ニンジャやCBRやYZFが気になったけれど安いからGSRでいいかな~」という買い方をした人! 怒りませんから正直に手を挙げてみてください。……多いですね。では、手に入れて激しく後悔した人は? ……ほほう(ニヤリ)。はい、少なくとも筆者の知る範囲ではグチグチ愚痴を言うGSR250オーナーは皆無で「想定外に良かった」と絶賛する人ばかりでした。これぞ“ギャップ萌え”の成果!?

2015_GSR250カタログ表紙

●2015年型「GSR250」カタログ表紙より。前編でも述べましたがこの車両は当初から中国を主体に販売する計画で、中国におけるスズキ車のフラッグシップという位置付けで企画されたもの(現地名:GW250)。とはいえ国際戦略車として展開していくことも決まっており、入門車としての扱いやすさや手ごろな価格も考慮されました。2015年5月の段階で中国、日本、欧州全般(現地名:INAZUMA250)、北米、ブラジル、オセアニア、インドネシアやロシアなどでリリースされており、シリーズの累計販売台数は1万1000台を超えていたのです!

 

GSR250という“アンチテーゼ”【前編】はコチラ!

大切なお見合い写真(?)で「やっちまったなぁ〜!?」

広報写真……バイクが発売される数ヶ月前に各メーカーの広報から昔は封筒入りのポジフィルムで、現在では専用のサーバーからダウンロード可能なデータにより配布されるライティングもポージング(?)も完璧な車両の美しい写真です。

ニューモデルの第一報では間違いなく使われる(このコーナーでも多用)、背景が真っ白もしくは薄いグレーのスタジオ撮影で、なぜかサイドスタンドが出ていないのにマシンが直立しているアレですよアレ。

昔は車両の見えない側、カメラの死角に“つっかえ棒”をかまして絶妙なバランスのもとに直立させてからシャッターを押したそうですが、最近はCGをフル活用しているのかしら?。

スタジオイメージ

●大ざっぱに言って上イラストで赤ちゃんがいるところにバイクを置いて撮影すればいいだけ……なのですけれど被写体が大きいゆえ圧倒的に大掛かりで大変な作業となります。でっかいスタジオを貸し切ってワンカット撮影するたび向きを変えて〜〜ライトの位置やり直して〜などなど手間がかかりまくり。1980〜1990年代は主要モデルなら左頭7:3、左右のリヤ7:3、真正面、真後ろ、真上(俯瞰)といった多彩な種類まで配られたことがありましたが、2010年代はコストダウンのせいか右頭7:3と右頭真横の2パターンのみ配布というのが一般的に……

 

まぁそんな、良くも悪くもバイクの“第一印象”を決定づけてしまう広報写真。

正直言って、GSR250デビュー時にばらまかれた……いや、二輪情報誌やネットを経由してバイク好きの皆さまへと届けられたGSR250の「右頭7:3」カットは実車の魅力を100%映し出しているとは言いがたいものでした。

GSR250広報写真

●はい、こちらです。フロントブレーキのローターはホイールのあっち側ですし、前輪タイヤがやたらとデカく見えますし(理由は後述)、せっかくのセンタースタンドも存在が希薄で見所でもあるテールカウルの横幅ボリュームもよく分からない……。タンク下にあるアルミフレームを模したような銀の加飾も冷めた目で見ると「なんだかなぁ」となってしまいます

 

フロントのタイヤとフェンダーがヤケに目立ち、相対的にせっかくB-KINGイメージを反映させた象徴であるヘッドライトとフューエルタンクカバーがこぢんまりとしてしまい、

タンクとカバーGSR250

●近寄るライダーの視線アングルだと、ホラ、こんなに表情豊かな陰影を持つ燃料タンクまわり。フューエルタンクカバーの谷折り部分にこんな凹凸が彫り込まれているだなんて、広報写真では全く分かりませんでした……

 

おっ立ったバックミラーに気を取られているうちにのっぺりとしている(ように見える)タンクとシート部分がスルーされて車体後部へ視線は移動するー……

と、テールエンドにある銀色で目立つグラブバーと、いまいちナウくない(死語)メッキパーツテカテカなマフラーのサイレンサー部分に目がいって、うへぇと思いながらガン見は終了

GSR250マフラーアップ

●このアングルで見るとサイレンサーの造形や細部の処理もこだわりがあることがよく分かります。そしてテールカウル下部にはまた3本の彫り込みがリフレイン……。デザイナーの美意識を感じますね〜

 

全体として「なんだかまとまりのないスタイリングだなぁ」というネガな印象のみが強調されるカタチに。

それで大部分のライダーは興味を失い、さぁさぁ次の話題へ……とページをめくったり、フリックしたりクリックしたりしたのではないでしょうか。

「主にどこ向けか」で大きく異なってくるデザインテイスト

MOTTAINAI! 

前回述べたとおり、無限と言ってもいいほどの可能性を秘める中華人民共和国の巨大な市場において最上級車……つまり旗艦となるモデルであり、かつ白バイ需要まで満たすために企画立案されたGSR250(現地名GW250)シリーズは、当然のことながら中国ファーストの趣味嗜好がデザイン的に最優先されておりました。

GW250J-HA

●はい、もはやおなじみ「常州豪爵鈴木摩托車有限公司」ウェブサイト内にある「GW250J-HA」のカッコよすぎる写真です。思わず「トップガン マーベリックかよ!」とモニターに向かってツッコんでしまった筆者。しつこいようですが、後述のGSR250Sを購入してこのテイストを再現してみるのも大いにアリかと……

 

華々しいクロームメッキや銀の加飾を多用しつつ、フラッグシップに相応しい車格と横幅のボリューム感を持たせるためにウインカーが埋め込まれたフューエルタンクカバーや末広がりなテールカウルを採用。

ともすれば日本人ライダーには鈍重に感じられがちな左右二本出しマフラーも中国の方々が左右対称デザインを好むために採用されたものだとか。

シュッとしてお尻も小さいスリムなスタイリング、そして軽快な1本出しマフラーが主流となっていたライバル群とはまさに対極……。

2013年CBR250R

●例えばこちら、2013年型の「ホンダCBR250R ABS」はGSR250と同じ世界戦略車ながら、東南アジアそして日本の市場の嗜好を重視した正統派(?)な250ロードスポーツのスタイリング文法をまとっておりました。なお、フロントタイヤのサイズは110/70-17です(←伏線)。もっと言えばニンジャ250/Rも、YZF-R25も 110/70-17です(←伏線ですってば!)

 

「エンジンだけでなく姿形でも“アンチテーゼ”を貫いたGSR250に、はたして輝かしい未来はあるのだろうか……?」

そんなバイク雑誌屋の上から目線で勝手な心配をよそに、スズキ関係者が胸をなで下ろす方向へと事態は動き始めました。

上から目線イラスト

●デビュー前夜、「どうせ中国産の安かろうバイクだろう?」と謎の蔑視をしていた業界関係者も存在していました。が、強烈な主張を放つ完成度の高い実車を前にすると、完全に沈黙……(^0^)

ネガな第一印象がことごとくひっくり返っていく快感!

実車を一度でもじっくり見たことがある方ならご納得いただけると思うのですが、GSR250はとても大柄に感じられます。

立ったまま近づいていき見下ろすような視線を車体へ向けると、デコッパチなヘッドライト上部とボリューミーなタンク周り、ワイドかつ反り上がったテールカウルの造形が目に飛び込んできて「おっ! ご立派だねっ!!」と嬉しくなり、

GSR250リヤカット

●つまり、こういう角度で車両を見るとGSR250のイケメンぶりが引き立つということ。どうですか、天を向くテールカウルの絶妙な曲線と緊張感といったら! また、左右2本出しマフラーだからこそセンタースタンドの造形もしっくり収まっております

GSR250のテールカウルをリヤから

●後方から眺めるとテールランプ周辺はこのような雰囲気。ジャッカー電撃隊のスペードエースを想起してしまうのは筆者だけでしょうか

 

いざまたがってみればスッと足を降ろした位置に存在するステップがちょいと気になるものの、太ももにフィットする絞り込まれたニーグリップ部分とは裏腹、

GSR250真横

●複数のオーナーから「自然な感じで足を降ろすとふくらはぎの内側に、ちょうどステップが当たって気になる」との声を聞いたこともございますが、「自然とステップの後ろに降ろしていたので意識していませんでした」という人もいたりして感じ方は千差万別ですね。なお、GSR250のシート高は780㎜でCBR250R(MC41)と同数値でしたが、シート幅が広めなので比較すると足着き性はソコソコだった記憶があります

 

そこからググッと外へ張り出していくフューエルタンクカバーが、イイ感じでアナログ回転計を中央に据えた視認性に優れるメーター周りへの素直な流れを作っているではあ~りませんか。

GSR250メーターまわり

●メッキの施されたリング状パーツの中に収まるアナログ式タコメーターが、これから行うライディングへの期待感を高めてくれます。トップブリッジ周辺の質感も全く問題ないですね〜

 

リヤ周りがやたらカッコ良かったホンダ ホーネットが“バックシャン”ならば、GSR250は“サイドシャン”……いや、斜め後方からの眺めが美しいから“ダイアゴナル(diagonal)シャン”とでも言うべきでしょうか(※筆者は英検4級)。

ホーネット

●2007年型「ホーネット」のカタログ表紙です。名前のとおり蜂の毒針を彷彿させるアップマフラーと180/55ZR17という極太リヤタイヤとのコンビネーションが当時のライダーを熱中させました〜

 

「写真ではどうかなぁと思ったけれどぉ、実際に会ってみると意外とイケメンでぇ……」と、お見合いに臨んで好印象を得た山田花子さん(仮名)29歳(←誰?)の弁ではありませんが、

お見合いイラスト

●釣書(身上書)と写真を確認して、いざご対面……。今やマッチングアプリで男女がお手軽に出会うご時世となってしまいましたが、古式ゆかしい「お見合い」という制度はある意味で完成された素晴らしいものだという想いがございます。あれ? 何のハナシでしたっけ

 

(特に広報)写真写りが芳しくなくリアルでこそ映えるというのはスズキ車の(悲しき?)特徴だなぁ、と個人的に思っております。

2017年型GSR250

●写真は2017年型GSR250の広報写真……って、スズキも撮り方撮られ方をいろいろと研究&試行錯誤したらしく、配色やグラフィックの力もあるにせよ同じ車体なのにカメラアングルが少し変わっただけで、受ける印象は上で紹介した黒一色のアレとは大違いのコンコンチキではあ〜りませんか! 嗚呼、写真は真実を写さない (>_<)

 

そして実際に付き合ってみれば、メロメロになってしまうことが多いのも、またスズキ車の(良き!)特徴かと……。

“ハヤブサ”譲りの緻密な燃料噴射コントロールを実現

あえてOHC2バルブで新規開発されたロングストロークな水冷並列2気筒は、低中回転域から250モデルとは思えないブ厚いトルクを発生するのですけれど、うっかりラフな操作をしてしまっても唐突に車体が前へ出にくい設定になっています。

これはスズキ開発陣があえて狙ったセッティング。

『発進でドンと出るような演出はしていないので力がないと感じられるかもしれませんが、スロットルを開けたぶんだけスムーズに加速するようハヤブサと同じ16ビットのECUを採用しており、その効果もあって皆さんにエンジンフィーリングが滑らかだと感じていただけていると思います』(筆者が編集を担当した八重洲出版モーターサイクリスト2015年8月号「追跡」より引用。以下『 』部分は同)。

GSR250追跡

●GSR250デビューから約3年、後述する「S」と「F」というバリエーションも出そろって一定期間が経過したのち各モデルオーナー諸兄に八重洲出版まで来ていただき、スズキ関係者と座談会をしていただいたモーターサイクリストの名物企画「追跡」でのワンカット。別冊モーターサイクリスト時代から編集担当をしていた筆者としては、本当に思い入れが深い一連の取材でございました……

 

多少のギャップをものともしない安定性の高い操舵性

そしてGSR250最大の美点と言い切ってしまっても過言ではないのがコーナリングの気持ちよさ

その大きなポイントとなったのがフロントの“110/80-17”というタイヤサイズでして、ライバルが押し並べて採用している“110/70-17”より10%も扁平率が高いものがあえてセレクトされているのです。

GSR250タイヤ

●バリエーションモデルを含め、GSR250のタイヤはIRCのロードウイナー RX-01が標準。このバイアスタイヤ自体がドライ・ウエットの両場面で非常にバランスのいい製品というのもありますが、その素性を十二分に引き出すサスペンションセッティングが施されているということ

 

扁平率とはタイヤ幅に対する高さの比率を表す数値であり、それが低いほどタイヤの高さが低くなっていく……つまり平べったくなっていくというイメージですね。

ん、分かりづらい? 

もっと単純にぶっちゃけますとタイヤの高さがその幅の何%なのか、ということです。

上記のメトリック表示なら110がタイヤ幅なので、そこに扁平率70%……つまり0.7を掛け合わせるとライバル達が使っているフロントタイヤの高さは77㎜、対してGSR250は扁平率80%なので88㎜になります。

片面で11㎜ある差が対面にもあるのですから、直径でいったら22㎜もタイヤが大きくなるということ。

つまり内部に入っている空気の量も多くなり、ゴム&カーカスなどの使用量も増えて重たくなり、

GSR250メーター

●ちなみに純正のサイズから扁平率が違うタイヤに交換すると、外径の大きさが変わる=1回転したときに進む距離が変化するため速度計の表示が狂ってしまいますし、ハンドリングも激変したりするので安易に考えぬようご用心あれ。なお、GSR250のメーター右側の液晶画面には速度と燃料残量(バーグラフ)のほか、時刻、走行距離(ツイントリップ)などが表示され、時刻と走行距離は切り替えボタンによって選択できました

 

結果的に衝撃吸収性とジャイロ効果がアップするため路面追従性の向上が見込まれるのです(広報写真で前輪が厚ぼったく感じたのも道理です。実際に径が大きいのですから)。

サイドウォールが大きく(高く)しなやかなことは、タイヤ自体の衝撃吸収性が高い=デコボコが続く路面を長時間走破していくときでも疲労感を覚えにくいというメリットも大きく、中国ほかのワイルドな市場が求める要件にもピッタリ

険しい道

●さすがにこんな道は無理でしょうけれど(笑)

 

スズキの誇る操安実験部隊はかくいう利点を残しつつ日本や欧州のユーザーも納得できるハンドリングを目指して開発を進めていきました。

前述した「追跡」座談会でもスズキ関係者は……『STD(※ネイキッドのGSR250)はSやF(※後述)より運動性を高くして、車速にかかわらずニュートラルで操作できる範囲を広げています。あまり俊敏に動くようにはせず、動き始めたらスッとバンクするようにしているので、少し舵が付いたときにそのまま倒れ込んでいく傾向は多少あると思います。FやSはツアラー寄りの味付けにしました』と明言。

2014GSR250カタログ走り

●2014年型「GSR250」カタログより画像を抜粋。絶大なる前輪の接地感とともにワインディングを人(鉄)馬一体となって駆け抜けるヨロコビというのは、バイクライフの醍醐味でもあります

 

バリエーションモデルもキャスター角とトレール量は共通なので、前後重量配分の変化を考慮しつつバネレートや減衰力などの微調整で異なるテイストを実現したということ……!? 

本当に百戦錬磨の走る車体設計者という方々は、超一流シェフにも匹敵する“匠の技”をお持ちのようです。

そして2年後、GSR250三兄弟が堂々のそろい踏み!

スタイリングやハンドリングそして運動性能までを含め、誌面上やモニターで眺めた広報写真の第一印象がネガティブ気味だったぶん、いざ実車を見て、またがって、走らせてみたら「あれ? 思っていたより全然イイじゃな〜い!」と“意外性萌え”をしたライダーが大量発生したからでしょう、めでたくGSR250は大ヒットモデルへの道を駆け上っていきました。

不良少年イラストイメージ

●泣く子も黙るツッパリ(死語?)くんが雨に濡れる捨て猫を優しくひろってあげるの図。感受性の高まった同級生JKなら“ギャップ萌え”でキュンキュンしてしまうシチュエーションかもしれません……。あれ? 何のハナシでしたっけ

 

GSR250

●GSR250のヒットには戦略的な価格設定も奏功しました。デビュー時の価格は43万8900円。同時期のCBR250R(MC41)が44万9400円、ニンジャ250Rが53万3000円(すべて5%消費税込み)でしたので、お買い得感も大きかったのです。まぁ、フルカウルとネイキッドという違いはありましたけれど……

 

そして2014年1月、ハーフカウルを装着した「GSR250S」が、

GSR250S

●はい、こちらこそ中国公安バイクのベースとなった「S」ですね。第一報をモニターで見た瞬間、ウインドスクリーンのおっ立ちぶりに驚きを通り越して感動すら覚えた記憶がございます。これまた、実車は意外なほどバランスが取れており……(汗)。5%消費税込みの価格は47万8800円でした

 

同じ年の9月にフルカウルの「GSR250F」が登場し、

GSR250F

●はい、ようやくライバルと同じ“250フルカウルスポーツ”というくくりに収まった(?)GSR250の「F」。ウインドスクリーンの形状のみならず、ハンドルの長さ&高さまで「S」とは異なっているという変態的なこだわりっぷりがファンの心をザワつかせます。8%消費税込みの価格は51万4080円でした。……そうか、2014年の4月1日以降、消費税は5%から8%になったのですねぇ

 

GSR250シリーズのバリエーション展開はめでたく完成いたしました

それぞれに語りたいことがタップリとございますので、続きは次回といたしましょう。

富士山とGSR250F

●「追跡」取材のため向かった富士山須走口。いやぁ、楽しい取材だったなぁ〜

 

あ、というわけでGSR250シリーズどのモデルを選んでも間違いのない優良物件。特にSとFはリターンライダーの方に広く支持されてきたこともあり、程度のいい中古車の割合が高いと定評があるところ。ぜひお近くのレッドバロンで実車を確認してみてくださいね。なお、同社ウェブサイトでは膨大な在庫の中でも特にオススメな中古バイクが検索できるようになりましたので、こちらもぜひご確認を~!

GSR250という“アンチテーゼ”【後編】はコチラ!

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