ええ、仰りたいことは分かっております。「【その2】までやって、まだ真っ直ぐ走って止まるだけかよ!?」と……。恐縮です。深淵なるサイドカーの世界を少しでも皆さまに理解していただこうと、子細克明にヨタ話も入れつつ書き連ねているうちに長くなりました。そして今回も、ほぼ曲がるだけの話です(汗)。ぜひ最後までお楽しみくださいませ~(開き直り)!

●サイドカー1台につき3〜5人の参加者が割り振られ、一課題を走行するたび交代しながら反復練習……。バイクとは違う挙動に舞い上がったアタマをいったん冷やしつつ、違う人の走りを観察するという流れは学習効果が非常に高いことを実感いたしました。なお、スクール参加時に突然巨大なゴールドウイング仕様が割り振られてもビビる必要は全くございません。コケませんし倒れません。逆に車体とエンジン排気量の大きいサイドカーのほうが乗りやすいという一面もあるのです
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三輪だから立ちゴケを恐れる必要は全くナッシング
正真正銘バイクの横に、もう一輪と“舟”の部分を加えて成立しているのがサイドカー。
当然のことながら、信号待ちのときに足を地面に着く必要はありません。自立しているため立ちゴケの心配は無用ということ!

●サイドカーなら完全静止しているときでも足を地面に降ろす必要はありません。それって相当なストレス軽減になりますよね。取り回しもコツをつかめば自由自在。車体のどこからでも力を加えられますから倒れないって素晴らしい! ただし、少しでも傾斜がある場所に駐車するときはギヤを入れて、なおかつサイドブレーキ(たいていのサイドカーにはあるんです)を掛けるよう習慣づけを……。うっかり動き始めたら大変ですよ〜
さらには3人、舟の大きさによっては4人まで乗車が可能になりますし、同乗者を乗せなければ驚くほどの荷物を載せることができるのもサイドカーの魅力(ペットと旅をするオーナーの方も少なからずいらっしゃいますね。颯爽とゴーグルを装着したワンちゃんにも何度か遭遇……(^_^)v)。

●上のイラストはサイドカーではありませんが(笑)。まぁ、こんな雰囲気で愛犬を側車に載せて旅をしているライダーを何人か知っています。猫バージョンも1人だけなら……
しかし側車化は同時に、車体を傾けることで遠心力とバランスを取り、セルフステアでグイグイとカーブを曲がっていくバイクならではの運動特性と決別することでもあるのです。
「サイドカーライディングスクール」の基礎練習パートにおいて幾度もの失敗を乗り越え、何とかエンストをせずに発進ができ、戸惑いつつも加速そして減速までスムーズに行えるようになった筆者を待ち構えていたのは「まっ……曲がり方が分からんッ」というサードインパクト(?)でした。

●ニーグリップはユルユル、ワキはガバガバ、体重移動は全然できていないし視線は近すぎ……。おっかなびっくりを絵に描いたような旋回練習初期の筆者。小刻みかつ無駄なスロットルのオン・オフも繰り返してしまっているため挙動が安定せず、側車の存在が邪魔なだけになっておりました……
直立状態のバイクで遠心力に立ち向かうのは大変!
バイク歴36年、トータル走行距離なら地球10周分近く運転してきて骨の髄まで染み込んでいる二輪車用スキルはポンとサイドカーに乗ったからといって、なかなかリセットできるものではなかったのです。
なまじ操作方法がバイクと同じということもあり、「あ、曲がるべきポイントが近づいてきた」というとき、二輪車同様のライディングをサイドカー(左カー)でラフに行なおうとすると、ろくに曲がれずビビるだけでなく左回りのコーナーならカー側が浮きます。
繰り返します。冗談みたいにあっさりと側車が遠心力によって空中浮遊するのです。

●デモンストレーションで、ひょいひょいと側車側を浮かせるインストラクター氏。「操作の具合によってカーは簡単に浮きます。意図せずそうなったときは慌てず、じわっとリアブレーキを踏んで速度を落とすとカーもゆっくり着地してくれますので、冷静に対処してください」とのこと
適切な対処をしないと最悪の最悪、転覆(ひっくり返ること)の可能性まで出てくることも……。
絶対的で冷徹無比な物理法則に“気合と根性”は通用しません。
側車の存在に対応した独特の運転テクニックが不可欠なので、慣れてないうちはとにもかくにも慎重かつ謙虚な姿勢でサイドカー独特の操縦に向き合うことが必要なのです。
具体的な“サイドカーの曲がり方”を列記していくと……
[左カーで右回りするときには]
①コーナー手前の直線部分で、バイクを運転しているときの半分くらいまで減速。前回ご紹介したとおりフロントブレーキはあくまで補助、リアブレーキが80%くらいの感覚で行いましょう。車体が安定します
②しっかりとニーグリップをしたまま上半身をグイッと右側へ向けて、視線は右コーナーの出口へロックオン!

●たとえ小柄なライダーでも適切な運転さえすれば、ゴールドウイングベースのサイドカーだって思いのまま動かせるように……! 転倒の心配がないためフルロックターンも気軽にキメられます
③左の手のひらで左グリップを押すようにしてハンドルを切り、同時に右手はハンドルを引く
④スロットルを閉じたままにすると、左側にある側車が慣性の法則どおり先へ先へ進もうとしますので、その力を利用しつつターン!
⑤曲がり切ったらゆっくりと加速していき、コーナーを脱出します
側車のある方向へ曲がろうとすると○○が浮く!?
[左カーで左回りするときには]
①コーナー手前でバイクを運転時の半分……よりもっと、ズバリ3分の1くらいまで減速。「遅すぎでしょ!」と思うかもしれませんが、これは④への伏線です
②しっかりとニーグリップをしたまま、上半身をグイッと左側へ向けて視線を左コーナーの出口へ。そのとき側車の存在を忘れてしまうと路肩やガードレールに衝突するので要注意!
③右の手のひらで右グリップを押すようにしてハンドルを切り、同時に左手はハンドルを引く
④右回りとは真逆で、スロットルを少しずつでも開けながらカーブを曲がっていきましょう(そのために過度なほどの減速が必須)! すると側車側が慣性の法則どおり“重し”的な役割を果たしてくれますので、バイク側が左へ左へ巻き込まれるように進路を変えていくのです

●運動会で行なった記憶をお持ちの方も多いでしょう「台風の目(タイフーン、棒運びなどの別名多数)」。ターンすべきパイロンの近くにいる回転の内側にいる人が“重し”になることで、外側の人はグイグイ走り込んでいけます。あの感覚をサイドカーはスロットルのオン・オフなどでうまく再現することができるのです!
⑤出口が見えたらハンドルを戻し、直線になったらスロットルオープン!
なお、左カー車が左回りをしている最中にアクセルを急に開けると、前述のとおりカー側が空中浮遊を開始してしまいます。そこで慌ててスロットルを戻すとカーは地面に接地しますが、車両全体が外側にはみ出してしまう……という悪循環に陥りますので警戒が必要です。

●インストラクター氏いわく「正しい手順を踏んで操縦を覚えていけば、意図的に側車を浮かすことは簡単にできますし、その状態のままバランスを保ってずぅ〜っと走り続けることも難しくありません」とのこと。なんでも約1.1㎞ある那須モータースポーツランドのコースを1周、この側車上げ状態で完走することもできるのだとか!? ううむ、本当に“サイドカー道”は奥が深い……
安全に反復練習できる“場”は絶対的に必要
大切なのは「バイクとは全く違う乗り物だ」と早々にアタマを切り替えて、巨大な振り子である側車の挙動を常に意識することですね。
「サイドカーライディングスクール」の会場は安全かつ広大なクローズドコースですので、ちょっとやそっとの“やらかし”をしでかしたところで全く問題なし。

●2008年からスタートして年に1〜2回開催されてきた「サイドカーライディングスクール」(2020年、2021年はコロナ禍のため休止)は、安全なコース+十分に吟味された講習内容によって参加者がケガをするようなアクシデントは1度も起きていないとか。「2023年度の開催が待てない!」という人、那須MSLでは「サイドカー・トライクレンタル」を随時行なっていますので、ぜひ前向きにご検討を。試乗前にはインストラクターの講習も受けられますよ!
筆者も何回「うわっ、ヤバい!」と心拍数を増大させたことか……。
それでも失敗を恐れず反復練習をしていると、慣性の法則を味方につけるサイドカーならではの走り方が少しずつ分かってきて……面白い! まさにこれは「知的なゲームだ!」と、ひとりで興奮しておりました(笑)。
感嘆符の途切れない濃厚な時間は、まだまだ始まったばかりなのです! (つづく)
【参加者インタビュー④⑤】大木伸一さん 嶋田友美さん

●カップルで参加されていたお二人。「サイドカーなら立ちゴケの心配なくビッグバイクに乗られるので最高でした。免許は持っているのですが教習所以来縁がなくて……」と友美さん。そう来ましたか! 「僕は18年間くらいバイクから遠ざかっていたリターン組なので、純粋にサイドカーへの興味があっての初参加です」とは伸一さん。

●スクールの後半では颯爽とビッグバイクサイドカーを乗りこなしていた友美さん。「いつもはスクーターにばかり乗っていますので、ひさびさにマニュアルミッション車の操縦感覚を取り戻せました。足が着かなくても、エンストしたとしても転ぶ心配がないのは助かりましたね(笑)」。……いや、ビッグバイクの感覚を取り戻すためのサイドカー試乗というのは大いにアリかも!?

●以前はスズキTL1000Sやハーレーダビッドソン スポーツスター1200などを乗りこなしていた伸一さん。ビッグバイクはお手の物ながら、サイドカーの挙動には驚かされたようで……「ハンドルをどう操作すればいいか、普通のバイクとは勝手が違うので、体が覚えるまで戸惑いましたね」。いやいや、見事な走りっぷりでしたよ!
【参加者インタビュー⑥】吉田盛一さん 63歳

●「サイドカー独特な操作方法に最初は戸惑いました。頭で分かっていてもなかなかうまくできないものなので、安全なコースで何度も実践的な練習ができたのは良かったです。中でも車幅感覚の大切さに気付かされましたね。クルマを運転している人のほうが車幅感覚はあるかもしれない……」と吉田さん。なるほど大切な視点です。

●「実は近い将来、レーシングタイプのサイドカーを走らせたいんですよ。コーナリングスピードはF1より速いと言われるレーシングサイドカー……憧れます。問題は誰がパッセンジャーになってくれるかですけど(笑)。ツーリングに使うならヒョースンのサイドカーがいいかな。とても気に入りました」とのこと。まずはヒョースンサイドカーをご購入決定!?