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GSFよ、そんなに曲がりたかったのか
1話目はコチラ。
新美南吉作「ごんぎつね」のクライマックスシーンが頭に浮かんでくるほど、感涙にむせぶ瞬間が突然やってきました。
あることに気をつけて車体を倒していくとハンドルが勝手に切れていき、バイク自体が意思を持っているかのようにグイグイと曲がっていくではありませんか!
GSF1200S、いや二輪車が本来持っている特性と現象“セルフステア”をいかにこれまで自分は邪魔し続けていたのでしょう。那須MSLライディングカレッジ午前中の基本レッスン(8の字&スラローム)で深く気付かされ、火なわじゅうでドンと打ち抜かれたような気分を味わったのです。
講師との距離感が、ほぼマンツーマン
〈その1〉で紹介した、開講式、乗車姿勢のレクチャー、基本レッスンのデモ走行見学が終わったあと、いよいよ自分の車両にまたがり那須MSLを走り出します。
参加者全員でコースをゆっくり2周した後、4~5人ずつのグループに分けられ、コース上だけでなく駐車場にも設定された合計6つの8の字セクションへ移動。それぞれのグループに精鋭インストラクターが付いてくれるのですから心強いことこの上ありません。実際にとても濃厚な指導を受けられました。
あえて小回りをせずメリハリを強調!
8の字走行と言えばライテク教習において定番中の定番メニュー。2本のパイロンを目印にしてグルグルと回っていく……だけですが、奥の深さは日本海溝クラス!?
目線の送り方、スロットル操作のメリハリ、ブレーキングから旋回への移行、ラインがはらんでしまったときのリヤブレーキ操作など、ライディング上達へのエッセンスが詰まっています。
そして「スクール」ではない「カレッジ」が行うのは「ロング8の字走行」で、パイロンの間隔をスクールのそれより約1.5倍に広げて実施するというもの。
「通常の初心者向けレッスンでは、速度を極力落としてからリーンアウトでパイロンを小さく回ってもらっていますが、ロング8の字ではリーンウィズのまま荷重をかけて大きく曲がってもらいます。旋回時に自分の体重をバイクへ垂直に掛けることを意識してください」と中井氏。
根拠のない自信が瓦解していく……
言葉で聞けば簡単そうに思えるものの、実際にやってみると非常に難しい!
リーンウィズでしっかり荷重をかけるには、当然ながら旋回速度を上げる必要が出てきます。そのために広げられたパイロンの間隔です。しっかりと加速しつつ、なおかつそのスピードを落としすぎることなく曲がらなくてはなりません。
意識するほど走りにほころびが出てきて「コンナハズジャナイノニ」という悔しい思いも頭に浮かびますが、それに囚われているヒマはナッシング。8の字10周ほどグルグルして待機列の最後尾に並んでも、同じセクションにいるメンバーはごく少数なので、すぐに順番が回ってくるのです。
「絶対に無理はしないでください。リーンウィズでの旋回が難しければ、リーンアウトで小さく回ってもいいんです。動作と操作の連動を意識して、自分なりにいろいろ試してみてください」とは私のいるグループを担当してくれた稲垣インストラクター。個別に的確な要修正点を伝えてくれるので、モチベーションが高く維持されます。
反復練習で自らのリミッターを外す
ままよとばかり、より意識して上体を振り回してみることに。
スロットルオンのときはべったり伏せて、すぐ来るブレーキングポイントではグッと下腹部に力を込めて起き上がる。そのままハンドルへ無駄な力をかけないようにして目線をパイロンへ定めると……。おおっ、旋回力がメリハリを付ける前より格段と高まったではないですか!
まだまだ流れるような連動にはほど遠いものの、たっぷり50分近く用意された8の字練習時間のなかで、個別指導を受けつつ反復練習すると得られるものは少なくありません。
スラロームもあえて高い速度域で
引き続き実施されたのはパイロンスラローム。これもライテク講習の王道コンテンツながら、カレッジで行うのは“ロング”な直列スラロームとオフセットスラロームとの混合技です。
いったん全員が集合してから中井氏が説明をした内容は……。「通常のスクールでは直列スラロームのパイロン間隔を5mほどにしているのですが、カレッジでは7mにしています。バイクなら3台が余裕で入る長さですね。先ほどのロング8の字で練習したメリハリある加速とリーンウィズでの旋回を意識しながら行ってください」
直列スラロームを走り終わったら、そのままオフセットスラロームへ移行します。「コース上にジグザグに配置されたパイロンを大きく切り返し、左右交互にかわしていく課題です。動作と操作の連動を考えつつ実践していきましょう」とのこと。
ちょうどスラロームのデモ走行を見学していたとき、空がにわかに黒くなって大粒の雨が降り出しました。コース上は瞬く間にウエットへ……。すかさず中井氏、「操作をていねいに、かつ上体をしっかり使えば、濡れた路面でもバイクのタイヤはしっかりグリップしてくれます。いい練習になりますよ」と提言。百戦錬磨のインストラクターぶりに感動さえ覚えました。
愛車が持つ本来の性能にほれぼれ
水をたたえた路面に緊張しつつも、直列スラロームとオフセットスラロームへ挑戦。
広いコースを2分割して参加者も二手に分かれます。分割したコースのそれぞれにスラロームのセクションが設定されているので、8の字のときと同様、サクサクと走る順番が回ってきます。
ひととおり走り終わって列の最後尾に付くと“直スラ”の出口で走りをチェックしているインストラクターから無線を使ってのアドバイスが届きます。これで燃えなければライダーではありません(!?)
下半身のホールドを心掛け、上体の動きで車体をコントロールしてハンドルの動きを妨げないように……。
十数回目かの走行中、オフセットスラロームの後半部分で冒頭のアハ体験シーンが訪れました。ハンドルが「スコン!」とフルロックの位置まで動いて大きな舵角をつけ、ウエット路面だというのに恐怖を微塵も感じることなく愛車がグググッと旋回してくれたのです!
「こんなに曲がりたかったのか……」
GSFを購入してから四半世紀、初めて到達した境地でした。(つづく)
【参加者インタビュー②】 橋浦邦典さん 25歳
【参加者インタビュー③】 プリン さん 50歳
>「ワンランク上のライダーへ!」 ライディングカレッジ体験記〈その1〉
>「きちんと止まるって難しい!」 ライディングカレッジ体験記〈その3〉