実のところ初代登場時にはもう創造が始まっていたという次期型「VMAX」。しかし17年ゼミ(素数ゼミとも)の寿命すら凌駕する長期間、適宜チラ見せはするものの水面下で行われた開発は文字どおりの二転三転!? そこには秒針分歩の技術向上、次々に迫り来る環境諸規制強化、そして何よりヤマハ開発陣のあくなき拘りなどが複雑に絡み合っていたのです!

VMAX1700エンジンイメージ

●2012年型日本仕様「VMAX」広報資料より。1990年代以降、全世界的に環境諸規制(特に排ガス関連)が厳しくなっていったことにより、世はFI(フューエルインジェクション=燃料噴射装置)の時代へ。気化器……キャブレターの可能性を徹底追求したVブーストは当然ながら2代目では姿を消しましたが、同様の効果を生み出すYCC-TYCC-Iがニュー「VMAX」には搭載されました

 

 

VMAXという孤高の“魔神”【その5】はコチラ!

 

VMAXという孤高の“魔神”【その7】は今しばらくお待ちください m(_ _)m

 

初代登場から23年後に次期モデルが登場……なんと希有な存在か!

 

 

素数ゼミ……。

セミのイメージ

●夏の風物詩(?)として、オトコノコなら一度はつかまえたことがあるであろうセミ。一般的には数年間じっと地中にて成長し、いざ羽化したら1週間くらいしか生きられない(諸説あり)という切なさにも紅顔半ズボンの少年たちはまたグッときたものです〜

 

 

周期ゼミとも言われており13年17年ごとにアメリカで大量発生するセミのことで、子供ゴコロに知的好奇心をかき立てられましたね~。

 

 

昨年2024年は221年ぶりに13年ゼミと17年ゼミが同時発生し、数兆匹が短い夏を謳歌したそうです(ウゲッ)

セミイメージ

●セミの羽化は命懸け。「VMAX」も偉大に過ぎた初代の殻を破るべく、見えないところで必死の努力がず〜〜〜〜っと続けられたのです

 

 

ちなみに前回、素数ゼミが大発生した221年前は1803年

 

 

米国がフランスからルイジアナ購入を行ったことでも知られ、日本で言えば享和3年、江戸開府200年の節目となった年でございます。

大河ドラマイメージ

●今年のNHK大河ドラマ主人公、蔦重こと蔦屋重三郎さんが遊郭・吉原からスタートした波乱万丈な人生を終えたのが1797年(寛政9年)。その6年後に素数ゼミが大発生したのです……といっても日本にはいませんが

 

 

次期型「VMAX」はそんな頃から開発がスタート……してるわけありませんね(^^ゞ。

 

 

「2代目魔神の開発期間は17年ゼミより長いよ!」と言いたかっただけなのに、またまた計画性なく与太話ってしまいました。

2012_VMAX俯瞰

●2代目「VMAX」の俯瞰写真……。こうして見ると木に留まってミンミン鳴いているセミのようにも思えませんか? え、私だけ……!?

 

 

進研ゼミで人生を学び直します……m(_ _)m。

 

登場してから12年目で一番生産されたバイクって、どんだけ〜〜!?

 

さて、ハナシを戻して「VMAX」

 

 

リアルに初代が1985年にデビューしたころには、すでに次期型の開発がスタートしていたとか。

VMAX12_1985年

●1985年型北米向け「VMX12(V-MAX)」。全てはここから始まりました。当然、爆発的なヒットを飛ばしたとはいえ北米仕様のみだった1985年の生産台数は6600台強だったと聞いております。

 

 

幸いにして1200の「VMAX」は発売されるや全世界的な大ヒットモデルへと成り上がり、競合するライバルも(ほぼほぼ)存在しなかったため、フルモデルチェンジを急ぐ理由もありません

 

 

なんてったって初代「VMAX」年別の生産台数がピークに達したのは実に登場から干支がひとまわりした12年後……1997年のことですからね(北米仕様+欧州仕様+日本仕様で8500台オーバーを記録!)。

1997年型VMAX

●1997年型北米向け「VMX12(V-MAX)」。国内仕様から始まったマフラーや足周りなどを黒く塗るブラックマックス化が海外でも人気を博し、この年は北米仕様だけで過去イチの7000台近くが生産されたとか〜

 

 

リッターオーバークラス(=高額商品)のベストセラーでありロングセラー、かつヤマハのイメージリーダーでありフラッグシップ……。

 

 

とてもじゃありませんが、そんなモデルの開発責任者なんて筆者はやりたくありません(←誰もオマエには頼まない)

リーダーイメージ

●プレッシャーに打ち克ち、組織をまとめ上げて素晴らしい成果を上げる……。どんな仕事でもリーダーの力量が問われます

 

 

なんと開発責任者が2回も替わるという特殊な事態をくぐり抜け……

 

実際のところ2代目「VMAX」はPL(プロジェクトリーダー……つまりは開発責任者)が長い長い開発期間のあいだに次々入れ替わり、最終的には3人目となるPLのまとめあげた車両が2008年、ようやくアンベールされたのです。

OTODAMA

●2001年東京モーターショーのヤマハブースに出展された音魂(OTODAMA)というオブジェ。こちらが後述する2000㏄版「VMAX」のエンジンだったとか……

 

 

いやもう素数ゼミも土の中で驚くしかない20数年オーバーという長大なるプロジェクト

2005年VMAXプロト

●2005年東京モーターショーにて突如アンベールされた「VMAX Concept」(詳細はコチラ)。1600㏄……おそらく正確には1500㏄台後半の排気量で開発が進んでいたころだと推察されます

 

 

静岡県磐田市にあるヤマハ発動機本社の内部で、一体何が繰り広げられていたのでしょうか?

2007年VMAX

●2007年東京モーターショーで登場したVMAX 胎動 -Need 6-」(詳細はコチラ)。この頃の開発現場はもうショーにのんびり実車を出すどころではない大変な騒ぎだったのでしょうね……(^^ゞ

 

 

なんだってぇ〜っ! スケジュールの土壇場で排気量を変更する!?

 

2009年の春、国内仕様デビュー時に開催された「New VMAX取材会」へモーターサイクリスト編集部員としてイソイソと出掛けていったワタクシは「エンジンは当初2000㏄でスタートし、いったん1600㏄(1500㏄台!?)へ。そして最終的に1700㏄(正しくは1679㏄)となりました」という主旨の関係者発言を聞いてブッ飛びました。

2009年型VMAXエンジン

●初代たる1985年型「VMAX」のボア×ストローク76×66㎜、圧縮比10.5というシリンダー挟角70度の1198㏄水冷4ストV型4気筒DOHC4バルブエンジンは4連ダウンドラフトキャブレターの実力と相まってフルパワー仕様で最高出力145馬力/9000rpm(日本仕様は97馬力)、最大トルク12.4kgm/7500rpmの実力(変速機は5速リターン)。燃料タンク容量15ℓ、シート高765㎜、装備重量274㎏。そこから20余年の後、2008年に現れた2代目のパワーユニット(写真)はボア×ストローク90×66㎜、圧縮比11.3というシリンダー挟角65度の1679㏄水冷4ストV型4気筒DOHC4バルブエンジンで電子制御スロットル(YCC-T)に可変ファンネル機構(YCC-I)まで備えるFIが導入され、フルパワー仕様で最高出力200馬力/9000rpm(日本仕様は151馬力)、最大トルク17.0kgm/6500rpmを発揮(変速機は5速リターン)。燃料タンク容量15ℓ、シート高775㎜、装備重量311㎏ 

 

 

と、同時に「そりゃ20年以上かかったワケだ〜マリアナ海溝より深く納得したもの。

 

 

「剥き出しのエンジンが走っているような」とも称された偉大なる初代を超えるためには、パワーユニットが圧倒的なものでなくてはならない……そりゃそうです

YCC-I

●搭載された「ヤマハ電子制御インテーク(YCC-IYamaha Chip Controlled Intake)」は低中回転域で長いファンネル、高回転域では短いファンネルへ自動的に切り替わり(6650回転が境目)、全領域で圧倒的なパワーを実現!

 

 

で、コンセプトキーワードとなった『怒濤の加速感』を実現させるため、驚きの2000㏄水冷V型4気筒が開発されたそうですが当然ながら巨大で重たいものとなり、そちらを搭載したプロトモデルまで作ってみたもののヤマハ車として世に出すには問題があるという判断からお蔵入りに……。

いらすとや 重い

●この世の中で絶対不変という言葉を使っていいものがあるとすれば「物理法則」だけ。超ヘビー級バイクを軽やかに走らせるノウハウを持つヤマハでさえ、絶対的に大きく重すぎるエンジンを搭載しつつ『怒濤の加速感』と奥深い『ヤマハハンドリング』と『安定かつ強力な制動力』を並び立たせることは難しいことだったのでしょう

 

 

折しも時代はキャブレターからFIへの過渡期に差し掛かり、コンピュータによる緻密な燃料噴射制御によってコンパクトさにこだわった1600㏄……おそらくは1500㏄台に収まるエンジンでも予定していたパワフルさを実現できていたはず

 

 

そこへアジャストした最新技術マシマシの車体も早急に作り込まれていき、「いやぁ、仕様が固まってよかったよかった。ようやく完成するねぇ」とスタッフの多くがホッとしていた開発の最後期……。

VMAXフレーム

●当時のヤマハが持てる技術を全投入して形状や各部肉厚が導き出されたアルミ製ダイヤモンド型フレーム。初代と比較して一番進化した部分かもしれません

 

 

狙っていた『怒濤の加速感』には何かもうひと味足りないと感じていた実験担当者がヤクルト400ほどの排気量をチョイ足ししたエンジンをこっそり用意して、その1679㏄版と完成間近な1600㏄版とをPLら主要メンバーに乗り比べてもらうという暴挙(?)を敢行したとか。

VMAXエンジン

●最後の最後の仕様決定までドラマに満ちあふれていた2代目「VMAX」の1700㏄エンジン。海外向けフルパワー仕様は200馬力を発生しましたが日本向けは151馬力。しかし、その一見パワーダウンしただけと捉えられがちな日本仕様にもめちゃくちゃ熱い拘りがあったのです。そのあたりも次号以降にて必ず紹介いたします〜

 

 

フツーなら「今さら排気量変更なんてできるかっ」と一喝されて終わるところでしょうけれど、比較試乗したスタッフは一様に「いいじゃん、コレ!」となり、慌てて発表までのロードマップをリスケ開始。

 

 

エンジン内部パーツの見直しから吸排気系のリファイン、もちろんシャシーなどにも改良を施して操縦安定性能を再検証……などなど手を加えるべき細部変更は多岐に渡り、かくいうスッタモンダの結果、すでに決まっていた2008年6月、米国でのお披露目会へなんとか間に合わせた……という話を非常に興味深くキーパーソンから聞かせていただきました。

VMAX走り

●通常ならば絶対に許されないであろうスケジュールが押したなかでの排気量変更、そしてそれに付随する細部改良……。しかし開発陣は「もっといいものを!」と一丸となって妥協なく2代目の完成度を高めていきました。それは「VMAX」が「ヤマハの象徴」にとどまらず「ニッポンものづくりの象徴」でもあったからなのです……

 

 

 

もちろん2代目「VMAX」のポイントはエンジンだけではありません。

VMAXカットモデル

●神が宿りまくった細部の集合体……(^^ゞ

 

 

次回はそのあたりを語ってまいりましょう~(^^ゞ

 

 

あ、というわけで変態ぞろい(←とてもいい意味で)のヤマハ開発陣が威信をかけて作り上げ、世に出した2代目「VMAX」はもちろん、大ヒットした初代もレッドバロンにはしっかり在庫アリアリ! アフターサービスだって万全ですので、まずはお近くの店舗で「VMAX」へ盛り上がった思いをスタッフに投げかけてみてくださいね~(^^ゞ

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