はやぶさ(1号)が大気圏突入で千の風になった2010年、ホンダが持てる最新技術を全投入して開発し、鳴り物入りで登場させた「VFR1200F/Dual Clutch Transmission」……だったのですが、その航海は比較的静かなものとなりました。テコ入れは矢継ぎ早に行なわれ、基本構造を同じくする“クロスオーバーコンセプト”の姉妹車も登場したものの……。V4グランツーリスモの明日はどっちだ!?
●2012年のマイナーチェンジでチタニウムブレードメタリック(左)とキャンディタヒチアンブルーが追加された「VFR1200F/Dual Clutch Transmission(以下、DCT)」。テールランプに被視認性の高いLEDを採用したこともさりげなく訴求しているニクい写真ですね〜。スタイリングこそ従来型から不変に見えるのですけれど、ここでの改良っぷりは非常に大きく多岐にわたっており(後述)、まさに“新生”したと言ってもいいほどでした〜!
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対岸の火事だと思っていた不況が日本にも襲来して……
しつこいようですが2010(平成22)年……筆者的にはやぶさ関連以外の記憶がほとんどナシ。
●時代の指標にもなってくれるスタジオジブリの作品。「VFR1200F DCT」が発売される12日前、2010年7月17日に公開されたのが「借りぐらしのアリエッティ」でした。当時17歳で主人公のひとり、“翔”の声をあてた神木隆之介さんは30歳となった今年、大ヒット中の映画「ゴジラ−1.0」で堂々の名演技を披露されましたね〜
「リーマン・ショック」が2008年9月15日に米国で起こって世界的な金融危機と不況に発展していった影響が、まだ日本にも色濃く残っており、社会全体が下を向き、縮こまっていたという印象しかありません。
●米住宅バブルの崩壊が発端となって信用力の低い個人向けの住宅ローン(サブプライムローン)の貸し倒れが進み、関連する金融商品が大暴落……。筆者は当初、サラリーマンが何かで衝撃を受ける若者言葉だと誤解しておりました
日本航空が破綻したり、尖閣沖で中国漁船の衝突事件が発生したり、ハイチで大地震が起きたりと暗くて心が痛くなるニュースが目白押しでしたし、バイク業界を振り返ってみても、カワサキ「ニンジャ250R」が大ヒット街道をバクシンしていたのはいいとして、排ガス規制のアオリを受けてキャブレター仕様の空冷スポーツモデルがほぼ絶滅の憂き目に遭ってしまったこともあり、沈滞ムードが二輪ギョーカイを広く覆っておりました。
●カワサキ「ゼファーχ(カイ)」(写真はファイナルエディション)にヤマハ「XJR400R」などなど、人気モデルが相次いで生産終了を迎えてしまった2000年代末。バイク雑誌屋としては恒例かつやれば通常号より2倍は売れるドル箱企画「国産車オールアルバム」が、立ち行かなくなる危機に直面いたしました。いやはや、死活問題でしたよ。生産終了モデルも「店頭在庫はまだあるはずだから!」ということにしてムリヤリ掲載したり、海外モデルを混ぜ込むようになったり……。遠い目……
そんな中でデビューを果たしたホンダV4史上最大排気量の超ハイテクスポーツツアラー「VFR1200F」だったのですけれど、ナンともタイミングが悪い!?ことにSTDの登場時期は「CB1100」と丸かぶり……(ともに2010年3月に発売開始)。
●環境諸規制が厳しくなるばかりの世の中にあってまさかの大排気量空冷エンジンで登場し、熱い注目を浴びた「CB1100」シリーズ。正確に言えばアップハンドルの〈Type Ⅰ〉が2010年3月11日、グリップエンドが低く手前となる〈Type Ⅱ〉は遅れて同年6月4日の発売でした。写真はCB1100〈Type Ⅰ〉ABSで、税抜き当時価格は102万円(消費前5%込み価格107万1000円)ナリ。ベテランライダーだけでなく、若い層まで幅広い支持を得て販売台数401㏄〜部門にて2010年、2011年と2年連続して堂々の1位に輝きました。以降も高い人気を維持していき、2022年まで続くロングセラーモデルへ……
“新開発されたリッター超えの空冷並列4気筒エンジンを搭載したネオCB”にユーザーの目は完全ロックオンされてしまい、販売部数アップのためそういった風潮を反映させなければならないバイク雑誌屋としても、より多くのページ数を割いて「CB1100」の詳細をレポートすることは当然で、比較すると「VFR1200F」の露出がとてもショボイものになってしまった事実は否定できません。
●バイク雑誌の世界では「は〜い、今月は新車が3台出たからグラビア30ページを3等分して各車10ページずつね〜」とはなりません。読者の興味を引きつける車種には多くページを割き、それなりのモデルはそれなりに……というのが鉄則。その比率を編集会議でケンケンガクガク議論して、最終的に編集長が各ページ数を決めていくワケですよ
もちろん4ヵ月後の2010年7月29日に発売が開始された「VFR1200F DCT」はバイク用として世界初の有段式自動変速機を搭載したモデルだけに、それ相応のボリュームを用意して試乗記やメカニズム解説を掲載したのですけれど、“スポーツ(ツアラー)モデルのオートマ化”に対して少なからぬ割合のライダーは、やんわりと拒絶反応を起こしていたという印象が残っております。
●「VFRといえば、やっぱコレでしょ!」という栄光の1980年代に毒された(?)バイク好きのイメージを牽引していたのが、キング・オブ・レーサーレプリカと言っても過言ではない「VFR750R(RC30)」であることは間違いないでしょう。“Force V4”のアオリ文字も決まりすぎている鍛え抜かれたボディと心臓は、今なお数多くのライダーから憧憬を集めている存在です。国内仕様は1987年8月31日に148万円、限定1000台で発売されましたが数倍もの予約が入ったため抽選販売に……。当時のカタログデータやリフレッシュプランの話がテンコ盛りな公式ウェブサイトはコチラ
いや、拒否反応というよりは「ツアラーっぽく使うなら不可欠なトップボックスや、パニアケース、ナビシステムなどを純正でそろえてETC車載器なども追加したら200万円クラスになっちゃうし、自分には関係ないなぁ」というあきらめにも似た空気が漂ってしまった……というほうが正しいかもしれません。
当のホンダもそのあたりは百も承知で、2010年の「VFR1200F DCT」国内販売計画台数は400台と抑えられており、まずは“タニマチ”へしっかり届けて多様な条件となる一般公道を実際に走る彼、彼女らからのフィードバックも期待する……というスタンスだったようです。
●「タニマチ」とは相撲界の隠語で、ひいきにしてくれる客、または後援してくれる人、無料スポンサーのことを指します。相撲好きの医者が住む街が大阪にある「谷町」だったことが由来なんだとか。勉強になりましたネ
●2010年型「VFR1200F/DCT」カタログより抜粋。新車開発と同時にデザインと機能が構築されていった純正アクセサリーだけにフィッティング感は抜群ですね〜。速攻で購入したタニマチさんたちは、「どうせ買うなら〜!」と値段は一切気にせず後付け装備テンコ盛りのフルオプション仕様にする人も多かった……と後日の取材で聞き及んでおります。スゴイ!
2012年のマイナーチェンジで魅力を総合的にアップ!
ともあれ、世に放たれた「VFR1200F/DCT」は購入者に大きな満足を与えつつラインアップに君臨。
2011年2月10日には従来の赤と白に加えて、精悍な黒が追加されました。
●その色名は「ダークネスブラックメタリック」……いやぁ、全体がシュッと引き締まって見えてとても精悍ですなぁ(白黒写真ではありません)。赤白の紅白まんじゅうにおはぎも追加された(違うか)3色展開で2011年は販売されていったのです(途中、東日本大震災があったので大変でしたが)。お値段は変わらず、リリース記載の国内における年間販売計画はシリーズ合計で800台となっておりました。速攻購入されたタニマチさんの発信するネット情報や口コミのおかげもありVFR1200Fの、そのDCTの高い実力がジワジワと幅広いライダーへ浸透していった時期ですね
そして大きな飛躍は2012年3月!
大規模なマイナーチェンジによって商品力を大幅にアップさせてきたのです。
●2012年3月2日(金)に発売が開始された2012年型「VFR1200F/DCT」(写真は新色「キャンディータヒチアンブルー」のSTD)。前年追加されたばかりの黒そして、赤まんじゅう……いや赤が消えて、白とこの青とこれまた新色「チタニウムブレードメタリック」の3色展開となりました。とにかく気合いが入っておりましたね、純正オプションのケース塗色も全部変わるわけですから……。個人的に一番ビックリしたのが、燃料タンク容量が1ℓ増えたこと。18ℓを19ℓに……簡単に聞こえますが「CB1100」シリーズのタンク増量のように形状もまるっきり変えたら理解できるのですけれど、外観上、いくら眺めても新旧の形状変化が分からない、それで牛乳パック1つ分のガソリンをより多く飲み込むように……。見えないタンク内側〜底面までネチネチと“攻めて”いったのでしょうね。満タン航続距離を増やしたいというホンダ開発陣の執念を感じました!
その改良は多岐にわたり、まず紹介すべきはトラクション・コントロール・システム(以下、トラコン)の新採用(!)でしょう。
●左手側ハンドル直下、ミドルカウルの折り返し部分に設けられた「T/C(トラクションコントロール)オンオフスイッチ」。こちらを押すとトラコン機能を切ることができ、その状況は前方メーター部のインジケーターランプにて確認することも可能でした
走行中、前輪と後輪に備えられたセンサーが感知する車速信号から後輪がどれだけスリップ(空転)しているかをECU(電子制御ユニット)が算出。
そのスリップ率が一定の値以上になった場合、スロットル・バイ・ワイヤおよび燃料噴射によるフィードバック制御が行われ、エンジントルクを制御することでリヤタイヤの駆動力を確保し、車体のふらつきを抑えてくれるのです。
●雨が止んですぐ、満タン給油の前に湾岸プチツーリングへ出掛けたときは、濡れたマンホールのフタの上でわざと後輪を空転させ、トラコンの作動を楽しんだ記憶がございます。ロングツーリング取材の帰り道、疲労で集中力が低減してきたときにも、ある程度VFRに身を預けることができる安楽さはタマランものがありましたネ。今では125㏄スクーターにも採用される装備となったのにはホントーに驚かされます〜
トラコンが作動するとインストルメントパネル内にある「T/Cインジケーター」が点滅して駆動力が過剰であることを乗り手に知らせてくれるので安心感は絶大なものとなりました。
乗りやすさを増大させて燃費も約10%アップって……
エンジンはカムシャフトを変更(!)することでバルブタイミングを最適化し、最高出力はそのままにツーリングや街乗りで多用する低・中回転域のトルクをアップ!
●発売から2年しか経っていないモデルのカムシャフトを変更する……。狂乱の1980年代レーサーレプリカ大戦争時代ならいざ知らず、バイクブームが完全に沈静化し、リーマン・ショック×東日本大震災まで折り重なった最中に大掛かりな心臓手術まで行ってくるとは想定外でした。ただ、その甲斐あってか太かった低中速トルクがさらに増大し、扱いやすさがアップ! 心地良い「V4ビート」とともにどこまでも走っていきたくなる気分になったものです……
副次的効果として燃費も大幅に向上し(!)STDは20.5→22.5㎞/ℓ、DCTは22.0→24.0㎞/ℓ(ともに60㎞/h定地走行テスト値)を実現。
さらに燃料タンクの容量を従来型の18ℓから19ℓへと増量(!)したことで、より長い航続距離を確保したのです。
さらにデジタル表示のインストルメントパネルには「瞬間燃費」「平均燃費」「残走行距離」のデータ表示ができるようになり(!)、従来型のオーナーが感じていたのであろうロングツーリング中のヒヤヒヤ感が大幅に減らされることになりました。
●9000回転からレッドゾーンの始まるアナログ式タコメーターの左右に、多彩な情報を提供する2つの大型液晶を配するというデザインが持たされたインストルメントパネル部。2012年のマイナーチェンジで左側液晶の下部に燃費関連の表示が追加されました
テールランプへ被視認性に優れるLEDが採用されたことも、わずかではありますが燃費向上へ貢献(消費電力が減るため)したことは間違いありません。
●当時はまだ珍しかったLED光源の採用。2023年の今やテールランプ、ウインカーはおろか、ヘッドライトまでLED化が当たり前になりつつあり、車両トータルでの消費電力は大幅にダウンしたと聞いております。さらにデザインの自由度が増したので、エゲツナイ顔やお尻を持つバイクも増えましたね〜
ユーザーファーストの使いやすさを徹底的に研究&実現!
言うまでもなくDCTにも改良の手が加えられ、「ATモード」での走行中において任意で変速した場合に、自動で「ATモード」へ復帰する機能(!)を新採用。
●従来型では「ATモード」中にスイッチを使って恣意的に変速すると、それ以降はずっと「MTモード」のままとなり、再びAT⇔MT切り替えスイッチを操作しないと「ATモード」には戻りませんでした。そのあたりの不便さがタニマチさんから多く上がったのでしょう。マイチェン版ではしっかりキッチリ対応されてきたのです
さらに別売のオプションとして「DCTチェンジペダルキット」が用意(!)され、足でのシフトチェンジに慣れているユーザーに対しても配慮は万全……。
●コレですよコレ! やっぱり通常のバイク歴が長ければ長い人ほど変速したいなぁと思ったときには、無意識のうちに足が動いてしまうもの。そういう声へ応えたのが「DCTチェンジペダルキット」(消費税5%込み当時価格3万5490円)でした。これ、機械的にエンジン内部へロッドがつながっているワケでは全くなく本当にスイッチなんですね。ハンドル部にあるものと同じ効果が得られるため、筆者も広報車での取材ではついついこちらのほうを多用していました。なお、NC700シリーズほか2012年以降に登場してきたDCT車両は、最初からこちらをオプションとして選ぶことも可能に……。ホント、タニマチさんからのフィードバックは偉大なり!
まさにデビューから約2年という間にホンダ開発陣がいかに真摯にオーナーたちの要望を吸い上げてきたのかが如実に理解できる堂々のマイナーチェンジ内容でありました。
走らせたなら新旧が一発で分かる深い深い改良っぷり……
実際、改良版のDCT車両をツーリング企画に使用したことがあったのですが、極低速域でのギクシャク感が大幅に減ったことでUターンのしやすさが驚くほどに向上(エンジンのトルクアップも効いていたなぁ、アレは……)!
ワインディングで気合いを入れて「MTモード」で走るときは指先(足元)での変速指令が、従来比1.5倍のスピードでギヤチェンジへと反映されるような印象を受け、ストレスなくコーナーをクリアしていけるではありませんか~。
プレスリリースには明記されていませんでしたが、全部オマカセ「ATモード」のコーナリングにおけるシフトアップ/ダウンの所作もスムーズさがいや増しておりました。
●極論すれば「ガチャコン〜ガチャコン〜ガチャコン」だった変速動作が「カチャカチャカチャッ!」と変化したような感覚。これはもう絶対ハードもソフトもネチネチネチネチとブラッシュアップしまくらなければ到達しえなかった領域でしょう。ただ、個人的には初期型の頑張ってる感も大好きです(笑)。なお、国内仕様1236㏄水冷4ストV型4気筒OHC(ユニカム)4バルブエンジンのスペック値はマイチェン前後でほとんど変わらず、最高出力111馬力/7500回転、最大トルク12.2㎏m/5500回転という必要にして十分なパフォーマンスを発揮してくれました
従来型が筆者の「ここで変速してほしい!」という思いから20%ほど離れていたとしたら、マイチェン改良版はその誤差が10%未満になった感じ……と書けば多少は伝わりますでしょうか。
とまぁ、ここまで述べてきた具合にビックリするほどの商品性向上を果たした「VFR1200F/DCT」。
●こちらも2012年のマイナーチェンジ時に純正アクセサリーへ追加された「トップボックス 45ℓ(ワン・キー・システムタイプ)」(消費税5%込み当時価格3万2550円)。従来は約33ℓのものしかなかったので、こちらもオーナーの要望に対応したカタチですね。プレーンな形状のヘルメットなら2つしっかり収納できるため「ランチは300㎞先の高原ホテルで」という開発キーワードを現実化したときもササッとスムーズにお店へ入っていけます
プレスリリースが配布されたときから、内容を読み込むごどに興奮していきました。
しかし良くなったその分、さぞかしお高くなったんでしょう?と諦観しつつメーカー希望小売価格欄をチェックしてみれば……なんとお値段は据え置き!
STDが税抜き150万円(消費税5%込みで157万5000円)、DCTは同160万円(168万円)のままではございませんか!!
●後述いたしますが「VFR1200F/DCT」……国内での正規販売期間は想定外に短いものとなってしまいました。要因はいろいろと考えられますし、それをここでどうこうは記しません。けれど間違いなく言えるのは、このモデルが出ていなければ「デュアル・クラッチ・トランスミッション」が今なお現役で、日々増えていくユーザーに対し、大型バイクのイージーオペレーション&イージーライディングという恩恵を与え続けている状況は生まれなかっただろうということ。令和の世だからこそ見直されるべき“走る文化遺産”なのです(断言)!
そう、2012年はご存じのとおり700㏄のNCシリーズが展開を始めた節目となる年でもあり、つまりは“DCT普及化元年”と言っても過言ではないエポックイヤー。
2010年に「VFR1200F DCT」を発売することで世界中のユーザーから得られた“要改善点”を見事に反映した1200㏄、そして700㏄のDCTシリーズが一気に“攻め”へと転じていったのです。
VFR1200Fベースのアドベンチャーモデルがあった!
そんな2012年、マイナーチェンジを受けた「VFR1200F/DCT」からエンジンやフレームなどのベースを流用したアドベンチャー(ホンダはしばらく“クロスオーバーモデル”と言い張ってましたが)……つまりオン・オフロードスタイルの姉妹車も登場してきました。
それが「VFR1200X〈クロスツアラー〉」だったのです!
●正直、ベースが「VFR1200F/DCT」だとは、いざ言われてみてよくよくエンジンやフレームをのぞき込まない限り分からないとも言える「Crosstourer」。“クチバシ”もしっかりありますし(笑)、ちょいと低めだけれど整流効果も高そうなウインドシールド、アップライトなハンドル、大容量21.5ℓ入りのガソリンタンク、肉厚なシート、頑丈そうなリヤキャリヤ……などなど、非の打ち所のないアドベンチャーモデルではあ〜りませんか! 当時は「ホンダが絶対王者、BMW R1200GSに真っ向勝負を挑んだ!」とちょっとだけ話題になったものです。ライバルにはない「DCT」の優位性から海外では地道に売れ続け、欧州では2015年12月に登場したパラレルツイン+DCTの「CRF1000Lアフリカツイン」へその地位を譲ったカタチに……(以降数年間、併売されました)
……ところがこのバイク、ビックリするくらい一般的なバイク好きの方々には知られていません。
う~ん、いろいろな思惑とよんどころなき事情が入り交じったのでしょうけれど、2012年「VFR1200F/DCT」のマイチェン時、同時にホンダが日本国内正規モデルを姉妹車としてシュッと販売開始しておけば、また違う世界線(想像以上のスマッシュヒットしたという方向)があったのではないか……?と、筆者はいつもこの車両を思い出すたび考え込んでしまいます。実際には……
●大ざっぱに言えば日本でアドベンチャーブームが本格的に巻き起こったのは、まさに2012年のホンダ「NC700X」発売+2013年のスズキ「Vストローム650」国内仕様登場からだと筆者は考えております。2012年、他社に先んじNC-XとVFR-XがDCTアドベンチャー戦線を構築していたなら……!?
●2012年2月24日にSTDたる「NC700X」シリーズ(消費税5%込み当時価格64万9950円〜)が、同年6月14日に「NC700X DCT〈ABS〉」(同75万2850円)が登場し、大ヒット街道を突き進んでいった時代の寵児。低燃費を徹底追求した669㏄水冷4スト並列2気筒OHC4バルブエンジンは最高出力50馬力/6250回転、最大トルク6.2㎏m/4750回転の実力。車両重量はDCTで228㎏(※STD=214㎏、ABS=218㎏)でシート高は830㎜(800㎜のタイプLDもあり)。燃料タンク容量は14ℓながら60㎞/h定地走行燃費が41.0㎞/ℓなので理論上の満タン航続距離は574㎞! 従来の燃料タンク部分に容量21ℓのラゲッジスペースがある点でも注目されました。いやぁ〜コイツは売れた売れた。手持ちの面白ネタも山ほどありますので、近いうちに与太話全開で(?)紹介していきたいですね〜!
2012年、海外向けモデルとして「Crosstourer」が発売される
●カラーリングなどから推定するに、写真の車両は2012〜13年型の欧州向け「クロスツアラー(DCT)」を逆輸入したものだと思われます。当時の資料をまさぐってみると、消費税5%込み当時価格で6MTが175万円前後、DCTが185万円前後(ともに諸費用別)で販売されていたようですね
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好き者たちがザワつく
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同2012年6月25日から(なぜか)株式会社M-TEC[無限]が欧州向け「Crosstourer」を輸入し、専用の無限パーツ(スリップオンマフラー+デカールなど)を装備した「VFR1200X MUGEN/VFR1200XD MUGEN」を合計100台限定で発売
●情熱を忘れない大人のコンプリートモデルとして全国の無限テクニカルショップ(=ホンダドリーム店)から発売された「VFR1200X MUGEN」(消費税5%込み当時価格163万2750円)と、写真の「VFR1200XD MUGEN」(同173万3500円)。デカールの黒・金・赤は無限のコーポレーテッドカラーで、“クチバシ”の先端にも「無限 MUGEN」のステッカーが貼付されていました。標準装備された無限スリップオンエキゾーストシステムは排気効率を追求したストレート構造で軽量化にも寄与。欧州仕様ベースだけに最高出力は129馬力/7750回転、最大トルク12.8㎏m/6500回転!
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買い損ねたマニアは逆輸入車へと向かう
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2014年3月7日、ホンダは正規ラインアップ車として「VFR1200X デュアル・クラッチ・トランスミッション」を発売開始(※受注生産車)……という流れ。
●年間販売計画台数150台として消費税5%込み当時価格183万7500円で発売された「VFR1200X DCT」。迷彩柄のデカールが貼られた「マットチタニウムブレードメタリック」が非常に精悍でしたね。国内向けに最適化されたエンジンは最高出力106馬力/6000回転、最大トルク12.7㎏m/5500回転というパフォーマンスを発揮。車両重量は288㎏でシート高は欧州仕様の850㎜から40㎜も下げられた810㎜を実現! 燃料タンク容量は21ℓで60㎞/h定地走行燃費は23.5㎞/ℓ。ライダーが必要に応じて後輪への駆動力レベル(3レベル+オフ)を選べる「Hondaセレクタブルトルクコントロール」や進化した「コンバインドABS」、「ウインカーオートキャンセラー」、「メインスタンド」、「ETC車載器」、「グリップヒーター」、「ナックルガード」などが標準で装備されていた超快適ツーリング仕様でもありました〜
しかも同2014年12月12日にはV型4気筒800㏄エンジンを搭載した「VFR800X」(海外名:「Crossrunner」)が国内登場してしまいますから、
●実質的には2015年モデルとして登場した「VFR800X」(愛称?「クロスランナー」)は、消費税8%込み当時価格が138万2400円で年間販売計画台数は200台。Vバンク90度の水冷4ストV型4気筒DOHC(HYPER VTEC)4バルブ……というスペック至上主義ヤロウが泣いて喜ぶエンジンは最高出力105馬力/1万250回転、最大トルク7.6㎏m/8500回転という実力の持ち主。車両重量は244㎏でシート高は835㎜/815㎜の2段階の調整が可能な仕様。燃料タンク容量は20ℓで60㎞/h定地走行燃費は27.4㎞/ℓ。ライダーが必要に応じて後輪への駆動力レベル(2レベル+オフ)を選べる「Hondaセレクタブルトルクコントロール」や「ABS」、「ウインカーオートキャンセラー」、「メインスタンド」などを標準装備し、オプションでクイックシフターも選べました。あ、このモデルにDCTはなく6速MTのみです……
せっかくHondaクロスオーバーコンセプトに大いなる興味を持ったファンでさえ右往左往せざるを得ません。
残念ながら「VFR1200X DCT」は上で紹介した迷彩柄の2014年モデルがそのまま国内では最終型となり、そうこうしている最中にオリジナルの「VFR1200F/DCT」もカラバリを変更した2013年型をもって国内版の進化&改良が終わってしまいました(“F”と“X”ともに国内仕様は2016年に生産終了。以降、海外向けではしばらく延命しましたが……)。
●国内仕様最終モデルとなった2013年型「VFR1200F/DCT」は、写真の「ダークネスブラックメタリック」と、定番の「パールサンビームホワイト」の2色展開でフィニッシュ! よ〜く見ると……そうです、リヤカウルがこれまでずっと銀色だったのですが、今回からボディ同色に塗られるようになったのです(白も同様)。結果、より一体感のあるスタイリングを獲得(ケース類の塗色を変更しなくて済むからナイス!?)。お値段は最後まで据え置きされ、年間販売計画台数はシリーズ合計で200台となっておりました
結局、偉大なる「VFR」の紋章……いやブランドは、シリンダー挟み角90度の781㏄水冷4ストロークV型4気筒DOHC(HYPER VTEC)4バルブエンジン……という(しつこいですが)スペック至上主義ヤロウが狂喜乱舞するパワーユニットを搭載した「VFR800F」と「VFR800X」が最終ランナーとなり、令和2年排出ガス規制の影響で2022年10月末に2台そろって手に手をとってフィニッシュ(生産終了)を迎えたのです。
●2019年3月8日に発売開始された「VFR800F」のパールグレアホワイト(ストライプ)……もう往年のレースシーンを知る者にとっては、心の汗が頬をつたいまくる“INTERCEPT0R”カラーですよ……。詳細は近いうちに!
“Force V4”の壮大なる40年の歴史をギュッとまとめた良記事はコチラをご参考いただきたいのですが、現在ホンダでV4と言えばモトGPマシン「RC213V」だけというのは悲しいかぎり。
同じモトGPを戦っているドゥカティやアプリリアがV4エンジンの超高性能市販車をガンガン(特にドゥカ!)出しているのを見ると、悔しくなってしまいますね。
●2021年型ドゥカティ「ムルティストラーダ V4S スポーツ」……気が付けばV4スポーツモデル=ドゥカティという図式になりつつありますね。“ムルティ”はもちろん、パニガーレもディアベルもストリートファイターもスーパーレッジェーラにもV4エンジン搭載車あり。う〜〜〜〜む……(涙)
ホンダV4がアッと驚く新機軸で大復活し、世界レベルで再び最高到達点を見せてくれることを大いに期待しつつ、この稿を終わることといたしましょう。
う~ん、ホンダV4に関してはマダマダ書き足りないので、次回からは「VFR800F/X」にまつわるエトセトラを与太らせていただきます m(_ _)m 。
●と、言っておきながら「VFR750F」のカタログ写真を持ち出してきてしまうワタクシ……。さて、どのくらいまでさかのぼって話をしていきましょうかねぇ……(^^ゞ
あ、というわけで「VFR1200F」も「VFR1200X」も当然ながら世界一のバイクメーカー、ホンダ謹製のモデルですので完成度の高さは間違いなし。それがレッドバロンの上質な中古車なら消耗パーツや交換部品、アフターサービスに至るまで幾久しく心配はご無用。まずはお近くの店舗まで、お気軽に足を運んで車両検索や各種質問をしてみてくださいね!
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