「ニンジャやCBRやYZFが気になったけれど安いからGSRでいいかな~」という買い方をした人! 怒りませんから正直に手を挙げてみてください。……多いですね。では、手に入れて激しく後悔した人は? ……ほほう(ニヤリ)。はい、少なくとも筆者の知る範囲ではグチグチ愚痴を言うGSR250オーナーは皆無で「想定外に良かった」と絶賛する人ばかりでした。これぞ“ギャップ萌え”の成果!?
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大切なお見合い写真(?)で「やっちまったなぁ〜!?」
広報写真……バイクが発売される数ヶ月前に各メーカーの広報から昔は封筒入りのポジフィルムで、現在では専用のサーバーからダウンロード可能なデータにより配布されるライティングもポージング(?)も完璧な車両の美しい写真です。
ニューモデルの第一報では間違いなく使われる(このコーナーでも多用)、背景が真っ白もしくは薄いグレーのスタジオ撮影で、なぜかサイドスタンドが出ていないのにマシンが直立しているアレですよアレ。
昔は車両の見えない側、カメラの死角に“つっかえ棒”をかまして絶妙なバランスのもとに直立させてからシャッターを押したそうですが、最近はCGをフル活用しているのかしら?。
まぁそんな、良くも悪くもバイクの“第一印象”を決定づけてしまう広報写真。
正直言って、GSR250デビュー時にばらまかれた……いや、二輪情報誌やネットを経由してバイク好きの皆さまへと届けられたGSR250の「右頭7:3」カットは実車の魅力を100%映し出しているとは言いがたいものでした。
フロントのタイヤとフェンダーがヤケに目立ち、相対的にせっかくB-KINGイメージを反映させた象徴であるヘッドライトとフューエルタンクカバーがこぢんまりとしてしまい、
おっ立ったバックミラーに気を取られているうちにのっぺりとしている(ように見える)タンクとシート部分がスルーされて車体後部へ視線は移動するー……
と、テールエンドにある銀色で目立つグラブバーと、いまいちナウくない(死語)メッキパーツテカテカなマフラーのサイレンサー部分に目がいって、うへぇと思いながらガン見は終了。
全体として「なんだかまとまりのないスタイリングだなぁ」というネガな印象のみが強調されるカタチに。
それで大部分のライダーは興味を失い、さぁさぁ次の話題へ……とページをめくったり、フリックしたり、クリックしたりしたのではないでしょうか。
「主にどこ向けか」で大きく異なってくるデザインテイスト
MOTTAINAI!
前回述べたとおり、無限と言ってもいいほどの可能性を秘める中華人民共和国の巨大な市場において最上級車……つまり旗艦となるモデルであり、かつ白バイ需要まで満たすために企画立案されたGSR250(現地名GW250)シリーズは、当然のことながら中国ファーストの趣味嗜好がデザイン的に最優先されておりました。
華々しいクロームメッキや銀の加飾を多用しつつ、フラッグシップに相応しい車格と横幅のボリューム感を持たせるためにウインカーが埋め込まれたフューエルタンクカバーや末広がりなテールカウルを採用。
ともすれば日本人ライダーには鈍重に感じられがちな左右二本出しマフラーも中国の方々が左右対称デザインを好むために採用されたものだとか。
シュッとしてお尻も小さいスリムなスタイリング、そして軽快な1本出しマフラーが主流となっていたライバル群とはまさに対極……。
「エンジンだけでなく姿形でも“アンチテーゼ”を貫いたGSR250に、はたして輝かしい未来はあるのだろうか……?」
そんなバイク雑誌屋の上から目線で勝手な心配をよそに、スズキ関係者が胸をなで下ろす方向へと事態は動き始めました。
ネガな第一印象がことごとくひっくり返っていく快感!
実車を一度でもじっくり見たことがある方ならご納得いただけると思うのですが、GSR250はとても大柄に感じられます。
立ったまま近づいていき見下ろすような視線を車体へ向けると、デコッパチなヘッドライト上部とボリューミーなタンク周り、ワイドかつ反り上がったテールカウルの造形が目に飛び込んできて「おっ! ご立派だねっ!!」と嬉しくなり、
いざまたがってみればスッと足を降ろした位置に存在するステップがちょいと気になるものの、太ももにフィットする絞り込まれたニーグリップ部分とは裏腹、
そこからググッと外へ張り出していくフューエルタンクカバーが、イイ感じでアナログ回転計を中央に据えた視認性に優れるメーター周りへの素直な流れを作っているではあ~りませんか。
リヤ周りがやたらカッコ良かったホンダ ホーネットが“バックシャン”ならば、GSR250は“サイドシャン”……いや、斜め後方からの眺めが美しいから“ダイアゴナル(diagonal)シャン”とでも言うべきでしょうか(※筆者は英検4級)。
「写真ではどうかなぁと思ったけれどぉ、実際に会ってみると意外とイケメンでぇ……♡」と、お見合いに臨んで好印象を得た山田花子さん(仮名)29歳(←誰?)の弁ではありませんが、
(特に広報)写真写りが芳しくなくリアルでこそ映えるというのはスズキ車の(悲しき?)特徴だなぁ、と個人的に思っております。
そして実際に付き合ってみれば、メロメロになってしまうことが多いのも、またスズキ車の(良き!)特徴かと……。
“ハヤブサ”譲りの緻密な燃料噴射コントロールを実現
あえてOHC2バルブで新規開発されたロングストロークな水冷並列2気筒は、低中回転域から250モデルとは思えないブ厚いトルクを発生するのですけれど、うっかりラフな操作をしてしまっても唐突に車体が前へ出にくい設定になっています。
これはスズキ開発陣があえて狙ったセッティング。
『発進でドンと出るような演出はしていないので力がないと感じられるかもしれませんが、スロットルを開けたぶんだけスムーズに加速するようハヤブサと同じ16ビットのECUを採用しており、その効果もあって皆さんにエンジンフィーリングが滑らかだと感じていただけていると思います』(筆者が編集を担当した八重洲出版モーターサイクリスト2015年8月号「追跡」より引用。以下『 』部分は同)。
多少のギャップをものともしない安定性の高い操舵性
そしてGSR250最大の美点と言い切ってしまっても過言ではないのがコーナリングの気持ちよさ。
その大きなポイントとなったのがフロントの“110/80-17”というタイヤサイズでして、ライバルが押し並べて採用している“110/70-17”より10%も扁平率が高いものがあえてセレクトされているのです。
扁平率とはタイヤ幅に対する高さの比率を表す数値であり、それが低いほどタイヤの高さが低くなっていく……つまり平べったくなっていくというイメージですね。
ん、分かりづらい?
もっと単純にぶっちゃけますとタイヤの高さがその幅の何%なのか、ということです。
上記のメトリック表示なら110がタイヤ幅なので、そこに扁平率70%……つまり0.7を掛け合わせるとライバル達が使っているフロントタイヤの高さは77㎜、対してGSR250は扁平率80%なので88㎜になります。
片面で11㎜ある差が対面にもあるのですから、直径でいったら22㎜もタイヤが大きくなるということ。
つまり内部に入っている空気の量も多くなり、ゴム&カーカスなどの使用量も増えて重たくなり、
結果的に衝撃吸収性とジャイロ効果がアップするため路面追従性の向上が見込まれるのです(広報写真で前輪が厚ぼったく感じたのも道理です。実際に径が大きいのですから)。
サイドウォールが大きく(高く)しなやかなことは、タイヤ自体の衝撃吸収性が高い=デコボコが続く路面を長時間走破していくときでも疲労感を覚えにくいというメリットも大きく、中国ほかのワイルドな市場が求める要件にもピッタリ。
スズキの誇る操安実験部隊はかくいう利点を残しつつ、日本や欧州のユーザーも納得できるハンドリングを目指して開発を進めていきました。
前述した「追跡」座談会でもスズキ関係者は……『STD(※ネイキッドのGSR250)はSやF(※後述)より運動性を高くして、車速にかかわらずニュートラルで操作できる範囲を広げています。あまり俊敏に動くようにはせず、動き始めたらスッとバンクするようにしているので、少し舵が付いたときにそのまま倒れ込んでいく傾向は多少あると思います。FやSはツアラー寄りの味付けにしました』と明言。
バリエーションモデルもキャスター角とトレール量は共通なので、前後重量配分の変化を考慮しつつバネレートや減衰力などの微調整で異なるテイストを実現したということ……!?
本当に百戦錬磨の走る車体設計者という方々は、超一流シェフにも匹敵する“匠の技”をお持ちのようです。
そして2年後、GSR250三兄弟が堂々のそろい踏み!
スタイリングやハンドリングそして運動性能までを含め、誌面上やモニターで眺めた広報写真の第一印象がネガティブ気味だったぶん、いざ実車を見て、またがって、走らせてみたら「あれ? 思っていたより全然イイじゃな〜い!」と“意外性萌え”をしたライダーが大量発生したからでしょう、めでたくGSR250は大ヒットモデルへの道を駆け上っていきました。
そして2014年1月、ハーフカウルを装着した「GSR250S」が、
同じ年の9月にフルカウルの「GSR250F」が登場し、
GSR250シリーズのバリエーション展開はめでたく完成いたしました。
それぞれに語りたいことがタップリとございますので、続きは次回といたしましょう。
あ、というわけでGSR250シリーズはどのモデルを選んでも間違いのない優良物件。特にSとFはリターンライダーの方に広く支持されてきたこともあり、程度のいい中古車の割合が高いと定評があるところ。ぜひお近くのレッドバロンで実車を確認してみてくださいね。なお、同社ウェブサイトでは膨大な在庫の中でも特にオススメな中古バイクが検索できるようになりましたので、こちらもぜひご確認を~!