日からまた寒くなるみたいだし、仕方ないよね。
なにより今日は、前回の年越しツーリングでたどり着けなかった宗谷岬にリベンジできるんだから。元気出していこう!
自分に言い聞かせましたが、実際に走ると理想の雪中ツーリングとの差に「やめてぇ~っ!」という声をあげてしまいます。
溶けかけた路面の雪は泥と混ざり、踏んだそばからドロドロと汚く崩れていきます。タイヤをとられて走りにくいだけならまだしも、一番いやなのは、前を走る車が巻き上げる飛沫が飛んでくること。
幸いレッグシールドとスクリーンのおかげで体は汚れませんが、スクリーンが汚れて視界が遮られっぱなしなのです。
“ドロドロ”には融雪剤も混ざっているのか、スーパーカブはあっというまに白みががった泥色に。時々停車してスクリーンを雑巾で拭きながらも「家に帰るまでにカブが錆びちゃうよ~」なんて泣き言が漏れてしまいました。
我が家のスーパーカブは2007年製の「最後の鉄カブ」。日頃から自慢に思っているのですが、この時ばかりは全部樹脂パーツに取り換えたくなってしまいました。
(余談ですが、この日の晩の夢は “カブが錆び切ってポッキリ折れて廃車になる” という悪夢。起きた瞬間「夢でよかった~!」と苦笑いしました)
早めの年越しそばをいただきます!
30kmほど走っているうちに名寄と美深の街を抜け、周辺の景色も徐々に山深さが増してきました。
周辺に積もっている雪が増えただけでなく、雪質にも変化が見られます。
街中では湿り気を帯びてグショっとした感じだったのですが、山に入るにつれてフワフワっとした感じに。
路面はウェット&シャーベット状の雪という点においては同じなのですが、左右から雪壁で冷やされた心地よい風が吹いてきます。
「いい道が待ってる予感がする!」
気持ちが徐々に盛り上がってきたところで休憩に訪れたのは、『道の駅おといねっぷ』。コンビニの4分の1ほどのサイズの売店と、50代ぐらいのご夫婦が切り盛りしている食堂がある小規模な施設です。
食堂を覗くと「本日はイベント開催のためラーメンはお休みします」という文字。
ご主人に聞いてみたところ、普段はラーメンのみを提供しているところ、年末限定で蕎麦に切り替えているんだとか。
午前10時。かなり早いけど、お昼ご飯としていただくことにしました。
お店でお蕎麦をいただくのは、信州朝めしツーリング以来。
出てきたのは、天ぷらとネギが乗ったシンプルな蕎麦。お出汁のいい香りがします。
薄茶色のお蕎麦に少し驚いたのは、『音威子府蕎麦』といえば日本一黒いといわれているほどの黒さが特徴のはずだったから。
聞けば、かつて音威子府蕎麦を製造していた会社が廃業してしまい、新たな名物として11月に発売したお蕎麦なのだそうです。
細めの蕎麦は素朴でやわらかな食感。新しいけど、なんだか昔懐かしい味です。そば粉を7割使っているということで、口に入れたとき蕎麦の香りも強く感じました。
塩味がやさしく澄んだ味のおつゆも最後まで飲み干し、ごちそうさまでした!
3日も早いけど、これは私の中では年越し蕎麦。縁起物を食べて幸先がよくなった気がします。
「超気持ちいいーっ!」と叫んだのもつかの間…
暖かいお蕎麦を食べればお腹はいっぱい、身体もポカポカ!運転にも慣れ始めた頃合いということもあって、鼻歌混じりな気分になってきました。
おまけに国道275号線に入ったあたりから路面が安定しはじめ、スパイクタイヤを履いたバイクにとって一番走りやすい環境が整ったのです。
気が付けば腹の底から大きい声で「フゥゥゥ~~!」と叫んでいて、軽トラックで後ろを走っていた夫の「いきなりなに!?」という声がインカムから返ってきました。
雪中ツーリングは危なくて怖そう、なんてイメージを持たれることが多いのですが、安定して走れるコンディションさえ整えばただシンプルに「気持ちいい」のです。
周りの風景がスルスルと後ろへと走っていくような感覚を覚え、まるで自分が銀色に輝く一筋の風になったような気分です。
登り坂もカーブも、たったの2つのタイヤで走っているとは思えないぐらいに、スーパーカブは力強く駆け抜けます。
アドレナリンがドバドバと出て、アクセルは全開!ヘルメットの中で何度も何度も、声がかれそうなぐらいに叫びました。(夫はさぞかしうるさかったことだと思いますが…笑)
この気持ちよさを独り占めするのはよくない…ようやく我に返ったのは、路面コンディションがよくなって15kmほど走ってから。
「ごめんごめん」と謝りつつ夫と運転を交代したのですが、それが罪悪感を加速させる結果となりました。
交代直後から国道275号線は市街地へと降りていき、無慈悲にもウェット&シャーベット状の路面に戻ってしまったのです。
その上湿り気のある牡丹雪まで降りはじめ、スクリーンやヘルメットのシールドにペタペタと貼りつく事態が発生しました。
これには普段は穏やかな夫も「本気で走りにくい!全然気持ちよくないっていうか、むしろ辛い~!!!!」と悲鳴をあげます。
あまりの申し訳なさに「ごめんね。ほんとにごめんね」と謝り続け、すぐに再びライダー交代。数日後に復路でこの道を通る際は、必ず一番気持ちいい区間を夫に譲ることを約束したのでした。
ついに到達 宗谷岬!
浜頓別市の街を抜けてからは、ひたすらまっすぐに国道238号線を北上し続けました。
時刻は午後3時半。緯度の高い北海道では夕暮れが早く、すでに夕焼けを通り越した空は青紫色になっていました。
有難かったのは、陽が暮れたことで気温が下がり始めたことと、ほぼ無風だったこと。
ツヤツヤと光る路面は徐々に凍りはじめ、ブラックアイスバーンへと姿を変えました。
空はどんどん暗くなっていくのですが、スパイクタイヤが食い込む感覚に安心感を覚え、不思議と焦燥感はありませんでした。
夢見がちな私の妄想かもしれないのですが、なんだか宗谷岬に呼ばれているような気がしたのです。
国道沿いにぽつぽつと続く街灯を頼りに、わき目もふらずに走り続けました。
午後6時。ついに宗谷岬へ到着です。
4年前は断念した最北の地に、日程・体力ともに余裕で到着。「やってやったぜ!」という強い高揚感が身体の内側からほとばしります!
まっさきに頭に思い浮かんだのは、10月末から仕事や遊びを減らしてコツコツと続けた、今回のツーリングのための準備のことでした。
タイヤをホイールに取り付け、ブロックに穴を開けてピンを押し込み、軽トラックにバイクを積む練習を重ね…。力仕事が多く、特に終盤は手の皮がボロボロになって辛いものでした。
宗谷岬に着いたことで、出発前の苦労は全部清算できたような気がします。つまりこの先の日程はずっとお得になっていくだけ!最高~~~!!!!
ただし、宗谷岬は雪こそ降っていないものの大暴風。
ヘルメットとグローブを外せばあっというまに顔と指先がキンキンに冷たくなるため、リベンジの余韻に浸る間もなくすぐに出発です。稚内市内のホテルまで一直線に走りました。
ホテルの玄関でクロスカブを軽トラックから降ろすと、固定に使っていたロープがカチカチに凍りついています。
ようやく待ち望んだ極寒がやってきたような気がしてニコニコと笑ってしまい、いよいよ自分の感覚がストイックになってきたことを実感しました。
防波堤ドームに行ってみた
2022年12月29日 午前10時
朝の気温は-3度。少しずつ寒い北海道が戻ってきました。
この日はカブ2台で、稚内周辺を日帰りツーリングする予定です。
いつもよりも出発の時間が遅かったのは、吹雪が収まるのを待っていたため。天気予報によると1日中風が強く、ところによっては視界がなくなるほどの吹雪のおそれがあるということでした。
まずは様子見で、ホテルからバイクで2分の場所にある稚内港北防波堤ドームへ。
全長427m、高さ13.6mの大きさで、かつてこの場所に樺太へ向かう船の発着場があった時、発着場へ続く道路や鉄道に波しぶきがかからないよう建設されたのだそうです。
現在は港も鉄道もなくなり、ただ防波堤ドームだけが残るばかり。朝から近隣住民の方々が数人、ドーム内を何度も往復しながらランニングを楽しまれていました。
「トントントントン…」たくさんの足音が心地よく反響しています。
ドームに一歩足を踏み入れると、中はシンとした質感の空気で満たされています。
なんというのでしょうか。視覚的にも聴覚的にも外界とは切り離され、まるで時間が止まっているみたいなのです。
特に吹雪が起きた時は特に顕著で、ゴウゴウと音を立てながら真っ白に染まっていく景色が別世界のよう。額に飾られた絵画を見ているような気分になりました。
年越し北海道ツーリングをする方の中にはここでテントを張って野営をする方もいるらしいのですが、本当は野営禁止なのだそうです。
吹雪に遭わずに済むため、泊まりたくなる気持ちはなんとなくわかります。しかし住民の憩いの場であり、稚内でも有数の観光スポットということを考えると当然のことなのかもしれません。
吹雪で吹き飛ぶカブに衝撃
稚内港北防波堤ドームを出て、次に目指したのはノシャップ岬。
しかし北に行くにつれて風が強まり、海沿いの小道を走っていた時、ついにまっすぐ走れないほどの強風と雪が吹き荒れはじめたのです。
吹雪で視界がなくなる、ホワイトアウトという現象に近い状態です。耐えきれずに路肩にバイクを停めてエマージェンシーライトを点けました。
話に聞いてはいましたが、車体が軽いスーパーカブはあっというまに吹き飛ばされそうなほどの威力です。
冬の北海道、怖い。なんて厳しい環境なんだ。
バクバク鳴る心臓を抑えながら周りをよく見渡すと…なんと、すぐ隣にある会社の社員の方が、臆する様子なくトラックの洗車をし続けているではないですか。
「この地域では普通の現象なんだね」
「洗車って、とんでもなく冷たそうなのに」
夫と二人でおののきます。やはり現地の方には、どうあがいてもよそ者の私たちは敵いそうにありません。
──5分ほど経過した頃でしょうか。遠くからバイクのヘッドライトが近付いてくるのが見えました。
もしかしたら年越し宗谷組かもしれない!
期待のまなざしの先からやってきたのは、郵政カブでした。強風に揺られて滑りながらも、両足を使いながら確実に進んできます。
たった1台で吹雪に挑む姿はさながら戦士。絶対に前へ進もうという気迫を感じました。
私たちの横を走り抜けた郵政カブは、20mほど進んだ先にあるカーブに差し掛かりました。
──と、その時です。
一段と強まった風に車体を大きく揺らされた郵政カブが、まるで誰かに突き飛ばされたように転倒して滑っていくのが見えたのです。
反射的に助けに駆け寄ったところ、私が追いついた時には早くもリカバリーしていました。
彼曰く「大丈夫です。自分はまだ慣れていなくて…」ということ。
その後も北海道中で走り回る郵政カブをたくさん見かけ、北の地で郵便屋さんになるには相当な覚悟が必要なんじゃないかと思わされたのでした。
(ちなみに郵政カブの多くはスパイクのついていないスノータイヤを履き、たまにリアにチェーンを巻いている人もいます。ほぼ全員が脚も使いながらスリップする車体を支えるという、超絶にテクニカルな運転で配達をこなしていました!)
冬のバイクステーション稚内を見に行こう
「こりゃ、ノシャップは無理だ!」と、なんとか稚内市街地へ戻って1時間ほど。セイコーマートで昼食をとっている間に徐々に吹雪が収まってきました。
どうやら海沿い、特に西側は風が強く、この日のように雪予報の場合は強烈な吹雪が日常的に起きるようです。
それならば東側へ向かって進もう。そう思った私の脳裏にある施設が思い浮かびました。
「そういえばバイクステーション稚内って、ここから東に向かった先にあったよね!」
バイクステーションとは、レッドバロンが運営するライダーのための宿泊施設。
その中でもバイクステーション稚内は、キャンプ場も備えた北海道ツーリングの拠点にピッタリなスポットなのです。
冬季は休業していますが、どんな施設なのか雰囲気だけでもチェックしに行ってみましょう!
風を避けるために海沿いの国道238号線は避け、内陸のミルクロードを選択しました。
結果は大正解!その名の通り(?)道中にバター・粉乳工場があるミルクロード。
路面はスケートリンクのように整ったアイスバーン、時折遠くに黒く冷たく波打つ宗谷湾が見え、稀にビュオーッと風に吹かれ、6.5kmほどの短い区間の中に北の大地の冒険要素が満載でした。
そしてたどり着いたバイクステーション稚内が、こちらです!
門の前には雪の山。本当はバイクで入りやすいよう、段差や坂などがないはずなのですが…。
雪はすべてサラサラのパウダースノーで、登ったそばから崩れていきます。おまけに門のすぐ目の前の平らな場所は、氷でツルツルです!
気が付かずに最後の1歩で飛び降りたところ、靴がズルズルっと滑ってあやうく後ろにひっくり返るところでした。(シューズにスパイクを装着しておいてよかったー!)
広い施設内はすべて真っ白な雪に覆われ、言われなければキャンプ場があることがまったくわかりません。
夏の様子と比べると衝撃的です…!
レッドバロンファンとして得意顔で夫にバイクステーションの概要を説明したところ、
「稚内の街からの距離もほどよいし、宗谷に行った後泊まったら丁度いいね。おまけに会員なら1泊2200円? 安いよね。整備もしてもらえるならロンツーにも便利だし」
とのこと。そうそう、それこそまさに私が伝えたかったことです!!!!
昔、夏の宗谷岬へツーリングに来たときは、こんな便利な施設をレッドバロンが運営しているなんて全く知りませんでした。
当時もキャンプをしていたのに、利用しなかったなんてもったいないことをしたな。次回夏に訪れた時は、必ず利用しよ~っと!
冒険はまだまだ続く!
帰り道のミルクロードは、路面に残されたタイヤの跡がツヤツヤと夕陽を反射して輝き、その様子はまるで光の小川が流れているようでした。
明後日、いよいよ大晦日を迎えます。
年越し宗谷岬の本番はこれからという日程なのですが、雪上を走りながら、私の心の中にはある決意が沸き起こりました。
「明日、稚内を出よう。ここにとどまって年越し宗谷をするよりも、もっといろんな場所をカブで走ってみたい!」
一か所でじっとしているなんてもったいない!
冒険とチャレンジは、まだまだこれからなのです!!
【続く】
【レッドバロン関連施設 バイクステーション】
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