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スキルアップのことだけ考える休日を
那須MSL(モータースポーツランド) ライディングカレッジの開催時間は朝9時から夕方4時。

●筆者がライディングカレッジ体験をしたのは4月25日(日)の回。トータル26名がA:12名、B:14名と2つのグループに分かれて濃密な練習が実施されました。なお、2つのグループに分かれるものの、練習の順番が変わるだけで行う内容は全く同じです
ですが、準備や車両の検査があるため朝8時30分までには会場入りしてもらうことが前提になっています。
関東首都圏から那須MSLまでは距離にして200km+αコースですので、そのエリアに住むライダーが日帰りで受講するとすれば朝4時台起きの5時台出発が望ましいところ。かつ、帰り道で渋滞でもハマろうものなら自宅への到着時刻は夜の8時か9時か……。
しかし、今回筆者が話を聞いた受講生の皆さんは例外なく、そのような旅程すら承知の上で参加を決めていました。
「“ライディングスクール”を受講してとても有益だったので迷うことなく……」。「ステップアップ試乗会で何度となく来ていますから、もう慣れっこ(笑)。こちらでのイベントは往復400㎞以上走っても来る価値がありますよ」。
中には、「関西で行われたライテク講習に参加したとき、そちらでも指南役だった中井直道さんに『キミにぴったりなイベントが那須MSLであるよ』と誘われたので近畿地方からやってきました」という猛者まで(!)。
確かに保守点検の行き届いた全長1.2㎞のバイク専用コースをフル活用した一流講師陣によるカリキュラムが一般でも1万円、レッドバロン会員なら9000円で経験できるというのは非常にリーズナブル。

●那須モータースポーツランドは、レッドバロンがバイク専用サーキットとしてプロデュースする全長1.2kmの低中速サーキット。各種試乗会やライテク向上講座、イベントだけでなくコース上でサイドカーやトライクを走らせることまでできる!
今回、筆者も受講をしてみて、そのカリキュラム内容の濃さ、練習できる時間の長さ、インストラクター諸氏との質疑応答のしやすさなどに深く感銘を受けました。

●普段から体を動かしていないと筋肉は強ばり、腱は縮こまり……。準備体操はそのことに改めて気付かせてくれる立派なカリキュラムです。あ、イテテテテ……
全集中して自らのライディングテクニックとゆったり真摯に向き合う経験が、以降のバイクライフに大きな影響を与えることは間違いありません。
美味しい昼食は場内の売店で購入可
さて、急変する天候に翻弄されつつも非常に濃い午前中のカリキュラム……ロング8の字、直列スラローム、そしてオフセットスラロームを終え、再びコース全体を走行したあとピットへ戻れば、12時から1時間の昼休憩です。
スラローム練習の終盤に得ることができたセルフステア“アハ体験”の余韻に浸りつつ、場内にある売店で500円のドライカレーを購入し、ドリンクはもちろんレッドバロンが誇る!?基本的にオール50円(一部ペットボトル飲料は110円)の自動販売機にてGET。

●場内の売店ではドライカレーの他に焼きそばやピラフも選べて、ともに500円。焼きおにぎりは300円ナリ。もちろん,お手製のお弁当を持参するのもアリです
舌鼓を打っているうちに雨は止んで太陽も再び顔を出すようになり、コースの路面もみるみる乾いていったのには、やはりホッとしました。
制動力を制するものは峠道も制覇
午後1時。参加者全員が第2ピットに集合して中井氏のレクチャーを聞くことから後半の部が始まります。

●「スクールでは40㎞/hや50㎞/hで制動の練習をするのですが、カレッジでは60㎞/hまで加速してからブレーキングしてもらいます」と中井氏。たかが20㎞/h差と言うなかれ。60㎞/hの運動エネルギーは同質量40㎞/h時の2倍以上に跳ね上がるのです!
学んでいく課題は、①ブレーキング&ブレーキングからのコーナリング ②ライン取り&フォームの検証です。フルコースを2分割してピット側では①を、奥の複合コーナーで②を、AとBのグループで分かれて練習を行ない、約40分後に場所ごと入れ替わるという段取りです。
私が属しているBグループは①を先に実施することになりました。
「最初に行うブレーキングの練習では、ストレートで60㎞/hまで速度を出し、目印のパイロンを通過したら完全停止するまでフロントだけで制動してもらいます。
注意してほしいのは“一度ブレーキレバーへ入力を始めたら完全に止まるまで一定の力で握り続ける”こと。これにより制動における物理法則……というか、どんなバイクでも当たり前に起こる自然現象を体感します。
その後は“フロントブレーキを掛けながらコーナーへ入っていく”練習です。コツを習得して上手にできるようになれば、とても気持ちいいコーナリングが構築できますよ」という中井氏の言葉にモチベーションもアゲアゲに。

●山本陽大インストラクターによるブレーキング模範デモ。ロック寸前の強力かつ一定なフロントブレーキ入力により、見事なほどフロントフォークが縮まっています。この状態を一発で作り出せれば、倒し込みから旋回にかけて高い前輪荷重を維持でき、さらに車両のキャスター角は小さくなってトレール量も減少するため、横方向への動き(ロール)に対してステアリングが素早く反応……つまり、フロントがスパッと向きを変えるようになるのです!
考えたこともなかったブレーキ特性
どこかで聞いたことはある、しかし、普段の走行では全く活用していなかったブレーキ本来の制動特性。会場では分かりやすい図を使って説明されました(下写真)。

●運動エネルギーが高い……つまり速度が上がるほどブレーキが効きにくくなるということは、皆さんも経験したことがあるのではないでしょうか。「サーキットで300㎞/h出していると、ブレーキをかけてもしばらくの間、止まっていく感覚は全くありません。しかし、図のような特性を理解していればパニックに陥ることはないのです」と山本インストラクター。深いコメントが逐一、心に響きます
入力を一定にしたとき、赤い線がブレーキの効いていく強さで、黄色い線が速度の落ち方です。スピードはブレーキを掛けた瞬間にガクンと落ちるのではなく、「あれ? 止まらない,止まらない、止まらない……(急に)止まった!」という具合に最後の最後でギュゥッ!と制動力が立ち上がり、速度も急激にダウンしていくものなのです。それを理解して常に再現できるようになれば、狙ったところへ最短・最速で止まれる(もしくは減速できる)ようになるということ。
さっそく練習を重ねてみても、長年骨の髄まで堆積してきた“なんとなく減速”がどうしても払拭できません。以前、握りゴケを経験した恐怖心もあるのか、初期の入力は恐る恐るといった感じでムラのあるものとなり、それでもごまかしながら操作していくと制動力は急速に立ち上がってくれるのですが、フロントフォークがグググッと沈み込む領域になると右手レバーへの力を思わず緩めてしまうのです。

●グッ!と握ってそのまま握り続けるだけのことが、これほど難しいとは……。振り返ってみればワインディングでも市街地でも、狙った減速(停止)ポイントへ到達するまで、右手レバーを握る→あ、速度落としすぎた→緩める→うへ、止まれない→また握る……という小刻みでムラムラな操作を繰り返していたことに思い至りました。フロントフォーク、フルボトムまでの道のりは遠そうです……
午前中のフルロック体験で舞い上がった気分はどこへやら。正直、60㎞/hからのブレーキング練習では追い求める理想の半分にも到達できなかった悔しさが残りました。しかし、落ち込んでいる間もなく次の課題、「ブレーキングからのコーナリング」の練習がスタートです。 (つづく)
【参加者インタビュー④】 安住彰子さん

●文中で紹介した近畿地方からの参加者というのは、実は安住さんのこと! 「マシンがマシン(ドゥカティ1198)なのだから速度域の高いカレッジのほうが走りやすいよ、と中井さんに勧められ、2週間前の那須MSLライディングスクールを体験してから今回のカレッジにも参加しました。荷重のかけ方で乗りやすさに変化が出ることが分かり、とても有意義でした」

●160㎝に満たない身長ながらイタリアの悍馬を颯爽と操る安住さん。子育て期間のブランクを経てリターンするとき、レーサーレプリカ世代の熱い血が騒いで1198購入を即決したとか
【参加者インタビュー⑤】 宇島恒光さん 48歳

●本格的にリターンしたのは2年前で、グロムから始まりGSX-R125、GSX-R750、GSX-R1000を矢継ぎ早に経験 (大型二輪免許は28年前に取得) 。そして今回はCB1300SF(SC40)でカレッジに参加した宇島さん。「自己流はどこまでいっても自己流ですので、一度しっかり基本に立ち返りたいという思いから申し込みました。公道で待ち構える厄災から逃げられるスキルを身に付けたいですね(笑)」

●青春時代はレーサーレプリカCBR400RRを2台乗り継いだりしつつ、走りを楽しんでいたという宇島さん。さすがは昔取った杵柄! 確実なテクニックを筆者の目前で披露してくれました
>「ワンランク上のライダーへ!」 ライディングカレッジ体験記〈その1〉
>「飽きるほど(!?)に反復練習」 ライディングカレッジ体験記〈その2〉